聖剣探索 9
「冒険者なんざ大体行き当たりばったりなんだよ。ティアーナは何かアイディア無いか?」
ニックがティアーナに尋ねると、ティアーナは顎に指を当てて考え始めた。
「そうねぇ……とりあえず、絆の剣にそれらしい偽装をして別の魔剣と思わせておけば気付かれないんじゃないかしら。それで、冒険者ギルドの方は「見つからなかった」って報告しておいて、私達はそのまま絆の剣を使えば良いんじゃないの? そもそも絆の剣の実物を見たことある人なんていないでしょ。冒険者ギルドだって機能を知ってるだけで外観は知らないわけだし」
「なるほど」「おお、頭良イ」
ゼムとカランが褒めそやし、ティアーナが自慢げに微笑んだ。
「ふふん、たくさん褒めておきなさい」
『いや、どうじゃろうな』
ティアーナの言葉に、絆の剣が口を挟んだ。
「何かまずいかしら?」
『別の魔剣を持つことにしたといっても、そなたらが軽々しく持てるほど簡単に手に入るものか? 今の時代の相場はよくわからぬが、付与魔術を行使した道具が簡単に買えるならば、そなたらもっと良い装備を持っておろう。そこな魔術師はともかく他の者は……のう?』
実際、ニック達が装備しているのは何の変哲も無い皮鎧などだった。
絆の剣の指摘通り、今のサバイバーには魔術が付与された高級品を買う余裕はまだ無い。
「うっ……そ、それは……」
『それは?』
「け、競竜で稼いだということで……」
「はい却下。他に意見は?」
ティアーナが言いかけた言葉を、ニックが遮った。
「なによ!」
「なによ、じゃねーよ! 競竜で万竜券当てたとかナシだからな」
「いつか当てるわよ! ていうか当たったことあるし!」
「それを冒険者ギルドが信じるかどうかは別問題だな」
「ちぇっ、けち!」
「それに真面目な話、冒険者の中にはそこらの商人よりも目利きや鑑定が得意な奴も居るからな……。伝説のアーティファクトともなると、外装を誤魔化した程度でだまし通すのは難しいと思う」
「あー、なるほどね……」
ティアーナががくりと肩を落とす。
だが、それを見た絆の剣が自慢げに口を開いた。
『ふふん、ならば我が知恵を授けてやろうぞ』
「いやお前、アイディアがあるなら早く言えよ」
全員が絆の剣をじとっとした目で睨んだ。
『そ、そう言うな。会話というものは楽しむものじゃぞ?』
などと弁明しつつ、絆の剣は自分の考えを話し始めた。
『まず大きな誤認がある。そなたらが届けねばならないのは絆の剣であって、それは我である必要は無い』
「……何言ってんだお前?」
『絆の剣とは我の個体名であると同時に、製品名であり、そしてプロジェクト名じゃ。我を完成させる過程で出来上がった機能制限版の「絆の剣」ならば余っておるわ』
「はぁ!?」
ニック達全員が驚きの声を上げた。
それを聞いた絆の剣は面白そうに笑った。
『かっかっか、驚いたか。実は、我の台座の下に保管庫があって、そこに仕舞ってある。遠慮無く持って行くが良い』
「確かに、1本だけとは聞いてなかったが……。それがあるなら話は変わってくるな」
『ただし機能制限版と言ったであろう? 我のもっとも重要な権能である《合体》は使えぬからな。仲間から魔力を集めて剣の力を強化するといった芸当はできるが、《合体》の半分の力も出ない。とはいえこれも間違いなく絆の剣であるから、それを納入すれば良かろう』
「……詐欺かどうか迷うラインだな。まあ確かに嘘はついてねえんだろうが」
ニックが渋い顔で呟く。
『おぬし、若いくせに堅いことを言うのう』
「性分なんだよ。つーか問題がまだ残ってるぞ」
『なんじゃ?』
「冒険者ギルドに納めた剣と全く同じ形の物を持ち歩いてたら怪し過ぎるじゃねえか。冒険の時にしか使わないとしても、どこに人の目があるかわからねえんだ。結局お蔵入りにする時間が長くなるんじゃないか?」
『安心せよ、それも考えておるわ』
「なんだと?」
『我の最も重要な権能は《合体》だが、他にも幾つか機能や権能がある。このように自意識を持って自分自身をメンテナンスし、恒久的に使用できる《自己修復》。視聴覚に優れ、周囲の異変にも気付くことができる《探索》。短距離間で声を出さずに思念をやりとりする《念信》など……』
「おまえ、滅茶苦茶便利だな……。テレパスってなんだよ、怖いわ」
『念信を知らんのか? 偽の最下層に念信宝珠なども置いてあったはずじゃがのう。《念信》を使えるようになる魔導具なのじゃが』
「いや……通信宝珠なら知ってるが」
『あれは1枚の紙に収まる程度の文字や白黒の絵をやり取りするだけの半端な魔導具じゃろう。事務屋ならともかく、冒険者にとっては《念信》の方が便利じゃぞ』
「へぇ……って、話が脱線してるぞ。お前を持ち出すことを誤魔化すアイディアを聞かせろって話だろうが」
『おっと、そうじゃな……。最後に我には重要な権能がある。それは《並列》というものでな……』




