四話 灰色狼
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本日は初戦闘!!
短いですが、どうぞ。
さて、とりあえず通路から石化させていこう。
一の一階層から順に降りていけば、最後は最奥のここに戻れる。
そうしよう。
最奥の核玉の間から歩いていると、ちょうど一の五十階層に着いたときに、ゴブリンがやって来た。
「ギャウギャウ!
ギャーギャーギャー、ギャウギャウ、ギャー!!」
メイスが言うには、ダンジョンに侵入後、ダンジョン拡張中のアースドラグモールに恐れをなして配下になったらしい。
一階層の適当な広さの空間に、集落を作らせて、数を増やしているとか。
まあ、ダンジョンを防衛してくれるなら文句無いが、何を言いたいんだ?
いや。意志疎通が出来ないと不便だな。
「何の用?」
「ギャーギャー!!
ギャウギャウギャウギャウ!!
ギャ、ギャー!」
「ええと。付いていけば良いのか?」
「ギャーー!!」
どうやら付いてきて欲しいらしい。
俺が返事をする前に慌ただしく走りだしてしまった。
仕方がない。ついていくか。
俺は呑気に歩き出した。
◇◇◇
そして俺は、呑気に歩いていたことを後悔した。
それは一の二十八階層で起こっていた。
血に染まる通路。
食い散らかされた緑色の肉塊。
か細く聞こえる苦し気な悲鳴。
反響する雄々しい雄叫び。
何があったのかは明白だ。
メイスが出かけて、俺がここに来るまでの間に侵入者が現れた。
灰色の剛毛。
鋭い牙。
音速を越えて走る脚力。
その衝撃に耐えうる耐久力。
その獣は、精悍な顔つきをしている。
その獣は、狩りを楽しんでいる。
聞こえる雄叫びは自信に溢れ、ゴブリンどもを威嚇し、蹂躙し、引き裂いていく。
灰色の巨狼。
そいつは、生まれて一年も経っていないとはいえ、竜である俺と同等の体躯を持ち、同等のオーラを放っていた。
すなわちその戦闘力はB。
ゴブリンどもを歯牙にもかけず蹂躙。
アースドラグモールも、満身創痍だ。
ここは、アースドラグモールが掘ったダンジョン。
アースドラグモールのためのフィールドと言っても過言ではないにも関わらず。
地の利というものは確かに存在するが、それがあっても生き残るのが精一杯。
それだけの戦闘力の差が、C+とBにはある。
『ガアアァァァ!!』
俺は叫んだ。
邪魔だどけ。俺が殺る。
俺の家で、俺の配下を殺すとか。
絶対に赦さない。
もう失ってたまるか!
スウゥゥゥ!
俺は思いっきり息を吸い込んだ。
全力で放つ!
「アオォォォォン!!」
巨狼が吠えた。
威嚇のつもりか?
そのまま死ね!
『グガアアアアァァァァアアァァ!!』
放ったブレスは、通過した通路を全て石へと変えた。
赤い血溜りも、緑の肉塊も、白い骨片も。
全て。
「殺ったか」
俺は確信を持って言った。
手応えはあった。
確実に当たったし、避けた様子もない。
雄叫びをあげている最中での奇襲。
避けられるはずも無し。
確実に――――
「ァォォーー」
確……じつ、に……
「アオォォーーン」
嘘だろ!?
何で石になってないんだよ!?
「ガグルルルル!!」
巨狼は低く低く唸る。
恐らく、戦闘体勢に入ったのだろう。
最近気づいたことだが、細かい砂に変える砂化より、体表面だけでも石に変えられる石化の方が、威力が高い。
例え皮一枚でも石化させられれば、勝利は俺のものだ。
だが、巨狼には全く効いていない。
つまり、ブレスでは対抗不能。
牙と爪で対抗するしか無いな。
近接戦闘はおろか、まともなケンカすらやったことはない。
こういうときは本能とかに任せてみよう。
本能。
素晴らしいな。
俺は生態系の頂点。
ファンタジー界隈最強のドラゴン。
その鱗は、全ての攻撃を通さず。
その爪は、全ての障害を薙ぎ払い。
その牙は、全ての生命を喰らう。
俺は、地底最強の生ぶ――
「ガァァ!」
「ひ、ひぃぃぁぁぁぁ!」
迫る牙に怯え、近づく叫びに怯み、鱗を切り裂く爪が痛い。
何が、ドラゴンだ。
俺は、俺は。
怖くて怖くて、家の外にも出られないヒキニートだぞ!?
狼なんかに勝てるわけ無いじゃないか!
