表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

婚約破棄の傍観者だったはずが、いつのまにか当事者の一人になっていました

作者: 光井 雪平

読みづらいとのご指摘がありましたので、できる限り読みやすくなるように直しました。

内容に変更はなく、地の文と会話文に間隔を開けて、一部の地の文にも間隔を開けました

どうも、みなさんこんにちは、と俺は目の前の現実を逃避しながらなんとなくそんな言葉を思いうかべる。そして、そのままどうしてこうなった、と考えながら今までのことを思い出していく。

 俺は転生者で、今世の名前はルビン。事故で死んだ俺はいつのまにか、西洋風の世界へと転生していた。最初は喜んで、二度目の人生楽しんでやるぜ、と思ったけど現実はそううまくいくわけがない。ただのモブに等しかったからだ。


 俺の転生先は、ライブラル王国という国の平民であった。貧乏とは言えないが、裕福ではないがそこそこ幸せな生活をしていたのだ。だけど、この生活はある日崩れ去った。それは俺が魔法を使えたせいであった。そうなのだ、この世界には魔法があった。しかも選ばれたものしか基本使えないものが。この世界の魔法は一属性しか基本使えず、俺は氷の属性の魔法を使うことができた。


 その結果、俺は王立魔法学園とやらに連れていかれた。魔法を扱えるようにするためとか言っていたが、明らかに俺の力を利用するためであった。そもそも魔法を扱えるのは基本貴族である。俺と同学年で平民として入学したのは手で数えるほどしかいなかった。その結果、俺の学園での立場は低いものであった。貴族の同級生に呼ばれたと思ったら、学園の人気が少ないとこでボコボコにされることもあった。そんな感じの理不尽なことは何度もあった。


 でも、ようやく今日この学園を卒業することになった。ようやく卒業だ、と思いながら、今日は一応卒業生の全員が参加することになる卒業記念パーティーとやらに参加していた。そこで、事件が起きたのだった。俺が早く帰れるようにならねえかな、とか思いながら壁の花になっていたら、突如第一王子が叫んだのだ。


「俺はそこの悪辣なクリスティン・ラローズ侯爵令嬢との婚約を破棄して、マリーと結婚をする」


 会場はその叫びとともに一気に騒がしくなった。俺は何が起こったんだ、とか思いながら遠くから様子を見ると、うちの第一王子である、セドリックがマリーという平民をかばうように前に立ちながら、ラローズ侯爵令嬢をにらんでいた。セドリックは金髪で、まさに王子様といった風貌の人物で、わが国の第一王子であり、王太子である。ラローズ侯爵令嬢は金髪碧眼の若干目つきが厳しい綺麗系の美人である。ラローズ侯爵家と言う王国の中で一番の実力を持つ侯爵家の長女であり、幼少期から第一王子の婚約者だった。マリーは平民であるが、珍しい光の魔法を扱える人物で、茶髪の可愛い系の子である。


 ほかにも王子の周りには何人かいた。遠目でも誰だかはわかった。うちの騎士団長の息子と宰相の息子と魔法院の副院長の息子であった。その様子を見て、俺はこれが噂に聞く、乙女ゲームの婚約破棄イベントってやつか、と思っていた。実際、学園で過ごす中で、乙女ゲームっぽいなとか思っていたのだ。マリーは、ほとんどいつも第一王子と今一緒にいるメンバーと一緒に過ごしていて、ラローズ侯爵令嬢が苦言を呈しているのを何度か見かけたことがあったのだ。明らかに第一王子側のほうが個人的には悪いと思えたが。ラローズ侯爵令嬢とはちょっとした関わりがあるのであった。表には出していなかったが、彼女はいつも辛そうであった。


 で、俺がそんなことを思いながらも見ている間にも話はどんどん進んでいた。遠くにいたせいでよく聞こえないのだが、ラローズ侯爵令嬢がマリーを恨んで人を雇って殺させようとした、とかなんとかでラローズ侯爵令嬢の悪行をどんどん言っていた。ラローズ侯爵令嬢は違います、と大声で言っていた。しかし、どう見てもこれいじめの構図だなぁと俺は思っていた。まあどうこうするわけもないが、だっていち平民があそこに割って入れるわけがない。俺はラローズ侯爵令嬢がやったとは絶対に思えないが、それを覆せる証拠もないのだ。それに俺みたいなやつが、出てきたところで話がややこしくなるだけだ。


