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人間不信の冒険者達が世界を救うようです  作者: 富士伸太
一章 サバイバルは剣の輝き
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小鬼林の冒険 5


 ティアーナの杖から打ち出された細い氷柱は、弾丸のようにホブゴブリン達に降り注ぐ。


「グギャアアッ!!!???」


「ナッ、ナンダッ!?」


「にんげんダ!」


 片言の言葉でホブゴブリンやオーガが怒りを露わにする。


「へっ、一丁前に喋れるくらいに進化してやがんのか!」


 そこに一直線で飛び込んだのが、ニックだった。


 たった一人で。


「ちょ、ちょっとニックさん!? なんで足並み揃えないんですか!?」


 カランが、出遅れた。


 逡巡して、飛び込む前に後ろを振り返ってしまった。


 また見捨てられやしないか。


 その恐怖を振り払うことができず。


 だが振り返った後ろにニックはいなかった。


 ニックは前に居た。


 カランの逡巡に気付きつつも、飛び込んでいった。


「クッ……!」


 出遅れたカランが走り出す。

 それを邪魔しようとホブゴブリンがカランの前に立ちはだかる。

 切り払った。

 その分、遅れた。


「グハハ!!! タッタよにんダケデキタノカ!? バカメ!!!」


「その馬鹿にやられるのが手前だ」


「フン! クラエ!!」


 オーガがその大きな棍棒を振り下ろした。


「ニック!!!」


 カランが、纏わり付こうとするホブゴブリンを切り払う。

 ホブゴブリンが多い。ティアーナだけでは倒しきれない。

 割って入ろうとしても、届かない。

 そして、悪夢のように凄まじい音が聞こえた。


「ヌウッ?!」


 それは、オーガの棍棒が地面を叩く音だった。

 ニックはひらりとかわした、だけではない。

 棍棒を踏み台にして跳ね、短剣でオーガの二の腕を切りつけた。


「へっ、どうした鬼さんよ!!!」


 オーガが怒りで手を振り回す。

 ただそれだけで驚異的な威力を誇った一撃となる。

 だがそれもニックは難なく避けた。

 大振りの腕をかいくぐってオーガの背後に回り込み、がら空きの背中を短剣で突く。

 怒りと痛みにもだえたオーガが暴れ回る。

 ニックは踊るように、オーガを翻弄した。まるで子供扱いだ。

 その意外すぎる光景にサバイバーの仲間達も、ホブゴブリンも、呆気にとられていた。


「ナ、ナンダきさま……? さるヨリモハヤイゾ……?」


「褒め言葉だな、師匠にはノロマって怒られてたからな」


「な、ナニぃ……?」


「オレの師匠のアルガスはあらゆる武器を極めた天才でな。自分の流派は二つ名と同じ【ウェポンマスター】。オレはそれを学んだ」


「うぇぽんますたーダト? たんけんヲツカウダケノこぞうゴトキ!」


「そうだよ。オレは筋肉が付きにくくて、長剣も斧も長弓も、魔物退治に使えそうなもんは物にならなかった。それでも習得した武芸が幾つかある。その一つが……」


 後ろに回ったニックを蹴倒そうとオーガが踵でニックを狙う。

 だが、待ってましたとばかりにニックはオーガの軸足を全力で蹴った。

 鉄板の仕込まれた靴による一撃は大きなダメージを与えられずとも、バランスを崩すには十分だった。


「ガアッ!?」


 オーガがニックの目論見通りに転倒した。

 重量級の体は足にかかる力も常人の倍はある。

 ニックは的確にそこを狙ったのだ。


「ウェポンマスター師範アルガス直伝、短剣術。そして近接格闘術だ」







 ニックの獅子奮迅の活躍を見たティアーナが、ぽつりと呟いた。


「……ね、ねえ、ゼム」


「なんでしょう、ティアーナさん」


「ニックって……自分じゃオーガを倒せないとか言ってなかった?」


「言ってましたね」


「その割に、強くない?」


「ですね……」


 ティアーナ達はホブゴブリンを倒しながら、そんな立ち話をしていた。

 それを見たニックが怒って叫ぶ。


「見てないで手伝えよ! 短剣じゃ限界なんだよ!」


「がんばれば倒せそうじゃない? 格闘ができるなら……骨折るとか首しめるとか」


 ティアーナのすっとぼけたツッコミが届く。


「ガタイが良いだけの人間なら骨折るなり首絞めるなりできるが、オーガは体のつくりが違うんだよ! つーか、カラン!」


「お、オウ!」


「オレを助けろ!」


 ニックの言葉がカランの耳に届いた瞬間、カランは弾けるように動いた。

 竜骨剣がますます軽やかに振るわれる。

 今も数体のホブゴブリンが一瞬で倒れ伏した。


「グッ、ガッ!!!??? 人間ゴトキガ……!!!!!」


「あーそうだよ、人間ごときだよ! そろそろやべーっつの!」


 ニックは余裕でオーガを翻弄していたわけではない。

 全神経を集中して回避と挑発をしていた。

 ほんの少し疲労がたまっただけでオーガの一撃を食らいかねない。

 そして、一撃でももらえばニックは瀕死だ。

 当たり所が悪ければ瀕死どころか「死」もありえる。


 だから、


「もう大丈夫ダ……食らエッ……!」


 カランの竜骨剣の刀身が真っ赤に燃え上がった。

 その余波だけで皮膚が焦げ付くような、凄まじい熱波が広がる。

 ホブゴブリン達が怯え、すくみ、動きが止まった。

 その隙を逃すティアーナではなかった。

 氷の杭が無情にも突き刺さっていく。


 気付けば敵は、オーガ一人だ。


「ナッ、ナンダ、ソノちからハ……? ヒッ!?」


 そしてオーガが起き上がろうとした瞬間、ニックがすぐさまその場から逃げ出した。


 そしてオーガが自分自身の絶対的な不利に気付いたときは、


「火竜斬!!!」


 肩から腰にかけて、真っ二つに切り裂かれていた。



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