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人間不信の冒険者達が世界を救うようです  作者: 富士伸太
四章 落第生、深山幽谷の果てに単位を得る
138/146

VSウシワカ 4

※3/23コミックス発売、3/25書籍2巻発売しました!

ぜひともよろしくお願いします!




 そしてニックとカランは煌びやかな光に包まれた。

 暴力的なまでの光の量に全員が目を伏せる。


 光が静まる頃に二人の姿はなかった。

 そこに居たのは、一人の竜人族のような男の姿だった。


「なっ……なんだそれは……!?」


 ウシワカが、ニックたち……ニック/カランを見て驚愕していた。

 白銀に輝く麗しい鎧姿。

 精悍でありながら女にも見える輪郭。

 何よりも、その体に秘めた膨大な魔力に。


 そして、そこにいる誰も皆――魔物も、人間も、ニック/カランを見て感じた。

 これは美しいと。

 そして戦慄した。

 恐ろしく強いと。


「「出し惜しみできる状況でもなさそうだからな。本気出させてもらうぜ」」


 そう言って、ニック/カランは足元に転がる石を拾った。

 そこに軽く力を込めて、親指で弾き飛ばす。


 それは一直線の殺意となり、一匹のグレートオーガの耳を千切った。


「グアッ!?」

「これは……背中を見せられる状況でもなさそうだ」

「「そういうこった」」


 ウシワカの言う通り、グレートオーガたちは完全に萎縮している。ニック/カランにはまだまだ余裕がある。本気を出せば耳だけでは済まない。後ろを見せた瞬間に自分の頭か心臓が貫かれるイメージを強く抱いてしまった。


「しかし貴様、この迷宮の流儀を犯すとはふてぶてしい。それは魔術であろう」

「「《合体ユニオン》は攻撃魔術とは違う扱いらしいな、助かったぜ。つーかそもそもお互い様だろうが。お前こそなんで自由自在に武器を取り出せるんだよ」」


 ニックたちの合体した姿……ニック/カランは呆れたように言い返した。

 ウシワカはそれを鼻で笑う。


「ふん、そんなものは迷宮を作ったものに言うが良い」

「「だったらお互い文句は言いっこなしだ」」

「そうじゃな、戯れ言は言うまい……こちらも本気でやろうかのう!」


 ウシワカが、ちぎれた腕を伸ばす。

 すると、数十秒ほどでずるりと腕が再生した。

 六本の腕の関節を曲げ、伸ばし、関節の動きを確かめている。

 そして一番下の腕が印を組み、ぶつぶつと呪文を唱え始めた。


「《迷宮干渉ダンジョンコントロール:鬼剣招来》」


 その言葉と共に、六本の黒い剣がウシワカの足元に現れた。

 黒光りする刀身はあまりにも異様だ。

 まるで生きているかのように、ぬらぬらと複雑な輝きを放っている。


「「キズナ、あれはなんだ?」」

『迷宮にまつわる魔術じゃな。白仮面も似たような魔術を使っておったじゃろ』

「「そうだったっけ?」」

『ほら、あのめちゃめちゃ重くなる魔術じゃよ。あれは何も無いところに迷宮を生み出す魔術で、あやつが使っておるのは既存の迷宮を操作する魔術じゃ。剣を生み出すという機能にアクセスして、自分に都合の良い剣を作りだした……というところじゃ』

