一話 ニート卒業?
序章での回想は終わりです。
一章は、転生して、孵化する前後からの話しです。
〈神界〉から転生させられて、俺は暗く狭い空間にいた。
何となく体の大きさが変わらない気がする。
本当に転生したのだろうか。
ここが仮に母親。いや、俺は強い王様の息子になる。王様ってことは偉いのだろう。
ここは、母上だな。
仮に母上の腹の中だとする。
うん。
確か、女性の腹には子宮があって、卵子が着床する。
それで、分裂を繰り返して子供になるのか?
羊水とか言うのがあるらしいが、水に浮いていないな。
まあ、保険体育の評価なんて三段階中の二だからな。
知識はもちろん、経験もありはしない。
小学生の頃の成績じゃ当てにならないけど。
とりあえず、寝るか。
カプセルホテルみたいな物だと考えれば寝られるな。
カプセルホテルに行ったこと無いけど。
おやすみ……。
◇◇◇
ふわぁぁ。
って、うわぁ!!
あくび、いや息かな?
とりあえず息を掛けたら、目の前の壁が砂と化した。
めちゃくちゃ眩しいんだけど。
これじゃ眩しくて眠れない。
仕方ないか。
反対向いて寝よう!
おやす――――
「グギャギャギャギャ!!」
寝ようとした所で、前の方から叫び声が聞こえてきた。
緑色の肌をした小柄なやつだ。
うるさいなぁもう!
『グァアアア!!』
俺は怒りを込めて吠えた。
そうしたら、目の前の壁と同様、叫び声の主は砂と化した。
おお! これは、砂化の吐息とか、咆哮とか言うものかな?
不思議な能力だな。
良く見てみれば、壁だと思っていた物は卵の殻らしい。
息を掛けたら、またも砂化したけど、もう気にしない。
とりあえずこの砂化の吐息のおかげで気づいたことがある。
俺、絶対に人間じゃないわ。
これはあれだな。
人外転生ってやつですよ。
いやー。人間以外にも王様っているんだなぁ。
さてと、今度こそ寝ますか。
おやすみ……。
◇◇◇
あれから寝て起きて寝るを何度となく繰り返した。
面倒だから回数なんて数えていない。
仕方ないよね?
俺は生まれたての赤ん坊。
の、わりには土気色だが、そこは置いておく。
まあ、赤ん坊の仕事は寝ることですよ。寝ること。
つまり、今は働いてないが、寝てる間は、仕事中なんですよ。
おお! これで俺もニート卒業だな!
何せ、寝て起きると常に明るいから。
いつも夜勤しているってことだ。
残業代がついてもいいね。
もちろん日勤もしているよ。当然だね。
さて、そろそろ仕事の時間だ。
俺は勤勉だからな。
おやすみ……。
◇◇◇
グゥゥゥゥ~~。
そうとしか言い表せない音が鳴った。
イビキじゃない。腹の虫だ。
さすがに寝てばか、ゲフンゲフン!
働いてばかりでお腹が空いたよ。
食料を探しに行こう。
と言っても、たまに目の前の大きな穴から、緑色の肌で、角と牙を生やした小鬼がやってくる。
そいつらに吐息をかけて殺して、食べるだけだ。
皆等しく砂となる。
それで、この砂が予想以上に美味いのだ。
食事に困らない生活は良いな。
◇◇◇
気分的に三桁は繰り返した、寝て起きて寝るだけど、その間に気づいたことがある。
息をかけると物が砂になる。
腹は柔らかくはないが皮膚のようだ。
腕や頭は、とてつもなく硬い。
ついでに全身土気色。
歯は刃のように鋭く。
爪も同様。
角は短いのが二本。
翼は退化しているのが申し訳程度に一対。
後、尻尾も生えてる。
結論。
どうやら俺は、地竜に転生したらしい。
地竜。
ミミズでもなく、土竜でもない。
正真正銘、ドラゴンである。
いわゆるドラゴンブレスも吐ける。
本能でわかるのだが今の俺は、砂化のブレスと、石化のブレスが吐ける。
いやぁ、なかなか面白いし、美味しい。
そう。とても美味しい。
さっきも思ったが、地竜というのは、砂と石を食えるようだ。
砂にした卵の殻と、石にした卵の殻を食べてみた。
そしたら、うまかったのだ。
不思議な生き物である。
まあ、俺のことだが。
卵の殻は無くなってしまったが、まだ、穴から小鬼はわんさかやってくる。
食料事情はおおむね問題ないな。
ただ、人型生物を石像にして食べるのは気が引ける。
やはり砂にして食べるべきだな。
では、おやすみ……。
◇◇◇
ふわぁぁぁ。
目が覚めた。
前足が痒い。
気の向くままに掻いてみた。
ペリッ、ペリッと剥けだした。
どうやら脱皮だ。
……剥けるところまで剥いて、寝よう。
「…………」
ん?
今、何か音がしたな。
何の音だ?
