番外編 キズナのスクラップブック
以前、「QRコードからアンケートサイトに行くとこぼれ話(SS)を読める」
というアナウンスをしたのですが、私の確認漏れが一つありました。
kindle等の電子書籍版にはアンケートサイトへ行くためのQRコードがなく
見られない仕様となっています。
電書で買った方々(特にこぼれ話を読みたいという人)、申し訳ございませんorz
ですので、お詫びを兼ねてキズナがメインの番外編を投下しようと思います。
こぼれ話とは内容は違いますが、楽しんでもらえると嬉しいです。
それと今日は活動報告にアゲートのキャラクターデザインをアップしました。
~ 番外編 キズナのスクラップブック ~
迷宮都市は木が多い。
五輪連山の麓の林や、小鬼林の北側の迷宮化していない通常の林など、良質な材木となる木々を手近な場所から手に入るからだ。魔物の少ない場所では植林も盛んに行われている。そのため都市では木を利用した建物が多く、また建材以外でも木を原材料とする製品も市場に流れている。その中でも特徴的なのは、紙だ。
迷宮都市とは交易都市でもある。人、物、そして情報が行き交うにぎやかな街だ。南部の海沿いからは海産物や塩が取れ、それを北部の鉱山都市からやってくる鉄と交換する。魔物の素材を加工した魔道具や武具は西の王都へと運ばれ、王都からは鉄以外の金属や異国からの希少な交易品が運ばれる。交易商人は毎日毎日飽きもせず、鉄や塩、木の値段の動きに釘付けだ。
「だから経済新聞は売れるんだ。印刷所の人間は毎日毎日インクまみれになって機械を回してるんだとよ」
キズナはそんなニックの世間話を、耳に入れつつ頭にはあまり入れなかった。
「あー、良い良い。あまり興味ないのじゃ」
「そうなのか? お前、本好きだからこういうのも好きかと思ったが」
「まあ嫌いというわけではないのじゃが、我の計算能力や分析能力は株や先物に使ってはいかんのじゃ」
「なるほどな。悪用しようと思えば幾らでもできちまうわけだ」
「言っておくが、我に助言を請うておぬしが先物買いするような行為もダメじゃぞ」
「……正直、ちらっと考えちまったな。まあ止めとくわ。悪目立ちして良いことなんざねえしな」
「そうするが良かろう。ちなみにティアーナに競竜新聞や競竜年鑑のデータ分析をお願いされたが断っておるぞ」
「あいつ何やってんだ」
「なんでも競竜新聞の記者に気に入られて、バックナンバーを安く譲ってもらったそうじゃ」
「あいつの部屋も物が溢れてるよな……。ハウスメイド雇って掃除させた方が良いんじゃないか」
「趣味人じゃからのう。他人のことはおぬしも言えんじゃろう?」
「ま、そうだけどな。しかし経済新聞に用がないならお前、何してるんだ?」
キズナは凄まじい速度で新聞をめくっていた。
過去のバックナンバーをどこからか借りてきたらしく、箱いっぱいに入っているものすべてに目を通すようだ。
「スキャンして保管しておる。付録の漫画が目当てじゃが、せっかくじゃから記事自体も記録しておこうと思ってな」
「子供か」
「子供じゃないわい! こういう文化保全は大事なんじゃぞ。紙は燃えてなくなるし、石版なども永遠にあるように見えるが写し取っているうちにほんの少しずつ摩耗する。いつどうなるかわからぬものじゃ。それに我が個人的に楽しむだけで流通させるつもりなどないしの」
「ま、何か面白い記事でもあったら教えてくれ」
「そのくらいは良かろう。ここの都市も納本制度くらい作れば良いものを……うむ?」
キズナは、とある記事に目を留めていぶかしげな声を出した。
自分にとって興味深いのではない。
おそらくニックが興味が惹かれるだろうと思ってのことだ。
「何かあったか?」
「……芸能欄に吟遊詩人のスキャンダルが」
「それは良い、聞きたくない」
「いや、なんでも元カレに貢いでた疑惑があるとか……」
「だから聞きたくねえってーの!」
「わ、悪かった。そう怒らんでも良かろう」
「吟遊詩人のプライベートは聞かないことがマナーだ。ていうか一応そのスキャンダルは知ってる」
「聞かないフリするんじゃろ?」
「興味はあるからその手の情報も一応触れておく……が、その上で知らない顔をするんだ。吟遊詩人の顔をしているときにプライベートの話題を出すとかはご法度だ」
「ややこしい精神構造じゃのう……おや?」
「また吟遊詩人絡みか。いらんいらん」
「そういうわけじゃないんじゃが……ま、良いかのう」
キズナが注目した記事は、つい先月の記事だった。
それは最近、建設放棄区域が綺麗になったという希望ある記事である。なんでもそこに出入りしている冒険者が不埒なポン引きを追い出したり疫病の発生を抑えたりと八面六臂の活躍をし、住民たちが冒険者に少しずつ感化され始めた……と書かれていた。その発端となったパーティー名は記載されていない。だが当然、キズナにはわかる。間違いなくゼム、そして【サバイバー】の行動の結果だ。
「おっと、そういえばゼムと飲みに行く約束してたんだった。ちょっと出かけてくる」
「……あまり誘われるがまま変な店に行くものでないぞ」
「そんなに怪しげじゃねえよ。こないだは獣人向けで……今回は」
「今回は?」
「破門神官向けバーだ」
「どうやってそんなマニアックな店見つけてくるのじゃ」
「オレだってわからねえよ……」
「仕方ない奴らじゃのう、おぬしらも意外と社会的名誉があると言うのに……」
「ん? 何か言ったか?」
「なんでもない、おぬしらはそれで良いとも」
「変なこと言うやつだな」
そう言ってニックは身支度を整え、宿の部屋を後にした。
キズナはニックを見送った後は再び新聞記事の分析に戻った。
そして【サバイバー】の活躍を振り返り、一人ほくそ笑むのだった。
「そういえば、カジノのときも謎のパラディンが現れたとか評判になっておったのう。この記事も……あったあった。これも大事に保存しておくのじゃ」