『ガアアアアァァァァ!』
ダメ元で放ったブレス。
やはり効かない。
どころか避けられた。
当然だ。
相手は音速走行するような化け物だぞ!?
ただの吐息くらい避けられるに決まってる!!
爪で鱗を割られ、牙で皮膚を切り裂かれる。
ただの突進が、銃弾なんて目じゃない威力だ。
痛い。
痛い。
全身が痛い。
傷が燃えるように熱い。
肉を切り裂かれれば当然だ。
痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて!!
何でまだ死なないんだよ!!
こんなに痛くて、血を流して!
これ以上痛くするなよ!
痛いくらいなら、いっそのこと楽に――――
「……あれ?」
何か違和感に気付いた。
痛いのだ。
痛いのだけれど、何かさ。
すぐに痛みが引いていく。
なんか、癒されてるような……?
「グルルルル……」
巨狼が威嚇する。
前足が震える。
後ろ足はガクガクだ。
けど、痛みは引いていく。
怪我は治っていく。
竜ってこんなに『回復力』が高いのか?
いや、アースドラグモールは亜竜なのにまだ傷が治り始めてすらいなさそうだ。
それとも純血の竜が特別なのか?
『私たち、六柱の〈大神〉がそれぞれ目の前にいる人間に〈恩寵〉と特別な〈技能〉をやろう』
ああ。
そうか。
これが、特別な〈技能〉。
神から授けられた、高速の、
いや、“神速”の回復能力!
自覚をすれば、その能力の凄さがわかる。
どんな怪我でも一瞬で治る。
ならば、痛くなる前に回復しきれば良いんだ!
怪我をして、痛みを感じる。
それよりも早く治せば、痛くない!
痛くないなら、俺だって――
迫る精悍な顔。牙を剥き出し、殺意に満ちている。
――できれば、遠距離から攻撃したいなぁ……。
「ギャー、ギャウギャウ!」
背後から聞こえるゴブリンどもの応援が、批難の声に聞こえてきた。
仕様がないじゃん!
怖いんだよ!!
何なんだよ!
あの獰猛な狼!
デカ過ぎるんだよ!
狼ってようは犬だろ!?
股下くらいの大きさだろ、普通!?
なんで俺と体高が一緒なんだよ!?
てか、さっさと石になれ!!
『ガアアアアァァァァ!!』
再び全力のドラゴンブレス。
通路を埋め尽くすほどの範囲なら、問答無用で直撃だ。
効かなくても牽制くらいにならなるだろう。
だが、巨狼はノシノシと近づいてきた。
まるで効いていない。
ああ、やっぱり効果無し!
牙と爪でどうにかするしかないの……
グゥゥゥゥーー。
……あはははは。
腹減ったわ。
「グルルル!!」
おっと、巨狼がお怒りのようだ。
まあ、殺しあいをしているときに腹の虫が鳴いたら、そら怒るわな。
そういや、起きてから何も食べてないな。
「キュ、キュウ」
遠くからアースドラグモールの声が聞こえる。
コロコロと何かが転がってきた。
鉄鉱石だ。
俺は躊躇なくそれを食べた。
うん。旨い。
少し柔らかい気がするが、やっぱり旨い。
ああ、これが最後の晩餐てか?
まあ『神速回復』があれば、死なない気もするが。
この狼に勝てる気がしない。
ああ、もっと鉄を食えないかな?
そんなことを考えながら俺はブレスの準備をする。
最後の悪足掻きだ。
これでダメなら仕方がない。
近接戦闘をしてやろうじゃないか!
『ガァァアアアア!!』
俺は再び全力で、吠えた。叫んだ。咆哮した。
結果は言うまでも無いだろう。
「ぐっ!」
俺は身構えた。
爪を立て、牙を剥き出し、戦闘体勢をとる。
覚悟は決めた。
どうせ怪我なんて治るんだ。
どんだけ傷つこうが、お前を殺すまで、暴れ続けてやる!!
目の前には先程と変わらない巨大な狼。
殺意の籠った視線に、今にも逃げ出したくなる。
鱗を割った爪が。
肉を切り裂く牙が。
音速で走る脚が。
威嚇し、唸る喉が。
怖くて恐くて堪らない。
なのに、そいつは、一向に動こうとしない。
眉ひとつ動かさない。
まるで石にでもなったかのように……。
「はぇ?」
情けない声が漏れた。
仕方がないだろう。
驚いたんだよ。
だって。
だってそいつは。
俺がこの世界に生まれて、初めて敵わなかった強者は。
鉄と化しいたんだから。
これで、一章は終わりです。
次は二章で。
ちなみに、Bランクモンスターくらいになると、銃弾がほぼ効かなくなります。
特に地竜は耐久力高めの種族ですので。
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