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変態なおっさんをヒロインの一人にしてみました!  作者: メリーさん
第一章 正しい魔法の使い方
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第一章29 神官の早朝




 エルザの一日が始まるのは早い。


 日の出より前の時間に隣の部屋の寝室の結界が解除され、マーベルとノークスの足音が聞こえてくる。


「んんん……」


 耳から聞こえてくる音と、二年に渡る継続した生活によって、意識が覚醒し始めた。

 布団の肌触りをもっと堪能したい欲求に支配される中、エルザは寝返りを打ちながら足を何度も動かして、体を起こす。

 重い瞼を開けて外を見れば窓の外は暗く、部屋の中には小さな明かりがひっそりと照らしている。


「おしっこ」


 暗闇にすぐになれた目には、いつもの部屋が目に飛び込んできた。

 エルザは誰も部屋にいるわけではないにもかかわらず、尿意を催していたことを誰かにいうように言葉を発して、部屋を出る。

 薄暗い廊下はわずかな光でも歩きなれたもので、迷わず扉を開いた。


 エルザは一歩個室の中に踏み入ると、扉を閉めると迷いなくパジャマのズボンと下着を下ろす。白い便座には細長い丸状の穴があり、エルザは落ちないように浅く座った。


「冷たくて気持ちいですぅ」


 冬の寒い時期では目が覚めるきっかけである冷たさが、太ももの裏から伝わってくる。春も明けて日中と夜間の寒暖差があるものの、便座の冷たさ差は誰かが座った後のようでちょうどいい感じになっている。


 尿意が無くなりすっきりとした気持ちになったエルザは、手慣れた習慣で身を綺麗にした。

 エルザは立ち上がる。同時に下着とズボンを履いて、便座に向き直って槓杆(こうかん)を手前に回した。


 蛇口からは水が流れ出し、穴の中も水上され、時間が経つと水の嵩が低くなっていく。

 手を洗ったエルザは、水気を拭いて廊下に出た。廊下の端からは煌々(こうこう)とした明かりが覗いている。


「おは、よぅ」


 エルザは脱衣所に入ると同時に第一声をあげた。

 部屋の中には、見慣れた両親が服を着替えている。ノークスは神父の服装を身に纏い、マーベルは聖女の服装を身に纏っている。

 脱いだ服は、部屋の隅にある丸い容器の中に放り込まれていた。

 エルザを成長させたような姿をしているマーベルは、手に持っていた服をノークスに渡すと櫛を手に持つ。


「おはようございます。すごい寝癖ですよ?直しますから少し立っていてください」

「ん」


 マーベルが言い終わる前にマーベルに背を預けたエルザは頭を胸に押しつけた。

 ノークスは容器の中に手を向けると魔力を集めて水を発生させる。


「『ウォーター』」


 ノークスの手先から突如として水が生産され、少しずつ容器の中に水が満たされていく。


「お母さんはやくぅ」

「はいはいお姫様。ユウキはもう自分でできるみたいですが、まだいいのですか?」

「お母さんの方が上手ぅ」


 エルザの髪を解かし始めたマーベルは、静かに娘の成長を堪能した。

 エルザはマーベルに髪をとかしてもらいながら、ぼーっとした思考でノークス魔法を見る。


「……どうして少しずつ水を出すんですか?」

「ん?ああ、これですか?同じ水の量を出すとしても、ゆとりを持った放出の方が魔力消費が少なくて済みますし、魔力回路を痛めないんですよ」

「そういえば、そうでしたね」


 姿勢を直したエルザは、ノークスの全く同じ言葉を思い出して、意識を覚醒させた。

 ノークスは水を生成さて、容器の中に水を見たいしていく。


「限界に近い魔力を生成するより、かなり余裕のある状態の方が魔力回路の負荷が少なくてすむので、魔法使いは魔力の最大値を上昇させるために訓練したり実践したりしていますからね。エルザの場合は、まず魔力制御をできるようになりましょう」

