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人間不信の冒険者達が世界を救うようです  作者: 富士伸太
二章 麗しのパラディンさま
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さんすうベアナックル 2

※いつも感想ありがとうございます。

ひとつひとつレスポンスするのが少し大変になってきたため、

作者ページの活動報告にてレスポンスさせて頂く形にしました。

※誤字指摘ありがとうございます、いつも助かってます!


 カランの宿を決めた数日後。


『ふむ、アレが羅刹じゃな』


『ああ、羅刹氷穴のボスだ。油断するなよ』


 サバイバーの面々は再び、羅刹氷穴を探索していた。

 隠れ潜みながら移動し、青い肌の鬼の凶相が拝める距離までに辿り着いたところだった。


 サバイバーの面々は何度となく倒している敵だ。

 だが、同一の個体ではない。

 瘴気が濃くなる度に魔物は新たな個体として生まれる。

 そのため今いる羅刹には自分が倒された記憶などあるはずもなく、戦意をむき出しにしている。

 新メンバーの腕試しにはもってこいだった。


「さあて! それでは我が剣をとくとご覧じるが良い!」


「あ、馬鹿! せっかく《念信テレパス》で会話して音立てなかったのに……!」


「ぐるるるるる……!」


 キズナはニックの叱責を無視して、羅刹の目の前に躍り出た。

 迷いの無い足取りだ。


「シャッ!」


 鋭い爪が振るわれる。


 キズナはそれを剣で受け止めた。

 何の変哲も無い両手剣だ。

 キズナが人間体で居る間は、本来の絆の剣は使えない。


 だが、


「力任せの攻撃など我に通じるはずもなし」


「グウ……?」


 爪の一撃を、剣先でぴたりと押し止めていた。

 力ではない。

 技量あってこそ成立している状態だ。

 少女の体でありながらも老練な剣士のような立振舞いは羅刹を怯えさせた。


「グァアアア!!!」


 羅刹は後ろへ飛び、魔力を手に集中させた。氷の魔法だ。

 ティアーナが得意とする《氷柱舞》とは違って、大きな氷塊を打ち出す《氷弾》である。

 だがそれも、


「ちょやっ」


 剣を振り払い、軌道をそらした。


「グアッ!?」


 奥の手を難なく対処された羅刹が慌て始めた。


 そして、及び腰になった隙を見逃すキズナでは無かった。


「とうっ……!」


 一瞬の隙をついて懐に飛び込み、羅刹の首を狙う。

 だが狙いがあからさま過ぎたためか、防御が間に合った。

 鉄と爪が軋み合う。


「グッ……グオオオッ……?」


「《並列パラレル》」


 そして、拮抗状態になった時点で、キズナの勝利であった。

 突如現れたもう一人の「キズナ」が羅刹の後ろに回り込み、剣を振り下ろした。


「グアアアアーッ!!!???」


 羅刹の巨体が悲鳴を上げながら倒れ伏した。


「よし……どうじゃ?」


「反則だな、それ……」


 ニックが呆れ気味に呟いた。


 これこそが《並列》の真骨頂だった。

 使い手の情報を元にして人間体を創り出す。

 そしてそれは、1体のみに限定されない。


「今のニックの技量であれば、最大5体くらいは出せるかの。悪くないぞ」


「つっても、今でも割と疲労感を感じるんだが」


「そりゃそうじゃ。ニックの体力や魔力を借りてるわけじゃからな。……《消去》」


 キズナがそう呟くと、羅刹にとどめを刺したキズナの分身体がすうっと消えた。


「すごいナ……。一人飯のフィフスみたいダ」


「ああ、そういえば噂で《多重存在ドッペルゲンガー》の使い手だって聞いたことがあるな」


 一人飯のフィフスは、迷宮都市にいる数少ないS級の冒険者だ。

 剣、魔法ともに使う万能型の戦士だが、彼の代名詞とも言うべき必殺技がある。それが《多重存在》だった。己の分身を創り出して、たった一人でありながら前衛と後衛、剣と魔法といった完璧な役割分担を持ったパーティーを編成できるという凄まじい技能だ。


「《多重存在》を使える者がいるのか……相当な使い手じゃな」


「ん? 《並列》よりも強いのか?」


「どういう状況で使うかにもよるのう。《多重存在》は内面宇宙に存在する様々な「自己」を外界に顕現させる魔法であり、我の《並列》のような攻撃手段とは性質が異なる。だがその分、応用の幅は恐ろしく広い。何より魔力消費や継続時間は《多重存在》の方が上じゃな。数時間は分身したまま行動した者もおったくらいじゃ」


