師との再会 5
いつもご愛読ありがとうございます。
宣伝がうるさくてすみません。
今日はイラスト・デザインの解説を。
ご存じの通り黒井ススム先生に素敵なイラストを描いて頂きました。表紙はご覧の通りで、中の挿絵については追放パートの曇った顔や欲求を爆発させる顔、キリッと大人びて格好良い顔、欲望を前科いにしてる顔と、それぞれのキャラクターの百面相をお楽しみ頂ける形になっています。
というか表紙で爽やか&明るいということで、前編パートではけっこう苦み走っています。人間の苦しい(ときに頑張る)顔はとても美しいと思います。後半は後半でとても格好良い絵が待ち構えています。
目次や章表記なども、デザイナーさんに素晴らしいものを描いて頂きました。本編を通しで読むと意味がわかるエムブレムを配しています。これも大変素敵なので、実際に手に取って確かめてもらえると幸いです。さらに都市周辺の地図も描いてもらっちゃいました。
また、活動報告の方でキャラデザ資料(ティアーナ、ゼム、カラン)と特典情報を公開しています。特典については数に限りがありますので、お早めにお買い求め頂くと嬉しいです。というか色んな理由でお早めに買って頂けると嬉しいです。明日はニックの分を公開するので、ぜひそちらも御覧ください。
以上、宣伝でした。次回は23日に更新します。
それでは本編をどうぞ。
勝負の細かいところを詰め切ったあたりで、ヴィルマが話を纏めに掛かった。
「日取りは一週間後の早朝。千剣峰を2パーティー同時に攻略開始する。その山頂にいる魔物、ウシワカを先に倒した方が勝利だ。パーティー編成はこの場にいる人間のみ。これ以上の助っ人は認めない。道具類の使用は可能。パーティー対パーティーの戦闘は禁止だ。何か質問は?」
「先に別の冒険者パーティーに倒されるってこともあるんじゃないか?」
ニックの質問に、ヴィルマが頷く。
「万が一そうなったらこっちの責任で仕切り直すよ。けど多分大丈夫さ。D級以上の冒険者は別の迷宮の攻略を指示されてるからね」
「……どっかの迷宮で暴走でも起きたのか?」
「ああ。攻略中のパーティーからの情報だと二週間くらいで沈静化するらしいけどね。そんなわけで中堅どころが忙しい時期に名付きの魔物が現れて困ってたから、こっちとしては丁度よかったのさ」
「同じタイミングで山頂について、同じタイミングでボスと戦うことになったらどうするのよ。ていうか、同じルートを辿るなら常にバッティングするんじゃないの?」
ティアーナがヴィルマに問いかける。
「問題無いよ。千剣峰は幾つかの山道に別れてる。途中合流するポイントはあるけれど、ずっと一緒ってこたぁないだろう」
「で、ボスのウシワカって方は?」
「そりゃとどめを刺した方が勝ちに決まってるじゃないのさ」
「同時に魔術を放って倒れたとか、そういう場合は?」
「魔術で倒れる? そりゃありえないよ。直接の斬り合いならまったく同時ってことは考えにくいだろう。もし判断が分かれる事態が起きたときは仕切り直しだね」
「へ?」
ヴィルマの言葉の意図がわからず、ティアーナは首をひねった。
その疑問にニックが答えた。
「……千剣峰は、魔術が使用できねえんだ」
「え。もしかしてまた避雷針があるとかじゃ……」
「もっとひどい。魔術そのものの発動が難しい。ま、戻ったら詳しく話す」
「え、ちょ、ちょっと!?」
ティアーナが歯ぎしりしそうな顔をするが、ニックはどうどうと宥める。
そこに、ベロッキオが声を掛けた。
「ティアーナさん」
「あ、は、はい。師匠」
ベロッキオは口を開き、何か言おうとしたところで首を横に振った。
「……いや、なんでもありません」
「あ、あのー?」
ティアーナの疑問を余所に、ベロッキオは誤魔化すように咳払いをする。
「ともかく、魔術師にとっては一種のハードルのような迷宮のようですね。正々堂々、勝負と行きましょう」
そして、無難な挨拶のような言葉を紡いだ。
ティアーナは何かメッセージの気配を察しつつも、今言うべき言葉を静かに返した。
「わかりました。……師匠といえど、負けません」
ベロッキオは、ティアーナを見て静かに頷いた。
その二人の間には、勝負と言えど一種の敬意のようなものが行き交っていた。
その一方で、スイセンとカランはばちばちと睨み合っている。ティアーナたちとは違い、早くも勝負を始めてしまいそうな気配だった。
「……まだ勝負は先よ。覚悟しておきなさい」
「覚悟するのはそっちダ」
「ふん!」
「そこまでにしておきな。それじゃ、今日はここで解散だ。一週間後に備えることだね」
ヴィルマの言葉によって、この場は解散となった。
◆
【サバイバー】の面々は再びティアーナのアパートに戻った。
