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人間不信の冒険者達が世界を救うようです  作者: 富士伸太
一章 サバイバルは剣の輝き
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聖剣探索 4


 絆の迷宮は、訓練用の迷宮だ。


 1~3階の上層と呼ばれる部分は、ウッドゴーレムを用いて戦闘そのものが可能かどうかを見るものだ。


 4~6階は前衛の力を試すもので、魔法は効きにくいが物理攻撃が通るブロンズゴーレムが現れる。


 そして、7階から10階。

 ここから迷宮の性格はがらっと変わる。

 戦士と魔術師。前衛と後衛。それぞれの戦闘力を結集させたときの総合力を判定するための場所だ。


 ……とは言え、それを既に備えているパーティーにとっては障害とはならない。


『シャアアアアー!』


 重く鋭利な腕がカランに襲いかかる。

 それをカランの竜骨剣ががっしりと受け止めた。


「グッ……! 重いッ……!」


 クリスタルゴーレムは、今までのゴーレムとは毛色が違う。

 物理攻撃を軽減させる特殊な体はカランの剣さえも弾き飛ばす。

 流石にカランもこれには防戦一方だった。

 だが、ここで引いては後衛のティアーナやゼムに危険が及ぶ。

 時間を稼がなくてはいけない。


「よし、準備できたわ! 逃げてカラン!」

「わかっタ!」

「《風刃》!」

『グギガァーッ!?』


 ティアーナの杖から、幾つもの真空の刃がクリスタルゴーレムに襲いかかった。

 美しく輝く水晶の体が、見るも無残に切り刻まれていく。

 物理攻撃には恐ろしく強い半面、魔法には驚くほど脆いのがクリスタルゴーレムの性質だ。

 ティアーナにかかれば赤子の手をひねるように簡単に片付いてしまった。


「……さくさく進みすぎて、あまり緊張感がありませんね」


「油断するなよ、って言いたいところだが……まあ、初心者向けの場所だしな」


「正直、ちょっとつまんないゾ」


「安全な仕事でお金が入るんだから良いじゃないかしら」


 ティアーナの言葉に、ニックがしみじみ頷いた。


「そうだな。今はとにかく、安定して稼がねえと……。趣味に使う金とは別に、ちゃんと貯金できるくらいの収入が欲しい」


「生々しい現実ですねぇ……。でも僕自身、趣味に没頭すると幾らでも使ってしまいそうで怖いですよ」


「全員、財布の紐は緩そうね……」


 全員がばつの悪い顔をした。

 皆、自分自身の悪癖には自覚があるのだ。


「ま、まあともかく稼ごうぜ。金の使い道に悩むのはそれからだ」


 ニックが取り繕うように言って、慎重に歩みを進める。


 地図は既に完成しているために地下へ通じる階段の場所はわかるが、ニックはあえて行き止まりの道を進んでいた。目的は探索であるため、普通の冒険者が無視するような行き止まりも確認しなければならない。


「んん? なんだここ」


「どうしタ、ニック?」


「いや、ここだけランプの色が違うぞ」


 ニックが突然、行き止まりの壁に立ち止まった。

 その壁の上には、緑色の明かりが灯っている。


「地図だと赤いランプが光ってるって書いてなかったか?」


「ちょっと確かめてみるわ」


 と、ティアーナが地図を取り出す。

 丁度その時、わずかな振動が床から伝わった。


「なんだ……?」


 4人が異変に気付いた。

 眼の前の壁がスライドして、通路が現れたのだった。

 というより4人が壁だと思いこんでいたものは自動扉だ。


「……こんなの、地図にあったか?」


 ニックが困惑気味に尋ねると、ティアーナが首を横に振った。


「いいえ、ただの壁のはずよ。トラップがあったとか宝箱があったとか、注釈も無いわ。ランプを見て何かあると思って調べた人も居るみたいだけど、特に発見はなかったって」


「どうも事前情報と食い違ってるところがあるな……。普通の迷宮ならわかるが、人造の迷宮で情報が間違ってるってちょっと変だぞ?」


「じゃあ、どうすル?」


 ニックは悩む。

 悪意のある嘘や虚偽の情報か……というと違う気がする。

 どちらかというと、手が足りてないゆえの杜撰さだろう。


「うーん……とりあえず進むしかないな。こういう結果でしたと報告するのも仕事のうちだ」







『よし……セキュリティの解除にも成功したようじゃの……。上手くここまで辿り着いてくれると良いのだが……』







 ニック達が進んだ先にあったのは、今までの迷宮と基本的には変わらない光景だった。


 だが、光景以外のものは変化があった。


「うわっ、なんだここ、正規ルートより面倒くせえぞ!?」



 人間より頭一つは小さい小型のブロンズゴーレム複数体が連携して襲いかかってくる。

 ニックはゴーレム達の動きを避けながら、ナイフを縦横無尽に振るう。

 後衛が襲われないよう、俊敏に動きながらブロンズゴーレムの相手をしていた。

 だが敵はそれだけではない。


「ニック! 来てるゾ!」


「わかってる!」


 鉄のような腕……というより、鉄塊そのものの腕が振り下ろされた。

 全身が鋼鉄のアイアンゴーレムの一撃だ。

 まともに喰らえばただではすまない。


「魔力が溜まったわ! どいて!」


「おう!」


「≪雷光≫!」


 ティアーナの杖の先端から閃光ががほとばしった。

 雷属性の攻撃魔法で、術者の正面から放射状に雷が襲いかかる。


『グギギギギッ!?』

「よし、効いてるぞ! 蹴散らせ!」


 ニックがブロンズゴーレムを蹴飛ばす。

 そしてカランが、痺れて動けなくなったアイアンゴーレムの元に飛び込み、


「火竜斬!!!」


 一刀の元に切り伏せた。

 カランの竜骨剣は凄まじい熱を保ったまま、周囲にいるブロンズゴーレムを切り裂いていく。

 やがて動けるゴーレムは一体も居なくなった。


「ニックさん、擦り傷だらけですよ」


 ゼムが回復魔法を唱えると、ニックの傷が消えていく。


「すまん、助かる」


「一気に難易度が上がったわね。あのアイアンゴーレム、オーガや羅刹より強くなかった?」


「そうだな、明らかに強い。ルートも複雑だ。あーもう、マッピングめんどくせぇ」


「ワタシの剣と、ティアーナの魔法を組み合わせないと勝てなかったナ。一応、ワタシはまだ余裕はあるけども……」


 ニックが顎に手をあてて悩んだ。

 ここから一段、二段と敵のレベルが上ってくると危うい局面も出てくるだろう。


「撤退も視野に入れたほうが良いかもな」


「それが良いでしょうな」


 ニックの言葉に、ゼムが賛同を示す。


「ティアーナとカランはどうだ?」


「ちょっと惜しいわね。偶然とは言え、手付かずの領域で手ぶらで帰るのは」


「確かにそれはなぁ……」


 ニックも冒険者のはしくれだ。

 心惹かれるものがあった。


「せめて、次の階層だけ見てみないカ?」


「カランは行きたいか」


「ウン」


「よし、じゃあ次の階層だけ確認しよう。そこで終わりじゃなかったら受付のババアに依頼期間の延長を頼んでみる」




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