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人間不信の冒険者達が世界を救うようです  作者: 富士伸太
三章 ミナミの聖人VS奇門遁甲
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ステッピングマンの行方 4

次回からようやく解決編




「スコットさん、あなたは頼まれてここを監視していた。そういうわけですね?」

「おう」


 全員が武器を降ろして、スコットと話をすることになった。

 状況を知った墓守の男から「こんなところで何やってんだ!」と全員がみがみと叱られ、そんな中、ナルガーヴァとの話を終えたゼムも合流した。もはや戦いのムードなどは雲散霧消し、全員どうでもよくなっていた。


「診療室で助からなかった奴はここに直行することになる。けど死体泥棒が出るかもしれないから警護してくれって頼まれたんだ。ここじゃ拝めないような小綺麗な奴がうろついてたら特に怪しいって言われてな」

「それは冒険者ギルドを通してのものではないでしょう?」

「……前にここで腕を怪我しちまってな。タダで治療してくれたもんで困ってることはないか聞いたんだ」


 スコットが腕をまくった。そこには傷一つ無い。

 以前『マンハント』で見かけたときにあったはずの痣は綺麗さっぱり消えていた。


「そういえば……どうして腕を怪我したのです? 以前見かけたとき痛そうにしていましたが、それのことですか?」

「……言いたかねえ」


 スコットはむっつりした顔のままそっぽを向く。

 だが、ゼムはスコットから目を外さずに話を続けた。


「僕達は子供を浚うステッピングマンを追っています。ご存じですね?」

「マンハントに居る連中は全員知ってらぁ」

「ニックさん……僕らのリーダーはステッピングマンの腕を蹴りつけていました」

「へえ」

「あなたと同じ部位ですね。腕に靴の裏がくっきりと写るくらいの怪我をしたはずです」

「……ん?」


 スコットが首をひねる。

 だがしばし無言の時が過ぎて、ゼム達が猜疑の目で自分を見ていることにようやく気づいた。


「は、はあ!? 俺を疑ってるってのか!」

「あなたも僕らを疑った。僕らはできる限りの説明をする。ですのであなたもできる限りの説明をして欲しい。フェアに行きましょう」


 スコットはうんうんと悩んでいたが、観念したようにぽつりと呟いた。


「……お、俺もそうだ」

「俺も?」

「俺もステッピングマンを見かけて追いかけたんだよ! だが気付いたら突然現れてて、腕を蹴られたと思ったらとんでもないジャンプをしていったんだ。まるで幽霊に出会ったみてえだった」

「……それならそうと説明すれば良いではありませんか。隠すほどのことでもないでしょう」


 あえてゼムは溜め息を吐いた。


「お前らを見返すために同じ賞金首を追って、よりにもよって返り討ちにされたなんて言えるか!」


 ティアーナとキズナがじっとりした目でスコットを見つめる。

 だが開き直りに近い告白に、二人とも何も言うまいと黙っていた。

 ゼムが気にせずなだめながら話を続ける。


「まあまあ……僕らだって何度も逃していますし、何よりこれまで人さらいなんて派手なことをしておいて露見さえしていなかったんです。一対一で出会って生きているだけ十分でしょう」

「そういう問題じゃねえ、プライドの問題だ」

「ま、そういう気持ちもわからなくはないですがね」

「それより、俺の番だぞ。お前達はなんでこんなところに居る」

「ステッピングマンの逃走経路をまとめた結果、奴はここ、建設放棄区域を根城にしている可能性が高いんです」

「なんだって……!? あ、いや、不思議じゃあねえか。賞金首が隠れ潜むにはうってつけだ」

「いえ、不思議はありますよ。攫われているのは子供が中心です」

「うん……? どういう意味だ?」

「ここには子供は少ないでしょう。路頭に迷ってここの仲間入りする大人は居ても、路頭に迷った子供にはこことは別のアンダーグラウンドな社会がある。ここには来ません。だというのに、何故かここに子供の死体がある」

「……そういうことか。あそこの」


 と言って、スコットは死体安置所に視線を送った。


「……あそこの死体が被害者じゃないかと、そう疑ってるわけだ」

「ええ。あ、そうだ」


 ゼムは思いついたように言った。


「死体泥棒だと疑うならば、一緒に確認するのはいかがでしょう?」

「え」


 スコットが間抜けな声を出した。

 思ってもみなかった話のようだ。


「あなたは我々が死体を盗まないように監視をする。そして我々はあなたの監視の下に死体を確認する。ああ、剣を鞘から出しても構いませんよ。僕らがクロだと思えば遠慮なく振り下ろしなさい」

