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人間不信の冒険者達が世界を救うようです  作者: 富士伸太
三章 ミナミの聖人VS奇門遁甲
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迷宮捜査網 5




 ニックは、因縁ある男の名前を口に出して顔をしかめた。

 ティアーナはむしろ面白がって話を続ける。


「そうそう、レオンよ。魔導具を発掘したり売りさばいたり、色々と詳しいんじゃなかった? 聖剣だって隠し持ってたくらいなわけだし」

「太陽騎士団の留置場は辛気くせえし騎士は横柄だしあんまり行きたくねえんだよな……行くけど」

「あら、素直ね」

「こないだは面会時間が来て尻切れトンボみてえに会話が終わっちまったし。むしろ「そのうち行かなきゃ」って思いながら伸ばし伸ばしにしてた」

「そんなにイヤなら私が行っても良いけど?」

「いや良い。たぶん向こうもオレが一番話しやすいだろうしな……」

「まあ、ニック以外じゃレオンとの接点が無いのよね」

「そうなんだよなぁ」


 ニックとティアーナの会話に、他の仲間が頷く。

 ただオリヴィアだけ話の内容がわからず、「?」という表情をしていた。


「ああ、オリヴィアは知らないよな。ちょっと前にオレ達が捕まえた詐欺師だ。魔導具も詳しいから何か手がかりが掴めるかもしれねえ。今日はもう遅いから、明日あたりにでも顔を出してみる」

「なるほど」


 オリヴィアはそこまで掘り下げるつもりも無さそうで、頷くだけに留まった。

 ニックがそれを見て、話を続ける。


「ただ、上手く行くかはわからねえから期待しないでくれよ。んじゃ次の課題の相談だ」

「課題? 他に何か?」

「ですね。気配や人相を消すだけが武器ではありませんし」


 オリヴィアが首をひねると、それに答えたのはゼムだった。


「拠点が推測できたのは良いとしても、捕らえる方法を見つけなければなりません。気配を消すのみならず、ああまで機敏に動くとなるとなかなか……」

「それもそうね……」

「たしかニ」


 ティアーナとカランが納得と落胆の溜め息を吐く。


「魔術でなんとかならないか?」


 ニックがティアーナを見るが、ティアーナは首を横に振る。


「結局のところ魔術も剣と矢と同じで、あててなんぼなのよね。私達五人から逃げられるんだから、一人の人間としての実力は結構なものよ」

「動きを封じるような魔術みたいなのって無いか?」

「土属性の上級魔術なら木の枝や蔦を鞭みたいに動かす《樹鞭》っていう魔術があるんだけど……。わたしちょっと苦手なのよね。それに使えたとしても向こうも対策できると思うわ」

「なんで?」

「《金剛盾》って魔術は、色んな属性に耐性のあるけっこう難しい魔術なのよ。《樹鞭》よりも上位の魔術を使えるくらいだから、何かしら抜け出す手段くらい持ってるんじゃないかしら」

「……なるほど」


 ニックが渋い顔をしながら呟く。


「そうなると……アレをやるしかないか」

「アレねぇ……」


 ニックとティアーナの脳裏に浮かんだのは《合体》だ。

 《合体》をすれば身体能力も魔力も飛躍的に向上する。

 実力では決して負けることはないはずだ。

 だが、


「おや、何か奥の手が?」


 オリヴィアが興味深そうに尋ねてきた。

 全員の頭に、誤魔化さねばならないという意識が働く。


「あ、ああ、いや。シンプルな話だよ。報酬を山分けするから他の冒険者に協力を持ちかけるとか」

「うーん……パーティーメンバー以外に信頼できる人がいるなら良いとは思いますが、そうでないなら安易に頼むのは難しいですよ。上手く連携できるかも怪しいですし、あとで報酬の分配でモメますし」

「だよな。ま、なるべく頼らない方向で行こう」


 そうですね、と頷くオリヴィアは特に何か気にした様子も無い。

 ニックの発言の本来の意図は、【サバイバー】の人間だけに上手く伝わっていた。


「とりあえず、課題としては『ステッピングマンの人相が未だによくわからない』、『ステッピングマンの動きに翻弄されてしまう』、『魔術もそこまで通用しない』……このあたりね?」