「はーい!」


 返事のいいエルザの声を聞いたノークスは、棚の引き戸を開けて中から筒状の容器を取り出した。

 容器の中には洗濯に使用される洗剤が入っている。

 大量生産されていた洗剤ではなく、カイによって作成された洗剤。ユウキが環境汚染にたいして問題視した洗剤を、賢者であるガメッシュが環境に優しい材料を選びぬかれた洗剤。

 調合表は商業組合を通して公開され、少しずつ普及されているが、最果ての村で使用されている洗剤はカイが錬金したものだ。


「エルザ、よく見ていなさい」


 適した量の洗剤を水の中に入れたノークスは、水の中に手を入れて水を動かし始めた。


「魔法を何も使わずに手を動かせば水は回ります。今、手で生まれた結果を魔法で行うとするためには何が必要だと思いますか?」


 ノークスが手を離すと、水の流れは緩やかになり次第に水の嵩が元に戻る。


「水を動かすための水流操作……ですかね?」

「それも正しいです。ですが水流操作だけではありません。土魔法で容器の中を二つに分けるようにして魔法の土を回転させても水は回ります。風魔法で魔力にものを言わせて水を動かすこともできます」


 ノークスは説明しながら実際に行って洗濯物の入った水を回し続ける。

 マーベルはエルザの髪に櫛を通しながら、ノークスの言葉に補足する湯鬼言葉を続けた。


「雷魔法で水分解を行って酸素を発生させて汚れを取ることもできますし、火魔法で弱い火を当てて温度差による水流を発生させることもできます。いずれも洗濯には向いていません。ですが、私たちが考えつかない方法で魔法を使っている人がいるかもしれません」

「うん」


 エルザはノークスとマーベルの言葉を聞きながら、ノークスの魔法の使い方を逃さないようにじっと見た。


「さて、エルザ。早く着替えないと、洗濯が終わってしまします」

「わあわあ!待ってください!すぐに着替えますから!」


 エルザは慌てて服を脱いで、いつの間にか服を手に持っていたマーベルに向き直った。


「ユウキが一人で着替えていると知るまでお父さんに着替えを手伝っていたエルザが、成長しました。お母さんは嬉しいです。今日着るのは修道服にしますか?それとも神官見習いのものにしますか?」

「いつもの冒険者の服がいいです!」


 エルザは下着姿のまま、慌てて自室に戻った。


 …………………………

 ……………




 冒険者の服を来たエルザは、ノークスとマーベルと共に家を出た。

 この時この時間は、家族の時間である。左手でノークスの手を掴み、右手でマーベルの手を掴む。

 日の出より前の時間ということもあり、歩きなれた道でも、暗闇が続いている。

 しかしエルザの心は光輝いていた。エルザは、アンナとノークスから魔法を教わったことで魔法を練習するのが楽しみにしている。

 これからの楽しみに、エルザは根拠がないけれど直感的にそうなるだろうと思ったことを口にする。


「お父さん!今日は成功する気がします!」

「くっくっく。バザーが始まる前に成功したら、厨房に入る許可を母さんに相談してあげましょう」

「できたら入っていいですよ?エルザも早く聖女としての生業と花嫁修業も行なわないといけませんからね。大人になったら花嫁修業をするような時間はほとんどありません」

「大人になったら忙しくなるっていわても、分からないです!」

「大人になったらエルザも分かりますよ。ねえお父さん」

「お父さんに言われても、私は必要なことを教えて来ただけです。制御に成功したら、筋肉の再生を教えますから、エルザも楽しみにしていなさい」

「うん!」


 手を引けば引っ張り上げてくれる両親に連れられて、エルザは教会に続く道を歩いた。


「それでは陽が昇るまでに掃除を進めていてください」


 教会につけば、優しい両親から厳しい聖職者に変貌する。

 二人とも真剣そのものの顔つきで、家の中のように声をかけても反応せず、神官らしい立ち振る舞いが求められる。


「この先に入ってはいけませんよ?」

「「分かりました」」


 ノークスは扉を閉めて部屋の奥に消えた。

 マーベルは無言のまま、教会中の窓を開けていく。


 エルザも窓を開けるのを手伝って、頭の中で掃除の確認を行っていく。


(窓かけを束ねて窓を開けたら、小物を拭きます。用具入れから魔道具を取り出して床を綺麗にして、目についた汚れは……どうするんでしたっけ?)


