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人間不信の冒険者達が世界を救うようです  作者: 富士伸太
三章 ミナミの聖人VS奇門遁甲
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採集依頼 2




 迷宮『木人闘武林』。


 主にD級、E級あたりの冒険者が狩り場にする迷宮だ。

 【サバイバー】の五人はそこに居た。

 この迷宮は名前の通り、森である。

 ただ鬱蒼とした暗い森とは少し趣きが違っていて、ここは日差しも届くし足場も悪くない。

 それはこの迷宮に最も多く存在する魔物の特性によるものだった。


「ひゅうあッ!」


 木人ぼくじんという魔物が、笛の音のような叫び声を上げながら襲いかかってきた。

 これまたその名の通り、樹木で形作られた人間のような姿だ。

 そんな不気味な魔物が、怪鳥音を叫びながら【サバイバー】達に跳び蹴りを撃ち放ってきた。


「ジャマッ!」


 それをカランの竜骨剣がなぎ払った。

 一体を軽々と吹き飛ばし、後方に控えていた木人に当てようとする。

 だが後方の木人は素早い身のこなしで味方の体を避けて距離を詰める。


「ったく、面倒ね!」


 ティアーナが《氷盾》の魔法を唱えて自分とゼムを守る。

 そして防御して時間を稼いでる間に、キズナが器用に木人の体を一刀両断した。


「まったく、すばしっこくて嫌になるのう」

「あと三体だ、油断するなよ!」


 ニックが発破を掛けるとカランが動いた。

 剣の重さを感じさせない俊敏な足取りで木人に迫る。

 己の不利を悟った木人がバックステップを取るが、その着地の瞬間にティアーナが放った氷の弾丸が木人の体を穿つ。そして残る二体もニックとキズナがとどめを刺した。


「ヒャウッ!?」


 ニックは木人の断末魔を見届けつつも、警戒を解かず周囲に目を配り続ける。


「よし、と……ティアーナ」

「大丈夫、周りに魔物はいないわ」


 ティアーナはニックに言われるまでも無く周囲を探索している。

 そのティアーナの言葉を聞き、皆が安堵の溜め息を漏らした。


「いやはや、十体以上現れたときはちょっと驚きましたね……」


 ゼムがそう言って、疲れ気味の溜め息を吐いた。


 木人は、絆の迷宮に現れたウッドゴーレムより体躯は小さいものの遥かに敏捷だ。

 体も乾いた木ではなく生木で出来ているためにカランのファイアブレスもさほど通らない。

 だがそれ以上にもっとも厄介な特徴は「知能が高い」という点にある。

 個々の技量が高く連係攻撃も得意で、撤退の判断も的確だ。


 ただ、つけいる隙がないわけではない。格闘を好み、格闘しやすいように自身の手で森の中に歩きやすい道を作ったり見晴らしが悪くならないように管理し、そこを戦場にするという習性があるのだ。もっとも、不意打ちを食らわしてくることもあるので、正々堂々としているというわけでもない。単純に格闘が好きな魔物なのだ。そこを上手く利用して木人達を倒せるかどうかは、中堅冒険者の壁の一つとなってくる。


「いやでも、初めて当たったにしちゃ上手くできたと思うぜ」

「そうなのカ?」

「ああ。動きも速いしゴブリンと違って頭も良いから、ここで足踏みする連中はけっこういるんだよ。経験しておいた方が良い」

「へぇ……」


 カランが興味深そうに頷いた。

 だがその一方で、ゼムの顔は浮かない顔をしていた。


「カバーされっぱなしというのもちょっと心苦しいですね……僕も何か戦闘技能を覚えた方が良いでしょうか?」

「ゼムがか? 十分頼りになってるが……」

「ただ、どうしてもティアーナさんとキズナさんにバックアップしてもらう形になっちゃいますので」

「そこはまあ、支援魔法掛けてくれるから気にするなよ……ってところなんだが……」


 ニックが顎に手を当てて悩んだ。

 ゼムに迎撃する手段が無いというのは、確かに本人にとっても不安だろう。いつもいつもバックアップが間に合うとは限らないし、なによりバックアップを信用して何も対処するな、というのはパーティーの方針にも反する。


