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人間不信の冒険者達が世界を救うようです  作者: 富士伸太
一章 サバイバルは剣の輝き
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小鬼林の冒険 3


「《氷柱舞つららまい》」


 ティアーナが杖を構えて魔法を唱えた。

 その名の通りに多くの氷柱を撃ち出す魔法だ。


 そして魔法による奇襲が成功した後はニックとカランが飛び出してゴブリンと戦う……はずだった。


「アレ?」

「……うん、十匹全部倒れてる」


 ティアーナの杖から放たれた氷の杭は、ゴブリンの頭蓋を的確に貫いた。


「え、えーと、それじゃあ次行ってみましょうか」


 ティアーナが焦った顔で《魔力索敵》を使用した。


「いや、別に怒ってるわけじゃないんだが……。まあでも、実力を確認するって意図もあるから、次はオレとカランに任せてくれ」

「わ、わかったわ」


 そしてティアーナは、次なるゴブリンの群れを見つけた。

 次は五匹程度。前衛が対処するには丁度いい数だ。


「ワタシが行く」

「おう、オレもフォローする」


 カランが自慢の竜骨剣を掲げた。

 しかしその大き過ぎる一振りは、障害物が多い林の中では動きにくいだろう。

 取りこぼしをオレが何とかしようとニックは考えつつ、ゴブリンの群れに近付く。


 だが、そんなニックの思惑は外れることになった。


「せりゃあああっ!!!」


 カランが裂帛の気合いを込めて、ゴブリン達をなぎ払った。

 細い木々ごと、ゴブリンの体は真っ二つだ。


「ギャワッ!!??」


 今の一撃で、二匹をまとめて倒した。

 そして逃げようとする三匹を目で捉える。

 カランはすぅと息を吸い、そして


「ガッ!!!」


 カランの口から、三発の炎の弾がまっすぐ飛び出た。

 竜人族の特技の一つ、《ブレス》だ。

 カランは火竜の加護があり、炎属性の《ファイアブレス》を吐くことができる。

 息の出し方をコントロールすることで、火を放射し続けることも、火の玉のように散発的に出すこともできる。


「ヨシ! 終わったゾ!」


 ゴブリンは、カランのブレスが当たってすぐに黒焦げになった。

 ニックが手を出す隙さえなく、あっという間に倒してのけた。


「おお、凄いわね」

「素晴らしい動きかと」


 ティアーナとゼムが、一仕事終えたカランを褒め称える。


「す、凄いな」

「オウ! 前衛は任せロ!」

「楽だな……。つーかオレだけあんまり役立ってないな……?」


 ここに至るまで、ニックは大した仕事をしていない。

 ニックは、「楽だ……楽すぎる」と感じていた。


 だがしかし、ニックの自己認識と他のメンバーの認識はまるで違っていた。


「え? だって私達、ニックに頼りっぱなしだったし……ねえ?」


「ええ、僕も申し訳ないくらいです」


「ああ、そうだゾ」


 その言葉に、ニックは首をひねった。


「そうかぁ?」


「そうよ。迷宮の選び方とか、目標とか、ニックがいないと何も決まらなかったじゃない。それに他にも……」


 ティアーナはそう言いながら、ニックがやったことを指折り数え始めた。







 この迷宮に行く道中、ニックは色んなことを話した。

 迷宮の特徴や地理、出現する魔物への対処。

 だが、それ以外にも世間的な知識や迷宮都市における常識なども話した。


「ティアーナ、それかなり良いローブじゃないか?」


「ええ、まあ、貴族学校で支給されたものだし……」


「隠せ隠せ。なんか上にもう1枚羽織っておけ。金持ちに見られるのは色々厄介だぞ」


「え」


「仕事を受ける側が頼む側より良い服着てると面倒くさいんだよ。ローブだけじゃなくて武器とか防具にも言えることだが」


「あっ」


 ティアーナは、自分の過去の失態に幾つか気付いた。

 魔術師としての求人に応募したとき、ティアーナはどこからも断られていた。

 面接に向かったとき、ティアーナは今と同じローブを着ていた。

 ただ魔術師の人材が溢れていただけではない。

 人を遠ざけている自分に気付いたのだ。


「……き、気を付けるわ」


「ん? いや、そんな神妙になるほどじゃないが……。それとゼム」


「なんでしょう、ニックさん?」


「お前も、その……気付いてるか気付いてないかはわからんが、破門されてる神官丸出しだぞ。十字架をつけてないのにカソックを着てるからバレバレだし……。カソックじゃなくて別の服を着るとか、どっか別派閥の神殿に潜り込んで十字架もらうとかした方が良い」


「ええっ!?」


 そして他にも旅先で休憩する際の注意や街道でのマナーを教えたり、あるいはゴブリンなどの魔物を見つけたときにどう対処するかを計画したりと、「サバイバー」の冒険はニックの知識の上に成り立っていた。







