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人間不信の冒険者達が世界を救うようです  作者: 富士伸太
一章 サバイバルは剣の輝き
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聖剣探索 1


「ふーむ……」


 今日、サバイバーの面々はとある迷宮を探索し終えた。


 羅刹氷穴らせつひょうけつという、D級からF級あたりの冒険者向けのダンジョンだ。最近のサバイバーはここを狩り場にしていた。


 氷穴という名前の通り、夏場でも冬のような寒さの洞窟である。

 魔物は小鬼林と同程度に多いが、魔物も寒冷な環境に適応しており外に出ようとはしない。そのため討伐の優先度は小鬼林ほどではない。


 主に出現するのはアイスホブゴブリンとアイスウルフ。

 アイスホブゴブリンはホブゴブリンの亜種だ。

 ゴブリンに角が生えた外見であり、敏捷さや力強さもゴブリンより上。

 そして寒冷な環境であっても問題なく活動する。

 ただ、それ以外にこれといった特徴はなく手こずる相手ではない。


 アイスウルフは、氷属性の狼の魔物だ。

 咆吼と共に冷気を放つ。

 遠距離攻撃と、機敏な動きで噛みつく近接攻撃を使い分ける、下級の冒険者には厳しい相手だ。


 だが弱点もある。

 冷気は事前に防御魔法を張っておけば防げるし、火属性の攻撃を与えると驚くほど脆い。

 アイスホブゴブリンの物量に押されないための前衛と、アイスウルフに対抗する後衛がバランス良く居れば、羅刹氷穴の難易度は段違いに下がる。対処法を持っているならばF級でも攻略は可能。なければD級でも厄介。そのくらいの難易度だ。


「ニック、どうしタ? 早く採集するゾ」


 この迷宮のボスは、羅刹という鬼の亜種だ。


 羅刹の強さはオーガと同程度。敏捷性に優れ、さらに氷属性の魔法を使うが、オーガのように下位の魔物の群れを統率することは無い。サバイバーの4人が連携すればそこまで難敵とは言えない。実際、今もカランの火竜斬によって一撃で倒された。


「いや、ちょっと思うところがあってな……」


「なによ、もったいぶって。何か大事な話?」


「ああ」


 ティアーナの言葉に、ニックが頷く。


「とりあえず、今攻略したダンジョンはここ含めて4つになる。最初に小鬼林。次にそのまま粘水関、影狼窟をクリアしたな」


「そうね」


「んで羅刹氷穴もクリアして、ここを狩り場にしてるわけだ。感想としてはどうだ?」


「うーん……思ったほど苦労してない感じかしら。遠いし仕事は多いしで面倒だけど、そんなに命の危機みたいなものは今のところ感じてないのよね」


 ティアーナは、顎に手を当てながら語った。

 今の自分の言葉に危ういものが混ざっているのを自覚しているから、自分の言葉に訝しんでいる。

 その危ういものとは即ち、


「正直、ちょっと油断しちゃいそう」


「そこだよ」


「油断がまずいってこと?」


「油断っつーか……難易度が低い迷宮だとしても歩きっぱなしじゃどうしたって疲れる。疲れると集中力が切れる。そうなったらいつか必ずミスはでちまう」


「治癒魔法で怪我は癒やせますが、疲労は休むしかありませんからね」


 ゼムがしみじみと言った。


「全員、何かしらの役割があって遊びや余裕が少ないんだよ。予備とか控えになる奴がいない。羅刹氷穴くらいなら大丈夫だけど、2~3ランク上の迷宮だと危ない場面も出るだろうな」


