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変態なおっさんをヒロインの一人にしてみました!  作者: メリーさん
第一章 正しい魔法の使い方
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第一章5  魔王と勇者2



 ノークスは、毛布を被って瞳を閉じだ。


 ……


 ………………


 リュウゼンとソフィアは少しの間見つめ合うと、お互いの体からは冷や汗が流れ出る。


「…………………………名前、どうしようか」


 リュウゼンの口から葛藤が零れ出た。

 ソフィアはリュウゼンに相槌を打つように頷く。


「今日中に名付けないといけないのよね……」

「ああ。ユウキにしようと考えていたんだが、マオウという文字が入った新しい名前を考えないといけなくなった」


 私たちの宝の子供が殺されずに済んで嬉しいと思うものの、魔王であることは変わりない。魔王であっても我が子が我が子だ。

 名前に『マオウ』と入っていれば、魔王だと伝えているようなものであるが、名前を付けなければ、子供の成長の影響を与える。

 名前は人に概念を与え、成長補正を与えている。

 英雄らしい名前がつけば英雄らしく育ち、悪人みたいな名前がつけば悪人みたいに育つ。名前があればレベルアップ時に補正が与えられ、名前がなければ補正は与えられない。

 魔王を隠すために名前を付けないのも一つの方法であったが、子供に名前を付けない親は親ではない。

 リュウゼンとソフィアは、魔王とばれない名前を与えたかった。


「日付が変わるまでの時間は、夕ごはん作るぐらいの時間しかないと思うわ」


 ソフィアが体感時間でのタイムリミットを口にする。

 この時間を過ぎれば、次の日になり、名前による補正が変わってしまう。

 僅かな時間のずれで世界から与えられる恩恵が変化する。育ち始めた頃は恩恵による結果は得られにくいが、成長しレベルが上がった頃にステータスに大きな変化となって現れる。

 ソフィアとリュウゼンの直感は告げていた。

 今日中に名前を付けるべきだと。


「あああああああ!!!時間がないけど適当な名前は駄目に決まっている!!!カマオウ。駄目だなんかいけない王様のイメージが湧いてくる」

「ユリトマオウ。駄目ねユリトマっていう、駄目な王様もいたしよくないわ」


 リュウゼンとソフィアは、疲れている頭を捻って名前を考えるが、時間が迫っていることもありいいアイデアは思い浮かばない。


「「…………………………」」

「「「……すぴー……」」」

「「……………………………………………………」」

「「「……すぴー…………………………すぴー……」」」


 真剣に名前を始めた二人であったが、無言で考えると静かな寝息が部屋で木霊する。

 元々つけようとしていた名前は『ユウキ』だったが、ユウキを含めて名前の候補にあった中で『マオウ』と着く名前はなかった。考えても考えても浅はかな名前しか出てこない。名前を一から考えるのも苦労する


「「「……すぴー……」」」

「「……………………………………………………」」


 黙々と考え、ああでもない、こうでもないと名前を思い浮かべる。


 マオウ

 ウマイオウ

 マァリィオウ


 もう諦めてマオウと名乗らせようと考えれば、天の声を授かるように赤い帽子をかぶったイメージも湧いて出る。

 黙々と考えても、これだと思うものが思い浮かばない。


(お腹減ったなあ)


 ソフィアは、もう一日近く何も食べていなかったことによる空腹を思い出した。


(マーベルは普通にガツガツご飯食べてぐっすり寝ているし、私も何か食べたくなってきたわ)


 ソフィアはヒールをかけられたお腹を見て、何かが引っかかった。


(お腹は減っているけど、痛くない……痛くないのは魔法……魔法は完全詠唱でも並行詠唱でも、詠唱破棄でも発動する……)