 そんなことを思っている間に、話はどんどん進んでいた。どうやらラローズ侯爵令嬢の悪行を手伝っているものがいたらしい。そいつも一緒に糾弾するとかいう話になっているらしい。誰だよ、そいつはと思っていた際に信じられない名前が聞こえてくる。


「貴様の協力者の名は、ルビン。今この場にもいるはずの黒髪の平民だ」


 この会場にいる全員が俺を見つけると、こっちのほうを見てくる。俺ははっと言って大きく口をあけて呆然とする。ここまでが俺が現実逃避をし始める要因である。

 俺が呆然としながら、現実逃避をしている間に、騎士団長の息子によって第一王子の前に引きずりだされる。そして、第一王子は俺に向かって大きな声で勝ち誇ったように言う。


「貴様が協力者である証拠はこちらにある。今更無意味だ」


 俺は何言ってんだ、こいつらと思う。そもそも何の協力をしたっていうんだよ。俺は第一王子に尋ねる。


「セドリック殿下、私が何をしたというのでしょうか?」

「しらばっくれるか、貴様。そこの悪女がマリーを襲うための暴漢を雇う際に貴様が依頼役となったのだろうが」


 俺は口をぽっかりと開けて、呆然とする。俺はそんなことをした覚えはなかった。俺は違う、と言うと、そのまま続ける。


「そんなことやってません」

「嘘をつくな、それに黒髪の男に頼まれた、と暴漢どもが言っていたのだぞ、それに貴様がそこの悪女からこそこそとしながら何かをもらっていたのを見たものもいるのだぞ」


 俺はまじで、どうなってんだよ、と思う。大体黒髪の奴は俺以外にもいっぱいいるだろうが、と思う。

 俺がラローズ侯爵令嬢から受け取ったものがあるのは事実だけど、あれは全然別件だ。俺はラローズ侯爵令嬢のほうを見る。ラローズ侯爵令嬢は顔を下に下げて、意気消沈としていた。俺は悩む。そのことに関する事実をいうかどうか。俺の無実を証明するには、その事実に関して説明するしかないが。それを説明するとなれば、俺は契約を破ることになる。

 俺はしばらく悩んで、一つの答えを思い浮かべる。それはやけくそだった。こんなことをしても、誰の特にもならないだろうが。それでもやってやろうと思った。どうせ、一度死んだ身だ、もう一度死ぬことになってもいいだろう。若干怖いけど。約束を破るよりはいいし、この第一王子たちの思った通りになると思うとかなりむしゃくしゃしたからであった。それにラローズ侯爵令嬢は無実だと俺は信じていたのだから。俺は口角を上げると突如大きく笑い始める。演技だとばれないように意識しながら。第一王子たちは怪訝な表情を浮かべる。


「そうだよ、俺が暴漢に依頼した。そこの女がうざかったからな。同じ平民のくせに王子と仲良くして、幸せそうだったからな」


 俺は吐き捨てるように言う。マリーは体を少しびくっとさせる。俺の演技に少し驚いたようだった。俺は後ろにいた騎士団長の息子に、地面に組み伏せられる。俺は痛みを感じるが、演技を続ける。


「つうかバカばっかりだよな。マリーにやったことは、全部俺が仕組んだことだ。ちょっとした伝手で俺がラローズ侯爵令嬢を脅して、協力させただけなのにな」


 俺はそう言うと大きな声で笑う。第一王子とその取り巻きは驚きの表情をしていた。少し、見ものだった。俺みたいないち平民に騙されたと思っているのだと思うと。まあ全部嘘だが。俺が笑い続けていると、騎士団長の息子が黙れ、と言う俺をさらに強く抑える。俺は激痛を感じながらもできるだけ演技を続ける。その瞬間、静まれ、と言う誰かの声がする。全員がその方向を向く。そこにいるのはわが国の国王陛下だった。


