六話 開戦
三件もの誤字報告をいただきました。
いや、反省。そしてありがとう!
これからもよろしくお願いします。
しかし、『不断』という字は調べた結果合っておりました。
『普段』の方はあて字らしいです。
怪しいと思って報告して頂きありがとうございます!
では、六話です、どうぞ!
「おー。やっとー。起きたー。ふぅぅ」
近くから疲れきった声が聞こえた。
この声はリッチのものだな。
お前、不死者で肉体系状態異常無効なんて御大層な能力があるんだから、肉体疲労なんてしないだろう?
なんでそんなに疲れてんだよ。
俺のが疲れたわ。そろそろ寝ようかな?
「……ますたー?
……大丈夫?」
これはメイスの声――――!
何か。
胸の奥、か?
いや、もっと深くて、重要なところで何か……。
「ふぁぁぁぁ。
何か、違和感があるが。
それにしてもダルいな。
何があったんだ?」
「……命名の儀、弊害。
……魂に主従関係、結ぶ。
……おはよう、ますたー」
「おはよう」
「おはよー。ふぅぅ」
どうやら、命名にしたせいでぶっ倒れたらしい。
どうも眠いな。
「それじゃ、寝るわ。
おやす――――!」
今度はなんだ?
急に目が覚めたな。
リッチが何かしたようだ。
オーラを少しだけ感じた。
まあ、良いか。
それよりダンジョンバトルだな。
「ダンジョンバトルはどうなった?
というか俺、どのくらい倒れてた?」
「おー。今度こそー。起きたー。ふぅぅ」
「……大丈夫。
……開始、七分前」
「全く起きないからー。無理矢理起こしたよー。ふぅぅ」
「そうか。ありがとう」
どうやら、ぶっ倒れてから一日近くたったようだ。
とりあえず、気休め程度にアイアンゴーレムでも作るべきだろうか。
「……方針、決まってる」
「そうなのか?」
「……ん。
……まず、くれいごーれむ。
……次、ごぶりん。
……その次、動く骸骨。
……最後、ふれっしゅごーれむ。
……ますたー、あーすどらぐもーる、待機」
ほぅ。
俺は仕事しなくて良いのか。
素晴らしいな。
「戦況観戦とかできるのか?」
「……可能。
……だんじょん内、配下の視覚、見放題」
なるほど。
ダンジョンの機能の一つか。
じゃあ大人しく観戦しますか。
方針は決まっているらしいしな。
あ!
そうだ。グレーウルフに命名してやらなくちゃ。
「メイス。グレーウルフの命名どうすれば良い?」
「……だんじょんばとる、終わったら。
……今、倒れたら、困る」
「分かった」
さて、じゃあのんびりしますか。
そうだ。足元に砂と鉄を用意しとこ。
映画のポップコーン代わりだな。
いやー。管理職って素晴らしいね。
自分は働かなくて良いんだから。
まあ、配下が負けたら、死ぬわけだけど……。
◆◇◆◇◆◇
――迷宮核
それは、神位階第三位〈創造神〉が創り出した種族である。
種族固有能力はいたって単純。
迷宮の核として機能すること。
元は、魔素が増えて、魔素濃度が上がり、弱小な生命たちが生きられなくなった環境から、魔素を回収するのを目的とされていた。
現在もその一端を担っているが、知性のある生命に文化や先進技術を伝える側面の方が強い。
未知の技術。巨万の富。
最高の武具。唯一無二の宝玉。
そんな物を餌にして、欲望を掻き立て、生命を誘き寄せ、漏れでた魔素を回収し、迷宮得点へと変換して貰う。
それがこの世界での迷宮であり、この世界で繁栄している生命の中で最多かつ最弱なのが人間である。
故に、迷宮は人間を基準に作られている。
そんな人間やその他の知性ある生命の気力を糧にする迷宮核。
だが、迷宮核同士で争うこともある。
