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人間不信の冒険者達が世界を救うようです  作者: 富士伸太
二章 麗しのパラディンさま
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パラディンの伝説 6




 レオンがカジノで暴れるだけ大暴れし、そして倒された件について、ニック達は駆けつけてきた太陽騎士団に全てを押しつけることにした。その場から脱兎の如く逃げたのだ。《合体》をしている状態であれこれと尋問されては、自分もまた聖剣を所有する身であることが露見してしまう。立つ鳥跡を濁さず……というにはカジノはひどい有様だったが、幸いにして騎士団の人間はニック達を追いかけるほどの余裕はなかった。物理的な被害が多く混乱していたし、何より太陽騎士団は、詰め所から脱走したレオンの確保が最優先だった。


 そして、一週間が過ぎた。


「お前が面会希望者だな。一人か」

「うっす」


 太陽騎士団の留置所はいつ来ても物々しい。特に冒険者に対しては風当たりが強く、屯所の通路を歩くニックの背中に刺々しい目線が突き刺さる。冒険者は柄の悪い人間も多いし、犯罪者や賞金首で金を稼ぐような、太陽騎士団のお株を奪おうとする者も多い。そのためギルドと騎士団は冷戦状態にあるのが常だ。


「良いか、まだレオンの件は正式な裁判も終わっていない。お前がレオンの詐欺の証拠を掴んだから面会権が特別に与えられたわけだが、業務の邪魔になるようならば即刻叩き出すぞ。わかっているだろうな?」


 こんな風に凄まれることも日常茶飯事だ。


「すぐ済ませます」

「それと面会には立ち会いも付く。怪しい動きをしたら……」

「わかってますよ」


 ニックはそう言いつつ、銀貨を太陽騎士団の袖に入れた。


「……市民に施しを与えるのも騎士団の務めだ。時間を延ばすくらいはしてやる。だが席は外せんぞ」

「少し距離を取ってもらえるだけで良いんで」

「ま、良かろう」


 騎士が鷹揚に頷く。

 面頬付きの兜を被っているので表情は見えないが、そこまで謹厳実直な騎士でも無いらしい。


 ニックは騎士に連れられて、石造りの廊下を歩いて行く。

 湿気がこもる陰気な場所だった。

 幾つもの鍵付きの扉を騎士が開けていく。

 がしゃりがしゃりと、金属音が響く。


「ここだ」


 ニックが通されたのは、天井の低い妙に圧迫感のあるフロアだった。

 牢屋だ。

 鉄格子と石壁で区切られた部屋が六つある。

 たまたま人は少ないようで、一つの部屋だけに一人の男が押し込められているだけだ。


「んだよ、お前かよ」

「よう、元気そうだな」

「ハッ、元気に見えるかよコレが」


 押し込められている囚人は、レオンだった。

 一緒に入ってきた騎士は部屋の出口あたりまで離れた。

 話が聞こえるほどの距離ではない。

 袖の下に入れた分の融通は利かせてくれるようだ。


「……で、何のようだ。二回も同じ相手に負けた奴の顔でも拝みに来たのか?」


 と、レオンが自嘲気味に言った。


「ああ、顔を見に来た」

「なんだそりゃ。ま、見たけりゃ見てけよ。終わったらさっさと帰りな」


 レオンが、呆れたように溜息をついた。

 だがそこには、以前会ったときのような焦燥感や怒りの気配が無かった。

 不思議に思ったニックが、レオンの顔をまじまじと見る。


「なんだよ。お前本当に顔を見に来ただけなのか?」

「い、いや、もう少し文句や憎まれ口を叩かれると思ってな」

「馬鹿か。んなことしてこっちの待遇が悪くなったらどうすんだ」

「それもそうだが……」


 調子狂うな、とニックは頭をかく。


「まあ、聞いておきたいことがあって来たんだが……その前に説明しといてやる。あの後の顛末だ」

「おう」

「カジノは建物としてはかなり壊れたが、人の被害が出てない。怪我人は居たが死人はゼロ。一番怪我が酷かったのは、お前が脱獄したときに居合わせた騎士の連中だろうな」

「ふーん」

「……加減が上手いな。それなりに理性は残ってたんじゃねえか?」

「さあな」

「クロディーヌとベッグの二人はしょっぴかれたままだ。まあ、詐欺や恐喝、あと結婚詐欺なんかもあるからしばらくムショ暮らしだろうな」

「だろうよ」

「狂月……進化の剣は封印した。今は誰も知られないところに置いてある」


 ニックがそれを密やかな声で言うと、ようやくレオンの表情に変化が起きた。


「……やっぱりあの金髪の女、手前だったんじゃねえか。いつの間に女装趣味になりやがった」

「ちょっと心境の変化があってな。人間、ストレス解消せずに溜め込むと健康に悪いぞ」

「……」


 レオンが物凄い形相をしてニックを睨んだ。


「冗談だよ、そう怒るな」

「ちっ……。ともかく、お前も聖剣使いだったわけだな?」

「ああ」

「なんで俺にばらす」

「お前こそなんで黙ってる。言われるまでもなくわかってんだろ」

「……別に、お前らがヒーロー扱いなのが面白くねえだけだよ」


 レオンが苦み走った顔で、そう呟いた。


「ま、それならそれで良いんだがな」

「言いふらして困るっつーんなら喜んで言うがな」

「そのときはそのときで、お前の言う通りヒーロー様の待遇を満喫するだけだ」


 と、いうのは虚勢だ。

 レオンがぺらぺらと喋っていたら、【サバイバー】にとってそれなりに厄介な事態だった。カジノでのニック/ティアーナの正体を知っているであろうレオンの様子を探ることも、ニックがここに来た目的の一つだ。心の中ではあまり言いふらすつもりの無さそうなレオンの態度に安堵していた。