「これは何の騒ぎだ?セドリック」


 第一王子は若干焦りながら一部始終の説明を始める。どうやら国王陛下が来るのは彼の計算違いのようだった。説明を終えると、国王陛下はそうか、と小さく言うと、第一王子にやさしげな声で尋ねる。


「明確な証拠はあるのだな?」

「はい、マリーの証言と暴漢どもの証言が」

「暴漢からの証言はどのようなものだったか、言ってみろ」


 第一王子はわかりました、と言うと。宰相の息子が持っていた書類を持つとそこに書かれているのだろう証言を言い始める。内容はざっくりすると、その女を襲え、と黒髪の男に頼まれたというものであった。裏には高位貴族が絡んでいると思うというものであった。俺はひどいな、と思う。調査が杜撰すぎると思う。国王陛下も同じようであり、ため息をつく。そして、大声で怒鳴る。


「この愚か者が。その程度の証拠で、この王立魔法学園の卒業記念パーティーという重要な場でラローズ侯爵令嬢を糾弾したのか、それに協力者の疑いがあるとされる青年も糾弾しただと」


 俺はおお、俺のことも言ってくれるのか、と思う。第一王子はなにやら焦りながら言い訳をし始める。国王陛下はもう黙れ、と言う。そして、騎士団長の息子に俺を解放するように言う。俺は体中に痛みを感じながらゆっくり立ち上がる。そして、俺は国王陛下に頭を下げる。国王陛下はラローズ侯爵令嬢に顔を向ける。


「して、ラローズ侯爵令嬢。セドリックが言っていたことは事実かな」

「いえ、私はマリーさんに苦言をお伝えしたことはありますが、それ以外のことは何もしておりません」

「嘘をつくな、この悪女が」


 第一王子はわめき始める。国王陛下は第一王子のほうをにらむと、黙れ、と冷たい声で言う。その声の冷たさは当事者でもない俺も恐怖を感じるものだった。セドリックは一歩後ろに下がると黙り込む。そして、国王陛下は俺のほうに顔を向ける。


「して、黒髪の青年、ルビンだったな。貴様の言ったことは事実か」


 俺は悩む。正直ほとんど嘘っぱちだ。確かにマリーが幸せそうなのはうざかったが、暴漢に襲わさせようと思ったことはないし、頼んでもいない。大体そんな金はない。それにマリーにやったラローズ侯爵令嬢の悪行というのも全部俺が仕組んだって言うのも嘘だ。まあでもあんな演技をした手前嘘でした、とも言いづらい。どうするか悩んでいると、ラローズ侯爵令嬢が国王陛下に向けって話し始める。


「ルビンの言っていることは全てうそです。私が彼にマリーさんに何かをするように頼んだ事実はありません」


 国王陛下は本当か?と尋ねてくる。助け舟を出されたので、俺は自分の行動に関して謝る。


「申し訳ありません。私は何もしておりませんが、覚えのない罪をかぶせられたので混乱し、嘘を言いました。本当に申し訳ありません」

「なぜ、ラローズ侯爵令嬢をかばうようなことを?」

「自分にはラローズ侯爵令嬢が無実であると思えたからです」


 国王陛下はほう、と言う。それは俺に興味を抱いているようであった。そして、誰かが国王陛下に近づき、耳打ちをする。国王陛下はそうか、と言うと第一王子に向かって言う。


「セドリックよ、ラローズ侯爵令嬢の婚約解消を私が承諾する。そして、マリーだったかなとの婚約を承認する」

「ありがとうございます、父上」


 第一王子は嬉しそうに言うと、頭を下げる。そして、マリーと視線を交わしている。国王陛下はそれを横目で見ながら大声で言う。


「今宵はこの場で解散とする。パーティーに関しては、後日改めて行うものとする」


 この会場にいる全員はそれに従って、各々帰ろうとする。俺はどうしたらいいんだろうと思っていると、国王陛下にラローズ侯爵令嬢と共に残るよう言われる。俺は頷く。ラローズ侯爵令嬢はこちらに視線を送ってくる。そして、口を動かす。それは私のせいでごめんなさい、と言っているようだ。俺は首を振ると、気にしないでください、と言う。そして、しばらくして、参加者が全員帰ると国王陛下が俺たちに向かって言う。


