聖剣探索 6
そして、しばしの静寂が訪れた。
サバイバーの4人共、「なんでこいつ、当たり前のことを質問しているんだろう」という顔をしていた。
その静寂を破ったのは絆の剣だった。
『だっ、誰に売る気じゃ!? よもや官憲や国ではあるまいな!?』
「冒険者ギルドだが」
ニックが言うと、絆の剣はますますいきり立ってわめいた。
『いっ、いやじゃあ! せっかくここから出れるというのに、封印やお蔵入りされるなどいやじゃあ! 我は最強の聖剣じゃぞ!? 使ってみたいと思うのが剣士の本能じゃろう!?』
「え、いや、そう言われてもな……」
『スリープモードで待てども待てども誰も現れんし……! せっかく迷宮が認めたパーティーは我を売るというし……! こんなのあんまりじゃあ!』
「そう言われても、オレ達ぁ仕事を頼まれただけなんだよ。聖剣が眠ってるかもしれないから見つけて来いって」
『冒険者ギルドみたいな嘘つきどもの手に渡るなどごめんじゃ! 騙されてこんなところに放り込まれて、どれだけ無為な年月を過ごしたと思っておる!』
「どうしたもんかな……」
ニックが頭を悩ませた。
流石にこのまま梱包して黙らせるのはニックも後味が悪い。
「……ね、ねえ、ニック」
「なんだティアーナ?」
「せめて、身の上話くらい聞いてあげられない? 嘘とか騙されたとか……」
「うーん……」
それを言われると他人事とも思えない。
「とりあえずさぁ、オレ達ぁお前のこと何にも知らねえんだよ。イチから教えてくれ」
『はぁ……まったく、人間の世とはかくも移ろいやすいものか。我の開発にどれだけの予算が投じられ、完成したときの騒ぎようなどそれはそれは……』
「わかったから、教えてくれ」
『せっかちじゃのう……まあ良い。我、絆の剣は【魔神スキアパレッリ】との決戦のために鍛造された聖剣である』
「魔神スキアパレッリ?」
ニックの言葉に、ティアーナが反応した。
「聞いたことがあるわ。古代文明は何度か、魔族の上位種族……魔神と戦っていたって。確かスキアパレッリは特に人間に残酷だったとか」
『うむ、それはそれは恐ろしくも呪わしき存在じゃったのう』
「つっても、倒されるか封印されるかしたんだろう?」
『そうじゃ。当時の勇者、【縮地のセツナ】が決死の反攻作戦を敢行して、魔神は封じられた。……我も反攻作戦の中で立案されたメインウェポンの一つとして参加するはずじゃったが、別の聖剣が先に実用化に至ってしまってな……我は世に出ることは叶わなんだ』
「へぇ……聖剣がポンポン作れるって、古代文明は凄いもんだな」
『ポンポンではない。聖剣鍛造所は当時の賢者どもが鼻血垂れ流して発狂死するくらい酷いところじゃった。労働環境も酷かったしのう』
「そういうブラックな裏事情をさらっと言うのやめろよ」
『ともかくじゃ。世に出ることはなくとも我のカタログスペックは史上最高と言っても良い。我を手にする者の仲間の力を収束し、それを増幅させる効果を持つ。2人居れば4倍に、3人居れば9倍の力を出すのじゃ』
「二乗の力を出すってか……凄いなそりゃ」
『うむ、凄かろう……理論上は』
絆の剣が、ぼそっと説明を足した。
「りろん?」
カランが首をひねる。
『う、うむ。互いを信頼し、心を一つにする仲間同士であれば、我の力を余すこと無く発揮することができる。じゃが……』
「なんだよ、もったいぶるなよ」
ニックが催促すると、絆の剣は言いにくそうに話を続けた。
『適合者があまりに少なかった……。冒険を共にして心を通い合わせた戦士達でもせいぜい2人まで。記録上では最高で3人の力を合わせるまでが限度じゃった。パーティー全員の力を合わせるなど夢のまた夢じゃったのう』
「ちなみに、その三人ってのはどういう関係だったんだ?」
『……三つ子の冒険者パーティーじゃった』
「三つ子でようやくできるってレベルなら普通の冒険者にゃ無理だろ」
ニックが呆れ気味に言うと、絆の剣は焦って言葉を返した。
『そ、そんなことはない! 真の友情や愛で結ばれた者達はいるはずじゃ……! いる、はず、じゃが……』
絆の剣の声のトーンはどんどん低くなっていく。
『……戦争が終わり、我の適合者として相応しき冒険者を見出す目的で迷宮に封じられて幾星霜。待てども待てども誰も来ない。ま、そのはずじゃよ。冒険者ギルドは最初から我を客寄せだけに使うつもりで、我を誰かの手に握らせるつもりなど無かったのじゃからな。我にも冒険者にも黙って扉を封印していたのじゃ』
