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人間不信の冒険者達が世界を救うようです  作者: 富士伸太
四章 落第生、深山幽谷の果てに単位を得る
137/146

VSウシワカ 3

※3/23コミックス発売、3/25書籍2巻発売しました!

ぜひともよろしくお願いします!




 山を駆け下りるグレートオーガの背中を、槍が貫いた。


「よっし!」


 スイセンが、まるで城壁に備え付けた弩弓のような勢いで槍を投擲したのだ。


 しかもグレートオーガを貫いたあと槍の着弾場所が、まるで爆発を起こしたかのような様相を呈していた。槍の穂先に込められた魔術が命中と共に解放された結果だ。しかしそれでもウシワカたち魔物の群れは一向に足を緩めることなく下山していく。


「ニックさん! 私とスイセンさんはここから狙います!」

「わかった、俺達はこのまま追う! 援護はそのまま頼む!」


 山道は真っ直ぐの一直線ではない。曲がりくねりながらゆるやかな傾斜で麓へと続いている。山頂から中腹までは木々もまばらであり、上から狙い打つことはそう難しくはなかった。だが、ウシワカたちの速さは想像以上だ。勝手知ったる庭であるわけで当然とも言えたが、ニックの心に焦燥が募る。


「ヴィルマが気付いてくれてりゃ良いんだが……」

「あの人って年齢も年齢でしょ。あの鬼の群れには流石に……」


 ティアーナがニックの呟きに反論する。


「食い止めるくらいはできると思う。元Aランクの冒険者だからな」

「え、そうなの? じゃあ……」

「ただ安心はできねえ」


 ニックが安堵しかけたティアーナに警戒を促す。


「ここから中腹くらいまでの山道は一本道だが、他に魔物だけが通れるルートがあるかもしれねえ。俺達の知らないルートで人里を目指す可能性もある。麓に行けば行くほど行動の選択肢は増えるんだ」

「……ああ、そうか、人間じゃないんだから、人間らしいルートを取る必要もないわけね」

「せめて中腹あたりで勝負を決められると良いんだが……まずいな」


 そこでニックが、カランとキズナをちらりと見る。


「……あれ、やるのカ?」

「マジかおぬし」


 カランとキズナが意図を汲み、その上で疑問を呈した。


「そうだ。スイセンがやったみたいに、槍を投げろ。俺がそれに掴まって飛ぶ。ついでにキズナも連れてく」

「う、上手く行くかナ……」

「ここから投げるならちょっとくらい狙いがそれても大丈夫だ。どっかの斜面には当たる。崖から転げ落ちるってこたぁねえ」

「う、ウン」

「待て待て待て、我は良いと言っておらんぞ」

「そこは観念しろ」


 ニックがキズナの首根っこをひっ捕まえると、キズナは借りてきた猫のように背中を丸めた。


「仕方ないのう……こういうときばかりネジが吹っ飛びおって」

「良いから行くぞ!」


 カランが、周辺に生えているものでもっとも大きな槍を拾い、スイセンと同じように構えた。柄の先の方をニックが強く握る。


「……二人分なのに軽すぎて気持ち悪イ」

「《軽身》使ってても俺とキズナで合わせて30キロくらいのウェイトだ、軽いってこたぁないだろう」

「そうだけド、見た目とのギャップがひどイ……まあ良いヤ。行くゾ!」


 カランが思い切り力を込めて、一切の遠慮無く槍を投擲した。

 冗談のようにニックとキズナが飛んでいく。


「うわああああ!! やっぱこれめちゃめちゃ怖いんじゃが!!」

「うるせえ舌噛むぞ!」


 槍は思った以上に狙った方向へと飛んだ。

 グレートオーガではなく、ウシワカの背中へ一直線のコースを辿っていた。


「なっ……何をしておるか貴様ら……!?」

「うるせえ人の事を言えた口か!」


 ウシワカの体を槍が貫く事はなかった。だがそれでも避けきれず、四本の内の一本を犠牲にしていた。確実にダメージを与えていることにニックは安堵する。


 だが飛ばされたニックもキズナも決して無傷ではなかった。というより、こんな無茶苦茶な方法で飛ばされてダメージを負わない方がおかしいとさえ言える。昏倒気味のニックを守るように、キズナが精妙な剣を振るい、グレートオーガの接近を許さなかった。