「君たちの処分は再調査が終わり次第、伝える。まあ無実だと思うがな」


 俺とラローズ侯爵令嬢は頷く。国王陛下もあのずさんな調査に怒っているようで、少しイライラしている口ぶりだった。それに国王陛下の口から無実だろうといわれて俺は少しほっとする。そして、国王陛下ラローズ侯爵令嬢のほうを向きながら言う。


「侯爵のほうには私から話しを通すから心配しないでくれ。」

「ありがとうございます、陛下」

「いやむしろすまなかったな」

「いえ、お気になさらないでください。これもすべて私の不徳の致すところですので」


 国王陛下はそうかもしれんが、あれではどうしようもないというと、俺のほうを向く。


「君には本当に申し訳なかったな」

「いえ、問題ありません。むしろ状況を少しややこしくしたのは申し訳ありません」


 実際俺のあの演技のせいで、状況は少しややこしくなったのだろうと思う。国王陛下は少し笑うと俺に向かって言う。


「貴様の演技はまさに完璧だったと、セドリックにつけていたものが言っていたぞ」


 俺はえっと思う。そして、この状況を見ていた国王陛下の部下がいることに気づく。となると、この一件はすぐに片付くとも思う。


「して、聞きたいのだが。君たち二人はどういう関係なのだ。まったく面識がないとも思えんのだが」


 俺はどうすればいいのだ、と思う。ラローズ侯爵令嬢とのことは言うわけにはいかなかった。いくら国王陛下相手でも契約を破るわけには、と俺が思っているとラローズ侯爵令嬢が俺に向かって話しかけてくる。


「ルビン、私が話します。国王陛下相手に隠すのは不敬でしょう」


 俺は頷く。そして、俺とラローズ侯爵令嬢の契約について、ラローズ侯爵令嬢が話し始める。


「陛下、私はルビンに一つのことを頼んでいました。それは彼にとあるものを作ってもらうことです」

「それは何だ?」


 国王陛下は尋ねる。ラローズ侯爵令嬢は少し恥ずかしそうにしながら答える。


「お菓子です、ルビンは珍しいお菓子をつくることができるのです」


 国王陛下は俺のほうを見てくる。俺は頷く。俺は前世の知識を使って、この世界にはないお菓子を作っていた。ただ、自分でも楽しめるだけの分を作っていた。下手に作れることを表に出すとろくな目に合わない気がしたからだ。それにあくまでも本職ではないので、暇つぶしだった。ある日、学園で隠れてそれを食していたらラローズ侯爵令嬢に見つかったのだった。ラローズ侯爵令嬢は一人になれるところを探していた。それで俺がいるところに偶然来たのだった。ラローズ侯爵令嬢はお菓子好きらしく、俺を見つけた瞬間そのことについて聞いてきた。俺は誰にもばらさないようにすることを約束して、菓子について教えた。その後から、俺はラローズ侯爵令嬢にお菓子を渡したりするようになった。ただ、変な噂ができないように、二人で食すことはなかった。


「陛下、お願いがあります。私のこのことについては秘匿していただけると幸いです」

「なぜだ、そのようなものが作れるとなれば、莫大な利益を手に入れることができるだろう」


 俺は首を振る。


「分不相応なものですので。それに自分は平凡な日常を送りたいのです」


 そう、俺は平凡な日常を送りたかった。大体、所詮は平民なのだ。分不相応なことはせず、静かに暮らしたいのだ。まあこの一件のせいで若干それが遠ざかった気がするが。


「なるほどな。君の名前は完全に伏せる。レシピだけ教えてもらうことは無理かな?」


 俺は国王陛下相手に断る胆力はなかったので頷く。国王陛下はそれを見て嬉しそうにする。そして、王妃様がお菓子好きであることを聞く。どうやら、国王陛下は王妃様に喜んでもらいたいようであった。そして、俺たちも帰れることとなった。国王陛下たちが去った後、ラローズ侯爵令嬢は俺に頭を下げてくる。


