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人間不信の冒険者達が世界を救うようです  作者: 富士伸太
三章 ミナミの聖人VS奇門遁甲
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サバイバーVSミナミの聖人




「う、うう……」

「ティアーナ、大丈夫カ?」


 ティアーナは昏倒していたが、カランに声を掛けられようやく意識がはっきりしてきた。

 体の節々が痛むが、今はそれどころではないと体に叱咤する。


「何がどうなってるの……?」

「オリヴィアがやたら強くて、時間稼いでくれタ」

「何がどうなってるかさっぱりわかんないんだけど」

「ワタシもよくわかんなイ。けど……ほら」


 カランが指さす先をティアーナが見る。

 そこでは絆の剣から凄まじい光が暴れるが如く放たれていた。

 だがそれもやがて収束し、一人の人間の姿を象った。

 涼やかな顔をした男だった。

 黒い髪。

 引き締まった体。

 だが、その手に剣は握られていない。

 剣は男の周囲を浮遊し、清らかな光の刃を放っている。


 そして手に武器を持たない代わりに両手と両足から不思議な白い輝きが放たれている。

 そして要所要所を覆う白い思念鎧装は、普通の鎧とは少しばかり形状が異なっている。その身を守るための鎧ではない。むしろ手足の動きを阻害せず瞬時に攻めに移るための、獰猛な気配が漂う鎧だ。


「あら、美丈夫イケメン







「《合体ユニオン》だと……!? 失われた古代魔術だぞ、馬鹿な……!」


 特に驚愕を表したのは白仮面であった。

 警戒心をむき出しにしたまま、その場を動こうとしない。

 今までに無い脅威を感じている様子だ。

 そこに、男――ニック/ゼムが一歩踏み出した。


「「さて、第三ラウンドと行こうか」」


 神秘的な声が朗々と廃工場に響き渡る。

 そしてぱちりと指を鳴らした。


「「《全体治癒オールヒール》」」


 浮遊している絆の剣が、清らかな光を放ち廃工場の中を照らし出した。それは味方全員を包むと、カランやティアーナに残っていた傷が癒やされていく。ティアーナの背中や頭に残っていた鈍痛が消え、気分も晴れやかなものになった。先程までゼムがかけていたものとは治癒力の次元が違っている。


「す、すごいわね……。手を触れずに完全に回復させるなんて生半可な芸当じゃできないわよ。剣が発動体になってるの……?」

「「そんなところらしいですね」」


 そして回復力は、【サバイバー】以外の人間達にも及んだ。


「んん……なんだ……?」

「ぐっ……余計なことを……」


 失神していたスコットと、ダメージを負ったままのナルガーヴァまでもが回復した。


「ど、どうなってる……? 誰だあいつは……!?」

「良いからちょっと寝てて。カラン」

「ウン」


 カランが首に手刀を当てる。

 再びスコットの意識は刈り取られてしまった。


「ちょっとニック! あ、いや、ゼムかしら? 見られないように気をつけてよね!」

「「はいはい」」


 ティアーナとカランが、気を失ったスコットを鉄の洗濯桶の裏に隠す。

 そして二人も戦闘の邪魔にならないように引っ込み、がんばれとか負けるんじゃないわよとかすっとぼけた応援を始めた。


「「しまらなくて悪いな、それじゃ改めて仕切り直しといこうか」」

「……それは《合体ユニオン》を権能とする聖剣か……? 先の戦争では実戦投入されなかったものだな?」

「「さあて、あなたは知らずとも良いことです」」

「意趣返しのつもりか。ならば無理にでも答えてもらおう」


 白仮面は魔力を左手に込めると、更に禍々しいオーラが吹き出て結界が広がっていく。

 だがそこにニック/ゼムは悠々とした足取りで踏み入れた。


「ちょ、ちょっと! 結界に入るなら、もっと対策をしてからじゃないと……!」


 ティアーナの警告など気にもとめず、ニック/ゼムは涼しい顔のままだ。

 そして体がすっぽりと結界の中に入った瞬間、ニック/ゼムの口から呪文が紡ぎ出された。


「「《永続治癒リジェネレイション》」」

「なにっ!?」


 再び、絆の剣が輝きだした。

 赤く禍々しい結界に覆い被さるように白い輝きが広がっていく。


「「原理はよくわからないが……ダメージを与え続けるという結界ならこちらも結界で対応するだけだ」」


 《永続治癒リジェネレイション》とは、高位の神官たちが入念な準備と連携があって初めて成立する結界魔術だ。この結界の範囲内において指定された存在は傷を負ってもすぐに癒える……というより、何らかの攻撃によって負傷することや死することを禁じるという外法すれすれの魔術だ。


