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人間不信の冒険者達が世界を救うようです  作者: 富士伸太
四章 落第生、深山幽谷の果てに単位を得る
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火焔鳥峰 4

※ページ下部に表紙画像を公開しています。

公式サイトへのリンクにもなっていますのでぜひご覧下さい。

※感想や誤字指摘などなど、いつもありがとうございます!




 爆針鼠を倒した後の道程は、意外にも静かなものだった。標高が高くなるにつれて暑さが緩和されたため、序盤の道程よりも居心地が良い面もあった。ただし、山岳タイプの迷宮では森や洞窟の迷宮にはない問題が現れる。それは空気の薄さだ。こればかりはゼムの回復魔術でどうにかなる問題ではなかった。


 一時的な頭痛は回復魔術で治る。また、高山でありがちな脱水症状についても補給によって何とかなる。だが、消耗の早さだけはなんともならない。体を慣らし、あるいは休憩をこまめに取るなど、時間をかけるしかない。


 だが、空気の薄さが体調に影響するほどの高さに上ってきたということは、終わりが近いと言うことでもある。迷宮都市が小さく見えるほどの高さであり、都市の先にある海や港町も見える。【サバイバー】たちはその景色を眺めつつ、最後の休憩を取っていた。


「山頂が見えてきたな……」


 見えるのは火焔鳥峰の山頂だけではない。今居る場所からは、五輪連山の五つの山頂のうち、三つを視界に収めることができた。


 一つ目はもちろん、全員が目指している火焔鳥峰の山頂である。火口は爆針鼠のテリトリーよりも更に広くなだらかなすり鉢状の火口が広がっている。ただ火口とは言っても噴火の記録は数百年以上なく、火山としては完全に死んでいると見られている。


 二つ目は、千剣峰だ。火焔鳥峰よりも更に特異な迷宮である。火焔鳥峰はすべて炎の加護がある魔物の巣窟とするならば、ここは剣に愛された魔物の巣窟だ。ここに現れる全ての魔物は剣を手にしている。前衛の純粋な力が試される場所であり、ここを攻略できるかどうかが冒険者として一つの分かれ道となる。


 そして三つ目は五輪連山の中央。この山々のみならず、この大陸全土をひっくるめても有数の難度を誇る大迷宮。


「あれが堕天使山塞だてんしさんさいね……」


 ティアーナの呟きに、ニックが頷いた。


「そうだ。もっとも、ランクが上がっても入山できるかもわからねえがな」


 堕天使山塞に棲息するのは魔物ではない。魔物の上位種、魔族だ。しかもその中でも有数の強者である堕天使が住まう場所であり、A級やB級の上級の冒険者でさえも滅多に入山許可が出ない。


 もっとも、堕天使は闘争心が強いものの『おとこ』という価値観に縛られているため自分らより弱い人間などには見向きもせず、迷宮内部で常に堕天使同士の抗争に数百年以上明け暮れている。堕天使が暴走して外で暴れることは一度も発生していないため、現状は安全視されていた。こうして【サバイバー】が山を眺める余裕さえある。


「しかし空気が薄いな。みんな大丈夫か?」

「こういうのも魔術で何とかなると良いんですけどね」

「仕方ねえさ。魔術っていったってここまでどうにかなるもんじゃ……」

「いや、あるはずじゃぞ」


 ニックの言葉を、キズナが遮った。


「マジか?」

「むしろ魔術というのは生存環境を守り、あるいは拡張するために生まれた人間の新たなる機能じゃ。攻撃魔術の方が邪道なのじゃぞ」

「そうなのか?」


 ニックはキズナではなくティアーナに尋ねる。


「そうらしいわよ。神代の人間には生まれつき魔力が宿ったりはしなかったって。獣人系やエルフなんかもいなかったとか」

「へぇ……そりゃまた不便だな。つーかどうやって生きてたんだ」

「魔力を外から調達していたらしいわ。魔道具とか技術の方が発展していたらしいの。魔力を生まれたときから備わるようになるのは神代が終わってからの古代期だとか……まあ諸説あるからわからないんだけど」

「んじゃ、魔物はどうなんだ? 魔物だって生まれたときから魔力を持ってるだろう」

「そこは謎」

「なんだ」

「頭のおかしいくらい頭の良い連中が研究してるのにわからないんだから、いきなりわかるわけないでしょうが」

「そう怒るなよ。気軽に言って悪かった」

「ま、探究心があるのは良いことだけどね。未知なものは未知と認めるのも大事よ」


 そういってティアーナはその場で軽く屈伸をしたり腕を回し始めた。


「体はついてきてるか?」

「なんとかね……でもカランは平気そうね」

「平気っていうか、空気が薄いとかあんまりよくわかんなイ」


 竜人族は環境の変化に対して強い。寒暖の差にも強いが、空気の薄い環境でも問題なく体が動くようだ。ティアーナが羨ましげにカランを見つめる。


「良いわねぇ……。気圧低い日でも元気だし羨ましいわ」

「そこは体質もあるけど……それに長所ばっかりじゃないゾ。寝る時間は人間種より長いんダ」

「まあちゃんと眠ることは良いことですよ。それに一番遅くまで寝ているのは僕ですから」

「ツッコミにくいぞソレは。……しかし、毎日決まり切った時間に早起きしなくて良いのは冒険者の特権だな」


 ニックのしみじみとした言葉に全員が苦笑しながら頷く。


「さて、そろそろ行くか」


 ぱんぱんと土埃を払いながらニックが立ち上がる。

 そして、目指すべき山頂を険しい目で見つめた。







 ここの山頂に火焔鳥峰のボス、火焔巨鳥かえんきょちょうが存在する。


 火焔鳥は通常の鷹程度の大きさだが、火焔巨鳥は牛や馬よりも大きい。その巨大な姿が空を飛ぶ姿を見れば誰もが畏怖を覚えるだろう。


「グゥアアアアー!!!」


 そして、低く響き渡る咆哮と共にその口から火の玉が吐き出された。

 巨大な火の玉が【サバイバー】に襲いかかる。


「くっ……! あーもう、本当に勘弁してよね……《突風》!」


 ティアーナが風属性の魔術を放った。

 名前の通り、突風を巻き起こす魔術だ。風向きを変えることで、迫り来る火の玉の勢いを少しでも小さくしようとしている。《氷盾》がまるで役に立たないための苦肉の策だった。