「お、おいおい、待て! その……」


 スコットはゼムとティアーナ、キズナの顔を順繰りに見た。

 ゼムはこれといって表情を変えていない。

 ティアーナとキズナは、


「二人だけだと不安だったのよ。よろしくね」

「うむ、人手が増えるのは助かるのう」


 と言って、華やいだような微笑みをスコットに向けた。







 再び、【サバイバー】の全員が酒場『海のアネモネ』に集合していた。

 夜も遅いためにレイナは居ないが、エイダとレッドも同席している。

 そして、


「……なんでお前ら、こんなところを拠点にしてんだ?」

「冒険者ははみ出し者が多いのが相場ですが、あなた方は特に傾いてますねえ」


 双剣使いのスコットと、雑誌記者のオリヴィアが座っていた。


「褒め言葉と受け取っとくぜ」


 ニックはオリヴィア達の皮肉など気にもせず、涼しい顔のままだ。

 ニックは訓練もレオンとの面会も上手く行き、手応えを感じていた。五里霧中な事件の中で光が差したと言って良い。だがそんなすっきりした様子のニックとは対象的に、


「はぁーあ、あなた達は良いわねー。わたし達は大変だったんだけど」

「そうじゃそうじゃ!」


 ティアーナとキズナは遠慮なく悪態をつきながらソファーに寝転んでいる。そのだらしなさにニックは閉口しつつもゼムに尋ねた。


「そんなに大変だったのか?」

「ええ、まあ……」


 ゼムは苦笑しながら頷く。

 その声色には確かに疲労が滲んでいた。


「胸くそが悪くなるのもしかたねえ。俺だってステッピングマンの野郎に苛ついてるからな」


 スコットがしかめ面のまま溜め息を吐く。


「それでここに来たのか?」

「言っておくが、報奨金の分け前が目当てじゃねえぞ。死体泥棒と勘違いして襲っちまった借りを返すのと、意趣返しをするためだ」

「死体泥棒……?」

「死体を盗む変態がいるから守ってくれって頼まれてたんだ。けどそりゃ……悪事を隠蔽するためのものだった。誘拐野郎の片棒を担がされるところだった」


 スコットの話を聞きつつ、ニックはゼムに視線を送った。

 スパイか何かじゃないか、という疑問の目だが、ゼムは大丈夫とばかりに小さく頷いた。


「ともかく、俺がここに居るのはそういうことだ。……それよりも俺は、なんでブン屋風情がここにいるのかが気になるんだが」

「ブン屋風情とはご挨拶ですねぇ。私の情報がなければステッピングマンを追うことはできなかったんですから」


 オリヴィアの自慢をスコットは鼻で笑う。


「へっ、怪しいもんだぜ」

「ちょっとニックさん! こんな無礼な人が仲間で大丈夫なんですかぁ?」


 ぷくーと頬を膨らませたオリヴィアがスコットを指さすが、スコットはスコットで舌打ちしてそっぽを向いたりと不機嫌を隠す様子も無い。


「なんでお前らそんな仲が悪いんだよ……」

「賞金稼ぎにとっちゃブン屋ってのは商売の邪魔なんだよ。事件が起きる度にあれこれ取材だなんだと首突っ込んできやがって」

「そりゃ私の雑誌はゴシップ誌ですけどね! こうやって情報提供して世のため人のために役立ってるんです!」

「その辺にしてくれ。騒ぐなら帰ってもらうぞ」


 ニックが敢えて声にドスを聞かせつつ言うと、喧嘩腰の二人はすぐに居住まいを正した。


「す、すまねえ」

「少々大人げなかったようです」

「それなら良いんだが……しかし、ティアーナ達も本当に苦労したみたいだな」

「何よ、疑うわけ?」

「いや、そういうわけじゃねえがな」


 ティアーナの眼光に首をすくめつつ、ニックはレッドに「助けてくれ」とサインを送る。レッドがわかりましたとばかりに冷えた酒と簡単な酒肴を持ってきた。


「あー、食べ物はいらないわ。お酒だけもらう」

「せめて何か腹に入れておけ、体に悪いぞ」

「わかってるわよ」


 ニックの注意に、ティアーナはやる気なく手をひらひらさせながら答えた。


「……んで、ゼム。そっちでは手がかりがあったってことで良いんだな?」

「ええ、数多くのことがわかりました」


 意味深な言葉の割に、ゼムの顔は冴えなかった。

 むしろ、知ってしまったことへの後悔や失望さえ匂った。


「込み入った話が長くなるのでまず結論から言いましょうか。ステッピングマンが誰で、何のために人を攫っているのか……大体の見当が付きました」


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