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人間不信の冒険者達が世界を救うようです  作者: 富士伸太
四章 落第生、深山幽谷の果てに単位を得る
135/146

VSウシワカ

※3/23コミックス発売、3/25書籍2巻発売です。

ぜひともよろしくお願いします!




 本来のグレートオーガは、青い肌をした鬼だ。


 オーガの進化した姿だが、実はオーガより一回りほど体が小さい。体格に恵まれた人間と同程度といったところだ。だがその恐ろしさはオーガの比ではない。オーガを超える腕力、ずば抜けた敏捷性、そして千剣峰に転がっている武器を使いこなす技量。その強さから放たれるカリスマと統率力。純粋にスペックが高い。得意とする魔術やオーガのみに使える特殊技能といった個性はないが、個性を逆手に取った攻略法もない。それに相対する冒険者の方も、純粋なスペックの高さが要求される。


 だが、今ここに佇んでいるのは更に進化した名付きの魔物。


 討伐対象『ウシワカ』だった。


「ふしゅうぅ……」


 ウシワカは腕を組みながら大地を踏みしめてまっすぐに立ち、山頂に集った八人の冒険者を睥睨している。着流しのような服を身に着け、その腰には小ぶりな片手剣を佩いていた。まさに武人の佇まいであり、その佇まい以上に端正な顔立ちをしていた。また、その畏怖と美に満ちた佇まいの後ろには、忠実な家臣のように五体のグレートオーガが付き従っている。