「でりゃあっ!」


 だがその効果はあった。速度のゆるやかになった火の玉に対して、カランが竜骨剣を叩き付けた。軌道は完全に逸らされ、あらぬ方向へと火の玉は落ちていく。


「カアアアっ!」


 火焔巨鳥がうなり声をあげて大きな弧を描きながら飛翔する。火の玉が効果的でないことを悟り、勢いを付けて攻撃するつもりなのだろう。攻撃が訪れる前の不気味な静寂がその場を包む。


「ならこっちもデカいの喰らわせてやろうじゃないの……!」


 ティアーナが魔力を集中し始めた。


「あ、待てティアーナ!」

「なによ、もうちょっとで……」

「雷の魔術ならやめとけ、無意味だ!」

「なによ、火焔鳥が雷に強いなんて聞いたことないわよ」

「まあ……多分、当たれば効く。当たればな。ぶっちゃけ確率は低いが、やってみるか?」

「もう魔力が溜まっちゃったわよ……《雷光撃》!」


 ティアーナが魔術を唱えた瞬間、途端に空に重苦しい雲が訪れた。

 そして誰もが聞き慣れた嫌な予感のする音が上空から地面へと鳴り響き、そしてついには凄まじい音とともに一条の光が天から降り落ちた。


「やった……あれ?」


 だが、火焔巨鳥は一切のダメージを負っていなかった。

 雷を受けて生きているのではない。

 そもそも当たらなかったのだ。


「話には聞いてたが、やっぱりダメか……」

「ど、どういうこと……!?」


 ティアーナが愕然とした表情でニックを見つめる。

 自分の一番の必殺技が通じず、流石にショックだったようだ。


「他の山頂に、古代文明が作った避雷針があるらしくてな。自然現象の雷も、魔術で呼んだ雷も、そっちに吸い込まれちまうらしい。いや、オレもこの目で見るのは初めてで半信半疑だったが本当みたいだな……」

「そ、そんなぁ……言いなさいよそれを……」

「いや、すまん」


 へたりこむティアーナを横目に、ニックは誤魔化すように声を張り上げた。


「よし、気を取り直して行くぞ! カラン! キズナ! コンビネーションAだ!」

「わかっタ!」

「我、あれ嫌いなんじゃが!」

「良いから行くぞ!」


 ニックが剣状態のキズナを携え、カランの方へと走り出した。

 カランは正面を向いて竜骨剣を下段に構えた。だが通常と違って剣を横にしている。そこにニックが飛び乗った。


「飛べッ!」


 そしてカランがすくい上げるようにニックを持ち上げて飛ばした。

 ニックもタイミングを合わせて跳ねることで、人間にあるまじき高さまで飛び上がる。


「クアッ!?」


 火焔巨鳥が驚愕で目を見開いた。

 鳥型の魔物は基本的に上空に位置して地面の敵を襲うというスタイルが確立している。それゆえに、自分よりも高い位置を取る存在への対処が疎かになることが多い。


「喰らえ!」


 だが、火焔巨鳥はすんでのところでニックの攻撃を避けた。飛び上がった後は落下するしかない。軌道を読むくらいのことはできる。ニックは《合体》でもしない限り、上空で軌道を変えることなどはできない。


 だが、ニック一人ではなかった。


「行けっ、キズナ!」

「じゃから投げ飛ばすでないわーっ!?」


 絆の剣の状態だったキズナが人間体へと変身し、そして同時に《並列パラレル》を使って分身した。三人に分身したキズナが火焔巨鳥に斬撃を繰り出す。


「キュアアアーーー!?」


 鳥が空を羽ばたくときに重要となるのが風切り羽だ。特に羽根の外側にある風切り羽は揚力を得るために必要であり、そこにダメージを受けると高く飛び上がることが難しい。もっとも魔物はただ風を受けて飛ぶだけではなく魔術的な力が働いて巨大な体を持ち上げているようだが、それですべてを賄えるわけではない。キズナはみっともなく慌てているように見えながらも的確にその急所をえぐった。羽根をばたつかせながら火焔巨鳥は落下していく。


「喰らエっ……!」


 そして落下する先には、カランが待ち構えていた。

 ゼムによって強化が施され、ありったけの力を最後の一撃に集中している。

 普段ならば火竜斬を使うところだが、今回は純粋な一振りだ。


「カアァツ……!」


 竜骨剣が火焔巨鳥の首を両断する。

 意志を失った抜け殻の体が、土埃を上げて山頂に叩き付けられた。





いつも読んでくれてありがとうございます!

おかげさまで9/25に書籍1巻が発売されることとなりました。

書籍では更にパワーアップしてお届けします。

(特にニックとカランの描写はどどんと大盛りでお送りします)

ウェブ版で面白かったならば是非ともご購入して頂けると幸いです。

切実に、なにとぞ、買って欲しいのです……!

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