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人間不信の冒険者達が世界を救うようです  作者: 富士伸太
一章 サバイバルは剣の輝き
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聖剣探索 5


「なんだ、ここ……?」


 ニック達が進んだ先にあったのは、今までとはまったく違う光景だった。


 幾何学的な床や壁とは違い、どこまでも続くのっぺりとした、艶めいた床の広間だ。

 他のフロアならゴーレムが襲いかかってくるところだが、そんな気配は一切無い。


 そして、部屋の中央に何かがあった。


「剣の柄か……?」


「刀身が無いゾ。へんなの」


 台の上に、剣の柄だけが置かれていた。


 刀身がないというのに、まるでそれで完成しているかのように飾りのついた台の上に安置されていた。


「……もしかしてこれ、魔剣じゃない?」


「魔剣って言っても、刃がなきゃどうにもならなくないか」


「使用者の魔力を刃の形にする魔剣もあるそうよ。これもそのタイプかも」


「ああ、なるほどな」


 ニックはティアーナの話に頷き、慎重に近づく。


「罠はなさそうだな……。つっても、こんな意味がわかんねえ場所の罠なんてオレには解除できねえだろうが」


「ニック、それ持って帰るの?」


「何事もなければな。ティアーナ、変な魔力が漂ってたりしないか?」


「今のところそういうのは感じないわね……その剣からも周りからも」


「よし」


 ニックは慎重に、素手で触らないように布越しに剣の柄を取った。


『お、おい、せめてちゃんと柄を握らんか』


 不思議な声がニックの耳元に届いた。

 男か女か、若者か老人かさえわからない声だった。


「……なんだ今の? 誰か何か言ったか?」


「ニック! 気をつけて! その魔剣、起動したわよ!」


「こいつか!?」


 ニックはすぐに手放して距離をとった。

 からんからんと音を立てて床に剣の柄が落ちた。


 4人はそれぞれ自分の武器を持ち、異変に備える……が、


『落とすでない! 我を誰と思うておる、若造ども!』


「知らねーよ! ……あ、いや、もしかして……お前が【絆の剣】か?」


 ニックが尋ねると、ふふんという鼻息が聞こえそうなほど偉そうな声で剣が応じた。


『そうじゃ。我こそがテラネ魔導工廠の最高傑作にして天使級精神兵装「絆の剣」。資格無き者がおいそれと触れてよいものでは無いのだぞ』


「じゃあ尚更素手で触るわけにはいかんだろ。ちゃんと傷つかねえように運ぶから大人しくしろ」


 ニックは背嚢から布を取り出して梱包の準備を始める。

 だがそこで、ゼムとカランが、気持ち悪い目で絆の剣を見つめながら言った。


「ええと、ニックさん、剣が喋ってますが……驚かないので?」


「そ、そうだゾ。気持ち悪いゾ」


『なんじゃ気持ち悪いとは!』


「お、怒っタ!」


「まあ落ち着け二人とも。昔、師匠から聞いたことがあるんだ。喋る剣ってのは実在するって」


 ニックの言葉に、ゼムとカランはえっと言う顔をする。


「あるんですか……?」


「ああ。インテリジェンスソードって分類されるらしい。剣のゴーレムって言えるのかもしれんな」


「そうよ。異国の話だけど、戦争で功績を上げて爵位をもらった剣もいるらしいわ」


「二人とも、物知りだナ……」


 カランが呆気にとられた顔で剣とニック達の顔を眺めた。


「まあ、ともかくだ」


 ニックは言葉を切って絆の剣を見つめた。


「インテリジェンスソードなら大丈夫だ。呪い付きのアイテムってこたぁ無い」


「なんでダ?」


「古代文明だと、知能や魂が込められた道具を作るときって色んな制約があったらしいんだよ。持ち主に逆らってはいけないとか、幻惑や洗脳系の魔術を付与してはいけないとか。だから変に警戒しすぎる必要もないな」


 ニックの説明に、絆の剣が自信ありげにふふんと笑った。


『その通りじゃ。人を惑わすような下賤な魔道具と一緒にされては困る。我は正義と友情を重んじる者達にのみ力を貸す誇り高き聖剣じゃぞ? 我を握れることを光栄に思うが良い』


「へいへい、それじゃあ聖剣サマ、大事に運ぶから大人しくしててくれよ」


『運ぶって……そなた剣士じゃろう。せっかく我のような聖剣を手に入れたのだ。装備したいとは思わんのか?』


「いや、オレは短剣専門だし。剣士っつーか軽戦士だし」


『では……そこな竜人の娘が剣士か?』


「ワタシはこの竜骨剣以外握るつもりはないゾ」


『それじゃあ……』


 絆の剣はゼムとティアーナの方に注意を向ける。

 だが二人とも首を横に振った。


『……そなたら、我を求めてここに来たのではないのか?』


 絆の剣は、ニック達にいぶかしげに尋ねた。


「いやお前さんが目当てだよ」


『ならばもそっと喜ばぬか、つまらぬ。我が威光に触れたいとは思わんのか?』


「いや、別に……」


『……そなたら、我をどうするつもりじゃ? ……まさかと思うが』


「え、そりゃあ当然……」


 ニックは仲間達三人の顔を見渡した。

 皆、特に異論のある顔ではない。


「「「「売るけど?」」」」


 ハモった。


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