「「ずっるー」」


 ニック/カランがやってられないとばかりに呟く。

 ウシワカはそれを聞き、にやりと笑った。


「都合が良かった。ここは天の道。儂の望む武器が容易に手に入る」

「「ん? 武器を好きに作り出せるわけじゃないのか?」」

「ある程度は迷宮の流儀に習わねばならぬよ。もっとも、迷宮を作り出せるほどの腕前があるならば話は別だろうがな。して、良いのか? 雑談に興じていて」

「「そうだな……場所を変えよう」」

「む?」

「「別にこのままでも良いんだが、お互いリングアウトで決着ってのも寂しいだろ?」」


 ニック/カランが両手を広げる。

 眼下にはいかにも恐ろしげな山肌が広がっている。

 ウシワカもグレートオーガも難なく走るように下山していたが、このままぶつかり合いが激化すればどうなるかもわからない。


 これまでは地の利を知り尽くしたウシワカたちにとって有利だったが、ニック/カランの出現はウシワカに迷いを生じさせた。


「よし。者共、移動するぞ。貴様らも付いてこい」







 移動した先は六合目付近。

 ソードマンティスが陣取っていた場所だった。

 広々とした場所であり、派手に動いても事故になる可能性は低い。

 ニック/カランとウシワカは、まるで武芸者の決闘のように距離をおいて対峙している。


「なんだか妙なことになりましたね」

「あの……先生」

「なんです、ティアーナさん?」

「楽しそうですね」


 ベロッキオがわくわくを隠せずに、嬉しげな表情をほころばせていた。


「ここまでイレギュラーな状況に遭遇するとは思っていませんでしたからね」

「……まあ、そうですけど。黙っていてくださいね?」


 ティアーナが、なんとも名状しがたい複雑な顔をする。

 ベロッキオは微笑みつつ頷いた。


「それはもちろん。ああ、あなた方だから黙っている、というわけではありませんよ。上級の冒険者は何かしら隠し球を持っているものです。それを軽々と吹聴する冒険者は誰も味方してもらえません。一種の礼儀であり処世術ですね」

「もしかして、こういうことをできる冒険者ってけっこういるんですか?」

「まさか。ここまで強い古代魔術を使える冒険者はS級くらいのものでしょう。フィフスさんなど」

「よく名前聞きますけど、そんな凄いんですかね……? ただの食いしん坊にしか見えないんですが」

「ちょっとお二人さん。雑談なのか講義なのか知らないけど、そのくらいにしておいたら?」


 呆れた様子のスイセンがちくりと釘を刺した。

 ティアーナは慌てて口を閉じ、対決しようとしている二人を見つめた。







「「いくぞ」」


 ニック/カランが絆の剣を振りかぶった。

 そしてその瞬間、ウシワカが距離を詰めていた。

 嵐のような剣撃が繰り出される。

 それに対してニック/カランは、悠然とした動きで剣を受け止める。

 最小限の動きで大剣を操り、弾く。


「「じゃっ!」」


 ニック/カランが、横薙ぎに切り払った。

 まるで空気や空間さえも断ち割れたかのような剣の軌跡が、立ち会いを見る者の目に焼き付いた。


「……ふうぅ……背骨がぞわぞわする。今、呼吸できることが嬉しい。死ぬかと思ったぞ。これが恐怖か」


 距離を取ったウシワカが深く息を吸って、吐いた。


「「……そうだ」」

「面白いッ!」


 ウシワカが再び突進する。

 また同じ事が繰り返されるかと思いきや、ウシワカが何かを蹴り飛ばした。


「「小細工を……!」」

「小細工はそっちが散々やったことじゃろう!」


 ニック/カランに飛んできたのは、ソードマンティスの腕だ。

 鋭利な刃が回転しながら首元めがけて一直線に飛んで来る。


 それをニック/カランが叩き落とした瞬間、四方八方から剣が襲いかかってきた。

 六腕を伸ばしたウシワカが、人間の体では再現できない斬撃を放ってきたのだ。

 どれも完璧なタイミングで、大剣一本では到底防ぎきれない。


「取った!」


 ウシワカが、喜悦の表情を浮かべた。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] タイトルが3になってますけどおそらく4だと思います。
[気になる点] タイトル 重複してる?!
2020/05/09 07:23 退会済み
管理
[良い点] 秘密を守るのは処世術という言い分はいいですね。 ほとんどは守られるがどうしても守られない場合はあるといういい塩梅に治る感じに聞こえます
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