小鬼林の冒険 6
小鬼林の奥。
ホブゴブリン達とオーガの死体がそこかしこに転がっている。
「鬼系の魔物の採集はメンタルに来るんだよな、あんまりやりたくねえ……」
ニックは愚痴りながらも、オーガの頭に生えた角を工具で切り取った。
「うわっ、こんな風にやるのね」
「なかなか大変ですね、これは……」
「グロいゾ」
「お前ら他人事みたいに言うなよ。数が多いんだから手伝ってもらうぞ。ほれ」
と言って、ニックはペンチを三人に渡した。
「ホブゴブリンもオーガと同じ要領でツノを抜いてくれ。子供の虫歯を引っこ抜く感じでできる。魔力が溜まってるからゴブリンの耳なんかより遥かに高く売れるぞ」
「わかりました……」
「ううっ……冒険者もラクじゃないわね……」
ティアーナとゼムは肩を落としながらも、ニックに言われたとおり作業を始めた。
だが、カランだけはニックの側に残っていた。
「ん? どうしたカラン、やり方よくわかんなかったか?」
「……さっきは、すまなかっタ」
「あー……そうだな」
カランは、咄嗟に動けなかった。
油断したり、他に気になることがあって反応が遅れたわけではない。
恐怖に囚われたのだ。
「また似たような状況に出くわしたとき、どうしたら良いか自分で考えてみろ。それで良い。知らねえことはちゃんと教えるから、知ったかぶりとかすんなよ」
「ニックは、なんで助けてくれるんダ?」
「なんで、って……言われてもな」
ニックは、そっぽをむいて頭をかく。
「オレ一人じゃ探索できねえし。さっきのオーガだってオレ一人じゃ本当に無理だったんだぞ。斬ったり転ばせたりはできても、とどめが刺せねえ」
「戦闘でフォローしたりされたりは誰でもやってル。そういうことじゃなイ」
「じゃあなんだよ」
「……まあ、別に良イ」
ニックは、手近なところにいるホブゴブリンの角をペンチで挟む。
ねじきるように引っ張ると、すぽっと抜けた。
「お前もやれ」
「ウン」
カランがニックからペンチを投げ渡された。
そしてカランは、見様見真似でホブゴブリンの角をペンチで挟む。
ニックはその作業を隣で見守った。
「ワタシは、もう仲間とか信じたくなイ」
「オレもだ」
「調子の良いこと言って、裏切る奴は大嫌いダ」
「まったくだ」
「でもワタシは、自分がした約束は守ル。裏切られたくは無いけど、裏切り者にもなりたくなイ」
「同感だ」
「……ワタシ、頑張るかラ」
カランがそう言って角を引っ張ると、それはするりと抜けた。
ニックがやるよりも手際が良かった。
「なんだ、上手いじゃねえか」
「ああ、任せロ」
カランは、額の汗をぬぐいながら微笑んだ。
この日、4人はようやく手に入れた。
一時の快楽ではない、実感として残る成功を。
冒険者パーティー【サバイバー】はその勢いで残る二つの迷宮を攻略し、F級への昇格がすぐに決定した。