「馬鹿者! さっさと復帰するのじゃ!」

「いってて……三十秒稼げ。呼吸を整える」

「だから無茶苦茶だと言ったろうに!」

「良いから頼む。お前ならできる」

「仕方ないのう……!」


 キズナが分身した。

 得意とする魔術、並列パラレルだ。


「ぬうっ!?」


 ウシワカの複椀の利点。


 その真価は防御力に発揮される。怒濤の連撃はいかにも恐ろしい。だがウシワカの体は一つだ。距離を取ってしまえば連撃から逃れることはできる。また、攻撃の最中も伸びきった腕を狙うのは必ずしも難しくはない。


 だが、守備に徹して動かれるとこれほど面倒なものはない。ニック一人でウシワカの鉄壁の防御をかいくぐって攻撃することは不可能だった。


 その防御を突破するもっともシンプルな解決方法は、人海戦術だ。


「そりゃそりゃ!」

「こっちじゃこっち!」

「上から二番目の脇ががら空きじゃぞ」


 三体に分身したキズナがウシワカを囲む。攻撃が届くか否かという嫌らしい距離を保ちながら、少しでも動き出した瞬間に合わせて剣を振るう。ウシワカの腕に、僅かな切り傷が増えていく。膠着状態が続く。


「舐めるなァ!」

「ぐわっ!?」


 だが、ウシワカが気合とともに手にする剣を大地に突き刺した。

 ウシワカを中心に凄まじい爆風が吹き荒れた。


「ぬおっ……流石にムリじゃこれ!」


 キズナの分身の二体が消え、本体のみが残った。


「大丈夫だ! 剣に戻れ!」

「うむ!」


 キズナがバックステップして宙返りする。

 そしてきらりと輝き、人間体から聖剣の姿へと戻った。


「なるほど、魔剣であったか……いや、名のある聖剣か?」

「お前と違っておしゃべりは嫌いなんだよ!」


 ニックが、剣の状態のキズナを振るう。


「なら返事などせんことだな……喝ッ!」


 ウシワカの上半身が大きく膨らんだかと思うと、凄まじい声量の声が響き渡った。

 耳や頭が痛むを超えて、体全体が痺れるような衝撃がニックの体を襲った。


「悪いが貴様らのような連中が攻めてきたとなると流石に儂も不利じゃ。もう少し腕を上げたらまた遊ぼうぞ!」

「くっ……!」


 そして今度は、ウシワカの腕がまるで蛸のように伸びていく。

 手当たりしだいに転がっている剣や槍を拾い、ニックたちに投げつけてきた。


「さっきはよくもやってくれたのう! お返しじゃ!」


 ウシワカがあらぬ方向に槍を投擲した……とニックは思った。

 だがそこには、後方で援護してくれているベロッキオたちの場所だ。


「くっ……! なんだこりゃ……!?」


 これまで牽制してくれていたベロッキオたちの手が止まった。

 あちらも防戦に手一杯となった。

 しかも、グレートオーガたちもウシワカ同様に武器を投擲している。


「あんなのアリかよ!?」


 更に悪いことが起きた。

 槍の残弾が途切れない。

 ニックがよく見れば、ウシワカの足元に即座に槍が生えている。

 まるで時間を早めたかのような有様だ。


『あれは魔族特有の魔術じゃな。おそらく迷宮の機能に干渉しておるぞ』

「魔術は使えないんじゃねえのかよ!」

『それは侵入者側に適用されるものじゃ。ここの支配者ともなれば違うのじゃろう』

「くっそ……!」


 ウシワカは投擲をしながらも、じりじりと後退していく。

 このまま時間を稼がれては、確実に逃す。

 ニックはこのとき、思考の罠に嵌った。

 目の前の戦闘よりも、長期的な展望に注意が削がれた。


「よそ見するなバカ!」


 そこにカランが割って入り、ニックめがけて投げつけられた槍を防いだ。


「カラン……よく来れたな……!?」


 気付けばカランは、満身創痍だ。

 自分の頑健さを頼りに、無茶な突撃をしてきたことが見て取れた。


「ハァ……ハァ……」


 肩で息をしている。

 体のそこかしこから血を流している。

 褒めて、休ませてやりたい。

 その思いを、ニックはぐっと堪えた。


「……すまねえ。だがもう少しだけ無茶に付き合ってくれ」

「やるんだナ」


 何をやるのか、それは言う必要はなかった。

 絆の剣の鍔元が、強く輝き出す。


「「《合体ユニオン》!!」」




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[一言] 続き楽しみです 頑張ってください
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