耳を傾けてみた。
「…………」
やはり音がする。
キョロキョロと辺りを見渡す。
すると、後ろに女の子がいた。
フリルのついた黒い服装。
白いエプロン。
真っ直ぐに伸びた藍色の長髪。
そこには、カチューシャかな? わからん。
だが一番驚くべきは、左右対称の顔だろうか。
不思議と整った顔立ちだ。
メイドとホムンクルスを足して二で割ったような容姿だ。
いや、メイドのホムンクルスでいいか。
その場でメイドのホムンク……。
長いな。
メイスでいいか。
メイスは、カーテシーのような動作をした。
「…………」
どうやら音の発生源はメイスらしい。
音と言っても、声じゃない。
あれか。呼吸音か。
なるほど。
竜の五感は、十メートルは離れている少女の呼吸音が気になる程度には、良いらしい。
もしかしたら、耳だけ良いのかもしれないが。
……いや。今まで普通に寝てたし、そうでもないな。
「…………」
それにしても話しかけてこないな。
メイスは何がしたいんだ?
カーテシーって、跪くことができますよー。みたいな挨拶だろう?
つまり、俺の方が目上。
当然だね。
俺はドラゴン。メイスはメイス。
俺の方が戦闘力は上のはず。
話しかけてみるか?
「おい、何か用か?」
「…………」
首を縦に振った。
コクコク、と。
どうやら、頷いたらしい。
「何の用だ?」
「…………」
今度は無言で移動を始めた。
俺から見て右側にずれた。
メイスは自分の後方の何かに向けて指を指した。
何だあれ?
水晶玉か?
……うまそうだな。
よだれが垂れてきた。
なるほど。
地竜というのは、砂や石より宝石の方が好きらしい。
「……! …………!!」
メイスが激しく首を横に振っている。
全くの無表情だが、何故か嫌がっている気がする。
怖がっているかもしれない。
「うまそうだな。食っていいか?」
「……!! ……!!」
どうやら、ダメらしい。
まあ、さっきまでの身振りでも分かっていたことだが。
とりあえず、意志疎通は可能。
身振りにおける解釈の違いも今の所ないな。
そういえば、〈大神〉への願いが叶えられているなら。
俺は今、とっても強い王様の息子なわけだ。
逆にこれは、自宅警備に必要な何かなのか?
自宅とは、自分の家。
あるいは、自分の生活の拠点。
つまりここだ。
よくよく見渡してみれば、不思議な空間だ。
卵の外は、岩むき出しの壁だ。前方には大きな穴が空いている。
しかし、洞窟にしてとてつもなく広い。
広さはたぶん百メートル四方。
高さは分からん。
もしかしたら百メートルくらいあるかもな。
そして、十メートル先には水晶玉のような何か。
自宅警備に関わるであろう、この空間と玉。
答えは一つしかない。
前世で無料小説投稿サイトを四つほど梯子した俺なら分かる。
「ここは、ダンジョンなのか?」
自信を持ちながら、しかし確認するように、メイスに問いかける。
さあ、返答はいかに!
「……? …………」
コテン、と首を傾げられ、次に首を振られた。
もちろん横に。
どうやら、ここはダンジョンではないらしい。
マ~ジか~~。
……もう寝よう。
おやすみ…………。
「……! …………!! …………!!」
何か騒音が聞こえるが、俺は気にせず意識を手放した。
◇◇◇
目を覚ますと、正面にメイスがいた。
変わらずの無表情。
「…………」
変わらずの無口。
無言で無表情で、何かを訴えかけてきた。
ドラゴンというのは、人間をはるかに超越した種族なのだろう。
このメイスが何を訴えたいのか手に取るように分かる。
絶対に、寝るなと怒っているのだ。
ふん。
俺はこの予測を外したことはない。
何せ、いつも寝てばかりの俺が怒られる内容など、起きろ。あるいは、登校しろだ。
小説投稿なら喜んでするのだが。
引きこもれるからな。
あれ、ドラゴン関係無いな。
「それで、何の用だ?」
「……!」
寝起きそうそう、コミュニケーションとは。
俺も進歩したな。
血縁以外の異性と会話したの何て、小学生以来だ。
まあ、このメイスに性別が無い可能性もあるし、男の娘の可能性もあるが。
「……! ……!」
どうやら、水晶玉を指し続けているらしい。
どうしろと?
「……! ……!」
「いや、しゃべろうぜ」
「……………………」
あ。
喋りたくないの。
そうですか。そうですか。
では、こっちにも奥の手がある。
「状況を説明しろ。
さもなくば、寝る。
これは決定事項だ」
「……! …………!
…………! ……………………!」
いや、わかんねぇよ!
ということで、
「おやすみ……」
「…………!?」
◇◇◇
ふわぁぁぁ。
よく寝た。
『……おはようございます。
……お目覚めですか?』
そして、挨拶された。初めて聞く言語で。
目の前にはメイスがいた。
いつも通りの無表情。
しかし、無口ではない。
知らない言語だが、分かるのだから問題ない。
「おはよう。
喋れたのか」
『……いえ』
「今、喋ってるじゃん」
『……はい』
…………。
話しが進まない。
「喋れるようになったのか?」
『……はい』
「どうやって?」
『…………。
……発声器官を作成しました』
「どうやって?」
『…………迷宮の機能で、です』
「おお! 迷宮!!」
迷宮。すなわちダンジョンのことだろ!
