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人間不信の冒険者達が世界を救うようです  作者: 富士伸太
四章 落第生、深山幽谷の果てに単位を得る
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VSウシワカ 2

※3/23コミックス発売、3/25書籍2巻発売しました!

ぜひともよろしくお願いします!



 ニックはもはや反撃する余裕さえなく、必死に回避に専念している。


「どうしたどうした、さっきまでの威勢は! この程度か!」

「くっ……!」


 惑わされるな。


 ニックは窮地に陥る瞬間、師匠の言葉を思い出す。流石に今この瞬間に腕を生やしたのはぎょっとしたが、似たような魔物がいないわけではない。Cランクの迷宮には腕を複数持っている鬼系の魔物や、あるいはゴーレムなども存在している。どれも強敵だ。だが、ニックの師匠であるアルガスは冷静に対処していた。


 ああいうのは何も無敵じゃねえ。

 いかにも攻撃範囲も手数も多いように見える。


「だが……目は二つ、頭は一つしかねえ。剣を握る指は二十本に増えた。肘や肩の関節の動きの幅は狭くなる。強みが増えるってことは弱みも増えるってことだ」


 ニックは、自分に斬りかかるウシワカを冷静な目で見つめていた。斬撃をかいくぐり、刺突を避け、ほんの僅かな隙を突いて伸びきった腕を短剣で狙う。ニックの精妙かつ執拗な動きに、ウシワカも舌を巻いた。


「面白い! よく恐れず立ち向かってくるものよ!」

「うるせっ……息が切れる……!」


 だがどれだけ隙を突いても、魔物の体力と手数にニックは押されていた。

 ニックの欠点は、相手を攻め切れないことだ。新たな技術、奇門遁甲ステッピングを覚えて十分な力を得たが、それはまだ本物の怪物に通用するほどではない。ニックは目の前の敵を見てそれを痛感していた。


「あいつ、あのときどうやって白仮面を倒したんだろうな……」

「独り言とは余裕があるものだな。だがそんな調子で良いのか?」

「あー、ちょっと相談タイム良いか」

「良いぞ」


 えっ、という声がニックの口から漏れた。


「勝算があるならばやってみるが良い。そもそも後ろの連中は何故ずっと見ている。来ても良いのだぞ?」


 ウシワカのさも不思議そうな声に、逆にサバイバーの方が混乱した。

 このように理性的な魔物には、滅多にお目に掛かることはない。


「確かにそれはそうですが、なぜ二人は決闘みたいなことをしてるんですか」


 だがベロッキオは、ウシワカ以上にとぼけた様子で尋ねた。

 それを見たウシワカが、くっくとおかしそうに笑う。


「興が乗ったからだな……。ふむ、やはりニンゲンとの会話は面白い。手下どもはどうも会話の機微に鈍感でな」

「普通の魔物はそうでしょうな」


 ニックが呆れて溜め息をつく。


「ベロッキオさんよ、あんたもとぼけた会話してないで助けてくれよ」

「失敬。様子見に丁度良いと思いましてね。向こうも配下を動かす様子もありませんし」

「それがお好みならそうするが?」

「勘弁しろよ……普通はここ、グレートオーガ一匹なんだぜ。どんだけハードル上げるつもりだよ」

「なるほど、儂が生まれる前に攻略はしているわけか。ならば子分どもに鬱憤を晴らさせてやらねばならんな」

「やべ、藪蛇だ」

「者共、行け!」


 そのウシワカの一言で、控えていたオーガたちが一斉に立ち上がった。







 グレートオーガたちが冒険者たちの元へ襲いかかった。知能が高いと言えどもオーガは闘争本能も強い。しかもここには武器が潤沢にある。おそらく自分らで拾ったであろう長剣や槍といった思い思いの武器を携えている。


「だらあっ!」


 前衛と前衛がぶつかった。


 カラン、キズナ、そしてマーカスが初めてと思えないほどの連携を見せる。膂力だけで言えばグレートオーガの方が格上であり、数で言っても敵の方が上回る。流石のカランたちも、オーガたちの猛攻を受けて劣勢に立たされていた。それぞれが手にしているものが使い慣れない武器だ。攻撃を凌いでいるだけでも十分に及第点だ。だがここで求められているのは及第点ではなく勝利である。そしてそれは、個々人の勝利ではない。チームの勝利だ。


「スイセンさん、これを!」

「任せなさい!」


 スイセンが、ベロッキオから武器を受け取った。ベロッキオが魔力を込めた槍だ。槍の穂先から閃光が迸っている。以前はこれを投げ槍として使ったが、今回はまた違った。


「うおおおおっ!」


 スイセンが、槍を構えて真っ直ぐに突撃した。

 先端がグレートオーガを突いた瞬間、凄まじい爆発が巻き起こる。


「……ガハッ」


 爆発が静まると、遥か後方、胸に風穴の空いたグレートオーガが倒れ伏していた。

 そして呆気に取られているグレートオーガに、ティアーナの撃ち出すチャクラムが襲いかかる。ウィリーもまた、魔導剣を駆使してグレートオーガを牽制する。


「鬱憤は晴れたか?」


 ニックはウシワカの攻撃を必死に避けつつ、劣勢に立たされているグレートオーガの群れを指で示した。軽い挑発のつもりだ。


「中々やるではないか」


 だが、ウシワカの方は一切の動揺が見られなかった。

 むしろ賛辞の言葉も皮肉ではなく本音のようにさえニックは感じた。


「自分一人でも十分って顔だな」

「戦力で言えばそうだろう。愚かでか弱い、だが可愛い弟分どもだ。このまま倒されていくのも忍びない……さて」


 ウシワカはそう言って、さっと手を上げた。


「全員後退!」


 そしてその言葉を契機に、グレートオーガたちが陣形を組んだ。

 五人ほどが固まって突進し、その後ろにも他のグレートオーガが続いている。

 思わずその突進の圧力にスイセンもカランも抗いきれず、弾き飛ばされた。


「……え?」


 ありえない。

 そんな考えが全員の頭をよぎった。


「はっはっは! もう少し遊んでやりたかったところだがすまぬな!」

「まっ、待て! おい! 嘘だろ!?」


 ウシワカが驚くほどの跳躍力を見せて、【サバイバー】や【ワンダラー】の頭上を軽々と超えていく。


 明らかに異常事態だった。魔物が人間を前にして逃げるなどありえない。人間を襲うのは魔物にとって本能のようなものだ。むしろ、人間や生物の感じるような食欲や睡眠欲よりも苛烈とさえ言える。


「まずいですね。ウシワカは目先の戦意や欲求よりも、全体としての戦力維持を優先しました。迷宮の外で戦力を維持する手筈を整えているのかもしれません」


 ベロッキオは今までになく渋い顔をしていた。


「それは……暴走スタンピードか」

「間違いないでしょう」


 ニックの問いかけに、ベロッキオがしかと頷く。


 暴走スタンピードとは、魔物の群れが迷宮の外へ出てそのまま集団行動することである。当然、魔物の狙いは人間だ。水や食料ではなく純粋な闘争や殺戮を求める。迷宮都市ならば十分な防備があるが、それ以外の小さな村々ならば、比喩ではなく言葉とおり焦土と化してもおかしくはない。


「追うぞ!」





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― 新着の感想 ―
[良い点] 緊迫感あふれる展開…! 相変わらず見事な描写です。 [気になる点] でも最後の誤字で台無しですがな! まあ、割とよくあることですよね。
[一言] 一番最後の負うぞは追うぞではないですか?
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