「へえ……あのフィフスはどうなんだろうな。カランは知ってるか?」


「多分、半日以上は持つと思ウ。こないだお一人様一個限定のチーズケーキの列に、5人に分身して並んで怒られてタ」


「ゆ、夢が壊れる光景だな。あのおっさんS級冒険者だろ……?」


「そうカ? みんな爆笑してたゾ」


「意外に面白キャラなんだな、一人飯のフィフスって」


「まあ、《多重存在》の使い手ほどではなくとも我は役に立つであろう?」


 キズナがふふんと自慢げに笑った。


「いや、皮肉抜きにすげえよ。その《並列》もだが、剣技も凄いじゃねえか。中堅どころより上だぞ。お前どこで覚えたんだよ」


「基礎的な剣技は開発段階でインストールされたからのう」


「いんすとーる?」


 耳慣れない言葉にニックが首をひねった。

 ティアーナやゼムもわからないようで、首を横に振っている。


「つまり、以前我を持ったことのある剣士の技量を取り込んだのじゃ」


「やっぱずるじゃねえか!」


「だからずるじゃないわい! まったく口の悪い男じゃのう」


「へいへい、冗談だよ。ともかく、頼りになることは間違いない。前衛がオレ、カラン、キズナでお互いにカバーすれば事故も減る。前衛の攻撃力が上がれば、後衛が魔法を使う回数も減らせる。かなりバランスが良くなってきたな」


「じゃあ、もっと上の階級の迷宮も目指せるのかしら?」


 ティアーナの期待のこもった問いに、ニックは嬉しそうに頷いた。


「ああ、余裕だと思うぜ」


「ふふん、それに一番の必殺技もあるしのう?」


 キズナが自慢げに笑う。

 だが、


「《合体ユニオン》はそう簡単には使わねーぞ」


 と、ニックが苦み走った顔で言った。


「な、なんでじゃ!?」


「一度使えばブッ倒れるような有様だぞ、迂闊に使えるか。それになぁ……!」


「な、なんじゃ……?」


「成功率が低いんだよ! 《合体》が失敗すると微妙に気まずいんだからな!」


 実はサバイバーの面々は、既に《合体》を何度か試していた。

 だが一度は成功したカランとの《合体》でさえも完璧では無く、3回に1回程度の成功率だ。

 ティアーナやゼムとの《合体》など、一度も成功していなかった。


「そ、そうじゃろうけど! もう少し練習すればできるようになるはずじゃ! 大丈夫、我が保証する!」


「まあ良いんだけどな。奥の手があるってだけで価値はあるし」


「そうじゃろう、そうじゃろう?」


「これなら上位の冒険者になることだって夢じゃないな。キズナ、ありがとよ」


「な、なんじゃい、普段からそう素直にしておれば良いものを」


 キズナが赤面してそっぽを向く。

 カランがキズナの背中を叩いた。

 何故かそれに続いて、ゼムもティアーナもニックも続いた。


「何か言うのじゃ! 無言でやられると意味がわからんのじゃ!」


「頼りにしてるって意味だよ」







 そしてまた、冒険者ギルド「フィッシャーメン」へと戻った。


 いつものように素材を換金すると、周囲の同業者から「おう、今日も大漁だな!」「お前らたまには飲んでけよ!」などと冷やかされる。うるせえうるせえ、お前らこそ飲んでないで冒険に行ってこいとニックが言い返して、ようやく冒険者ギルドの人混みを抜け出した。


「んじゃ、解散だな」


 そうニックが言うと、キズナだけがひどく驚いた。


「え、これで終わりじゃと!?」


「そうだが」


「てっきり、他の店にしけこんで美味いものでも食べるのかと思ったが……」


「全員の趣味に口出しはしないのがここのルールだ」


「そ、そうじゃけどぉ……ちょっとくらい遊びに行かぬか?」


「うーん……」


 ニックとしては、あまりルールは曲げたくない。


 とはいえニック自身、「プライベートに干渉しない」というルールを徹底するのは若干無理があることに気付いていた。既にカランのプライベートには干渉している。ただ、そうだとしても守るべき一線はある。


「別にずっと一緒に居ろと言うておるわけではないわ。だが我はこのあたりの地理は不案内じゃし、それに「おつかれっしたー」だけで解散は寂しいであろー? コンビニ工場のバイトじゃないんじゃぞ」


「なんだよバイトって。お前たまに変な古代文明語使うよな」


「ともかく! 毎回とは言わんがたまには宴会とか打ち上げとかしたいのじゃ! 冒険者の浪漫であろうぞ!」


「宴会ねぇ……」


「ほら、あそこはどうじゃ? こないだニックとカランで行った店なら」


「ああ、フロマージュか。でもあそこは喫茶店兼レストランだから、がぶ飲みするような酒は出ねえぞ」


「痛飲する奴もおらんじゃろ……おらんよな?」


 キズナはそう言って、全員の顔を見る。


「僕は酒が好きと言うよりも両隣に女性をはべらせてお酌してもらうのが好きなので」


「ゼムはブレないな……ティアーナは?」


「甘い物か煙草のどっちかあるなら行くわよ」


「甘い物はともかく煙草はねえな……てか、お前煙草吸うのか」


「ま、人前じゃあんまり吸わないけどね。どうする?」


「うーん……それじゃ、行ってみるか」


 そんな流れで、サバイバーの全員はレストランで打ち上げすることとなった。


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