地上での迷宮領域の問題はもちろんのこと、妬みや羨みなども。
それを手っ取り早く解決する手段が迷宮戦争である。
迷宮戦争。
その名前の通り、迷宮同士で戦争をし、事前に決めた規則に則って勝敗を決め、勝った方が報酬を貰う。
それは迷宮得点だったり、宝物だったり、配下の魔物だったりとさまざまだ。
今日もまた迷宮戦争が始まる。
白の間。
迷宮戦争が始まる七時間前に、戦争をする各迷宮の入り口と繋がるだだっ広い空間だ。
広さはちょうど一ブローク。
迷宮にできる最初の部屋。核玉の間と同じ広さだ。
たいていの迷宮の階層は、四ブロークから百ブローク程度だ。
最大で百万ブロークまで大きくできるが、維持費を考えれば、千ブロークまでが無難な大きさだ。
今回行われるのは、新たに迷宮を造り上げたまだ未熟な迷宮核たちが行う模擬迷宮戦争。
未熟とは言え、その中で最も迷宮得点を稼いだ二核が行う。
先輩核たちにとっては、余興であると同時に、未来の競争相手の偵察でもある。
すでに開戦まで一時間をきっている。
ほら、集会の会場では、元締めたちが賭けを行っている。
どうやら人気なのは、迷宮得点獲得数で一位を取った自動人形型迷宮核のようだ。
だが、『虫』を持っているであろう蜘蛛型迷宮核も核としてなら負けていない。
が、相手が悪すぎた。
賭け率は、一・〇一倍と一〇〇倍だ。
それも当然だろう。
迷宮を作って間もない迷宮核の脅威度は、E程度。良くてD-だ。
それは迷宮を『運営』できるように、迷宮核という種族が設定されているからだ。
しかし自動人形型迷宮核には、とてつもなく強い迷宮主がいるのだから。
それはDランク程度では絶対に勝ち得ぬ存在。
魔法を習得し、魔法に心酔し、魔法を研究し尽くして、なお。
魔法を極めんとする不死身の賢者。
死の気力の発し、闇を纏い、女中を連れて現れたのは、経国の美女。
容姿だけを見るならば、艶のある濡れ羽の長髪に邪魔にならない程度の双丘。細く華奢な肉付き。
だが、血の気がなく雪の如く冷たき肌は、その体に生を感じさせず。
無邪気そうな可愛らしさを秘めた美貌は、計り知れない知性と知識、そして狂気を感じさせる。
彼女は、死してなお現世に執着する人非ざる者。
衰える肉体を捨て、不死と不老を得た霊体の賢者。
――――死霊賢者
彼女は、メイド服を着た自動人形型迷宮核を連れ、さらに背後には動く骸骨や粘土傀儡人形などを従えている。
「……りっち。
……肉、作れるんだ?」
「ワタシくらいならー。肉体構成くらいー。あっという間よー。ふぅぅ」
死霊賢者は、疲れた様子を見せると、背後の傀儡人形を一体に手招きをした。
「■■■■」
死霊賢者が、先程の会話からは想像もできないほどの早口で何言か呟くと、傀儡人形が丸机と二つの椅子に変わった。
自動人形型迷宮核を促すと、死霊賢者は席に着いた。
自動人形型迷宮核もそれに追随する。
高速詠唱と詠唱省略の合わせ技。
超高度な魔法詠唱技術だ。
ただそれだけで、彼女の魔法士としての実力の高さが伺える。
賢者と呼ばれる種族名は伊達ではない。
自動人形型迷宮核の言葉から察するに、『リッチ』という名持ちなのだろう。
ならばB+ランクの通常の死霊賢者とは比べ物にならない強さだろう。
ますます蜘蛛型迷宮核の勝率は低くなったと言わざるを得ない。
開戦四十分前になると蜘蛛型迷宮核が白の間に現れた。
覚悟を決めたかのような形相。
死霊賢者との途方もない戦闘力差を正確にきづいているのだろう。
迷宮の空中映像で白の間を見て、驚き、恐れ、しかし覚悟を決めてやって来た。
そんなところだろう。
側に蟷螂、兜虫、飛蝗の魔物を連れている。
