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人間不信の冒険者達が世界を救うようです  作者: 富士伸太
二章 麗しのパラディンさま
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レオンの回想

誤字報告いつも助かってます、ありがとうございます。




 【銀虎隊】という冒険者パーティーがあった。


 昔の話だ。

 彼らが活動していたのは十年ほど前で、今も覚えている者は少ない。


 B級の冒険者パーティーで、誰もが一騎当千の強者だった。

 そして同時に、古代文明に魅了された好事家だった。


「レオン、俺達は伝説の古代文明の秘宝を手に入れるんだ」


 リーダーのビショットは、年の離れたレオンの兄だ。

 荒くれ者の多い虎人族の中で、珍しいほどのインテリだった。

 人間達に混ざって勉学に励み、古代文明語をそらんじることのできる男だ。

 ユーモアもあり、腕っ節もあり、多くの仲間が集った。

 レオンも兄を尊敬し、その背中を追いかけていた。


 その銀虎隊の崩壊は、成功と同時に訪れた。


 迷宮「機鋼遊月獄」。

 瘴気に侵されて魔物と化した古代文明の魔導人形が相争いあう、地獄のような迷宮だ。

 B級以上の冒険者達のみに探索が許された高難易度の迷宮であり、完全踏破されたことはそれまで一度もなかった。魔物の強さ以上に、迷宮そのものが謎めいていて意地の悪いトラップも多い。ただ強いだけでは攻略できない場所であり、ある意味ではA級の迷宮よりも困難な面がある。それを初めて攻略したのが銀虎隊であり、謎を解明した英雄こそビショットだった。


 手に入れたのは名誉だけではなかった。様々なアーティファクトが銀虎隊の懐に入った。光と音を操作し幻惑攻撃を繰り出す魔剣「胡蝶の剣」。起動前の魔導人形の支配権を得る「擬根杖ぎこんじょう」。今は滅び去った伝説の種族、幻光族の秘宝「幻王宝珠」。また、この他にも多くの宝が手に入った。どれも破格の性能を持つ物ばかりだ。「金に糸目は付けない」、「買い手が多すぎるならばせめてオークションに出品してくれ」、「いやいや、王宮に献上すれば爵位も報奨も思いのままだ」などと、ひっきりなしのオファーに埋もれる日々。


 そして仲間の一人が、欲望に負けた。

 「胡蝶の剣」を盗み、売却した。

 ビショットに知恵はあれども、身分は低かった。高級商人や高級貴族とタフな交渉を何度もこなせるほどの経験は無い。少なくない手数料を取られてでも商人ギルドに売却の一切を任せるよう話を進めていたが、ここで段取りが全て狂ってしまった。狂った段取りは、人格と運命さえも狂わせた。誰が最初だったのか、それさえもさだかではない。ただレオンが覚えているのは、兄と仲間達が殺し合う最悪の光景だった。


 兄は殺され、仲間……いや、「元」仲間は逃げた。

 銀虎隊の名声は堕ちるところまで堕ちた。

 ビショットがこれまでの冒険で蓄えた財も、パーティーのために建てた共同の屋敷も、商人ギルドに違約金として全てが奪われた。レオンは、一夜にして仲間と家族と財産の全てを失った。


 その日からだ。

 誰も信用することはできないとレオンが悟ったのは。

 冒険者パーティーで組む人間はあくまでビジネスパートナーだ。

 決して信用せず、こちらが切られる前に切る。


 そういう意味では、クロディーヌは息の合う相手だった。躊躇せずに人を陥れ、悪巧みは嬉しそうに乗ってくる。そしてこちらが油断すれば遠慮なく裏切ろうとする。こちらが裏切ろうとするとその気配を察して釘を刺す。「人とは信用ならないものだ」という信念を焼き付けてくれる、良い女だった。


 ベッグは頭は良い癖に何も考えていない阿呆だが、それでも楽しそうにレオンの仕事に協力した。そして仕事が終われば良心の呵責なく美味そうに酒を呷る。そんな、悪の適性のある男だった。レオンには他にも金や脅しで縛り付けたパーティーメンバーがいたが、レオン自身を含めたこの三人での仕事を好んだ。


 どこで失敗したのか。


 一つは、念信宝珠を手に入れたことだ。確かに便利な道具ではあった。だがそれゆえにレオン達に油断が生まれ、仕事が雑になった。搾り取って捨てた人間と再び出会ってしまうような事態など、念信宝珠を持つ前ならば起こさなかった。


 そして、ニック達といざこざに発展した。レオンは、最初クロディーヌがニックにこだわる理由がわからなかった。むしろクロディーヌに釘を刺して逃亡を防いだことに感謝したいくらいだった。


 だが、会話するうちにレオンは理解できた。

 理解してしまった。


 ああ、こいつは、絶望しなかったんだな。

 油断すれば足をすくわれ、何もかも奪われるこの街で、まともで居ようとしている。

 クロディーヌを売ると持ちかけたのは半分本気だった。

 あいつが何か大事なものを曲げる姿が見られるならば惜しくは無かった。

 いっそ仲間にしてやっても良かった。


 だがあいつは、まともな言葉を返した。

 だがこうなれば、あの連中は間違いなく敵だ。

 叩き伏せなければいけない。


「お前の集めた財産は被害者達に分配されることになる」


 だが、結果はご覧の有様だった。

 レオンは決闘に負け、念信宝珠によるイカサマが露見したことによって多くの詐欺のからくりが暴かれた。そして迷宮都市の治安を守る太陽騎士団によって捕縛され、石畳の部屋に押し込められている。今、レオンはその狭く暗い場所で、騎士達によって尋問されていた。


「お前の部屋に隠してあった財宝も没収された。競売に掛けられるわけだが……」


「なんだよ?」


 騎士が、意味ありげに沈黙する。

 レオンも、口を噤んだ。


「……ぐっ」


 騎士の野太い腕がレオンの首に絡みついた。


「あれだけではあるまい? お前の素性は知ってるぞ、銀虎隊の生き残り」


 レオンの頭にかっと血が上った。


「あのとき盗まれた宝を隠し持っているんじゃあるまいな? 散逸したアーティファクトは「胡蝶の剣」、「疑魂杖」、「幻王宝珠」の三つ。どれか一つでもあれば被害者に全額弁済できるぞ。観念して吐くが良い」


「……な」


「なんだ?」


「ふっ、ふざける……なよ……! 俺は持っちゃいねえ!」


「ふん、他の仲間が盗んだと言うのか? 誰が信じるものか」


 騎士の手が弛み、レオンの首から離れた。

 レオンが騎士を睨むが、騎士はまったく怯みもしない。

 むしろ哀れだとせせら笑うようだった。


「盗まれた秘宝がどれ一つとして闇商人の手にさえ渡っていない。換金もせず使いもせずに取っておくようなものではない」


「それで俺が隠し持ってるとでも? 当てが外れたな」


「それはこれから調べ……」


「俺が持ってるのは、その三つじゃない」


「なに?」


 レオンが、くっくと笑い始めた。

 それは、ビショットにさえ隠していた秘密。

 人間は信用できない。

 なぜなら自分こそが本当に嘘を吐き通していたからだ。

 レオンは、あの機鋼遊月獄において最高の秘宝を独り占めし、隠していた。

 だがあまりにも危険すぎて使いどころもなく、売却さえもできなかった。

 今までは。

 騎士達がその不気味さに後ずさりしそうになった、そのとき。

 レオンが叫んだ。


「……こうなったら仕方がねえ! 来い! 【狂月の剣】!」




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