「本当にごめんなさい、私のせいで」

「気にしないでください、あなたさまのせいではありません」


 そうだ、実際あのわけのわからないことを言い始めた第一王子のせいなのだから。でも、とラローズ侯爵令嬢は言う。


「そうですね、じゃあ貸し一つってことにしてもらえませんでしょうか?」


 貸しですか?とラローズ侯爵令嬢は首を少しかしげながら答える。


「はい、私が困ったときに力をお借りできればそれで構いません」

「わかりました、ではそれで」


 俺はお願いします、と頭を下げて言うと、自分の寮へと戻ろうと考える。


「では、自分はこれで」


 そう言って、俺が背を向けようとすると、ラローズ侯爵令嬢は俺を止めると問うてくる。


「待ってください、ルビン馬車のところまで少しお話しできませんか?」


 俺は一瞬びっくりする。そんな誘いをしてくるとは思わなかったからだ。そして、どうするかを悩む。いち平民である俺が一緒にいるのはあまりよくないだろう。だが、誘いを断るいい理由も思いつかなかった。結果として俺は頷くことにする。どうせ、こんな機会はもうないだろうし、周りにほとんど人もいないので護衛として送りました、と言えばいいだろう。


「自分は構いません」

「そうですか、では行きましょうか」


 そして、俺とラローズ侯爵令嬢は馬車の停車場へと向かう。その道中、ラローズ侯爵令嬢が尋ねてくる。


「ルビンは学園卒業後、どうすることになっているのですか?」

「一応魔法院に入ることになっていました。ただ、今回の一件でどうなるかは不透明になりました」


 俺は苦笑交じりに答える。そして、すぐにラローズ侯爵令嬢のこともフォローする。


「ですが、実家に戻れば仕事はあるので、気にしないでください」


 ラローズ侯爵令嬢はそうですか、とつぶやく。そして、俺に顔を背けながら言う。


「もしものときは、私の菓子職人として雇ってあげますよ」

「お気遣いありがとうございますが、断っておきます」


 ラローズ侯爵令嬢はなぜですか、と言ってこっちのほうを向く。俺はすぐに答える。


「そちらもこれから大変でしょうし、菓子職人になるといやでも目立ってしまうので」


 そうですね、とラローズ侯爵令嬢は肩を少し落としながら言う。そんなことをしていると停車場につく。


「では、自分はここで」


 俺がそう言った後、ラローズ侯爵令嬢は何かを言おうとする。だが、首を振ると笑顔で言う。


「さよなら、ルビン」


 俺は頷くと、ラローズ侯爵令嬢から背を向けると寮へと向かう。


 ラローズ侯爵令嬢は馬車に乗ると、家族とどう話せばいいのだろうと思う。自分はずっと第一王子の婚約者だった。それだけを期待されていた。婚約破棄ではなかったが、婚約解消にはなった。そんな自分を家族は受け入れてくれるのだろうか。国王陛下が多少の便宜を図らってくれるとは思うが。彼女は不安だった。こんなに不安になることは、ルビンに初めて出会う時と同じくらいだった。


 あの時は、第一王子とマリーの仲いいことが父に知られ、それに関して手紙が来たのだった。その手紙には、第一王子との仲はどうなっているのかを問い詰めるものだった。その手紙を見て、自分は本当に第一王子との関係しか期待されていないとわかったのだった。

 そして、一人になりたかったので学園中をふらついていた時にルビンに出会ったのだった。ルビンは見たこともないものを食べていた。私はお菓子が好きだった。王妃教育が始まってからはなかなか食べる機会もなかったのだが。あの時は精神が不安定なこともあり、つい話しかけてしまった。彼は、びっくりしてあたふたとしていた。


 そして、私のことを見ると彼は私を心配してくれた。大丈夫ですか?と。私はびっくりだった。彼はほとんど初対面の私を気遣ってくれたのだ。そして、持っていた菓子を渡してきた。美味しいもの食うと忘れますよ、と。私がきょとんとしていると、彼は慌てふためいていた。私にわけのわからないものを渡したので焦っていた。私は気にせずにそれを食べた。そのお菓子は私が食べたこともないものでとても美味しかった。私はすぐに誰が作ったのか、と聞いた。彼はすごくためらいながら自分です、と答えた。