 朝の時間のエルザの役割は、教会内の掃除だった。

 機能教わったことを思い出そうとして、覚えていない事実に不安になりマーベルを探す。

 マーベルは村人たちに給付するパンを作るかご飯を炊くために厨房の換気扇を回し始めていた。バザー御一行ももうじき到着すると思われるため、食糧庫の在庫の確認を怠ることは出来ない。

 エルザも本来ならマーベルのお手伝いだが、厨房に出入りする許可も教会の地下に入出する許可も下りていない。

 厨房は一度大爆発を起こして以来、火属性の魔法の制御ができるまで村での魔法使用を禁じられていた。


(ううっ)


 エルザはマーベルの様子を探ると、不安が大きくなる。精神を落ち着かせる方法など分からないエルザは、無意識にノークスが消えていった先にある物を気にかけて、不安を紛らわせた。


(お母さんはいつも以上に忙しそうです。お父さんは神への信仰のために地下室に消えましたが、一体、地下室には何があるんですかね。気になります……)


 エルザはマーベルと扉を交互にみて、視線を往復させる。

 エルザの様子が目に入ったマーベルは、微笑みながら優しい口調で語りかけた。


「エルザ、気になるのは分かりますけど、その先はお母さんでも最奥の部屋に入室を許可されたことがありません。まずは魔法の制御ができるようになってから、一緒に入りましょう」

「分かってはいますけど、この先に呼ばれているような気がするんです」

「呼ばれているからこそ、早く正当な手段を用いて入室できるようになりましょう……さて、そろそろエルザも掃除を始めないと日の出の時間になりますよ?」

「分かっています!ふん!今に見ていてください!エルザだってすぐに回復魔法を使えるようになるんですから!ってお母さん!あれです!掃除の最中に目についた汚れはどうすればいいんですか!」