「じゃあ……人、増やすのカ?」


 カランが、少し怯えた声で言った。


「増やさねえよ。ってか増やしたくとも増やせないな。価値観が違う奴を入れてもトラブルになるだけだし」


 サバイバーの冒険者達は全員、過去に何らかの痛みを抱えていた。

 そうした痛みを理解できる人間でなければ一緒に冒険したいとは思わない。

 それが全員の総意だった。


「まあ、無理せずやってくしか無いな」


「そうねぇ……」







 サバイバーの面々が素材の換金のために冒険者ギルド「フィッシャーメン」に戻ると、突然ギルドの職員から呼び出しを受けた。


「ねえニック。こういうことってよくあるの?」


「いや、F級程度の冒険者が呼び出されるなんてこたぁあんまり無いんだが……」


 ティアーナの疑問に、ニックも上手い答えが見つからなかった。

 結局よくわからないまま、フィッシャーメンの中の会議室の一つに案内される。


「待ってたよ。遅いじゃないか」


「あ、ババア。なんでここに?」


「ヴィルマさんとお呼び。あたしゃ本部所属だからどこの支部でも顔を出すのさ。普段はニュービーズにいるがね」


 そこに居たのは、パーティーの登録をしたギルド、ニュービーズにいた老婆の受付嬢ヴィルマだった。


「ニックさん、そういう物言いは失礼ですよ」


「わかったよ」


「流石に神官は道理がわかってるねぇ。ともかく仕事の話だ、座りな」


 ゼムにたしなめられ、ニックは渋々椅子に座った。


「……で、F級パーティーごときに何のようがあるんだ?」


「入って欲しいダンジョンがある」


「入って欲しい?」


「【絆の迷宮】さ」


「はぁ?」


 ニックは、素っ頓狂な声を出して驚いた。


「絆の迷宮って……確か今、封鎖中じゃなかったか?」


「ああ、そうだよ」


「じゃあなんで」


「誰も探索してないから調査なりなんなりしたいんだよ」


「面倒そうな依頼だな……」


 そこで、ティアーナが尋ねてきた。


「絆の迷宮って何? 聞いたこと無いんだけど」


「まあ一言で言えば、訓練用の迷宮だな」


「訓練用? 小鬼林しょうきりんとは違うの?」


「いや、そこは新人冒険者が勝手に訓練用にしてるだけで瘴気がたまって魔物が生まれる普通のダンジョンだ。絆の迷宮ってのは、瘴気がたまってるわけじゃない」


「瘴気がたまらないなら、魔物も出ないんじゃない?」


「そこはな……」


 ニックが言いかけたところで、受付嬢ヴィルマが口を挟んだ。


「ダンジョンを管理する機能が、ゴーレム……魔物に似た人形を生み出すのさ」


「……なにそれ。古代のアーティファクトじゃあるまいし」


「古代のアーティファクトそのものだよ」


 アーティファクトとは、現代の魔導具とは違う、古代文明の遺産だ。


 現代に流通する魔導具では実現不可能なパワーや機能を持っているが、数が少ない上に消費する魔力が非常に大きい。小さな小箱一つで館が建つほどの値が付くこともある。


「迷宮自体が自動的にゴーレムを生み出し、難易度や環境を無人で維持する。それこそがこの迷宮都市に眠る秘宝の一つ、絆の迷宮さ」


「凄い……。そんな場所がなんで無名なのかしら……?」


 ティアーナが賛嘆の息を漏らす。

 だが、ニックは肩をすくめた。


「ゴーレムをぶっ倒しても換金できる素材を吐き出さねえから、冒険者からは不人気なんだよ。それならちょっとでも稼げる普通の迷宮に潜る方が良い」


「……ちょっと前の私なら鼻で笑ったかもしれないけど、今なら冒険者の気持ちがよくわかるわ」


「魔物を倒して瘴気を祓うという大義名分も無いようですしね」


 ティアーナとゼムは、興味を失ったように呟いた。

 事実、絆の迷宮はこんな風に冒険者からの興味関心が薄れてしまって休業状態に陥っていた。


「ま、そういうことさ。勝手に冒険者以外に出入りされても困るから封鎖してるってのが現状だよ」


 ヴィルマがつまらなさそうに呟く。

 そこにニックが口を挟んだ。


「じゃ、なんで復活させようなんて話があがったんだ?」


「……未発見の宝物があるって情報があったのさ。情報宝珠を整理してた職員が、絆の迷宮の宝物目録を見つけてね。その中にまだ外に出てないものがけっこうあったってわけ」


 情報宝珠とは、書類を水晶球の中に封じ込めたものだ。

 本百冊程度の内容を封じ込め、水晶を覗き込むことで閲覧できる。

 ひどく貴重なもので、一流の武具と同程度の値段が付く。

 だが、そんなことよりもずっと魅惑的な響きの言葉があった。


「宝物!?」


 その言葉に食いついたのはカランだ。


「カラン、お前興味あるのか?」


「う、ウン……変カ?」


「いや恥ずかしがることじゃねえだろ」


 ニックがそう言っても、カランはまだ恥ずかしそうにしていた。


「こ、子供っぽいって見られル」


「冒険者なんて大抵ガキだよ。んで、どんな宝物があるんだ?」


「魔力測定鏡、通信宝珠、火焔護符と……」


「今の魔導具と変わらねえ量産品じゃねえか」


「焦るんじゃ無いよ。最後に大事な物が一つ……【絆の剣】さ」


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