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人間不信の冒険者達が世界を救うようです  作者: 富士伸太
二章 麗しのパラディンさま
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パラディンの伝説 1


 結局、決闘ではなく鉄虎隊の捕縛が目的となってしまった。


 念信宝珠を使っての様々なイカサマが露見し、もはやその場だけで全てを解明するのは恐ろしく困難だった。このような決闘の不正よりも、酒場でカード賭博をしたり、クロディーヌと示し合わせて美人局をしていたり、様々な疑惑が芋づる式に掘り起こされてしまったため、もはやギルド内だけで解決できる問題ではないと関係者全員が判断した。すぐさま迷宮都市を警護する太陽騎士団に引き渡され、留置場へと護送される運びとなった。ニック達の文句なしの大勝利だ。


 が、ここで誤算が起きた。

 綺麗に勝ちすぎてしまって、話が大きく周囲に喧伝されてしまった。

 喧伝されたことによって、思わぬ事態が起きた。


「まさか、他にも騙されたって被害者がぞろぞろ湧き出てくるとはなぁ……おかげでオレが巻き上げられた分が返ってくるかもわからねえ」


 決闘が終わった次の日。

 ニックが自分の宿の部屋で溜息をつきながら言った。


「仕方ないじゃろう。自分らだけがあやつらから金を返してもらっていたら、妬まれて後々トラブルになっておったのかもしれんぞ。冒険者ギルドからの報奨もあるし、良いでは無いか」


 と、キズナが至極まっとうな指摘をする。


「そりゃそうなんだがな」


「手堅く稼いだ分はあるのじゃろ。まずはカランのようにゆっくり休んだらどうじゃ?」


 今回一番大変だったのは、念信宝珠が使われるまでに計算問題に取り組み続けたカランだろう。

 鉄虎隊が時間を稼いで長丁場で勝負を確実に決めたかったのを逆手にとったとは言え、四六時中勉強を続けたカランは精も根も尽き果てて宿の隣の部屋でずっと寝ている。朝に起こそうと思ってノックしたが、「まだ寝ル」と言って二度寝を始めて、夕方になった今でもだらだらと休んでいた。普段ならばカランは朝早く起きてニックを起こしたり、食べ歩きのために一日中出ずっぱりだったりするので、この状況は初めてのことだった。


