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人間不信の冒険者達が世界を救うようです  作者: 富士伸太
一章 サバイバルは剣の輝き
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小鬼林の冒険 2




 まずニック達が向かったのは、小鬼林しょうきりんだった。


 迷宮都市からもっとも近い迷宮であり、徒歩で5~6時間、馬で2~3時間というところだ。


 小鬼林は洞窟でも建物でもないただの林だ。だがそれでも迷宮と呼ばれる。この世界において迷宮とは、「瘴気」が集まる場所を意味している。そのため洞窟であろうが森や砂漠であろうが、瘴気によって魔物が自然発生する場所はすべて「迷宮」だ。


 魔物は人間や動物のように親から生まれるわけではないので、迷宮にいる魔物を全て倒し尽くしても、時が経てばまた自然発生してしまう。そして魔物が増えれば瘴気も濃くなり、迷宮は拡大する。人間は常に迷宮を探索して魔物を倒して瘴気を減らし、迷宮が広がらないようにする必要があった。


 その中でもゴブリンは厄介だ。魔物としては最弱と言って良いが、さほど瘴気の濃くない場所でも発生する。数が増えて群れを作り、人里を襲うことも多い。


 そのため、定期的にゴブリンの討伐は推奨されていた。討伐証明であるゴブリンの耳は魔力が乏しく、ここから魔導具に加工することも魔力を抽出することもできない。だがそれでも近隣の安全のために確実に換金できる仕組みになっていた。


 ニックは、ここは冒険者としての経験があるオレとカランが二人に迷宮探索のイロハを教えることになるだろうな……と思っていた。


 が、その予想に反して最初に活躍したのは、ゼムとティアーナだ。

 迷宮都市を出て迷宮に向かうという最初の一歩から活躍は始まっていた。


「じゃあ、《健脚》の魔法を使います」

「《健脚》? なんだそりゃ?」


 ニックが不思議そうに尋ねる。

 カランも「知らない」とばかりに首を横に振った。


「それ、軍隊魔法じゃない? なんで知ってるの?」


 知っているのはティアーナだけのようだ。


「従軍神官だった人が師匠だったものでして、軍隊で重宝した魔法をこっそり教えてもらっていたんです。意外と魔力の消費も無いんで便利ですよ」


 と言いながらゼムは左手で聖典を開き、呪文を唱える。

 メドラー神殿の神官が魔法を使うときの独特の動作だ。

 4人の足下から金色の輝きがぱっと灯り、すぐに消えた。


「よし、成功しました。これでしばらく足が速くなり、疲労もたまらない状態になります」


「すまん、基本的なところなんだろうけど……軍隊魔法ってなんだ?」


 ニックがゼム達に尋ねた。


「大勢の人間に使うための支援魔法なんですよ。本来は何人かの神官と組んで100人とか1000人とかにかけるんですが、この程度の人数だけなら僕一人でも使えますし」

「地味だけど効果的なのよね……脚が疲れないとか、リラックスさせて休憩の効果を高めるとか、逆に興奮させて恐怖心を払拭させるとか。軍隊魔法を使える人間がいると旅とか本当に便利よ。ただ、野良の冒険者が使ってるのがバレると軍や騎士団が良い顔しないから、一応秘密にしておいた方が良いかも」

「地味っつーか、すげえ便利だろ。秘密ってことも了解だ」


 ニックの賛嘆に、ゼムは恥ずかしそうにはにかんだ。


「まあ、効果の程は保証しますよ。それでは出発しましょうか」







「マジか……3時間でついちまった。日帰りできるんじゃねえかコレ?」


 小鬼林しょうきりんの入り口で、ニックが驚きの声を漏らした。


「探索が早く終わればできると思いますよ」


「なあゼム、治癒以外に援護系使えるってのは聞いたが、詳しく教えてくれるか?」


「そうですね……行軍補助としては《健脚》、体温を一定に保って寒暖に耐える《保温》。

 戦闘補助で筋力を上げる《剛力》、防御力を上げる《堅牢》あたりですね。

 回復魔法は傷を癒やす《快癒》、《全体治癒》、植物や昆虫由来の毒を治す《解毒》、体の異常を調べる《身体鑑定》ですね。

 他にも病気治療のための魔法も幾つかあります。ただ専門的すぎて細かいんですが……説明しますか?」


「そ、そこまで行くとオレじゃわかりそうもないな……。つーかゼム、すげえ器用じゃねえか?」


「そうですか?」


「上級パーティーがスカウトに来るレベルだぞ。お前を手放す神殿ってのが信じらんねえ」


「はは……そうだと良かったんですが」


 ゼムは自嘲的に笑う。


 ニックはすぐに自分の過ちに気付いた。


「……すまん、失言だった」


「ああ、気になさらないでください、ニックさん。素直に褒めてくれたってことですし。それに……手放す側が信じられないというのは皆、同じようなものでしょう?」


「まったくだ」


 ニックとゼムが皮肉げに笑う。

 お互いの不幸を笑い飛ばせることは悪くない。

 二人はそう思った。


「ところでゼム、魔力の残りは大丈夫なのか?」


「ええ、このくらいでしたら。何日とか何週間とか継続させるとなると相当厳しいですが、一日未満でしたら大した消費にもなりませんし」


「そうか、助かる。じゃあ次はオレ達の仕事だな。カラン」


「ウン」


 ニックとカランが、目の前に広がる林を見る。

 林と言うには鬱蒼としている。

 森と言うほど木々が多いわけでは無いが、瘴気が霧となって遠くまで見通せない。

 鳥や蛇といった野生動物も多い。

 ここからは迷宮に足を運んだ場数が物を言う。


 ……はずだった。


「《魔力索敵》」


 ティアーナが、杖を掲げて呪文を唱えた。


「……なあ、ティアーナ。それ、なんだ?」


「知らない? 魔物の居所を探す魔術よ。半径3キロくらいなら探れるかしら。結界に遮られてたり隠蔽が得意な高位の魔物には通じないけど、ゴブリン程度なら大丈夫」


「……それ、けっこう高度な魔法じゃなかったっけ?」


 少なくとも、冒険者としての魔術師で使える人間はそうは居ない。


 ニックは元々C級冒険者パーティー【武芸百般】に属しており、同じ級のパーティーの魔術師の腕前も何となく理解している。その中に、半径3キロを索敵できる魔術師が居たかというと怪しい。D級以下となると、そもそも《魔力索敵》を使える魔術師が居るかどうかも怪しい。


「そう? とりあえず無属性の補助系は《魔力索敵》、《気配隠蔽》あたりは使えるわ。攻撃魔法は風と水、それと複合魔法の雷あたりが得意よ。土属性も一応使えるけどニガテ。火はほぼ無理」

「……んー」


 ニックが、なんともいえない微妙な顔で唸った。


「な、なによニック。まずいことでもあるの?」


「いや、まずくないどころか、かなり凄いぞ。一種類の属性しか使えない奴の方が遥かに多いし……」


「色んな属性を真面目に勉強しようとすると時間かかるからね。私の場合は学校の師匠が色々教えてくれたから、環境が良かっただけよ」


「ともかく、そこまで器用だと助かるな。探知の方はどうだ?」


「ええと……北東1キロくらいに群れがあるわ。十匹くらいね。どうする、ニック?」


「十匹なら行けるな。襲うか」


 そして、ニックが先頭になって歩みを進めた。


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