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人間不信の冒険者達が世界を救うようです  作者: 富士伸太
三章 ミナミの聖人VS奇門遁甲
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採集依頼 4




 昨晩のニックは、なんだかんだで夜更かしをしてしまった。

 ゼムに幾つか護身術を教えていたら妙に盛り上がったためだ。


「たとえば、酒場とか武器を持ち込めない場所で喧嘩に巻き込まれたとするだろ。盛り上がってるテーブルを見てキレた男がつっかかってくる、みたいな」

「ありがちですね」

「素手で喧嘩しなきゃいけないとき、まず拳を握らなくて良い。掌底とか。あるいはそのへんに転がってる木の棒とか」

「掌底とはなんです?」

「こうやって、手の平の下の方のあたりで、こうだ」


 ニックが寸止めでゼムの顎の辺りを狙った。


「これなら拳を痛めない。ちょっとやってみてくれ」

「こうですか?」


 ゼムが、ニックと同じように寸止めで掌底を撃つ。


「そうそう。ゼムは自分にも支援魔術使えるだろ。それで十分に脅威だ」

「でも素人の攻撃が上手く当たるものですかね?」

「あんまり当たらねえ。ていうか当たらなくても良い」

「え?」

「シンプルに、自信を持って撃てる攻撃が一つか二つあれば酒場の酔っ払いくらい問題無い。冒険者やってりゃ後衛だって十分体は鍛えられてるしな。避けられても十分怖がらせられる」

「なるほど」

「んじゃ、何度かやってみてくれ」

「こうですか?」

「そうそう」

「ズルいぞ、ワタシにも教えロ!」

「いやお前、十分強いだろ……」

「そういう技みたいなの知らなイ」

「しゃーねえなぁ、もう……」

「あなた達ねー、もう日が暮れたんだから落ち着きなさいよ」

「そうそう、もう遅いんじゃ」

「わかったわかった……」


 ニックが覚えているのは、このあたりまでだ。

 他にもちょっとした護身術を教えたり、カランと組み手のようなことをしたり、色々と体を動かしたあたりで疲労が体に回ってしまい、気付けばぐうぐうと寝てしまった。なんとか自分の寝袋に潜り込んだようだが、そのあたりの記憶はまったく無い。


