聖剣探索 10
冒険者ギルド「フィッシャーメン」に出入りする冒険者のウィリーとマーカスは、魔術師と剣士のコンビだ。冒険者としての活動歴は7年ほど。ランクはD級の冒険者であり、フィッシャーメンを出入りする人間の中では腕は立つ方だ。元々は四人の冒険者パーティーだったのだが、その内二人は結婚して冒険者を引退してしまったために事実上の解散状態となってしまった。今は他のパーティーの助っ人をしながら日銭を稼ぐ日々を送っていた。
そんな働き方をしているものだから、情報には耳聡い。メンバーが―少なくて窮地に陥ったパーティーに自分を売り込むためだ。
「んでよぉ、マーカス。あの例のパーティーのことだけどよ」
「例のってなんだよ」
「アレだよ。ここで酒飲まずに速攻帰っちまうパーティーだよ」
「ああサバイバーの連中な。あいつらがどうかしたのか、ウィリー?」
「あいつら、絆の迷宮を攻略したってよ」
「ん? あそこはもう攻略されてるだろ。最下層まで地図ができてたはずだぞ」
「そうじゃねえよ、マーカス。あそこに隠し通路があったんだよ。それでなんと、伝説の絆の剣を見つけてきたって話らしいぜ。探索が終わって出てきたサバイバーから話を聞いたギルド職員が、てんやわんやの大騒ぎしてたんだよ」
「マジかよ!? え、いや、隠し通路を見つけたのはスゲーよ。尊敬する。でも……」
「でも?」
「……絆の剣を手に入れたってことは、あいつらこそ「理想のチームワークを持った冒険者パーティー」ってことにならねえか?」
「そこはそうかも知れねえし、ただの眉唾の伝説かもしれねえし。ま、別に良いんじゃねえの」
「そんなもんかねぇ……」
「それにあそこのリーダーは良い奴だぞ」
「ん? 知ってるのか、ウィリー?」
「ああ。こないだここで見かけた後に、演奏で偶然見かけて友達になって……お、噂をすれば」
ウィリーがフィッシャーメンの入り口に目を向けると、5人の男女がどやどやと入ってきた。
「よう、ニック」
ウィリーが手を振ると、ニックも手を振り返した。
「おお、親衛隊長じゃねえか。こないだは魔色灯くれてありがとな」
「余ってたから良いんだよ。それよりここじゃウィリーって呼んでくれ。そりゃあアゲートちゃんの演奏のときだけだぜ」
「おっと、すまねえ」
「で、聞いたぜ。絆の剣を手に入れたってよ」
「耳が早いな。昨日探索が終わって、これからババアに届けに行くところだ。ちょっと見るか?」
「おお、マジか!」
ニックが大事そうに持っていた包みを開く。
するとそこには、刀身のない剣の柄があった。
「これは……魔剣だな。魔力で構成された刃が飛び出るオーラブレード型だ。霊体の魔物にも効くし手入れもあんまり要らねえから便利なんだよ」
「ウィリー、よく一目でわかるな」
「冒険者たる者、鑑定くらいできねえとな。……しかし伝説って言うほどでも無いな? 本物だろうなぁ?」
「ほっ、本物のはずだぜ。最下層で拾ってきたんだからな」
「なるほどな……ともかくおめでとう。俺も見習わねえとな」
「いや、大したことは……」
「おいおいニック、そういうときは「俺のパーティーはすげえだろう」って誇るもんだぜ。謙遜ってのは手前一人の仕事のときにやるもんだ」
ニックは、虚を衝かれたような表情をした。
だがすぐに、
「そうだな。オレのパーティーはすげえだろ」
と、言い直した。
「おう、すげえな」
ウィリーが満足げに頷く。
「サンキュー。それじゃあまたな、ウィリー」
「おう」
ウィリーが手を振り、ニック達を送り出した。
だがニック達を見送った後、マーカスがいぶかしげに疑問を口にした。
「なあウィリー。ちょっと気になったんだがよ」
「ん? お前もか。サバイバーにメンバーが一人増えてたよな。あの子供、剣士のナリしてるが……けっこうヤるぜ。足運びに隙がねえ」
「いやそうじゃなくて、お前、吟遊詩人のおっかけの親衛隊長やってんの?」
「演奏は面白いぞ?」
◆
冒険者ギルド「フィッシャーメン」の会議室で、ニック達は受付嬢ヴィルマと相対していた。
「やるじゃないか、お前達。この依頼を完遂できるとは恐れ入った」
「ほら、これが絆の剣だ」
ニックは布の包みを解き、剣の柄をヴィルマに見せる。
「ほほう……これが絆の剣か。あんたらは使ってみたのかい」
「ああ。そんなに扱いは難しくなかったぞ」
「ほう! ちょいと見せておくれ」
「ああ」
ニックは立ち上がり、剣の柄を握った。
「《起動》」
すると、剣の柄から光輝く刀身が現れた。
「綺麗な魔力が流れてるね……。思ったほどの威力じゃないが、これは確かにアーティファクトだ」
「長さは自分が思うように調節できる。ただ長さに限度はあって2メートルくらいまでみたいだ」
「他に特徴は?」
「パーティーメンバーが多いと剣の威力が増すらしい。どれくらいなのかは調べてない」
「なるほど、それが絆の剣の力ってわけか……良いだろう。依頼達成だ。ひとまず成功報酬分はすぐに払おう。アーティファクト発見の追加報酬は細かい鑑定をしてからになるから、来週くらいにまた来な」
「苦労したんだ、安い価格じゃ困るぜ」
「そりゃ鑑定人に言うことだね……ところで」
ヴィルマはそこで、ニックの背後に視線を向けた。
視線を向けられた者は、いぶかしげな口調で尋ねた。
「なんじゃ、おぬし」
「あたしゃヴィルマ、受付嬢だよ。お嬢ちゃん……いや、坊ちゃんか? ともかくあんたはサバイバーの新入りかい?」
「うむ、そうじゃぞ。性別は……どちらでもないんじゃが……まあ便宜上、男ということにしておこう」
「うん……? ま、ともかく新入りなんだね。名簿を書いて提出しな」
「おお、そうじゃそうじゃ。そのために来たのじゃったな」
ニックの背後に居た古風な喋り口の美少年?が、受付嬢の前に進み出た。
白い髪が特徴的だが、どことなくニックに顔つきが似ている。
二人並ぶとまるで兄弟……あるいは兄妹のようだ。
「……似てるね、あんた達。親戚か何かかい」
「そ、そういうわけじゃねえが……まあ、面倒見ることになった」
「ふーん。それで名前は?」
「キズナじゃ」
「キズナ?」
「馬鹿、安直すぎるだろ……」
ニックがぼそりと呟く。
だが、その声はヴィルマの耳には届かなかった。
「奇遇なこともあるもんだね、剣と同じ名前だなんて。ま、しっかりおやり」
「うむ、任せるが良い!」
ヴィルマのおざなりな激励に、白髪の美少年? キズナはえへんと胸を張った。