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人間不信の冒険者達が世界を救うようです  作者: 富士伸太
三章 ミナミの聖人VS奇門遁甲
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マンハント 4




 冒険者ギルドは都市内に多くの拠点を持っているが、その中でも主要な場所は次の六つだ。


 新人冒険者向けの『ニュービーズ』。

 中堅冒険者向けの『フィッシャーメン』。

 ベテラン冒険者向けの『パイオニアーズ』。

 迷宮探索以外の、護衛依頼などを専門的に扱う『トラベラーズ』。

 冒険者ギルドを運営する高官と、ごく一部の超一流冒険者が集うギルド本部。


「そしてもう一つ、冒険者ギルド支部は『マンハント』ってのがあってな」


 ニックはその『マンハント』に向かう通りを歩きながら、仲間達に告げた。


「物騒な名前ね」

「実際、他よりちょっと物騒だ。魔物を倒すよりも人間を相手取った方が良いって連中がいるわけだしな。まあ正義感に溢れた奴も居るんだが……」


 冒険者ギルド『マンハント』は、犯罪者の首にかけられた賞金目当ての冒険者達が集うギルド支部だった。迷宮都市の治安を守るのは太陽騎士団でありその威光は強いが、必ずしも迷宮都市の全てを照らしてくれるわけではない。特に、スラム街同然の南東部においてはさほどの存在感はない。騎士達にとってサウスゲート勤めは閑職であり、汚職がはびこっている。犯罪も多い。


 その状況を憂慮した迷宮都市の高官が、冒険者ギルドに助力を求めた。冒険者ギルドは賞金稼ぎ専門の支部を設置し、凶悪な犯罪者を取り締まらせるという対策を取ることにした。犯罪組織が台頭して治安が最悪のところまで転がるのを冒険者を使って水際で防いでいるのが、迷宮都市の現状であった。


「ガラが悪くてあんまり行きたくはねえんだが……知らないままでいるわけにもいかねえところなんだよな」


 ニックが溜息をつくと、ゼムが恐縮して詫びた。


「すみません……僕のワガママで」

「あ、いや、そういうつもりで言ったわけじゃねえんだ。乗りかかった船だし……それに、あそこは色々と情報が集まる。知っておいた方が良いってのはあるんだ」

「二人とも災難だったみたいねぇ」


 ティアーナが、面白そうにニックとゼムを眺めた。


「ったく、未確認動物に会うとは思ってもみなかったぜ」

「夜道でそのステッピングマンとやらに襲われたのよね?」

「ああ」

「さらわれそうになった子はどうしたの?」

酒場オカマバー

「ニック、ゼム……あなた達ねぇ」

「いや、誤解がある。聞いてくれ」


 ティアーナのじっとりとした視線を受けて、ニックが焦った声を出す。


「まず、ステッピングマン……かどうかはともかく、人さらいにその子は目を付けられてるんだ。酒場オカマバーは弁護士事務所も兼ねてるから保護するには丁度良いんだよ」

「でも流石に教育に悪いんじゃないの?」

「いや」


 そのティアーナの疑問に答えたのはゼムだった。


「これまでレイナさん……あの少女が働いていた店に比べたら大したことはありません。むしろマシですよ」

「そうなの?」

「彼女の母親は冒険者くずれなわけで、そういう人を用心棒として雇う店というのはつまるところ「そういう人間が必要な店」というわけです。業種として普通の酒場さかばだったとしても、出入りする人間の素性はよろしくない。『海のアネモネ』の方が平和です」

「へえ、気が利くわね。そういえばあなたの少女恐怖症、治ったの?」


 ゼムはその問いかけに首を横に振る。


「だと良いんですがね。レイナさんと話すのも一苦労ですよ」

「じゃあ、なんでお願いを聞いてあげるわけ?」

「命を助けてもらっていますし、このまま放置するのも義理を欠くようで座りが悪い。それに……」

「それに?」


 ティアーナが尋ね返した。


「ぼくは少女が嫌いですが、かといって少女を食い物にする人間は大嫌いでしてね」


 ゼムの声は淡々としていた。

 だがその言葉は義侠心に満ちていた。


「つーわけで、迷宮探索、採集に続いて、冒険者の稼ぎどころの三つ目……賞金稼ぎにチャレンジだ。当面の目標は『ステッピングマン』の確保。いいな、皆?」


 そのニックの言葉に、全員が力強く頷いた。







 『マンハント』は、昼間でありながらまるで酒場のように暗く妖しい雰囲気に満ちていた。だが当然、給仕する女はいない。ぎらついた冒険者が、【サバイバー】達に油断ならない視線をそれとなく送っている。ニックも、『フィッシャーメン』のように誰かと雑談することはない。馴れ合うこともなく迷わず受付のところまでつかつかと歩いていく。