やっぱりここはダンジョンなのか!
「ダンジョンの機能で喋れるようになったのか。
ちなみに何語を話してるんだ?」
『……地竜語です。
……だんじょんとは、迷宮のことをさしているのですか?』
「ああ」
『……分かりました。
……以後、迷宮をだんじょんと呼称します』
うーん?
この世界にはカタカナとかないのか?
なんとなくダンジョンの発音に違和感がある。
まあ、言語が違うから発音もくそもないが。
あ。
そういえば、俺はメイスのことを何も知らないな。
仕方がないか。
寝てばかりだったからな。
「そういえばメイスは、何なんだ?
俺に何か用があるらしいが」
『……………………』
「どうした?」
『…………あの。
……メイス、とは私のことでしょうか?』
「ん? ああ。
メイドのホムンクルスっぽいやつだから、メイスって呼んでる。
自己紹介をしてくれたら、直すが?」
『……把握しました。
……私は、自動人形型迷宮核。
……このだんじょんの心臓部です。
……名称はありません。
……自由にお呼びください』
迷宮核。ダンジョンコアみたいなものだな。
へぇ。自律思考するのか。
ダンジョンコアと言えば、水晶玉のような不思議な球体のイメージがある。
そうとは限らないのか。
まあ、異世界だしな。
「ああ、俺は…………」
そういや、現世の名前を知らないな。
というか、性格な種族名すら知らないな。
「……たぶん地竜だ。よろしく」
『よろしくお願いします』
わりといい加減な自己紹介が終わると、メイスはすぐに用件に移った。
用件とは、ここの迷宮主。すなわちダンジョンマスター的な者をやって欲しいらしい。
ダンジョンはマスターがいるといないとでは、防衛能力が劇的に変わる。
特にメイスは、マスターがいなければダンジョンを運営できない特殊個体らしい。
そこでなけなしの迷宮得点――ダンジョンポイントを使用して迷宮主召喚をしたら、俺(地竜の卵)が来たらしい。
「つまり、俺にダンジョンマスターになれと?」
『……いえ』
「違うのか?」
『……はい』
おかしいな。話しの流れ的にダンジョンマスターになって欲しいんじゃないのか?
「迷宮主召喚で、俺を喚んだんだよな?」
『……はい』
「ダンジョンマスターにならなくて良いのか?」
『……あっ!
……いえ。
……召喚された時点で地竜様はだんじょんますたーです。
……地竜様にはだんじょんの運営の一端を担って頂きたいのです』
ああ。なるほど。
ダンジョンマスターなのか、すでに。
確かに自宅警備だ。しかもメイド付き。
断る手はない。
でもなんか、様付けは止めて欲しいな。
「分かった。
だが、地竜様は止めてくれ。
なんかくすぐったい」
『…………くすぐったい?
…………畏まりました御主人様』
……なんかさらに固くなった。
「もっと気安く。
そうだな。マスターとでも呼んでくれ。
様は付けなくて良い」
「……?
……はい、ますたー」
こうして俺はダンジョンマスターになった。
「とりあえず寝るか。
おやすみ……」
『……あっ。
……待って、ま――――』
それ以上の言葉は聞こえなかった。
◆◆◆
私は迷宮核。
型は自動人形。職業は雑役女中。
私のますたー曰く、おーとまーたたいぷのだんじょんこあ。
じょぶはめいど・おぶ・おーるわーくす。
そして私の仮称はメイス。
命名の儀を行ったわけではないけど、ますたーに貰った大切な名前だ。
ますたー。
その身から溢れる妖気と竜気の量から察するに、地竜の王族、星王竜。
星脈と重力を操る、七大王竜最強の一族。
その力の前に誰もがひれ伏し、誰もが近寄ることを許されない絶対の王。
でも、ますたーは寝てばかりだ。
生まれてから、二五〇日。約三五〇〇時間。
ほぼ寝ている。
たぶん、合計しても一日と起きていない。
だんじょんは、だんじょんこあが配置された場所を中心に百めーとる四方で高さも百めーとるの空間が形成される。
めーとるは、ますたーに教わった距離の単位の一つだ。
だんじょんには、配置されてからちょうど一年で、地上と繋がる入り口が現れる。
そのはずなのに、私のだんじょんは何故か、すでにある洞窟の近くにできたみたい。
だから、すでに地上と繋がっている。
私は昔から、不運で不幸だ。
仕方がない。
このままだと、だんじょんこあのあるこの空間が直接地上に繋がったままだ。
そうしたら、私はすぐに討伐される。
まだ、死にたくない。
だから、起きてますたー。
だんじょんを作って。
作者のモチベーションが上がるので、
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