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変態なおっさんをヒロインの一人にしてみました!  作者: メリーさん
第一章 正しい魔法の使い方
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第一章2  転生1



 メイド喫茶というお店をご存知だろうか?


 ……え? 言葉は知っているけど入ったことはない?

 ……まぁ、一般の人はそうだよね。入るまでは抵抗があるから。


 知らない人のために簡単に説明すると、可愛い服を着た女の子が、役になりきって営業するお店のことだ。

 オタクの聖地という人もいる。

 もちろん、邪な思いで行く人もいるけど、可愛い女の子に話しかけてほしい初心な気持ちで行く人もいる。


 ……え?どっちも邪だって?


 メイド喫茶に二十年間通っていた僕は初心な気持ちで女の子と向き合っていたんだ!


……嘘です。ごめんなさい。

 メイド喫茶に行って、日夜、妄想していました。

 痛い目で見ないで!

 妄想ぐらい許して!

 男心を持っている人なら分かるはずだ!

 女性に触れることができないこの悲しみは決してリハ充には分からないだろう!

 子供のころに他界してしまった母親の愛でも気絶してしまっていたんだ。そんな僕でも受け入れてくれるメイドは至高の存在だ!


 優希は誰に問いかけているのか分からない現実逃避を止めて、目の前の女性に語りかけた。


「だからメイド服を着ていれば可愛く見えるのはどうだと思う?」


 優希がなぜこんなことを言っているかというと、――目の前に、ディーネがいるからだった。

 ディーネはメイド喫茶で働いている時以上に神々しさが増している。


「ええそうでしょう。だから少しは落ち着いてください。もう一度言いますよ?ようこそ死後の世界へ。私は迷える魂を新たな道へと案内する女神の一人。あなたはたったいま亡くなりました。辛いでしょうが、あなたの人生(・・)は終わったのです」


 周りに何もない空間に、優希は突っ立っていた。そして、目の前には二十年間全く変わらなかったディーネの姿がある。

 なぜ彼女(ディーネ)がここにいるのか。


――女神だって?


 優希はディーネの言うことを疑う気持ちが微塵(みじん)も出てこない。

 現実にはあり得ないほどぐらいの美少女であり、近づいてみただけでドキドキする気持ち。この人を拝んでしまう神々しさ。神様だったといわれても納得してしまう。


 優希はすとんと納得してしまった。


(ディーネたんは、僕の女神だ!)


 女神のことを受け入れることはできる。しかし、死んだと言われたことはすぐに納得はできるものではなかった。

 あなたは死にましたと言われて、はいわかりましたとすぐには言えるだろうか。


 優希は、ディーネたんペロペロと思い、ついでに自分の死について喪失していた中、ふと思ったのは、直前まで自分と話していた後輩(・・)のことだった。


(そういえば、今日はまだメイド喫茶に行っていなかったよな。行こうとして、後輩に呼び止められていたはずだ)


 優希の記憶では、メイド喫茶には行っていなかった。そのため優希は、後輩の前で心臓麻痺でも起きてしまったのだろうかと思っていた。実際は、五柱の女神に囲まれて、ドキドキしすぎてぽっきり逝ってしまったとは、夢にも思うまい。


 優希は、後輩のことが心配にあり、ディーネに尋ねる。


「後輩の目の前だったと思うんですけど、彼の心は大丈夫でしょうか?」

「……あぁ、なるほど。記憶が抜け落ちているんですね。亡くなったと思われる日のことを詳細に語りましょうか?」

「ッ、お願いします。」


 優希は女神の手を取って頷いた。


「今触る必要ありました?」

「どうせ死んでいるなら触れると思いまして」


 きりっ。

 効果音を幻視する勢いで。優希ははっきりと言い切った。

 死んでいるなら女性に触れるだけで意識がサヨナラしてしまう体質もない。

 今までしたかったことを、優希は迷わず行った。

 偶然か必然か。

 優希は覚えてはいないものの、手の触れかたはメイド喫茶で握った方法と全く同じだった。

 メイド喫茶で受けた温もりを覚えていない優希は、初めての体験に心を躍らせる。


「ああ、これが女性の柔らかさか。初めてだよ。目で見るだけなら大丈夫だけど、目を閉じていても触れるだけで……気絶してしまう体質が無くなっていることがこんなに喜ばしいことだったなんてっ!!!肉体があったらうれし涙が流れていたんだろうなあ……」

「泣くほど嬉しかったんですね。……ちょっとだけですよ?」


 ディーネは、優希の手の上にそっと手を重ねて、微笑んだ。

 優希は 電車やバスの中で女性の体が触れるだけで気絶してしまう忌々しい記憶の数々を思い出す。

 終電で酔っぱらった女性が肩に頭を乗せてきて、そのまま駅を降り過ごしてしまったこと。男性だけと関わりが深くなった頃に、俺その気ねえからと男性からも避けられること。

 女性と仲良くしたくても体質で成し遂げることができなかった忌々しい思い出。

 優希は、頬に涙が伝うのが分かった。


「あ、あれ?ここって死後の世界なのに、涙は出るんですね」


 女性の温もりがこんなに暖かなものだったなんて。

 優希は、初めて味わうその温かさに感動していた。


(ああ。もう死んでいいかも)


