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人間不信の冒険者達が世界を救うようです  作者: 富士伸太
三章 ミナミの聖人VS奇門遁甲
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マンハント 5




 迷宮都市の東部は、冒険者や労働者が多く住む南部よりも治安が悪い。


 騎士団がほぼ機能していないためだ。一部の凶悪犯や常習犯は賞金稼ぎが捕まえているものの、軽微な犯罪はほぼ野放しのような状況だ。その中でも建設放棄区域は一際危ない。迷宮都市の市庁舎を建てようとしたものの、担当した人間が建設業者に払うべき金を横領したり、あるいは手抜き工事ゆえに危険な場所があったりと、様々な不正や怠惰が積み重なって建設が放棄された場所だった。


 そこに最初住み着いたのは、行く場所をなくした建設関係の労働者達だ。更にそこに、他の迷宮都市での居場所をなくしたお尋ね者なども雪崩込んできた。建設途中で放棄された危なっかしい建物は住民達が無計画かつ野放図に増改築を繰り返し、今はまさに「迷宮」と言って差し支えないほどに拡大している。サバイバー達は今、その建設放棄区域の門に立っていた。落書きだらけの門はまるで異界の入り口だ。


「悪いなゼム。回り道になっちまって」

「ん? マンハントからここまで直行しましたよね?」

「そうじゃねえよ」


 ニックはゼムの朴訥な返事にくすりと笑った。


「大丈夫ですよ。ステッピングマンが本命であるとは言え、目先の仕事も必要なことでしょう? それに僕がステッピングマンを捕まえると息巻いたところで見つかるわけでもありません」

「そう言ってくれるとありがたい」

「それに……」


 ゼムはそこまで言いかけて、口を噤んだ。


「なんだよ?」

「いえ、なんでも。それよりまずここですけど……勝手に入って良いんですか?」

「……基本的にはな」


 ニックが渋い顔をしながら言った。

 その様子に、カランが疑問を持ったようだった。


「ニック、詳しいのカ?」

「ちょっとだけだぞ」

「ちょっとってことはちょっとは知ってるのね」


 ティアーナが言うと、ニックが頷く。


「前のパーティーで賞金稼ぎの仕事を何度かやったんだよ。ただまあ、リーダーがあんまりこういう仕事は好きじゃねえみたいですぐに迷宮探索メインに切り替えた。……っと、ここが入り口だな。まずはここの門番に話を通す」

「門番がいるって……もしかして、向こうが襲ってきたりするの?」


 ティアーナが面倒くさそうな顔をした。


「そういうときもある。大体3パターンくらいあるんだよ。来る人間とか用件によって違ってくる」

「違うって?」

「まず、太陽騎士団あたりだと向こうも全力で攻撃してくる。ここの連中が束になって襲いかかってくるんだ」

「けっこう過激ね……」

「そうでもしないと追い出されるだろうからな。で、次はここに住みたいって人間が来る場合だ。そういうときは普通に受け入れてくれる。甲斐甲斐しく面倒を見てもらえるわけじゃないが建物の中で寝泊まりはできるし、何かコネや能力があれば派閥に入って仕事やメシにありつけるんだと」

「なるほどね……最後の一種類は?」

「賞金稼ぎとか、人捜しとか、そういう人間は一応通してもらえる。ただし」

「ただし?」

「……ま、すぐにわかる。行ってみようぜ」


 ニックは皆を促し、落書きだらけの門をくぐる。

 周囲には粗末な服を来た人間が座ったり横渡ったりしている。

 その中の一人の、不健康そうな痩せぎすの男がじろりとニック達を眺め、声を掛けてきた。


「見ねえ顔だな……賞金稼ぎだな?」

「ああ」

「ならお前らの護衛はできねえし、賞金首の場所も教えられねえ。そのかわり、賞金首になっちまった間抜けを助けたりもしない」

「わかってる、護衛も案内もいらねえよ」


 ニックが首を横に振る。

 それを、カランがきょとんとした顔で眺めていた。


「……護衛いるように見えるカ?」

「ここでの護衛ってのは別に身を挺して守ってやろうってんじゃねえよ。仲間だから襲いかかってこないでくれって橋渡しするだけだ。けど雇わねえなら中で何が起きようと知らねえ」


 男が肩をすくめながら言うと、カランは納得したように呟く。


「魔物のかわりに人間が襲ってくるってことだロ。じゃ、どっちにしろ要らなイ」

「面白いな嬢ちゃん。情報はいるかい?」


 男がへらへらと笑いながら手を伸ばす。

 ニックがそこに、銅貨を何枚か置いた。


「大雑把な話で良い、最近変わったことはあるか?」

「こないだ、バカが魔術を撃って議事堂の屋根が空いちまった。おかげであのへんをナワバリにしてた連中が星見広場のバラックの連中と喧嘩になってる。巻き込まれたくなけりゃ星見広場を歩くのは避けな」