 その後、彼は私にこのことを口外しないでほしいと頼んだ。私はお菓子を今後も対価としてほしいといった。彼はためらっていたのだが、私もあなたからもらうとなれば、私の評判に関わるといったら、契約書を書いてきたのだ。互いに口外しないというものを。

 その後、しばらくお菓子をもらうために会う日々が始まった。その時、軽く話すときがあったのだが、彼は私を気遣ってくれることが多かった。本当に彼は優しかった。


 そんな彼ともう関わることはないだろうとも思っていた。あの婚約破棄の騒動までは。彼が巻き込まれたときはどうしようか、とも思った。でも、どうにもできなかった。そしたら彼は演技を始めたのだった。自分がすべての黒幕になろうと。やめて、と言って止めようと思った。でも言葉がでなかった。私は最低なのであろう。あの時、私はうれしかったのだから。だって、彼は私のために演技をしてくれていたのだから。


 私の中で彼と一緒にいたいという気持ちがある。だからこそ、菓子職人としても雇おうと思ったのだ。断られてしまったけど。私は今後どうなるのだろう。でも、叶うならば彼とできる限り関われて一緒に入れるといい、と思っている。彼はきっと困るだろうな、と思うが。


 もうこの気持ちは抑えられなかった…



 俺は国王陛下の使者から処分を聞く。俺への処分は特になしだそうだ。むしろ被害者とされたので、多少の金をくれた。第一王子とその取り巻き連中は、再教育という形で各自しごかれることになるそうだ。マリーは一応王妃にする方向で進んでいるらしい、平民の立場向上の一環だそうだ。まあ苛烈を極める王妃教育に耐えられるかどうかですが、と使者の人は言っていた。一応もしもの時の、準備はしているらしい。ラローズ侯爵令嬢は俺と同じく処分なしだそうだ。ただし、婚約解消となったので今後どうなるかわからないらしい。俺は幸せになれればいいと思う。


 そして、俺が魔法院に仕事に行く初めての日となった。俺は騒動に巻き込まれたのもあり、あまりいい噂がなかったらしいが、国王陛下の手によってそれはどうにかなったらしい。俺が通うはずの部署へと向かっていると、後ろから一人の女性に声をかけられる。


「ルビン、お久しぶり」


 俺が振り向くと、そこにはラローズ侯爵令嬢がいた。俺がびっくりして、何もいえないでいると。彼女はくすりと笑う。


「私も魔法院に通うことになったの。ルビンと同じ部署で」


 俺はえっと言うと固まる。そして、俺はすぐに問う。なんでそんなことになったのかについて。


「第一王子との婚約解消となった私にろくな嫁ぎ先はないから。陛下に頼んだの。魔法院で働けるようにしてくださいって。家族から反対はあったけど、陛下の口利きもあったし、それにね、絶縁したの」


 俺は最後の一言にさらに驚く。


「といってもすぐに陛下の口添えで、ある子爵家の養子にはなってるんだけど」


 俺は驚きで固まったままだった。彼女はそして、問うてくる。


「あのね、私が魔法院で働こうと思った理由わかる?」


 俺は何だろうと思う。魔法院で働く女性はそこそこいるからだろうか、と思うが。なんか違う気がした。俺が悩んでいると。彼女は俺に一歩近づいて言う。


「ルビンと一緒に働きかったの。あのね、できる限り一緒にいたいって」


 俺はえっと思う。そして、どう返せばいいのかと思う。からかっているのか、と思ったが顔を見ると、そうではなさそうだった。だから、俺は問う。


「なぜでしょうか?」

「あなたのおかげで今まで私は頑張れたから、あなたは私を私個人としてずっと見てくれたから」

「私は何もしてませんよ、本当に何も」


 俺は否定する。俺は彼女のためになるようなことは何もしてきていない。できなかったのだ。彼女のためになうようなことは何一つ。


「そんなことはありません。私にお菓子を与えてくれた、時折励ましてくれた。それに、あの日私のために自分がすべての非を被ろうとしてくれた」


 彼女はそう言ってくれる。でも、俺はその程度のことしかできなかったのだ。俺ははっきり言って、彼女にある程度の好意を抱いていた。でも助けられなかった。手助けもできなかったのだ。