「……というわけだから、気にしないでほしいのだけれど」


 と言うティアーナの言葉に、ニックは首をますますひねった。


「……言うほど大したことしてなくないか? つーか……むしろ長話をちゃんと聞いてくれて助かるんだが」


 ニックは、口うるさい自分を自覚している。

 前のパーティーではウザがられることも多かった。


 ニックが追い出されたC級パーティー【武芸百般】は、悪い特徴があった。ウェポンマスター、盾士、侍、弓手、軽戦士という、全員が物理攻撃しかできないメンバーなのだ。


 そのバランスの悪さのためにB級以上には行けなかったが、個々人の実力はA級冒険者にも決して引けを取らないものだった。むしろ、魔法に頼らず力業だけでC級まで到達した時点で常識から外れていた。


 そんな脳筋パーティーの中で、ニックは他のメンバーより体格が小さく、魔物を倒す上での実力は一歩も二歩も劣った。そのために自分から様々な雑用を買って出たり、魔術師が居ない穴を埋めるための方法を模索したりしていた。それはどれも有用なことではあったが、他のメンバーはニックからあれこれ言われるのを嫌った。そもそも実力が劣るニックに注文を付けられることを心外とさえ思っていた。


 そんな連中を不機嫌にさせないために、ニックは薬草や魔導具の購入、迷宮探索の計画立案など、様々な雑用を先回りして手配した。「言うことを聞いたほうが楽になる」という状況を自分で作るようにした。それでもニックは何かと文句を言われた。だから素直に言うことを聞いてくれるメンバーは、やりやすいことこの上なかった。そして新人二人にとっても、ニックは最適な案内役であり先輩だった。


「カランはどうだ? やりやすいとかやりにくいとか、あるか?」


「わ、ワタシか?」


 ニックから話を振られたカランはうろたえた。


「……ちょっと、戸惑ウ」


「どこがだ?」


「前に居たパーティーだと意見とか話とか、聞かれなかっタ。どこに行くからよろしくって言われて、言う通りにしてタ」


 カランの説明に、ニックは顔をしかめた。


 実際ニックの目から見て、カランは経験の割に物を知らなかった。

 ティアーナやゼムよりも少しマシ、という程度。

 小鬼林しょうきりん粘水関ねんすいかんといった、初心者向けの迷宮のことさえうろ覚えだったし、魔物を倒した後の採集さえやったことがなかった。


 普通の冒険者ならばこうはならない。多少腕が立つと言っても、冒険者であるならば基礎的なことを覚えさせなければパーティーにとって後々デメリットになる。


 だが逆に言えば、いつまでもパーティーに残すつもりもなく、むしろ騙して殺すために在籍させているならば、無知で愚かな方が都合が良い。


 だが、そんなことを考える奴は反吐が出る。


 ニックの顔に浮かんだ殺気を、カランは勘違いして怯えた。


「ご、ゴメン」


「お前が悪いわけじゃなくてだな……」


「ワタシ……戦うことしか、できなイ」


「いや……そうだな、戦うしかできねーのはまずいな」


 カランは怒られたと思い、しゅんとした顔でうつむく。

 だが、続くニックの言葉に驚いた。


「だから覚えろ。教えられるだけのことは教えるけど、オレは甘やかさねえからな」


「……良いのカ? こういうのって、簡単に教えて良いことじゃ……」


「良いも悪いも、お前がそうなってくれないと困るんだよ。最初にパーティーを作るって言ったとき、オレのことを疑えって言ったのは覚えてるだろ」


「ウン」


「疑うってのはな、知識とか知恵がなきゃダメなんだよ。だから、早くそうなれ。こいつの行動おかしいなーとか、こいつの言ってること辻褄あってねえぞとか、そういうのがわかるようになれ。それがこのパーティーに居るために必要なことだ。良いな?」


 そこまで言ってニックは「しまった」と後悔した。

 カランの目に、涙がにじんでいたからだ。


「い、いや、その、今すぐってわけじゃないぞ。追い出すとかそういうつもりもなくてだな……」


「そ、そうじゃなイ」


 困り果てたニックを見て、ティアーナが肩をすくめた。


「野暮なこと言うもんじゃないわよ。しっかりしなさいリーダー」


「な、なんだよ……? と、ともかく悪かった、カラン」


「い、良い、何でも無イ。それより、冒険の続きをするゾ!」


 カランは、気合いを入れてそう叫んだ。


 自分の故郷を出て、初めて自分が「いっぱしの冒険者であること」を求められた。


 お客様扱いでもなく、詐欺の獲物でもなく。


 自分がここに居ても良いという納得が、カランの心を満たしていた。


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