「吸そうなものは吸って、末なさそうなものは塵取りを使うか軍手をつけて外の小屋に運んでください……分からないことを聞けましたね。流石はエルザです」

「そうですか?うふふ?そうでしょう」

「ええ、だから掃除も出来ますね」

勿論(もちろん)ですとも!」


 窓を開け終えたエルザは、掃除用具入れの部屋に足を向ける。小物を拭くことがどこかへと飛び去り、エルザの頭の中は魔法のことで覆われていた。


「よし!掃除をしっかり終わらせて、魔法を見てもらいます!エルザはやれば出来る子ですから!」


 エルザは自分に言い聞かせるようにして、掃除用具入れから魔道具を手に取った。

 細長い筒状の先には小さな玉のようなものが付いている。

 カイが作った魔道具の一つ。

 ユウキの話を参考にして作られたその魔道具は、既に別の者が考案し作られていた物ではあるが、改良されたことによってエルザでも使える魔道具になっていた。

 (ぼたん)一つで魔道具の開始と停止が可能。魔石は交換性。持ち手の部分の空間で空気の回転が発生し、筒状の先から空気が吸い込まれるその魔道具。


 エルザはノークスが補充した魔力が満たされた魔石を手に持ち、掃除機の魔石を設置する空洞に魔石をはめ込んだ。


 釦を押し魔石の魔力が掃除機全体に流れるようになると、風魔法によって回転が生まれ空気が吸い込まれていく。


 空気を吸い込む音だけが教会内に響き渡る。

 石畳でできた床も、絨毯でできた床も、掃除機をかければ汚れが吸い取られる。


「魔法、魔法、魔法使い!」


 エルザは鼻歌交じりに掃除機をかけていく。

 正面玄関付近の廊下に差し掛かった時、正面玄関から人影が入って来た。

 その人影は、辺りをキョロキョロと見ながら足音を立てずにエルザの背後に近づいていく。


「魔法、魔法、魔法使い!魔法、魔法、魔法使い!」


 エルザは背後から近づいてくる人影に気がつかないまま、鼻歌を歌い続ける。


「今日はズボンなんだね、ぐふふっ」

「うわああああああ!」」


 しゃがんだ状態のユウキは、よだれが垂れそうな笑みを浮かべてエルザのお尻を優しく撫でた。

 突然声をかけられて、思わぬところに攻撃を受けたエルザは、妄想から現実に引き戻される。肩を上げて驚き、思わず振り向いた。

 視界の下の方に見慣れた緋色の髪と見慣れた顔が目に入る。

 エルザは手に持っていた掃除機をユウキに向けて振りかぶった。


「と、ととととと、と、突然現れないでください!」

「うわ!危ない!そんなに怒らなくたっていいだろう!履いていると分かっているからこそ、下着の跡が浮かび上がるのを見るのもいいものなんだぞ!」


 エルザが掃除機を振り下ろすと、ユウキは飛びのいて立ち上がる。


「ふん!そんなことばかりしているのに、何で信仰心を一番もっているんですかね。ふん!ふん!避けないでください!」

「ぐふふっ、いつも言っているではないか!僕はディーネたんがいたから僕なんだと!それと掃除機はそんな使いしてはいけないぜ!当たったら痛いだろう!」

「ディーネたんっていつも聞いていますけど、何度聞いてもその持論だけは分かりません」


 エルザは掃除機を下ろして、息を整えた。息を整えると、いつもユウキと接する時には見せない凛々しい顔を作る。その顔をはどこかノークスの面影を見せる顔だった。

 ノークスから直接教わったユウキ専用の対応方法。ただ淡々とユウキを見てもユウキを見ないからかう言葉。

 エルザは魔法の言葉を口にした。


「はあ、ご利用ありがとうございます。本日はどのようなご要件でしょうか?」

「ふっふっふ。今日は珍しく早起きしたからね!朝食の前にディーネたんに信仰を捧げようと思っているんだ!」

「そうでございますか。信仰を捧げる本堂はここから真っ直ぐ進んでいただいた場所になっております」

「いや、分かっているよね?僕が信仰している女神様は風属性だけど末端も末端の女神だって」

「ああ、そうでございましたか。風属性の館は本堂に入っていただいてから緑色の扉の通路を進んでいただければ大丈夫ですよ」

「えっと……………」

「……………どうされましたか?」

「うわああああん。ああ、ディーネたん今日も僕と繋がろう!僕はもう行くよ!っく…うう、まああとでね!覚えていろよおお!」

「くっくっく。なるほど。確かにこれは楽しいですね。ユウキにこんな一面があったなんて知りもしませんでした。くっく、ああいけません。うふふ」


 エルザは掃除機を持ちなおして、再び汚れを取り始めた。


「今日もタクトさんはまだ帰って来ていない……タクトさんが帰って来る前に魔法を使え得るようになって褒めてもらいます!うふふ!」


 掃除機をかけ終えれば、掃除機の中には風魔法によって圧縮された汚れの塊が形成されている。


「うえっ……いつ見ても気持ち悪いです」


 エルザは掃除機から魔石引き抜くと、汚れを取りださずに外に出た。


「お!始まりましたね」


 外に出た瞬間、風の塔から凄まじい魔力の高まりを肌で感じることが出来る、

 同じ教会の敷地内とはいえ、すぐ近くにいるわけではない。

 それでもエルザですら魔力を感じることができる程の魔力は、ユウキが信仰を捧げる時にできる余波みたいなものだった。

 信仰を捧げるといっても魔力が全て信仰に捧げられるわけではない。女神の加護があり、神に由来のある教会の神殿であっても魔力が全て信仰に捧げられるわけではない。

 膨大な魔力。エルザが厨房で大爆発を起こした時より数十倍は多いと思われる魔力。


「負けません。エルザは勇者ですから。……ユウキが何物であっても、()は勇者にならなければいけない」


 エルザは掃除機の中の汚物を処理するために、教会の外の小屋に向かった。



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