「ぶはっ……! あー……ちょっとは楽になりましたね。化粧直してきて良いですか?」


 オリヴィアが割れた眼鏡を胸元に仕舞いながら顔の血を拭った。

 だが消耗が酷そうだ。結界に阻まれて先程の回復魔術の効果は届かず、《永続治癒リジェネレイション》の効果も限定的なようだ。思念鎧装と結界、双方の効果をもってようやく白仮面と互角というところだろうと思い、ニック/ゼムは白仮面を油断なく見据える。


「「オリヴィア、まずは休んでてくれ……それに傷は癒えても重くなった重力まではどうにもならない。あいつを倒すまではな」」


 ニック/ゼムはそう言いながら、白仮面の眼前に大きく踏み込む。

 踏み込んだ足元の床が割れると同時に、白く輝く手が白仮面の腹部に当てられていた。


「ぐおおおおっ!」


 ぐらり、と白仮面の体がよろめいた。

 鎧がへこみ、苦悶の息を漏らしている。

 膝が地についた。


「「ようやくダメージらしいダメージを与えられましたね……。あなたには聞きたいことが山程あります。喋って頂きましょうか」」


 ニック/ゼムが自分の指の動きを確かめながら、白仮面に言い放った。

 だが、業火のような敵意と咆吼が響き渡った。


「……舐めるなァ!」


 そして白仮面の叫びと共に、へこんだ鎧が元に戻っていく。


「「……かなり本気の一撃だったんですけどね」」

「聖衣がその程度で壊れるものか……!」


 白仮面はお返しとばかりに、渾身の力を込めて剣を振るう。


「「重っ……!」」


 ニック/ゼムは両手を交差し、篭手で剣を受け止める。

 鋭さを上回るあまりの重さを受け止めきれず、踏みとどまろうとする足が硬い床を砕きながら後ろへと下がっていく。


『これは……おそらく剣の本来の刀身が別次元に折り畳まれておるな。おそらくあれの本来の姿は竜骨剣以上の巨大な剣……というより棍か槌じゃ』

「「キズナ、もう少しわかりやすく」」

『ええと……見た目以上の重さがあるということじゃ。ばかでかいハンマーを相手にしてると思え』

「「承知!」」


 そこからしばらく、白仮面とニック/ゼムの殴り合いが続いた。

 一合交える度に、だぁん、や、どぉん、といった、まるで建築現場のごとき音が響いた。

 腹の底まで響き渡るような轟音の中心は、意外なほどに丁寧な所作をしていた。


 剣を振り下ろす白仮面の姿は無駄がなく、その行動とは裏腹にストイックさを感じられるほどの静けさがあった。それを受け止めて拳を繰り出すニック/ゼムは、玄妙の一言に尽きた。


永続治癒リジェネレイションの効果も、我が結界内で打撃を負わせ続ければ間に合わなくなる。単純な足し引きの問題だな」


 白仮面が不敵に呟く。

 その言葉どおり、ニック/ゼムは回復が間に合わない手傷を負い始めていた。

 対する白仮面の方は、鎧の効果のためか傷が自動的に修復されている。


「そら、受け止めてみるがよい!」


 洗練された剣閃から放たれるあまりにも大きな衝撃は、ニック/ゼムの体の芯にまで衝撃が広がっていた。もし永続治癒リジェネレイションの効果がなければ、跡形もなく吹き飛ばされていただろう。白仮面も決して無傷ではないが、堅牢さや耐久力という面ではずば抜けていた。


「「いや、感服したぜ。表舞台に出ていたならば英雄か悪漢かはともかく天下無双と褒め称えられてただろうよ」」

「浮世の儚い名誉など興味はないな」

「「そうか。意外とストイックなもんだ」」

「減らず口もここまでだ」

「「そうだな、そろそろ真面目にやろうか」」

「なんだと……?」


 白仮面が疑問を呟いた瞬間、ニック/ゼムの体は宙に浮き上がっていた。

 ただの跳躍であり、ゆるやかささえ感じる動きだった。


「その程度で不意をついたつも……なにっ!?」


 ニック/ゼムはそのまま上昇するかと思いきや、凄まじい速度で鋭角に曲がった。

 非生物的な軌跡を描きながら、白仮面の側面から膝を叩き込む。


「がはっ……!」

「「ステッピングは結局のところ、物理的に可能な動きしかできない。高く跳び上がったり放物線を描いたりすることはできても、こういう芸当は難しい」」

「な、何をした、きさま……!」


 白仮面の言葉に、ニック/ゼムは微笑みだけを返した。




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