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人間不信の冒険者達が世界を救うようです  作者: 富士伸太
一章 サバイバルは剣の輝き
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小鬼林の冒険 4


「北の方向に20匹程度の群れ……」


 ティアーナの《魔力索敵》が新たな群れを捉えた。


「今日はゴブリンが多いな。普段はもっと少ないんだが」


 そのニックの言葉に、ティアーナは首を横に振る。


「ゴブリンじゃないわ。ゴブリンにしてはどれも魔力が大きいわね……?」


「魔力が大きい? どれくらいかわかるか?」


「ええ、普通のゴブリンの3倍くらい。一番大きいもので5倍くらいかしら」


「……そりゃ、まずいな」


「何か知ってるの?」


「ああ。多分、ホブゴブリンと……オーガだな」


 ニックが緊張した面持ちでティアーナの問いに答えた。


「瘴気が濃い季節になると、ゴブリンがホブゴブリンに進化する。それがここのボスだ。けど、そのホブゴブリンが倒されずに長生きしちまうと、さらに1ランク上のオーガに進化することがあるらしい。中級冒険者パーティーならともかく、それ以下の冒険者だと手こずるな」


「ではニックさん、どうします? 撤退ですか?」


 ゼムの言葉に、ニックはすぐに答えなかった。


「いや……」


「なにかまずいことでも?」


「オーガが居ると、他のゴブリンの群れを吸収してどんどん大きくなるんだよ。だからオーガを見かけた冒険者は、すぐにギルドに戻って知らせて討伐隊を組んでもらうのがマナーみたいなもんだ」


「では、なおさら撤退の……」


「が、それは避けたい」


「へ?」


 ゼムの問いに、ニックは絶望しきった声を出した。


「カネがねえんだよ。ゴブリンの耳が10ヶ20ヶじゃ、全員の宿の家賃にもならねえだろ」


「「「あ」」」


 ニックを除く三人が、間抜けな声を漏らした。

 皆、迷宮探索に目を輝かせており、自分の財布の事情を忘れていた。


「オーガって体が大きいくせに魔法が効きにくいのよね……。私の魔法だけじゃ難しいと思うわ。牽制にはなるだろうけど」


「そうなんだよな……。だから、前衛で何とかするしかない」


「僕は補助魔法は使えます。防御力を上げる《堅牢》と、筋力を増幅する《剛力》の魔術です。というより、それしかできませんね……。オーガと直接戦う術はありません」


 ゼムがそう力なく呟く。

 ニックはそこで、カランを見た。


「なあ、カラン。お前はオーガと戦ったことはあるか?」


「オーガは無い。でもオーガより強い敵と、ほとんど一人で戦ったことはあル」


「マジか。それって……」


「……ポットスネーク」


「あー……」


 ニックは壺中蛇仙洞こちゅうじゃせんどうを攻略したことは無い。


 古巣の武芸百般とは相性が悪すぎたために攻略を見送っていた。逆に言えば、相性の悪さを察する程度の知識はあった。ポットスネークは防御力がオーガよりも高い。これを単騎で戦ったというなら、実力として何の問題も無い。


 あるとすれば、実力以外の問題だった。


「カラン、お前の攻撃力が必要だ……つーかオレじゃ無理だ。お前じゃなけりゃ倒せないんだが……どうする?」


「……やル」


「前衛をお前に任せる形になるが、本当に大丈夫か?」


 ニックは……というより皆は、気付いていた。


 前衛に任せるしかないというこの状況、カランが捨てられた状況に似ている。


「問題なイ」


 それでも、カランは静かに頷いた。


「……よし、わかった。やるぞ」







 作戦と言えるほどのものは無い。


 前衛となるカランとニックを、ゼムが強化する。


 ティアーナが《氷柱舞つららまい》を撃ち、ホブゴブリンを倒す。


 そしてニックが投擲や短剣でオーガを牽制しながら、カランがとどめを刺す。


 それだけだ。


「……よし、居るな」


 と、ニックが言った。


 4人は木々に隠れながら移動し、オーガとホブゴブリンの群れを発見したところだった。ゴブリンとは違い、オーガもホブゴブリンも赤い皮膚に覆われている。ホブゴブリンは人間の大人より少し小さい程度の背丈だ。一方でオーガは、普通の人間を遥かに超す背丈だ。頭二つ分は大きいだろう。おそらく倒木を利用した粗末な棍棒を持っている。だが、人の胴体ほどに太い。大きいということがそのまま脅威になるということを見た目で知らしめていた。


 だが、4人はここまで来てしまった。

 後戻りは出来ない。


「いきますよ……《堅牢》、《剛力》」


 ゼムの手の平から仄かな白い光が放たれ、ニックとカランにまとわりついた。


「効果は30分程度です。気をつけて」


「ああ」


「わかっタ」


 ニックとカランが頷く。

 そして、ティアーナが魔力を集中し始めた。


「いくわよ……準備は良い?」


 ティアーナは、ニックではなくカランを見た。

 だが、カランは何も答えない。

 ぎゅっと、自分の竜骨剣の柄を握りしめていた。


「カラン、怖いか」


「……! こ、怖くなんか……!」


「オレは怖いぞ」


「う、ウソつくな。ニック、あのくらいの魔物なら相手にしてきただロ」


「ああ、オーガやホブゴブリンは怖くない。あいつら敵だってはっきりわかってるからな」


「……」


「怖いのは、一緒にいる仲間が信じられるかどうかだ。違うか?」


 カランはほんの少しだけ、柄に握りしめた力を緩めた。


「おまえラは、ワタシを裏切った連中と違うってわかってるんダ。でも……」


「どうせ数日の付き合いしかねえんだぞ、当たり前だ。だからカラン、オレを疑え」


「え……?」


「ティアーナも、ゼムもだ。オレが仲間に値するか見極めろ」


「見極めろって、こんな土壇場でそんなこと言われても……」


「そうですよニックさん」


 ティアーナとゼムの言葉を、ニックは意に介さなかった。


「ティアーナ、そろそろ撃て」


「……ったく、どうなっても知らないわよ! 《氷柱舞》!!!」


 そしてティアーナの杖から、数十本もの氷柱が放たれた。

 こうして、小鬼林のボスとの戦闘が始まった。


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