「絶対当たらない景品ってわけね」
「……そりゃひでえな」
ティアーナとニックがしみじみ呟く。
『うむ……仕方なくスリープモードに入ってずっとフテ寝しておったわ。起きたのはつい最近のことよ』
「あ、もしかして途中の扉が開いたのって、お前の仕業か?」
『うむ。ここのところ冒険者が入るのは気付いておったからの。ここにそなたらが現れてようやく一安心じゃ。と言うわけで……』
「おう」
『おほん! 冒険者達よ。手を取り合い、艱難辛苦を乗り越え、よくぞ我の待つ回廊まで辿り着いた。我が使い手としてふさわしいと認めようではないか。そなたらの向かうところ敵無しと知るが良い。人獣天魔、いかなる相手であろうと栄光の勝利を授けようぞ!』
高らかに歌うように、絆の剣は言い放った。
が、すぐにサバイバーの面々は言葉を返さなかった。
ニックに他の三人から「何か言ってやってよ」という無言のプレッシャーが集まる。
仕方なしにニックが話を切り出した。
「……いや、だからな、オレ達はお前を冒険者ギルドに届けるのが仕事だって……」
『いやじゃいやじゃ! 我こそは勇気と正義を兼ね備えし者達のみが握ることのできる聖剣、絆の剣であるぞ! 戦う者達の後ろで肥え太る者の飾りに成り果てるなど怖気が走る!』
「そう言われてもなぁ……」
『いーやーじゃー!』
弱った。
所詮これは、人ではなく剣に過ぎない。
逃げる脚もない。口が回るだけだ。
どんなに凄い聖剣であっても、持ち主に逆らうことはできない。
騙して冒険者ギルドに持ち込むのは容易いだろう。
だがそれは、美学に反した。
ニックはそんなことをするつもりはない。
他の三人も同様だろう。
「うーん……ニックさん。迷宮探索で拾ったものは、基本的には拾った冒険者のものでしょう? 売れば換金できるというだけであって、必ず売る必要も無いのでは?」
「いや……「絆の剣の捜索」ってのが依頼内容だからな……。売らずに持ってることがわかるとかなり面倒になる」
「そうですか……」
『そ、そこを何とか!』
「なんとかしてやりたいのは山々なんだがな……」
どうしたもんだろうか、とニックが溜息をついたときだった。
「……ン? なんダ?」
「カラン、どうした?」
「揺れてル」
「揺れてる、って……おいおい、落盤じゃあるまいな」
ニックは焦って問いただした。
通常、迷宮は落盤など起きない。
詳しい原理は不明だが、たまった瘴気が落盤や火事などを防いで迷宮を維持しているのだそうだ。それゆえ、魔物が自然現象によって死ぬことは無いが、侵入する冒険者もそうした事故で死ぬことは無い。
だがここは瘴気の溜まった天然の迷宮などではない。
人造の迷宮だ。
どんな事故があるかわからない……と、ニックは気付いた。
「ヤバいな、何か来るぞ」
そこにティアーナが口を挟んだ。
「まさか。遺跡は今の建物なんかより遥かに堅牢よ」
「そうなのか?」
「古代文明は瘴気が迷宮を維持する機能を解明していたらしいの」
「それじゃあ、なんだ……?」
ニックが言葉を漏らした瞬間、全員にわかるほどの揺れが地面から伝わった。
『……あっ』
「おい、今「あっ」って言ったか?」
『い、いや、落ち着け。事故などではない』
「じゃあなんだ?」
『ここは迷宮の「本当の」最深部じゃ。普通の冒険者では入ることさえできぬ』
「そういえば騙されて封印されてたとか言ってたな」
『うむ、我を野良冒険者に取られることを恐れた迷宮管理者が扉をこっそり封鎖したのじゃ。そしてダミーの最深部を作り、我と冒険者達を騙しておった。今やっとセキュリティへの介入が成功して扉が開くよう修正した……が、しかし』
「しかし?」
『ここ、本来の最深部を守るための守護者の機能は止められなくての……』
「守護者、って」
ずしん!
と、気付かない者は居ないほどに派手な音が響いた。
サバイバー達がゆっくり振り返る。
銀色の艶やかな巨体はひどく美しい。
他のゴーレムと違って、関節につなぎ目がないのだ。
まるで液体にした金属が常にゆっくりと表面を動いているような、生物のような質感がある。
顔は、のっぺらぼうだ。
そのはずだが一瞬、サバイバーの面々を見渡して微笑んだ――ニックはそんな錯覚を覚えた。
『この迷宮における最強のゴーレム、アマルガムゴーレムじゃ』