中には、Cランクに届く蟲人もいるようだ。
迷宮を造り始めてまだ一年。
十二分に強いだろう。
蜘蛛型迷宮核の登場を確認すると、自動人形型迷宮核は席を立ち、白の間の中央へ向かう。
二核は向かい合い、挨拶を交わす。
「久しぶりですわ」
「…………」
久しぶりに旧友に会ったかのように話しかける蜘蛛型迷宮核。
対して、自動人形型迷宮核は、無言で首を縦に振る。淡白だ。
「迷宮学園での卒業式以来だけれど、調子は良いのかしら?」
「…………」
「良い迷宮主が召喚できて良かったですわね」
「…………」
「学園では、幾度となく試験で貴女に負けて。
結局、主席も貴女でした。
それで、初年の迷宮得点獲得数順位くらいは、勝ちたかったのですけれど。
また、負けてしまいましたわ」
「…………」
「……? 慰めのつもりかしら?」
「…………」
「ああ。確かに貴女の迷宮得点は、迷宮主が主導して獲得したものかもしれませんが、わたくしの負けは覆しようのない事実ですわ」
「…………」
自動人形型迷宮核が落ち込んだ。
とても、分かり易過ぎるくらい、落ち込んだ。
「でも! 戦争では勝ちますわ! 最奥の核玉の間で待っていなさい!」
「…………ん!
…………負けないよ!」
「――――!?
……あ、なた。喋れましたの?」
「…………。
……三〇〇〇点、かかった」
「初めて聞きましたが、素敵な声ですわね」
「…………!
……ありがとう」
「ふふ。では、開戦準備を始めましょう!」
「…………」
二核は踵を返して、各々の迷宮に向かった。
三十分後。
模擬迷宮戦争が開戦された。
◇◆◇◆◇◆
開戦してから少し経った。
だいぶ暇なので、ダンジョンの機能で過去ログを早送りで見返していたら、メイスが楽しく談笑しているシーンが映った。
会話までは聞き取れなかったが、楽しそうだ。
「なあ、メイス。
お前友達いないんじゃなかったの?」
「……いない、言ってない。
……ぼっち、言った」
「友達いたら、ぼっちじゃないだろ!?」
「……………………基本、一人だった……」
「そ、そうか。
なんか、すまん」
「……んん。
……それに、友達、違う。
……戦争相手、競争相手」
「そうか。ライバルなのか」
「……らいばる?」
「ああ。
倒しがたい強敵とか、互いを認め合った親友とか、切磋琢磨し合える仲間とか。
そんな感じの競争相手を、ライバルって呼ぶんだよ」
「……強敵。
……親友。
……仲間。
……らいばる。
…………ん! …………素敵。
……時々、彼女を、らいばる、と呼称」
「じゃ、こっちも全力を出さなきゃな」
「…………?
……なんで?
……ますたー、隠す。
……先輩こあ達に対して、あどばんてーじ、得る。
……だから、りっち、迷宮主、見せかけた。
……情報は大事、非常に」
「でも、相手は全力なんだろ?
こっちも全力じゃなきゃ、失礼だろ?」
「……んー?」
「ライバルなんだろ?」
「…………!! ……ん!
……りっち。
……命令、負けないよう、全力戦闘。
……注意、白の間で、攻撃、禁止」
ダンジョンの機能で、メイスはリッチに命令した。
ああ、そういえば、メイスには命令権の一部も譲ったんだったか。
命名のおかげで、メイスのダンジョンコアとしての機能もだいぶパワーアップしたようだ。
実を言うと暇で暇で仕方がないのだ。
これで俺も戦闘ができるぜ!
さあて。
メイスにも教えていない、俺の新兵器を使うとしようじゃないか!!
いくら引き籠りでも、ゲームぐらいはしたいだろう?
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