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人間不信の冒険者達が世界を救うようです  作者: 富士伸太
一章 サバイバルは剣の輝き
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小鬼林の冒険 1


 冒険者ギルドの広間のテーブルでは、駆け出しの冒険者パーティーが思い思いに座り、談笑したり打ち合わせをしている。新たな冒険に胸をときめかせており、その日暮らしの冒険者とは思えないほど明るい空気を放っていた。


 また、掲示板には名付きの魔物の討伐依頼や、薬草、鉱石の収集依頼などが張り出されており、新人冒険者達が興味深そうにそれを眺めていた。


 もっとも、冒険者ギルド【ニュービーズ】には、大して美味しい依頼はない。


 ここは駆け出しやひよっこが、いっぱしの冒険者になるまでの止まり木に過ぎない。このギルドにいる冒険者がやるべきことは何よりも


「迷宮探索だ」


「そうね」「ウン」「それはもちろん」


 ニックの言葉に、三人が頷いた。


「まず、オレ達はG級……階級としては一番格下の冒険者パーティーになる。未経験者も居るし、結成したばっかりだからそこは仕方ない。……それで、ひとまず目標はF級になることにしようと思う」


「級を上げると何か良いことあるの?」


 ティアーナの問いにニックが答えた。


「そもそもG級じゃ3つの迷宮しか潜れないんだよ。けどF級になれば、色んな迷宮に潜れるようになる。その中にはこのメンバーで楽に攻略できるところもあるだろう」


「まずは昇級しなきゃいけないってわけね。どうすれば上がるの?」


「迷宮の一番奥にはボス格の魔物がいる。G級で行ける迷宮3つのボスを倒して、その証を持って帰れば良い」


「話だけ聞くと簡単ね」


「実際、そんなに難しくない。魔物と戦った経験のない奴が慣れるまでの練習みたいなもんだしな」


 ニックはそう言って、自分の懐から地図を取り出した。

 迷宮都市を中心とした大雑把な地図で、その周辺には物騒な地名が並んでいる。

 冒険者向けの、迷宮の場所を記した地図だった。


「ゴブリンの巣がある『小鬼林しょうきりん』、

 スライムがウヨウヨ住み着く『粘水関ねんすいかん』、

 影猿や影狼が住み着く『影狼窟えいろうくつ』。

 どれもこの街から半日くらいの距離だ。

 上手く行けば一つの迷宮を一日以内で攻略できる。

 ただ……」


「ただ?」


「ティアーナ、ゼム。二人はどこかを探索したり魔物と戦ったりした経験はあるか?」


 ニックの言葉に、ティアーナとゼムが難しい顔をした。


「魔法の訓練で魔物を倒したくらいはあるけれど……本格的な迷宮は初めてね」


「僕もです。街道に紛れ込んだ魔物退治を手伝ったくらいで」


「気にするな。初心者がいるのは当然だ。むしろそのために入る迷宮が制限されてるんだ。カランはまあ、経験あるよな?」


「ウン……でも」


「でも?」


小鬼林しょうきりんも、粘水関ねんすいかんも、影狼窟えいろうくつも、あんまりちゃんと覚えてナイ。一回行っただけで、ほとんど中級向けの迷宮を探索してタ」


「あー……」


 冒険者になる前から戦闘技能を持つ人間はあまり初級の迷宮を重要視しない。実力者を中途でパーティーに入れた場合は特にそうだ。わざわざ実入りの少ない迷宮探索などさっさと済ませるに限る。


「それで、ボス倒して終わりってだけじゃなくて時間を掛けて探索したい。カラン、どう思う?」


「なんでダ? さっさとF級に上がって別の迷宮に行っても良いと思うケド……」


 カランが尋ねると、ニックは人差し指を立てた。


「一つは訓練をかねて、ってところだな。三つの迷宮はそれぞれ特徴がある。小鬼林は、ゴブリンの数が多い。一匹一匹は弱いけど群れで行動する。粘水関のスライムは、魔法を使わないと面倒くさい。影狼窟えいろうくつの魔物は大して強く無いんだが、気配を消して隠れるのが得意だ」


「どれも何かしらの障害があるというわけね」


 そうティアーナが言って、ニックが小さく頷いた。


「いろんな迷宮に対応できるかどうかも検討したいしな。それにもう一つ。迷宮探索で大事なことがある」


「大事なこと……ってなに?」


「魔物を倒したら、それを金に換えなきゃいかん」


 ニックの言葉に全員がしみじみ頷いた。


 サバイバー全員に共通した問題がある。

 僅かなりとも早く金を稼いで、宿代や生活資金を整えなければならない。


「魔物には、魔力を蓄えた部位があるんだよ。スライムの核とか、オオカミの牙とか。ゴブリンは魔力が低いが、数が増えると問題だから耳を切ってギルドに持ち込めば換金してくれる」


「あんまりやりたくないけど、仕方ないわね……」


「僕は薬草摘みの経験くらいしかありませんねぇ……」


 ティアーナとゼムが肩をすくめた。


「そこはガマンして慣れてくれ。魔物から採集するのもコツがいるんだ、地味だけど。そのへん甘く見てると幾ら難易度の高いダンジョンに行っても上手く稼げねえ。なあカラン?」


「ご、ゴメン。採集は、その……やってなかっタ」


「じゃ、ゼムとティアーナと一緒に覚えてくれ。良いか?」


「わかっタ」


 カランが素直に頷く。


「G級向けの迷宮の魔物は弱いが、数だけはいる。長居して狩り続ければそれだけ金が増える。手堅く稼いでから上を目指そう」


「そうね、まずは家賃を稼がないと……」


 ティアーナが杖を握りしめて呟いた。


「ティアーナの部屋も良い立地にあるしな。家賃もけっこうするだろ」


「そうでもないわよ。ただ、今は手持ちのお金が……ちょっとね……」


 ギャンブルでスッたんだもんな……とまではニックは言わなかった。

 自分に金が無い理由も似たようなものだからだ。


「さ、さて! それじゃあ早速、迷宮探索と行こうぜ!」


 ニックの言葉に、全員が気を引き締めて頷いた。


「わかったわ」「ウン」「了解しました」


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