 優希の目からは涙が零れ落ちる。

 母親の温もり。

 父親の温もり。

 友達の温もり。

 優希は、十歳の時に家族を無くしてから、育ての親に勧められたメイド喫茶に課金し続けた。育ての親が蒸発してからは、人の温もりを更に求めるようになり、気が付いた時には二十年経っていた。

 渇望しても手に入れることのできなかった飢え。

 手を握ることすらできなかった(むな)しさ。ユウキにとってみれば、手に触れた温かさはとても大きく感じる。

 優希は、自分の死を実感した。

 ディーネはゆっくりと待ち、優希の心が落ち着いてきた頃にポツリと言い始める。


「優希が亡くなられた日は、快晴の日でした。雲一つなく営業マンには厳しい日差しが降り注いでいて、洗濯物はよく乾きそうです。優希は朝起きると、いつものように干していた洗濯物を畳みます。そして朝食を作り……なんですか!?触れるだけで満足とかどんな童貞だよっ!?」


 優希は手を握ったまま、魂が浄化されようとしていた。


 ほわわーんと効果音がつきそうな程、優希の顔はだらしなくなっている。


 優希は、死んだ状況を聞こうとしていたはずなのに、一生の悔いなしと言わんばかりに輪廻の輪に回収されそうになっていた。


 ディーネの女神らしい微笑みは崩れ、砕けた言葉が思わず出てしまうほど目を見開く。

 このまま優希の魂が再び輪廻の輪に入ってしまったら、ディーネが練りに練った今までの計画が台無しだ。

 ディーネは、優希の魂を繋ぎ止めるために、優希の耳元で誘う言葉を吐露する。


「おほんっ。ここは私の空間なので、もっとすごいこともできますよ?」


 ディーネの言葉は、輪廻の輪に入りかけていた優希の耳にも届いた。

 浄化されていた優希の魂に色が戻り、優希はだらしない笑みを浮かべる。


「ぐへへっ。それだったら、このまま手をスリスリさせてくださいっ」

「もっとすごいこともできますよ?」

「いえ、これで結構です、ぐへへっ。柔らかいんだなあ。うっひょおおおおおいい匂いもするうううううううううう。これ以上のこととかはおつきあいしてからでしょ?うん。自制がだいじだよな。このままペロペロしてもいいのかな?駄目だろうな」

「…そんなところで真面目具合を発揮しなくてもいいと思いますし、気持ちが言葉に出ていますよ?」

「ディーネたんが、頬を膨らしている。ぐへへっ。今まで釣り合っていないというのはこういうことだったのか。女神だから仕方がない」


 優希は、鼻の穴めいいっぱい広げて匂いを嗅ぐ。だらしない顔にディーネの手を頬に当てると、頬から伝わる温かさを感じとった。


「ぐへへっ、ぐふふぐふ、ぐふふふっ、くんかくんか。ああ、いい臭い。この柔らかいお手々を永久保存したい、ぐふふ、ぐふふっ」


 いったいどれだけディーネの手をスリスリしていただろうか。

 優希はただ無心に、気味が悪い行動をとっていた。

 よく見て、肌で感じて、思ったことを口にして言う。


 そんな優希の姿に、ディーネは何も聞いていないんだろうなと思いつつ、なぜ死んだのかその日にあったことを根絶丁寧に解説していた。

 うわあキモッと思っても決して言わず、解説を続けていると、その解説はもうじき二周目の説明が終わろうとしていた。

 いや、既に終わっている。

 こいつ本当に聞く気有るのか?と思っても、ディーネは何度だって解説する。


「ディーネたんのジド目もいいっ!!!」

「あの日は、快晴の日でした。いつものように、朝起きると、干していた洗濯物を畳みます。そして朝食を作り、土式トレーニングを行い、朝食を食べました。ああ、美味しい。やっぱ朝はみかんは欠かせないよなとつぶやき朝食を食べ終わると、私の写真を取り出して……」

「あの。聞いてなかったのは申し訳ないんですけど、できれば覚えている後からの方が」

「今、三周目を話し始めたんですよ?どこから忘れているのか確認するためにも必要なので今度はしっかり聞いてください」

「すいません」


 ディーネは淡々と優希の赤裸々の日常を話し、その内容を聞いていた優希は羞恥で逃げ出したい気持ちに襲われていた。

 数分後。聞き終わった優希は、力の抜けた状態で、死んだ魚のようにブツブツと口ずさむ。


「ディーネたん曰く、僕は後輩の前で死んだわけではないようだ。後輩君の冗談を真に受けた僕が、周りを気にすることなく最短ルートでメイド喫茶を目指していたらしい。ただその日はメイド喫茶に続く道で道路工事をしていたようで、迂回するのが面倒だった僕が、周囲の人達の危険を注意する声を無視して突っ切ったようだ。そして、運悪く、サイドブレーキがかかっていなかった工事用のタンクローリーに潰されたらしい。ははっ、タンクローリーの潰され方を細かく話してくたけど、まだ死んだ実感がないし、死因がショックすぎて、他の話が耳に入って来ないな。この僕が、タンクローリーごとき相手に負けただと?ははっ。可笑しいな。最近は空を走ることだってできるようになってきて、人間離れした体になってきたって自覚していたのに……」


 タンクローリーでガラガラされても体は潰れないはずだ。

 優希は、女性に触られても大丈夫な体を手に入れるために、栗色の腹筋少女から教えてもらったトレーニング方法で、丈夫な体を手に入れていた。


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