「カランにはあとで差し入れでもしてやるか」


「うむ、勉強をずっと頑張っておったしの。そなたも疲れたであろう」


「いや、体は大して疲れてねえぞ。どっちかっつーと気疲れの方が大きくてな。面倒くさかった」


「殴られたのに余裕じゃのう」


「ゼムに回復してもらったしな。……ってわけで、ちょっと遊びに行くわ」


「遊び? どこにじゃ?」


吟遊詩人アイドルがたまにゲリラライブやってる公園があるから、チェックしてくる」


「そなたも吟遊詩人アイドルがやたらと好きよの……」


「人間にはワガママになれる瞬間ってのが必要なんだよ。キズナは何か無いのか?」


「ふーむ……ネットワークインフラが生きていた頃は動画配信などやっておったが」


「どうが? なんだそりゃ?」


「ま、言うても詮無いことよ。それより、我も見てみたいぞ」


「えー、面倒くせえな」


「良いじゃろーちょっとくらい。我とて賑やかな催しがあるなら見てみたいわ」


「ったく、しゃーねーな……」







 西公園の中の噴水広場は、いつも雑多で賑やかだ。


 出店や見世物など、様々な個人の商売が許可されているために人通りで賑わい、明るい空気を醸し出している。


 晴れの日であれば。


「なんかめっちゃ雨が降ってきおったんじゃが」


「ダメだなこりゃ」


 夏を控えたこの時期、迷宮都市の天気は変わりやすい。

 突然の雨に見舞われることも少なくない。

 ニックとキズナは、近くの木の下で雨宿りをしていた。


「止みそうも無いんじゃが、どうする?」


「しかたねえな、濡れネズミになってでも帰るか」


 はぁ、とニックが溜め息をついたあたりで、同じく雨宿り目当ての人間が木の下に入ってきた。


「あーもう、びしょびしょじゃない……」


 少女がローブをばさばさと振るい、水滴を払っている。

 その顔は、ニック達がよく見知ったものだった。


「あれ、ティアーナ」


「あら、ニックにキズナ。どうしたのよ」


「このへん突発演奏ゲリラライブがよくあるもんだから見物に来たんだが……」


「この有様じゃあねえ」


 ティアーナが乾いた笑みを浮かべる。


「お前は? いつもの競竜か?」


「競竜は雨くらいじゃ中止にならないわよ。今日は買い物なんだけど……」


「雨の中動き回るのもちょっとな。災難なこった」


「お互い様ね……あ、そうだ」


「ん? どうした?」


「ちょっと付き合わない?」







 ティアーナに連れられて、ニックとキズナは雨の中歩いた。


 ニックがどこに行くんだと尋ねても、ティアーナは良いから良いからとはぐらかしながらずんずんと進んでいく。気付けば繁華街と高級住宅街の境目の、ややお上品なエリアに入りかけたあたりでティアーナが歩みを止めた。外見はさながら高級ホテルだ。だが、入り口にかけられた看板はホテルではないことを示している。魔力灯が幾つも飾られて入り口を明るく照らしているが、騒がしい酔客などは居ない。むしろ派手でありながらもどこか上品さを演出しようとしている、そんな風情があった。


「いらっしゃいませ」


「あ、ああ……」


 ニックは焦りつつも店員の言葉に頷いた。

 こんな場所に来たのは初めてだった。


「二人は初めてよ」


「施設のご説明はいかがしますか?」


「私がやるわ」


「承知しました、どうぞごゆっくり」


 ティアーナはまるで自分の屋敷のように、絨毯の床を踏みしめて歩いて行く。

 周囲にはしっとりとした音楽が流れつつも、コインのこすれあう音やカードをシャッフルする軽快な音が響いてくる。


「……カジノは初めてなんだがな」


「今日くらいはおごるわ」


 ティアーナは受付でコインの入ったバケットを預かり、ニックにそのまま預けた。


「おいおい、ルールわかんねえよ!」


「カードくらいはわかるでしょ?」


「いや、あんまりやらねえようにしてたから……」


 ニックが恥ずかしそうにそっぽを向いた。


「あら意外。怖いの?」


 ティアーナがにやにやと笑うと、ニックがばつの悪い顔でそっぽを向く。


「いかさま野郎と戦ったばっかりじゃねえか。念信宝珠を使ってるって気付いたから良かったが、気付けなけりゃヤバかったかもしれないぞ」


「馬鹿ね、こういうちゃんとしたカジノだと魔法や魔導具の対策はしてるのよ。カードだって魔法の影響を受けにくい特殊な紙とインクを使ってたりするし」


「だったら魔法以外の純粋な技術として凄い連中がうようよ居るんじゃないか? 古巣のパーティーで、行く度に素寒貧になってた奴が居たし、やっぱりプロにゃ勝てねえよ」


「確かに、良いようにやられて気付けば丸裸……ってのもありえるわね」


「だろ?」


「だから、そうならない遊び方を教えてあげるわ」


「ちょ、おい!」


「あら、本当よ? 任せておきなさいな。ルールを知らなくてもできそうなのは何が良いかしらねぇ……?」


 ティアーナが迷わずまっすぐ歩いて行くのを、ニックとキズナがあわてて着いていく。

 ティアーナはそのままバーカウンターの方に進み、三人並んで座った。


「バーテンダー、この子に何か甘い物を出して頂戴」


 カウンターの奥に居た男が頷きながらテキパキと動き始める。

 ニックがそれを眺めつつ、ティアーナに質問した。


「競竜以外にもギャンブルやってたんだな?」


「こっちは本当に遊びだけどね。トータルで勝ててもいないし」


「トータルで勝てるのがおかしいわ。そういえば、キズナはルールとかわかるか?」


「……倫理規定で制限されているのでギャンブルはできぬのじゃ。破るとむずむずして気分が良くない」


 キズナがぷうと頬を膨らませながら答えた。


「ありゃ。ちょっと目を瞑るとかも無理なの?」


「できなくもないが面倒じゃ。ここで休んでおるわい」


 そんな不満げな顔をしていたところに、バーテンダーから皿を差し出された。

 皿の上には、チョコレートソースがかけられた丸いバニラアイスが鎮座していた。


「おお、アイスがあるのか! 良いのう良いのう!」


 さきほどの不満もどこへやら、キズナが大喜びで頬張り始めた。


「現金なやつだな、お前も」


「ふふん、こういう文明の味には目がないのじゃ。カランほどでは無いがの。そなたらは原始的な賭博の熱狂に飲み込まれて後悔するが良いわ」


「あら、そう言われたら勝ってくるしかないわね。行くわよニック」


「だからオレぁ素人って言ってるだろ!」


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