「冒険者パーティー【サバイバー】だ。ステッピングマンの情報を確認したい」

「……趣味人の遊びかしら?」

「仕事だよ。賞金かかってるんだろ?」


 受付で爪をいじっていた、ピアスだらけの鹿人の女が気だるそうにニックを眺めた。


「ならなおさら駄目ね。そっちの三人、新入りでしょ? 高額賞金首の詳しいことは一応ここでの仕事の実績がなきゃ見せらんないの」

「あ、しまった」


 と、ニックが思わず呟いた。


「悪い、忘れてた」


 詫びるニック見てを、ティアーナがにやにやと微笑んだ。


「珍しいじゃない」

「賞金稼ぎはそんなにやってなかったんだよな……」


 ぼやくニックに対し、受付のピアス女が同じようにぼやく。


「居着いて欲しかったんだけどね、『武芸百般』、強かったし」

「そりゃ悪かったな」

「でも今は新しいパーティーだからここは初めてってことになるわ。ルールはルールだから、実績作りを兼ねて何か仕事してきなさいよ。これなんかどう?」


 ピアス女が一枚の紙を差し出してくる。

 そこには似顔絵と賞金、そしてプロフィールが書かれている。

 ニックがそれを読み上げた。


「ヘイル=ハーディ、25歳。元は酒場ホストクラブ勤務。現在は無職、迷宮都市東部の建設放棄区域に潜伏中と思われる。罪状はノミ行為、無届け娼館ソープの営業、詐欺、暴行。さだかではないが殺人、奴隷売買の疑いもあり。賞金三十万ディナ……か」

「悪くないでしょ。賞金もそこそこあるし」

「そこそこの賞金なら新入りにあてるなよ。難易度高くないか?」

「良いじゃない、腕に覚えがあるならちょっとくらい難しいのやってきなさいよ。鉄虎隊を捕まえた【サバイバー】さん?」


 受付の女がそう言った瞬間、周囲の目に変化が起きた。

 侮りと好奇心だったものが別の二種類の感情へ。

 一つは、敬意に近い親近感。

 もう一つは、


「ちっ……賞金稼ぎでもねえのにスカしやがって」


 嫉妬に近い敵意だ。


「どこのどいつよ。文句があるならハッキリ言いなさい」

「なんだと!?」


 ティアーナがぴしゃりと言うと、荒くれ者の冒険者が前に出ようとする。が、それは冒険者の仲間に抑えられた。


「よせ、スコット」

「なんだよペート、止めるのか!」

「ああ、そうだ。……すまんな、悪気はないんだ、こっちも抑えるから挑発はやめてくれ」


 暴れそうになった男を抑えた冒険者がニックに向かっていった。


「わかった、ティアーナ」

「もう、しょうがないわね」


 ティアーナが不承不承引き下がる。

 ニックは、敵意を持つ冒険者が居る理由もなんとなくわかった。【鉄虎隊】は治安の悪い場所で活動していた。もしかしたらここにも被害者がいるのかもしれないし、あるいは賞金が掛けられることを想定して狙っていた冒険者も居たかも知れない。ある意味、ここの冒険者のお株を奪ったような形になるのだろう。とはいえ、それをわざわざ喧伝する必要があるだろうか。


「おい、あんた……」


 ニックは受付の女を睨む。

 だがピアス女はへらへらと笑いを浮かべ、意に介さない様子だ。


「どうせ一日あればバレるわよ。ここの連中は耳聡いんだから。このくらいの依頼をさっと解決してくれるなら変に突っかかってくる人も来ないわよ? ……まあ、もっと小者でも良いことは良いんだけどね」