 ティアーナが指折り数えながら言った。


「オリヴィアは何かアイディアはあるのか?」

「アイディアというほどのことではないのですけれど……聞きます?」

「そりゃ、ここで黙ってるってのは無いだろ」

「わかりました。まず、魔術は魔力が必要なので持久戦に持ち込めば良いだけです。いくら強かろうと相手は一人ですから。味方がいるようには思えませんし」

「持久戦って、そりゃ相手も避けるだろう。そこに持ち込まれる前に逃げる。失敗と判断したらすぐに撤収する程度に知恵は回るぞ」

「ですが、逃走するルートは限られています」


 オリヴィアが地図上の線を指でなぞる。


「ここ、何か気付きませんか?」

「んん……?」

「良いですか、あれは私の雑誌の読者が追い求める、おとぎ話のステッピングマンではないんです。なんでもできる無敵の存在などではありません」

「無敵じゃない……つまり欠点がある?」

「まず、最初に出現した場所はここ。駅馬車の待機所の塀の近くですね」

「ああ」

「次は……神殿の裏側の道端」

「うん」

「あなた方があった場所、これは……酒場の倉庫の近くですね」

「そういえば木樽や木箱がたくさん置いてあったな」


 ニックがオリヴィアの言葉に相槌を打ちながら、地図をまじまじと眺めた。


「……雨樋とか、民家の屋根とか、脆いところは歩かない。木造の建物の上は一切通ってないな」


 地図上の線は、石造りの堅牢な神殿や集会場、煉瓦の分厚い塀、作業用の足場など、足場がしっかりした箇所をなぞるように描かれている。


「それですよ」

「……移動できる場所はけっこう限られるってことか?」

「ですね。ステッピングマンはまさに自由の象徴のような怪人ですが、彼の場合は自由自在とは程遠い。慎重に、入念に、限られた逃走ルートを選んでいると思います。子供を担いで逃げるときは尚更慎重にならざるをえないでしょう」

「移動可能な場所をあらかじめ頭に叩き込んでおけば、ある程度は逃走するルートは予想できる。が……」

「が?」

「先回りするにしても結局ステッピングマンと同じような場所を動けなきゃ仕方ねえじゃねえか」

「ステッピングマンほどじゃなくても大丈夫ですよ。壁をよじ登ったりジャンプできる程度とか」

「できるか!」

「うーん、無理でしたか……第三のステッピングマンになってもらえたら面白かったんですけどねぇ」


 オリヴィアが残念そうに溜め息を吐く。


「そりゃ俺だって身軽さには自信のある方だが、あそこまで高く飛ぶのは厳しいぜ。よじ登ってるうちに逃げられちまう」

「何か上手い魔術があると思うんですけどねぇ」

「魔術があるって言っても、なんでもかんでもできるわけじゃ……」

「……いや、できるかもしれません」


 それまで黙っていたゼムが出し抜けに発言した。

 全員の視線がゼムに集まる。


「へ?」

「空を飛ぶような魔術とは違いますが……。少し心当たりがあります。ちょっと『海のアネモネ』まで付き合ってもらって良いですか?」

「話が見えないんだが……」


 困惑するニックを見てゼムが微笑む。


「行ったら詳しく説明しますよ。それに、あそこに預けた二人の様子も見たいことですし」

「ああ、そうか」


 ステッピングマンに怪我を負わされたエイダと、連れ去られそうになったレイナを預けたままだ。


「預けっぱなしってのも良くないよな」

「ですね、エイダさんの怪我の様子も確認したいですし」

「……酒場オカマバーって、わたし達でも入れるの?」


 ティアーナが微妙な顔をして問いかけるが、ゼムはあっけらかんとしていた。


「意外と女性客居ますよ?」

「マジで?」

「興味本位で騒ぎ立てるような迷惑な客はつまみ出されますが、そうでなければ問題ありませんよ」

「世界って広いのね……」

「カランも行かせるのか?」


 ニックが言うと、カランが不満そうに声を上げた。


「ここで仲間はずれはイヤだゾ」

「そうですよニックさん」


 ゼムが同意するように頷く。

 ニックはしばし悩んだが、


「……いや、良いか。冒険者やるなら猥雑な場所にも慣れないとな。オリヴィアは……」

「あ、私は仕事が残っておりまして」


 オリヴィアは腰が引き気味に断った。

 あまり夜の街には耐性が無いのかも知れないと判断してオリヴィアと別れ、【サバイバー】の五人で『海のアネモネ』へと行くことになった。





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