「木剣とか杖での殴り方くらいは覚えてて損は無いかもな。ちょっと練習してみるか?」

「ああ、それは助かりますね。メイスは物騒すぎますが、杖ならばあまり街中で持っていても威圧感は薄いですし」


 ゼムが乗り気な様子で頷いた。


「よし、決まりだ。けど、その前に……」


 ニックは周囲を見回す。

 そこにはゴロゴロと木人の死体が転がっていた。


「こいつらからの採集をしねえとな。それが終わったら薬草摘みだ」

「これがあるから面倒なのよねぇ」

「まったくじゃのう」


 ティアーナとキズナが気だるげに呟く。


「ゴブリンよりは楽だからさっさと片付けるぞ! ほら、動いた動いた!」


 ニックがぱんぱんと手を叩いてはっぱをかけると、皆、重い腰を上げて動き出し始めた。







 木人は樹木と同じように、地面に植えられた種が発芽して成長するらしい。


 一定のサイズになると人間と同様に動き回るようになり、やがて冒険者や魔物に殺されるか、運が良ければ年を取って倒れるかして地に還る。そのときに体に蓄えた魔力も共に土に流れていくため、木人が活動する場所には貴重な植物が繁殖する。木人は中堅でも手こずるレベルの高い魔物であるため、ここでの採集の難易度もそれに応じて高い。市場で買おうとすると当然それ相応の金を積まねばならないものばかりだ。


 だから、貴重な薬草が簡単に採集できる状況にゼムはひどく興奮していた。


「おっ、これは良い薬草ですね。煎じて飲めば魔力回復の速度が上がります」


「木人花がありました。これは平常心をもたらす幻惑破りの薬草でしてね。酔い覚ましや鎮静効果があって色んな薬になるんですよ」


「これも良い。青錆病の薬になりますよ」


「依存性の強いちょっとヤバい毒草を見つけました。でも麻酔にもなるので取っておきますか」


 他のメンバー達は、女性以外のことで目の色を変えるゼムを物珍しそうに眺めている。


「流石に本職だな……オレもそこまで詳しくねえや」

「もったいない。僕が摘んだ草を売るだけで五万はしますよ。薬として処方すれば更に倍です」

「マジで!?」


 ティアーナが目の色を変える。


「待て待て。薬草摘みは詳しい奴の指示を聞いてからにしてくれ。間違えて毒草を持って帰ったら洒落にならねえ」

「えー、そういうニックこそどうなのよ」

「経験はあるが、ゼムほどじゃねえんだよな……。つーかゼムも色々と器用だな。山歩きとか慣れてるのか?」


 ニックの言葉に、ゼムは素直な表情で頷いた。


「そうですね、けっこう色々やってきましたよ。故郷のロディアーヌは小さい町でもなかったですが、辺境の方でしたから色々と不便でしてね……。野草摘みは日常的にしてましたし、あとは狩人の真似事や大工の真似事などもしましたよ」

「そりゃ助かる」

「助かると言ってもらえるのが助かりますね。神殿ではあまり褒められていませんでしたので」

「なんでだ?」


 ニックが不思議そうに尋ね返すと、ゼムは自嘲の笑みを浮かべた。


「下々の真似をするなと」

「……なるほど」


 ニックはあまり信仰心に篤い方ではなく神殿にもあまり行かない。だがそれでも、平民を見下す高慢な神官が居ることは知っていた。


「ま、一理も無いというわけではないんです。人手が余って仕事が不足しているならば仕事を作り出すことも統治する側の役目ですから。とはいえ……逆に人手が足りず何でもやらなければいけないような場所でのうのうとしている人が言い訳に使っているのも事実で」

「貴族みてえだな」

「みたい、というか実際貴族みたいなものよ、神官って。天啓神メドラーの神官は特に手を汚すような仕事を嫌うのよね。お高くとまっちゃって」

「はは、ティアーナさんにそこまで言われるとは。王都の神官はひどいようですね」

「あっ、ご、ごめんなさい。別に他意があるとかじゃないんだけど」


 ティアーナがばつが悪そうに謝る。

 だがゼムは特に気にしていない。

 むしろ深く納得するように頷いていた。


「実際、神官になる人はなんというか……上昇志向の強い人間がどうしても多いんですよね。戦争もない状態ですから、平民が功績を上げるのはどうしても難しい。となると、神殿で成り上がるのが一番の立身出世の近道ですから」

「やっぱりその手の人は居たんだ?」

「まあ、居たと言うか……居たせいで僕が追い落とされたと言うか」

「「「あー……」」」


 ニック、カラン、ティアーナが共感混じりの深い溜め息を付いた。


「そなたら、本当に苦労しておるのう」


 キズナが何とも微妙な表情で呟く。


「うるせー! ともかく、休憩終わったらさっさとボスを倒すぞ! 憎い連中だと思え!」


 ニックの声に、皆が苦笑を浮かべつつも立ち上がった。




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