冒険者パーティー【サバイバー】の誕生 3
だいたいこのへんまでが1巻の書籍化範囲ですが、
大きくボリュームアップしてお届けしています。
お楽しみ頂ければ幸いです!
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冒険者ギルド【ニュービーズ】の職場に、情けない声が響いた。
「助けてくださいよぅ、ヴィルマさーん」
「助けて、って……たかが新パーティーの設立でしょ。そのくらいの手続きでなんで助けを求めるワケ?」
受付嬢ヴィルマは、新人受付嬢リリのヘルプに呆れた溜息をつく。
「だ、だってぇ、見てくださいよこの面子」
「えー、なになに……? ああ、【武芸百般】から追い出された子がリーダーか……」
「……それだけなら良いんですけどぉ」
続く名前は人間の女、ティアーナ。
職業、魔術師。
竜人族の女、カラン。
職業、竜戦士。
人間の男、ゼム。
職業、治癒術士。
「ふーん、バランスの良いパーティーじゃないか。全員前衛、全員脳筋の武芸百般とは大違いだね」
「でもぉ、ちょっとアブない空気出してるって言うかぁ……」
新人受付嬢リリが、ちらりと奥の部屋に視線を送る。
そこに新規パーティーの人間が揃っているのだろう。
「はぁ……まったく」
冒険者というのは基本、荒くれ者だ。
ギルドの受付というのは、そういう連中をさばくことができて当然。
厄介者でも平然と対応できて一人前なのだ。
ヴィルマは早くリリが一人前になってくれないか、と溜息をついた。
とはいえ世の中、例外というものもあるものだ。
もしかしたら並の職員でも困るほどの危うい人間だってたまに来る。
都市の治安を乱しかねない罪人が冒険者に身をやつすときもある。
そういうときは、ヴィルマの出番だった。
長年冒険者をしてからの転職であり、腕も立つ。
既に老婆に近い外見だが、まだまだ若い冒険者には劣らない。
ヴィルマは、力業で冒険者ギルドを守ることのできる数少ない存在だ。
長いことニュービーズのトラブル解決役として頼られていた。
「仕方ない、今回だけだよ」
「すみません、ヴィルマさん……」
ヴィルマは、リリの指さす部屋へと入る。
そこに居たのは、
「ん?」
「あんたがニックだね。元【武芸百般】の」
「ああ、そうだよ」
面白くも無さそうな声でニックが言葉を返す。
ヴィルマは不機嫌になることもなく、他のメンバーの顔を順繰りに眺めた。
(なるほど、ねぇ……)
見た目だけで言えばさほど怖くは無い。
だが確かに、普通の冒険者には無い危うい気配があった。
魔術師の女は明らかに貴族だ。
名ばかりの貧乏貴族には出せない高貴な気配が立振舞いから漏れ出ている。
竜人族の戦士は、最近噂になった【サバイバー】だろう。
【壺中蛇仙洞】に取り残されながらも一人で生還したという竜人族の娘。名前も風貌も合致する。
神官風の男は知らないが、装備がちぐはぐだ。
カソックを着ていながら十字架を下げていない。
それに職業欄も、神官ではなく治癒術士と書かれている。
おそらくはどこかの神殿を破門されているのだろう。
落ち着いた佇まいだが、妙にすさんだ目をしている。
これは確かに、どこぞの荒くれ者よりは危険な気配が漂っている。
トラブルを起こすか、あるいはトラブルに巻き込まれる。
その匂いを感じ取った新人受付嬢リリが「危険」と判断したのは正しい。
だがそういう連中もひっくるめて、冒険者という生き物だ。
「……ふん、まあ良いじゃ無いか。サバイバー達はどんな名前のパーティーにするんだい?」
「サバイバー? なんだそりゃ」
「ウワサだよ。そこのお嬢ちゃんが騙されて壺中蛇仙洞に置いていかれて、それでも一人で生き延びたって話さ」
「……なんだト?」
カランは、ヴィルマをきっと睨んだ。
「ま、色々あったみたいだが冒険者の才能ってのは単に強い弱いよりも、生きて帰るってのが大事なことさ。あんたにとっちゃ良い思い出じゃないだろうが、一目置かれてるんだよ」
「一目置かれてる……ねぇ。はっ。いい気なもんだぜ」
ニックが、皮肉げにせせら笑った。
「騙されて死にそうになった奴に「生き残ったんだ、凄いな」って褒めて、感謝されるとでも思うのかよ。そんな油売ってる暇があるなら偽名を使って冒険者やってるようなアホを捕まえてみせたらどうなんだ。ギルドのルール違反してる奴が大手を振って泥棒に成功したってことだろうが」
「……言うじゃないか」
「何度でも言ってやるよ。人のウワサを嗅ぎ回るのが仕事なのか、それともオレ達のパーティー登録をするのか、どっちが仕事だ?」
一触即発の、危うげな空気になった。
見ればティアーナも、ゼムも、ニックと同じようにヴィルマをにらみ付けている。
「自分がカランだったら絶対ブチ切れてる」という思いが、三人の心を一つにしていた。
だが、その空気を破ったのはカラン自身だった。
「やめロ、ニック」
「でもよ」
「サバイバー、良いじゃないカ。ワタシらは、しぶといんダ」
カランが、にかっと笑った。
それは強がりかもしれないとニックは思った。
だがそれでも、ささくれたニックの心をときほぐした。
「……そうだな」
そして、それを見たヴィルマは自分を恥じた。
仲間のために怒りを露わにする冒険者だ。
厄介者扱いするのはやめよう。
「……冒険者を食い物にする連中がのさばってるのは、確かにギルドの怠慢だ。すまないね。カリオスって偽名の冒険者は探してる。まだ足取りは掴めちゃいないが顔や姿はある程度わかってる。それに竜王宝珠は有名な分、売りさばくのが難しい。いずれどこかで尻尾を出すはずさ」
「期待するからな」
「ああ……。で、パーティーの名前はどうするんだい?」
「……しまった、全然考えてなかったな」
「なんだいそりゃ」
ヴィルマが呆れて肩をすくめる。
だがそこに、カランが口を挟んだ。
「サバイバー、で良いんじゃ無いカ?」
「え、いや流石にそれは……」
ニックがためらうが、カランは楽しそうだった。
「ワタシは気に入っタ。しぶといってのは大事ダ」
「あー……みんなは、どうだ?」
ニックがティアーナとゼムを見る。
「カランが良いというなら構いませんわよ」
「ええ、悪くない名前かと」
「……それじゃ、これで行くか。オレ達は今日から【サバイバー】だ」
「ああ、わかったよ。それじゃ、名前の通り冒険に出ても生きて帰ってくるんだね」
「へっ、当たり前だ」
そして、この日から始まったのだ。
みっともなくともあがき続ける、生還者達の冒険が。
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