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とある研究所での一幕

とある研究所での一幕2

作者: 土井留ポウ

  豆板醤のタップリ入った辛いラーメンを、汗を拭いながら食べる。辛いだけでなく、丁寧に下味の為されたスープは本当に絶品だ。熱い汁を啜り、時にそれをライスにかけたりなんかして、ご飯もかき込む。すぐにスープを啜り、流れる汗を拭って、熱い息を吐く。

「スープは全部飲むつもりかい?」

 隣で博士が机に頬杖をついて声を掛けてくる。私は聞こえない振りをして、一心不乱にスープを啜る。

「辛いラーメン、塩分のたっぷり入ったスープ……さぞかし美味かろうなぁ」

 私は汗を拭い、旨味を噛み締めながら息を吐いて、またスープを啜る。

「いいよなぁ…底の方の残ったやつがまた美味いんだよなぁ」

 そう言って博士は身体を傾けて、私が顔の前まで捧げ持ってスープを流し込む丼うつわの中を覗き込もうとする。

「ああ…あれだよ…滓みたいなやつ、あれが味が染みて美味いんだよなぁ」

 私の耳元で唾を飲み込む。

「塩分がすごいんだろうなぁ…本当は自殺行為なんだけどなぁ」

 私はとうとうスープの一滴も余さず飲み干すと、いよいよ丼うつわを、盃を祭壇に捧げる恭しさで机の上に置いた。そして深く瞑想のために目を瞑った。旨味が宇宙空間で恒星となって燦然と輝いていた。濃縮された旨味はさながらエネルギーが凝集される白色矮星である。

 しばらくしておもむろに目を開けると、次の予定に取りかかる。皿に盛られた唐揚げ五個と、餃子六個を引き寄せた。

「まだ食べるのかい?」

 きつね色の衣を箸で突き刺すと、じゅわっと、我慢できなかった生理現象のように自らの体液で唐揚げはその身を濡らした。私の口中に同じく、じゅわっと、無数の微細な穴から唾液が溢れるのであった。

「これも油っこいなぁ…」

 唐揚げは柔らかく、箸で簡単に切り分けられた。その身が二つに別れた時何処かで、あん、と嫌がる素振りでありながらまんざらでもない、そんな恥じらいの声が聞こえたような気がした。私はいとおしくその身をつまみ上げる。身は生花の花びらのようなもろさで私の口中で散った。

「それもカロリーが高そうだなぁ」

 さて餃子。三日月が整然と並んだその姿。互いに湾曲部を合わせながら、片栗粉の薄皮で繋がって、まさに雲間に現れた竜の腹というべきであろう。私の頭の中で雷鳴が轟く。吹きすさぶ風の中、私は素早く箸を取り宙空に陣を描く、そしてラー油の入った酢醤油の器に、竜神の一部を浸した。

「食べるつもりかい?塩分が絶望的だろうなぁ」

 ラー油の入った酢醤油は軌跡を描いて宙空を走る。顔の前でこの竜神の一部は黒い雫を垂らした。

「勿体振っちゃってぃ。食べるんだろう。塩分もそうだがそもそも食べ過ぎだぞ。それは自殺行為なん……あ……食べた」

 私の体内にエネルギーが駆け巡る。脳天から竜が天へと立ち昇っていく。私は雄叫びを上げた。稲穂を薙ぎ倒す凄まじい風、横殴りの雨、迸る閃光。私はこの嵐の中叫んだのである。私はこの嵐の中叫び続けたのである。

「お前、身体壊すよ、食べたいものを好きなだけ食べるのはよくないんだぜ」

ラーメンのスープを飲み干すのはやめられませんね。

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