 だがそれよりも、重大な問題があった。


「……ちょっと熱っぽいんだよな」

「ったく、子供なんだから」


 ティアーナが呆れながらカップに白湯を入れてニックに渡した。


「悪いな……」

「良いから、休んだらさっさと街に戻るわよ。ゼムも反省」

「いやはや、はしゃいでしまってすみません……。ニックさん、どれくらい熱がありますか?」

「よくわかんねえんだよな。頭がぼーっとしたりはしないし」

「ふむ……ちょっと失礼」


 ゼムが手の平をニックの額に当てると、「あれ?」という不思議そうな声を漏らした。


「専門家から「わかんねえなコレ」みたいな顔されると怖いんだが」

「ああ、いや。なんというか風邪ではないですね。魔力酔いでは?」

「魔力酔い?」


 ニックがおうむ返しに呟いた。


「ええ。魔術の練習を始めたばかりの子供がよくなるんですが……。自分の魔力の総量が上がるとそういうことがあるんですよ」

「えーと……成長痛みたいなもんか?」

「ですね」


 ニックの質問に、ゼムが頷いた。


「でもオレは魔術の才能はてんでからっきしだぞ。普通の魔術が使えるほどの魔力も……」


 と、ニックが言いかけたところで、


「あ」


 とティアーナが呟いた。


「なんだ? 何か知ってるのか?」

「昨日食べたキノコよ」

「ああ、あのグロいやつ」

「グロくない! 高級品よ!」

「お、おう」

「……しかも迷宮の近くに生えてた天然モノでしょ。潜在してる魔力が無理矢理引き出されたんじゃないかしら。でも魔力がからっきしの人間にも起きるなんて……」

「我の影響かもしれんの。何度か《合体》をする内に魔力への親和性が高まったのかもしれぬ」

「そんなことあるの?」

「そもそも魔力の少ない人間はいるが、魔力がゼロという人間はおらんしの。古代文明では魔力を嵩上げするサプリなども売っておったぞ」

「へぇ……」

「まあ、あまり効果のあるものは無かったそうじゃが」


 ティアーナとキズナが、ニックそっちのけで専門的な話で盛り上がっている。

 ニックが不満げに口を開いた。


「おいおい、こっちを心配してくれ。命に影響があるとかは言わないよな?」

「まさか」


 ニックの文句を聞いたティアーナは、表情を緩めてけらけら笑った。


「おいおい、こっちは真剣だぞ」

「ごめんごめん。すぐ治るわよ」

「なんだ、それを早く言ってくれよ」

「余剰の魔力が体にたまってるから良くないわけ。魔術を使うなり魔道具を使うなりすればすぐに治るわ」


 ティアーナはそう言って、自分の懐から棒状のものをニックに渡した。

 片手で持てるほど軽いものだ。


「ニック、ちょっとこれ握ってみて」

「なんだ?」

「魔力が切れた魔力灯よ。これが光ったら、魔力があるってことになるわ」

「どうやるんだ?」

「魔力を出すのよ。力を抜いて、へそのあたりに意識を集中して深呼吸。剣とかトレーニングしてるときの気分になって」

「めんどうくせえな……」


 だが、ニックはすぐに言われた通りにした。


「これで出来なかったら、柔軟して体をほぐしてから座禅を……あれ?」


 ティアーナが驚いた顔で杖の先端を見る。


「おや」

「オッ!」

「かすかに光っておるの」


 他の仲間達も驚く。

 だが一番驚いていたのは、ニック自身だった。


「マジかよ……魔術、使えないと思ってたのに……」







 が、少々ぬか喜びだった。


 魔力灯のような魔力切れの魔道具を使うことはできても、実用的な魔術を習得するのは難しいということがすぐに判明したからだ。


「使えそうなのは……《魔力感応》か」


 ニックが自分の手の平を見ながら呟くと、ティアーナが頷いた。


「《魔力索敵》を覚えるのに必要な基礎魔術よ。触れたものに魔力があるかどうかを調べるってものなんだけど……これを鍛え上げてニックが《魔力索敵》を覚えるのは無理ね」

「いや、良い。これはこれで使いどころがありそうだからな。欲を言えばゼムの強化魔術とか覚えられたら良かったんだが……」


 だが、ゼムが首を横に振った。


「これも難しいところですね……。その手前の基礎的な魔術なら使えるとは思うのですが」

「基礎があるのか?」

「ええ。他人に付与できない強化のようなものなんですが……ただちょっと教本も持ってきてませんので、後で教えますね」

「まあ、ヒマなときで良いよ。むしろ付き合ってくれて悪いな」


 ニックが気分を切り替えようとすると、カランがうずうずした様子で話しかけてきた。


「ニック、ブレスとか覚えてみないカ?」

「いや覚えられるわけねえだろ」


 ブレスは、竜人族などの一部種族のみが使える特技だ。

 魔力は消費するが、通常の魔術のように詠唱も要らず、体系的に学べるものでもないため「特技」としか言えない。

 だが、カランは何かを企んでいるかのようににやっと笑った。


「ふふ……いくつか裏技があるんダ」

「マジか」

「火酒をいっぱい口に含んで、《着火》の魔術を使いながら吹き出せば……」

「大道芸人じゃねえか!」

「あ、なんだ、知ってたのカ」


 カランがつまらなさそうに溜め息をつく。


「微妙にできそうなのがイヤだぞ」

「ちぇっ、面白いのニ」

「ほら、そろそろ街に帰るぞ。素材を換金しねえとな」


 ニックがそう言うと、仲間達が後片付けを始めた。







(……ニックに才能が無い、じゃと?)


 キズナは、ふと疑問を覚えた。

 ニックは謙遜しつつも、決して卑下しているわけではない。

 だがキズナは《合体》したとき、ニックの能力を本人以上に把握している。

 身長、体重、年齢、健康状態などなど。

 そして潜在する魔力も把握している。

 それは確かにティアーナのような天才と言えるようなものではない。

 が、必ずしも余人に見劣りするものではない。

 実際、本当に何の才能も無いのであれば、『絆の剣』を使うこともできないし、何より魔力が芳醇な食べ物を食べた程度で魔力が伸びたりはしない。できるとしたら、今まで目覚めていなかったものを呼び起こすための、ほんの僅かな呼び水程度のもの。


(単純に機会に恵まれなかったか、意図的に魔術の訓練から遠ざけられてたか……ふむ)


 キズナは疑問を飲み込んだ。

 今すぐどうこうという話ではないし、魔力よりも肉体を鍛えるというのは一つの修練の方法として古代文明のときに確立されていたものだ。本人に害がある話でもない。


「おい、キズナ。早く帰るぞ」

「そう焦らんでも街は逃げはせんぞ。そんなに吟遊詩人アイドルのライブに行きたいか」

「おう、もちろんだ」

「素で肯定されるとこっちが返事に困るわ」

「お前も遊んでこい。UMAとかミステリーとか並んでる本屋もあるぞ」

「おお、それは良いのう!」


 キズナはそれまでの思考を投げ打ち、仲間とともに嬉しそうに帰途に就いた。





いつも読んでくれてありがとうございます。

面白かったならば最新話下部「ポイント評価」にて評価をして頂けると嬉しいです。


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