 ピアス女が追加で紙をまた出してきた。

 報奨五万ディナ程度の泥棒やスリだ。

 先程のヘイルに比べれば賞金首としての格は落ちるのだろう。


「……こういう相手にも賞金って付くのですか?」


 ゼムがいぶかしみながら質問した。


「初犯や二回目くらいならつかないけど、悪質な常習犯ならつくわよ」

「なるほど」


 ニックが顎に手を当てて考える。

 別に、小者を何人か捕まえても仕方がない。

 それにどっちにやりがいを感じるかと言うとニックとしては前者であり、他の仲間もおそらくそうだろう。

 ニックは確認するために仲間達の方に振り向いた。


「お前らはどうする? オレはどうせなら……」

「こっちダ」

「こっちね」


 ティアーナとカランがびしっと指を指しだ。

 それはどちらも同じく、最初に出された方の紙……ヘイルの人相書きを指している。

 だよな、という言葉はニックはあえて言わなかった。


「良いのでは? ぼくも賛成です」

「我もじゃ」


 ゼムとキズナも頷いた。


「よし、決まりだな」

「できれば今週中には解決してね。殺人が本当だったとしたら、迷宮都市から別のところに高跳びしかねないわ」

「……片付かずに終わりそうな依頼を押しつけてるだけじゃねえのか?」

「その分、達成できたならできたなりのお返しはできるつもりよ」

「こっちだってヒマじゃねえんだがな……ま、これも仕事だ。仕方ねえ」


 ニックは渋々といった表情をしていた。

 ピアス女はよろしくとばかりにウインクをする。


「へっ、尻込みするなら帰れよ!」


 そこに再び罵声が飛んできた。

 さっき暴れそうになって、仲間の冒険者に抑えられたスコットという男だ。仲間の方はしかめ面を手で覆っている。馬鹿な仲間に振り回されている気苦労がありありと伝わってきた。

 こりゃ一発ケンカでもするしかないか……とニックが覚悟を決めようとした。ニックはトラブルを避けたい方ではあるが、売られたケンカをいつまでも放置するほど気が長い方でもない。そんな気配を察したかのかどうか、カランがニックの袖を引っ張った。


「良いじゃないカ、こういう仕事。ワタシは嫌いじゃないゾ。それに……やることやって、見せつけてやれば良イ」


 カランが笑う。

 その顔はただニックを宥めるというだけではなく、強い戦意が満ちていた。


「そうね! 私達が解決してやるから、指くわえて見てるが良いわ!」


 ティアーナが敢えて大きな声で言った。

 ギルド内の冒険者達の間でざわめきが大きくなっていく。


「なんだと、なめやがって……新入り風情が」

「素人は迷宮でゴブリンでも相手にしてやがれ!」

「賭けようぜ、あいつらがヘイルを捕まえられるか」


 しかも賭けを始める人間まで現れた。

 はしっこそうな男が帽子に賭け金を集い、ニック達を睨む男がニックの失敗に賭ける。

 あ、やべえな、とニックが思った瞬間、ティアーナの手元から金貨が数枚跳んでいった。


「うわっ!? あんた、もっと金は丁寧に扱えよ!」

「私達が成功するのに五万ディナ賭けるわよ」


 ざわざわとどよめく。

 公営賭博でもないのに五万ディナも賭ける人間は中々居ない。

 なんだこいつ、という目がティアーナに集まる。


「あんたはどうなのよ」


 ティアーナはスコットを睨む。

 スコットは目が泳ぎつつも、財布に手を伸ばした。


「お、おう! お前らが失敗するのに賭けてやらあ!」


 まったく、しょうがない奴らだ。

 ここに来ることに心配して損したとニックは思う。


「いやはや、仕方ありませんね」

「博打好きにも困ったものじゃのう」


 ゼムとキズナが肩をすくめる。

 ニックも苦笑いしながら二人に同意した。

 だが、ここで舐められっぱなしよりは今の空気の方が余程良い。


「じゃ、早速仕事と行くか。今の内に賞金と賭け金、用意しとけよ!」


 ニックはそう言って、仲間達を引き連れて『マンハント』を出ていった。

 賞金稼ぎの仕事が始まる。




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