 出産時にできた傷の違和感。

 ヒールをかけてもらった時に、ノークスがブツブツ言っていた詠唱の違和感。

 魔法は並行詠唱しても魔法として認識される。

 ソフィアは、これしかないと(ひらめ)いた。


「……並行詠唱。そう!並行詠唱だわ!痛たたたあああっ」


 勢いよく起き上がったソフィアは、体の内側から伝わってくる鈍い痛みに涙を流すものの、リュウゼンの手を握った。

 頭まで筋肉で出来ているかもしれないリュウゼンは、知恵熱を出しながらソフィアの体を慌てて支える。


「無理をしないでくれ、ソフィア」

「そんなことより、この子の名前だけど、名前のどこかしらにマオウってつけばいいのよね?」

「そんなこと?そんなことではないと思うんだが……」

「あなた!」

「……名前は、そのはずだ。だからこそ、先頭職業が魔王でなくても名前にマオウがつくものが魔王だということはすぐに分かってしまうんだ」

「名前のこと分かっているわよ。私が思ったのは、マオウを同時に言って名前表記がウであっても、世界がマオウって認識してくれるのかなって思ったのよ!」

「おぎゃああああああああああああああああああああ」

「ああ、よしよし、びっくりしちゃったわね」


 並行詠唱の要領で『マオウ』を同時に発音すれば、ユウキのウで認識されるのではないだろうか。

 ソフィアはそう思い、これしかないと思った。赤子をあやしながら、名前を付けるリュウゼンに催促する。


「ねえ!あなた!時間も時間だし試してみましょう!」

「やってみるか」


 日付を跨いでしまう時間も近い。

 時間も迫っていることもあってリュウゼンは試すことにした。


「我、リュウゼン=フウノが願う。我妻、ソフィア=フウノとの娘の名をユ(マオウ)キと願う!『名前授与(ネイムワード)』」

「おぎゃああああああああああ!!!」


 ピカーと光るようなことはない。

 天使も降臨することもなかったが、名前を付けることで人として存在を認められた。

 魔物であれば格があがり、人であれば成長補正の恩恵が受けられる。新生児に名前を付けただけで変化が分かることは稀であり、経った今名付けた娘にも大きな変化は見られない


(この方法で大丈夫であってくれっ!)


 あまりにも変化がなさ過ぎて、本当に名前がついているか不安が残った。


(『マオウ』と認識されなければ、名前はまだついていないはずだっ。並行詠唱はかけだったが、ユウキであってくれっ)


 名前がなければ失敗したかもしれない。

 そう思い、鑑定をかけ直すと、そこには――


 名前:「ユウキ=フウノ」

 性別:「女」

 種族:「人」

 職業:「村人」「魔王」「魔法使い」

 技能:「丈夫な体」「風の申し子」

 加護:「ウェンディの祝盃」


 名前が認められていた。ユウキとしっかり名前が記されていた。

 名前はユウキ。

 発音はユ『マオウ』キ。マとオとウを同時に発音し、『ウ』と聞き取れるユウキである。


 名前があることでレベルアップ時に補正が受けられる。一目見ただけでは魔王だとは分からない。


 リュウゼンは、ソフィアの腕の中で泣いているユウキの頬を指で優しく撫でる。


「俺たちの娘の名前は、今日からユウキ、ユウキ=フウノだ!!!」

「おぎゃあああああああああああああああああああ!!!」


 リュウゼンが高らかに笑うと、ユウキはリュウゼンの声に比例するように大きな声を上げた。

 ユウキの声が、悲しみによる悲鳴であることを知るものは、ユウキ自身を除き、他にいない。いるとすれば女神ぐらいだろう。


 ユウキの声が悲鳴であると知らないリュウゼンとソフィアは、大きな声で泣く娘は、将来元気な子になると感じていた。

 産声を上げた時も大きかったが、一度大人しくなってから再び大きな声で泣いている。まるでこちらの状況を感じとっているようであり、身を潜める時にはお大人しくなり身を主張する時に存在感を主張する。

 リュウゼンと同じぐらい元気があれば、病気になることも少ないし、何かしら起こればすぐに分かるだろう。


 ユウキのために作った子供用の玩具も家の部屋に並べよう。

 リュウゼンとソフィアが将来の幸せを考えている時だった。


「おぎゃああああぁ!おぎゃああああぁ!」


 ユウキだけの泣き声だったはずの部屋に、別の鳴き声が響き渡る。

 ユウキの鳴き声と争うように泣く声。

 何事だろうか?