 全員がそれを一目見て戦慄を覚えた。

 美しい鬼は、強い。


「魔物なのに服きてるゾ」

「思念外装のようなものじゃな。高位の魔物となると自分の魔力で衣服を編み出せる。おそらく防刃性も高いぞ」


 カランの疑問にキズナが答えた。


「おや、博識ですね。思念鎧装など中々知りませんよ?」


 ベロッキオが感心したように言った。


 【サバイバー】が山頂に足を踏み入れると同時に、【ワンダラー】もまたほぼ同時に辿り着いていたのだった。


「お、おっと、そうかの? それよりもアレじゃアレ。あのウシワカだかベンケイだかの相手の方が大事じゃ」


 キズナがごまかすようにウシワカを指差した。

 全員がその魔物の気配を、強者の気配をびりびりと感じていた。


「ふん、人数が集まれば倒せるとでも思ったか」


 ウシワカが、つまらなさそうに吐き捨てた。

 そして足元にあった何かを蹴飛ばす。


「それは……」


 からりと音を立ててニックたちのもとに転がってきたのは、骨だ。

 紛れもない人骨だった。

 目の前の眉目秀麗な存在が鬼であることを物語っている。

 人を食った証だ。


「骨のない連中ばかりだった……いや、ないわけではないな?」


 ウシワカが、自分の言葉に首をひねる。

 冗談を言ったと言うよりも、表現そのものに疑問を覚えている、そんな素振りだった。


「正しくは、骨の弱い連中ばかりだった……というところかの。貴様らはどうだ?」


 ウシワカが値踏みするように、この場にいる冒険者たちを眺める。

 それにつられて


「ベロッキオさんよ」

「なんでしょうニックさん」

「一時休戦だ。ありゃグレートオーガどころの話じゃねえな」

「賛成です。勝負は忘れなければ不覚を取りかねません」

「話が違うぜ、まったく……上級冒険者が相手するクラスじゃないかアレは」


 びりびりとした緊張感が広がる。

 言わずとも全員勝負のことなど忘れているだろう。それだけの圧力がウシワカにはあった。恐らく冒険者ギルドが把握している以上に強い。


「キズナ、ゼム。最悪アレをやるぞ」


 キズナとゼムが小さく頷く。

 それをウシワカがつまらなさそうに眺めていた。


「おい、相談は終わったか? 優しく食ってやるからさっさと来るがよい」

「……なあお前、他にはないのか?」

「他?」

「鎧か服か、どっちかにタグがついてたはずだ。迷宮都市の冒険者なら名前が縫われてる。持って帰ってやんねえとな。もし家族が居たら武具も渡しておきたい」


 ニックの言葉を聞いたウシワカは、くっくと忍び笑いをもらした。

 忍び笑いはやがて隠さない笑いとなった。


「かっはっはっは! ここまで来て生きて帰るつもりだったか、痴れ者よ!」

「おうよ、人生恥だらけだ」

「無礼者め! だが貴様はさぞ美味いだろうな!」


 ウシワカの怒号が、戦闘のはじまりの合図だった。







 舞いを舞っているのかと全員が思った。それほどに美しい所作だった。片手剣をすらりと抜き、天に掲げ、ゆらりと足を踏み出す。


「ぐっ……!」


 その瞬間、ニックがウシワカの剣を受け止めていた。


「ぬぅ? 奇妙な手応えよな。見た目以上に重い」

「さあて、どうだろうな!」


 ウシワカの剣を受けながらニックは蹴りを放った。


「ちいっ!」


 思わぬ圧力にウシワカが引き下がる。

 威力に押されたというよりも、奇妙な手応えを警戒したのだ。


「ふむ……人間は奇妙な技を使う。そこは素直に敬意を払おう」

「なら降参してくれ」

「儂は許しを請う人間を見逃したことはなかった。他の魔物もそのはずじゃ。ならば、そなたらもそうせよ。やれるものならばな!」


 その瞬間、ウシワカがどこからかもう一本の刀を持ちだし、二刀流となった。


「くっ……!」


 一本の刀を振るうときと一切変わらない速度と力でニックに襲いかかる。ニックは短剣で凌ぐが、すぐに刃こぼれして見るも無惨な状態となった。


「ふむ、二刀でも十分対応するか」

「なんだ今のは……? どこから出した……?」

「さあてな。そちらも種明かしをしてくれれば考えるが……」

「するわけねえだろ!」


 ニックが短剣を捨てた……かに見せかけ、落下する短剣を蹴った。ウシワカも予想外だったのか、避けきれずに頬に一筋の傷を作る。つうと血が頬を伝った。

 ウシワカはその血を拭い、しげしげと自分の手を見つめる。


「こんな攻撃を食らったのは初めてだぞ」

「俺もまともに当てたのは初めてだ」

「ふざけるな!」


 秀麗な顔が怒りに染まった。

 ウシワカはびりびりと空気が震えるような怒気を撒き散らす。

 さぞ恐ろしい攻撃が来るだろう、ニックはそう思い、気を引き締める。

 だがそれでも、ごく最近の修羅場ほどのプレッシャーは無い。

 白仮面と相対したときほどには。

 十分対応できるはずだ。

 ニックは自分に言い聞かせる。


「……いや、様子見してやろうと思った儂が悪かったな」


 だが、肩透かしのようにウシワカが溜め息をついた。

 首や肩を回し、リラックスするように関節をほぐしている。


「お前……俺が憎くないのか?」

「ふむ……魔物としての敵意や使命感は感じるが、憎悪なのかはよくわからんな。そもそも初対面であろうし儂もそなたを舐めていた。お互い様ではないか?」


 人間味がある。

 ニックはそう感じた。

 話がわかる奴だ……とは思わない。それは魔物として人殺しを辞めてくれるという交渉の余地を意味するわけではない。自分の心に湧き出る感情を制御する冷静さがあるということは、それだけ強いこと、脅威であることの証左だった。


「できればもう少し組み手といきたいところだが、生娘の逢瀬でもあるまい。惜しむことなく披露しよう」


 ウシワカは自分の血をすくい取り、紅を差すように唇に塗りつけた。

 妖しい美貌に微笑みを向けられ、ニックの背中に怖気が走る。

 だがそれ以上に奇怪な様相をウシワカは見せていた。

 両手で自分の顔や髪を整えている横で、背中から生えた三本目と四本目の腕が剣を構えた。


「……さっきの攻撃は、それか」

「奇襲に使うのも悪くないのだが、どうも勘づかれていては逆手に取られかねんしな」


 そしてグレートオーガがウシワカの元に駆け寄り、うやうやしく剣を渡した。

 四本の剣を構えた威風堂々たる姿は、普段の冒険者が相手をする魔物とは一線を画していた。ニックも、懐に隠していたもう一本の短剣を構える。


「しゃあ!」

「うおっ!?」


 怒濤の連撃が襲いかかった。


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