「ニックてめえ、本当にムカつく奴だな」

「お互い様だ。……んで、本題だ」

「なんだ?」

「あの剣は何処で見つけた?」

「ばーか、教えるわけねえだろ」

「ま、そうだろうな」


 はぁ、とニックは溜め息をつく。

 そして懐から一枚の紙を取り出した。


「……なんだそりゃ?」

「弁護士の名刺。酒場キャバクラの店員とかヤクザ者あたりの弁護に慣れてるんだとさ」

「そういう意味じゃねえよ」

「教えるなら紹介する」


 そのニックの言葉を聞いて、しばらく押し黙った。

 そして数分の後、ようやくレオンは口を開いた。


「聞いてどうするつもりだ?」

「別にどうもしねえよ。キズナ……こっちの聖剣が調査しておきたいんだとさ。古代文明の遺産を変な連中に使われたくないってうるせえんだ」

「お前は興味ねえのかよ」

「小うるさいのは一人で十分だ」

「……寄越せ」

「ほらよ。ああ、言っとくが金は払わねえぞ。お前、かなり溜め込んでるだろ」


 ニックがレオンのところに紙を投げ入れた。

 受け取ったレオンは、しげしげと紙を眺めた後、服の中に入れた。


「それと、弁護してもらえるからってあんまり期待するな。無罪を勝ち取るとか絶対無理だからな。年単位でブチ込まれるのは覚悟しておけ」

「そんなこたぁ承知だ。……狂月の剣を拾ったのは、『機鋼遊月獄』の最下層だ」

「B級のところか」

「ああ。……昔、【銀虎隊】ってパーティーが攻略した迷宮だ。完全攻略したのは後にも先にもそこだけ。何を拾ったかも、どう攻略したかもギルドに記録が保管されてる。だが完全に迷宮の構造は解明されてるから、アーティファクトは残っちゃいねえぞ」

「わかった」

「ニック。今、進化の剣はどうしてる?」

「封印した。場所は教えない」

「いや、それで良い。誰にも教えるなよ。ギルドにも騎士団にも黙っとけ。俺も、お前が聖剣使いってことは黙っとく」

「なんだ、やけにサービスが良いじゃねえか」

「サービスもするさ。正直言って、ホッとしてる。狂月の剣を隠し持ってるのはやっぱり負担だった。どこかで使える奥の手だなんて思ってたが爆弾と変わりゃしねえ。俺はもう、そういうのから降りる。しばらく臭い飯を食うのも悪くはないくらいに思えてるからな」


 そう淡々と語るレオンの顔は、意外なほどに静かだった。

 話を聞き出すのは無理かもしれないと思っていたニックは、素直に驚いていた。


「変わったな、お前」

「ともかくニック、これは冗談抜きの話だ。よく聞け」


 レオンのいやに真面目な声色に、ニックは気圧されるように黙った。


「迷宮都市には、古代文明の遺産を狙う連中がいる。そいつらは上級の冒険者でさえ不覚を取るくらいに搦め手が得意で、手段を選ばねえ。……思い返せば、【銀虎隊】が崩壊したのも奴が原因だったと思う」

「はあ? いきなり何を言ってんだ?」


 あまりに予想外の方向に話が飛び、ニックは素っ頓狂な声を上げた。


「【銀虎隊】は昔、『機鋼遊月獄』の攻略に成功して幾つものアーティファクトを手に入れた。そのせいで色んな商人や貴族の代理人が買い取りを求めてきたが、その内の一人が仲間を上手いこと言いくるめて裏切らせて、横流しさせた。……よくよく考えたらありゃ、横流しそのものが目的じゃなかった。横流しすることでパーティーが崩壊するように画策したんだ。全部のアーティファクトを総取りするために」

「おい待てレオン。話が見えねえぞ」

「【銀虎隊】の顛末は冒険者ギルドで調べりゃすぐわかる。調べれば俺の言ってる意味もわかるはずだ」

「お、おう」

「鉄虎隊でのシノギが上手く行って金に余裕ができたあたりで、俺はあのとき起きたことを調べ直してた。【銀虎隊】の連中を騙したのは、偽名を使う金髪の長剣使いだ。まだ本当の名前はわからねえが……最近はカリオスって名前も使ってたらしい」




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[良い点] なろうにしては伏線張りがしっかりしていて 世界観がポストアポカリプスなSFとファンタジーが降り混ざってるのが とても良い小説になっている 読んでいて読みごたえがある作品だなと感じた [気に…
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