 リュウゼンとソフィアが疑問に思い、ユウキ以外の鳴き声が聞こえる方を見て見ると。


「おぎゃああああぁ!おぎゃああああぁ!おぎゃああああぁ!」


 小さな命が芽生えていた。

 マーベルのお腹は小さくなっており、いつの間にか破水している。日は跨いで次に日になっており、マーベルの子供は予定日通りに誕生した。

 マーベルは、気持ちよさそうにして枕に涎を垂らしており、寝息を立てながら睡眠をむさぼっている。


 ソフィアは、マーベルを起こすよりも、ノークスを起こすことにした。


「ねえ、パパ。マーベルを起こす前にノークス起こした方がいいと思わない?」

「奇遇だな、ママ。パパもそう思っていたところだ。……おい!起きろ!ノークス!起きるんだ!マーベルの子が生まれたぞ!」

「なんだ?……え?………嘘だろおおおおお!……『ヒール』『鑑定』!…………………」


 名前:「空欄」

 性別:「女」

 種族:「人」

 職業:「村人」「勇者」

 技能:「火炎の申し子」

 加護:「ヘスティアの慈愛」


 ……

 ………………

「…………………………ゆ、勇者?……」


 毛布を被った瞬間に寝息を立てていたノークスを起こしたリュウゼンは、特にやることもなくなったため、明日に備えてそろそろ寝ようと動いた。

 ノークスが娘に鑑定をかけ、職業が勇者だと述べたことはきっとと見間違い。

 勇者だったらマーベルのいうことを一つ叶えることになっているノークスが、ダラダラと冷や汗をかいているのも見間違いだろう。

 リュウゼンは、家に帰るべく、ソフィアの体調を気にかける。


「ソフィー。身体は辛いかもしれないが、もう家に帰っても大丈夫そうか?」

「ええ。そうね。私はもう、ここに居ても邪魔そうだし、私たちの家に帰りましょうか」

「ま、待ってくれたまえ!リュウゼン!勇者ですわ!この子、勇者!!!そもそもまず、寝返りうっただけで子供が生まれることが可笑しいと思うのは、私の方が間違いっている?いやいや、私が寝ていた数十分の間に、一体何があったっていうんですか!!!」


 ノークスは、器用に無暗唱で出したぬるま湯で娘についた血を洗い落とし、タオルで包み込みようにしている。

 助産の経験則からどうにか行動をとれているノークスであるが、頭の中ではパニック状態に近かった。

 マーベルは揺さぶられてもお湯をかけられても、睡眠をむさぼっている。


 勇者の誕生にどうすればいいのか。

 勇者は魔王と違い、名前を何か文字を入れる必要はない。

 ただ、勇者が誕生しているということは、どこかで魔王が誕生したと意味することであり、リュウゼンとソフィアに協力するなら、隠すべきだろう。


 ノークスは明日に備えて寝始めてから起きた数十分の間に何が起きたと嘆きたい。

 子供を産んだマーベルは何事もなかったかのように寝ている。


「…………………………」

「ノークス」


 ノークスの神官フェイスが崩壊していると、リュウゼンがノークスの名前を呼んだ。

 ノークスはリュウゼンの声につられるように耳を傾ける。


「さっきノークスも似たようなことを言っていただろう。たしか『先天性職業が魔王だからっていってすぐに殺すわけがないでしょう?だってその子の先天性職業は、魔王以外にもあるので』だったかな?」

「リュウゼン」


 ソフィアが早々と横になる姿をみたリュウゼンは、ノークスの肩に手を乗せた。


「先天性職業が勇者だからっていってすぐには殺さない。私の娘が魔王で、君の娘が勇者なんだ。子供のころから仲良くさせれば、殺し合うようなことはしないはずさ」


 男二人で手を取り合う中、幼い魔王と幼い勇者の鳴き声が部屋中に響き渡っていた。





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