「わかった」

「もう一つ忠告だ。仕事中のナルガーヴァさんには手ぇ出すなよ」

「ナルガーヴァ? 誰だ?」

「神官だ。礼拝と治癒を邪魔しねえってのがここ最近新しくできたルールだ」

「へえ……平和になったな」


 ニックが驚くと、聞いていたゼムも感心したようだ。


「いるのですね、こういう場所にも」

「そういうことだ。わかったら行きな」


 男は面倒そうに顎をしゃくった。

 ニック達は、そのまま歩みを進めた。







「クサいゾ」


 カランが鼻をつまみながらげんなりした顔でぼやいた。


「まあな……換気も水回りも悪いんだよな」


 ニック達は建設放棄区域の中を歩いていた。どこも天井が低く狭苦しいが、全体としては意外に広大だ。建物と建物の間に、放置された建材を使って通路や部屋などを勝手気ままに作り、拡張しているのだ。またそれゆえに清掃をする人間もおらず、街として機能不全を起こしている。さらにそこに加えて、


「待ちな」


 単純に住む人間のガラが悪い。

 まるで気軽な挨拶を交わすが如き頻度で強盗が現れる。


「手前ら外から来たな?」

「こっから先は有料だぜ……げはっ!?」


 不審な男達が剣や斧を懐から出そうとした瞬間には、既にニックの拳とキズナの峰打ちが男達の意識を断ち切っていた。


「余所者とみるや襲いかかる奴がいるから、みんな気をつけろよ」

「ちょっと想像を超えてましたね」

「流石にこれはねぇ……」


 ゼムとティアーナが疲れた溜め息を漏らした。


「まあ、刃物を持った人間が近付いたら我がすぐ察知するでの。頼りにするが良いわ」


 キズナが自信満々に言う。

 実際、ここで活躍したのはキズナだった。

 優れた聴覚や視覚を使い、ならず者の接近をいち早く察知することで対応できている。


「あー、頼りにしてるよ。んで、ゼム。誰か起こしてやってくれ。ヘイルの居所を聞き出したい」

「あ、そうやって聞き出すのはアリなんですね」

「まあアリというか、門番に手を出すのはナシって感じだな。あとはもう自由っつーか、野放図っつーか……」

「なるほど。誰にします?」

「そこのモヒカンがリーダーっぽくないか?」

「ですね」


 ゼムが失神したならず者の一人に近寄り、治癒魔術を唱える。


「……う、うん? な、なんだ手前!?」

「なんだはこっちの台詞だ。ヘイルの居場所を知ってるか」


 モヒカン男は意識を取り戻すと即座にニックに食ってかかろうとする、が、ニックはすぐに男の腕を取り、関節を極めた。


「ぐあっ! や、やめろ!」

「襲いかかってきたのはそっちだ、悪いとは言わせねえぞ」

「わかったわかった! ヘイルって、女たらしのヘイルか!?」

「まあ、元ホストらしいからな」

ねやらしい」

「ねや?」

「東側の、宿舎になる予定だった建物だ。閨って呼ばれてる。あそこでポン引きしてたはずだぜ」

「よし、そこまで聞ければ良い」

「じょ、情報料くれよ」


 ニックは男の厚かましさに呆れた。

 襲いかかってきておきながら何を言ってるんだ、と口から出かかったとき、ゼムが前に進み出てきた。


「……きみ、遠からず死ぬよ?」

「はぁ? 何を……」

「良くないクスリをやってるだろう」

「余計なお世話だ!」

「煎じて吸い込む種類かな? それとも葉や種を噛む感じかい? 飲むと気分が暗くなる? 楽しくなる?」

「な、なんだよお前」

「良いから答えなさい」


 男はゼムの圧力に怯み、後ずさる。

 仕方なしにぽつぽつと自分の嗜好品と状況を語り始める。


「ね、眠れねえんだよ。仕方ねえだろ! こんなところで住んでるんだ。まともな生活ができるとは思っちゃいねえよ。お前らにはわからねえよ」

「……」


 ゼムは静かに、男の話を聞いていた。

 そして最後に、


「鎮静効果のある薬草です。これを情報料としましょう。これは強い薬ではありませんが我慢しなさい。今まで飲んでいたクスリに頼らないように」

「わ、わかったよ」

「多めに渡しておきましょう。他の人が起きたら分けてあげなさい」

「お、おう」


 男は目を白黒させながら、ゼムから薬草を受け取る。

 ゼムはそんな男の戸惑いなど気にもせずに仲間達の方に振り向いた。


「さて、それじゃあ皆さん、行きましょうか」




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