「俺は本当に何もできなかったんですよ、あの程度のことしか」

「そうかもしれないけど、私にとっては十分だった。だから、ありがとう」


 彼女は笑顔で言う。俺はそれを見て、良かったと思う。あの程度のことしかできなかったが助けになったのだ、と。


「こちらこそありがとうございます」


 俺は笑顔で言う。そう笑顔で言うことが大切だと思って。そして、俺たちは魔法院の職場へと向かった。そこで、説明を聞いて軽い作業をして帰ることとなった。その時、クリスティン様に誘われて、一緒に食事をすることになった。俺は最初断ったが、押し切られてそうなった。そして、食べ終わって軽く雑談をした後に、彼女は深呼吸をすると俺に向かって言う。


「ねえ、ルビン。私あなたのことが好きなの、きっと。初めて会った時から。だからいつか結婚したい」


 俺はびっくりする。そんなことを言われるとは思わなかったから。そして、俺は顔を背けながら言う。


「俺とあなたは身分が違います」

「それは第一王子も一緒でしょ」


 彼女はすぐにそう返してくる。俺はそうかもしれない、と思う。だが、覚悟がつかなかった。踏ん切りができなかった。


「俺はあなたを幸せにできるとは思えない」


 俺はそうつぶやく。それが本心だった。俺は魔法がそこそこ使える程度しかない平民だ。それが元侯爵家のご令嬢を幸せにできるとは思えなかった。彼女はくすりと笑うと微笑みながら言う。


「私はあなたと一緒にいられればいいの、ただそれだけで」


 俺はだけど、と思う。でも断るほうが良くないのかもしれないと思う。だから俺はこう答えるしかなかった。


「俺もクリスティン様のことは好きです。でも、今はまだ考えさせてください。あなたにできる限り釣り合う人間になるので」

「わかった、待ってる」


 彼女はそう言う。そして、約束だからと言う。俺は頷く。


 そして、魔法院での生活は約二年の月日が流れた。俺は前世の知識を生かした魔法の研究を魔法院での業務のかたわらに行っていた。その成果は実り、大幅な改良に成功し、俺はその功績で男爵位をいただき貴族になることができた。そして、俺はクリスティン様と二人であうことにした。


「ルビン、おめでとう」

「ありがとうございます。あのそれで、あの日の答えを言いたいのですが」


 俺はかなり緊張していた。クリスティン様はこの二年でさらにきれいになっていた。王妃にならずにすんだことで、ストレスがなくなったことが大きいのだろうと俺は思っていた。


「約束覚えててくれたんですね」


 俺は頷く。忘れるわけがなかった、いや忘れられなかった。俺は深呼吸をすると話し始める。


「一応貴族になれましたが、まだまだです。それでもよければ、俺はクリスティン様と結婚したいのです。お受けしてくれますか?」


 クリスティン様は笑顔ですぐに返答してくれる。


「はい、喜んで」


 俺はそれを聞いて、ほっとする。そして、良かったと思う。断られたらどうしようかと思っていた。そして、俺が安心していると彼女はそっと近づいてくる。俺は彼女を抱き寄せる。


「結構待たせたので、これから私のために色々頑張ってください」

「任せてください、絶対幸せにします」


 俺はそう言うと、あの日の婚約破棄のことを思い出す。あの日、婚約破棄がなければ、俺が巻き込まれることにならなければ、そもそも、俺がクリスティン様に偶然会うことができなければ、今頃俺とクリスティン様は互いに別々の道を歩んだのだろう。俺は、クリスティン様と結婚することができてよかったと思う。俺は絶対に幸せにしてみせると決意をする。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 面白かったのですが 地の文と台詞部分が繋がっていて読みにくかったです 一行空けていただければ幸いです
[気になる点] 王子とアバズレはどうなった?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