ニック以外の四人がテーブルにつき、ニックだけが立っている。作戦を立てるときのいつものポジションだ。
「それでニック。魔術が使えないっていうのはどういうことよ?」
「簡単だ。迷宮全体に魔術封じの結界が張られてる。火焔鳥峰は水属性だけが弱まるが、千剣峰は攻撃魔術全部が使えないと思ってくれ」
「……本当?」
「残念だが本当だ」
ティアーナの愕然とした言葉に、ニックは端的に答えた。
魔術封じの結界とはその名の通り、魔術の一切を封じる結界だ。ほんの少しでも体の外に魔力を放てば、雲散霧消して魔術の形をなさない。遺跡や高レベルの迷宮などでたまに見かけられるものだった。
「ま、まあ、そのかわり魔物も魔術は使わないぞ」
「そうでしょうね……はぁ」
ティアーナががくりと肩を落とす。
それを見ていたカランも、何か思い当たったようにいぶかしげな声を出した。
「なあニック……もしかして、ブレスも無理なのカ?」
「そうだな。魔術も、種族特性による特技も、見境無くブロックされる。魔力を外に出すって行為がダメらしい。効果があるのは手で触れて発動するような魔術か、自己を強化するような魔術だけだ」
「ずっるー。またゼムとニックの独壇場じゃない」
ティアーナの刺々しい視線を受けてニックは苦笑する。
他にもまだまだ耳の痛くなるような話があるからだ。
「カラン、竜骨剣は使えないと思え」
「ん? 加護がなくても剣は要るだロ?」
「剣はある。迷宮の中に」
「……どういうことダ?」
「千剣峰は、何故かそこかしこに槍とか剣とかが生えてるんだよ。迷宮の中だけで」
ニックの説明に、全員がぽかんとした顔をしていた。
「いやいやニックさん。そんな道端にリンゴの木が生えてるみたいなこと言われても」
「いやマジなんだよ! 本当に地面からにょきにょき生えてるんだ!」
「あ」
そこに、キズナが何か思い当たったような声を出した。
「ん? お前は何か知ってるのか」
「千剣峰という名前は知らぬが……昔、そういう訓練場の建設計画があったというのは聞いたことがあるの。もしかしたらそうした訓練場が迷宮化したのかもしれぬ」
「へぇ……」
「確かそこでは、訓練場内の武器しか通用しない設定じゃったはずじゃの。武器による優劣をなくして純粋に技量を高めるための場所として作られるはずじゃった」
「そうそう、そんな感じだな」
ニックが頷くのを見たカランが、ティアーナと似たような絶望的な顔になった。
「竜骨剣が……使えなイ?」
「そうだ。まあまったく使えなくはないんだが、千剣峰に出てくる魔物に一番有効なのは千剣峰に落ちてる武器だ」
あっけにとられたティアーナとカランに変わって、ゼムが口を開いた。
「つまり……僕たちは千剣峰に入り、千剣峰で武器を拾い、千剣峰の魔物を倒す。それが前衛職であろうと後衛職であろうと同じように千剣峰のルールに則らねばならない。そういうわけですね?」
「そうだ」
「それじゃ私たちが不利……ってわけでもないか」
ティアーナが自分で自分の言葉を否定し考え込む。
「あの先生は魔術以外も得意なのか?」
「ベロッキオ師匠が魔物と戦う姿は何度か見たけど、ぜんぶ魔術だけで済んじゃったのよね。未知数だわ」
ニックの問いかけに、ティアーナがお手上げとばかりに肩をすくめる。
「じゃあ、カランの姉ちゃんは」
「ブレスの方が得意だっタ。あと剣じゃなくて槍を使ウ」
「じゃ、近接距離で戦う心得はあるわけだ」
「あんまり熱心に槍の訓練はしてなかったかナ……五年ぶりくらいだから今はよくわからないけド」
カランも首を横に振る。
「向こうだって同じ条件だし、更に言えば迷宮にいる魔物だって同じなわけだからな」
「魔物も剣を使うんですか?」
「ああ、使う。鬼系の魔物が多いからな。オーガも現れたりするし」
「厳しい戦いになりそうですね……。ニックさん、実際のところ、これは攻略可能ですか?」
ゼムの声に、ニックは渋い声を出した。
「できると思う。ただ……」
「ただ?」
ニックがティアーナの方に視線を向けた。
他の仲間たちもニックにならい、ティアーナを見た。
「な、なによ」
ティアーナが珍しく弱気な表情で後ずさる。
「……付け焼き刃にはなっちまうが」
「何もしないよりかは良いですね。僕も少々訓練しないと」
「ウン」
「練習あるのみじゃの」
こうして、ティアーナの近距離戦闘の訓練計画が立案されることとなった。
いつも読んでくれてありがとうございます!
おかげさまで9/25に書籍1巻が発売されることとなりました。
書籍では更にパワーアップしてお届けします。
(特にニックとカランの描写はどどんと大盛りでお送りします)
ウェブ版で面白かったならば是非ともご購入して頂けると幸いです。
切実に、なにとぞ、買って欲しいのです……!