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変態なおっさんをヒロインの一人にしてみました!  作者: メリーさん
第一章 正しい魔法の使い方
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第一章11 四十八手の基本




 エルザに全身をくすぐられたユウキは、笑いつかれて白旗を上げた。


「ま、参りましたあ(棒)」

「これに懲りたら、もう悪いことはしては駄目ですよ!!!」

「も、もうしませんからああ」


 つい数分前まで、意気揚々とエルザの将来像を浮かべていたユウキであったが、エルザの無知の攻撃により脱力しきっていた。


 夜伽を覗いている時にすら味わったことのない感覚。

 ユウキは、自分では決して得られなかった感覚を開発されてしまった。


 自業自得と言うべきだろうが、ユウキにはぐへへと笑う元気もうひょおおおおおと飛びかかかる元気もない。


(決して幼い体になって、くすぐりに弱くなったわけではない!ないったらない!)


 ユウキは顔を真っ赤にして息も耐え耐えになりながらも、勇者にやられる魔王を演じきった。


(ぐすん)


 ユウキは、言い訳の涙を流す。


「次は何して遊ぼうかな!」


 エルザは、ユウキの受けから起き上がると、辺りをキョロキョロと見渡した。


「ええと、お母さんが出していたおもちゃ箱は何処にあるのかな?」

「あっち」


 ユウキは、うつ伏せのまま指を指した。

 ユウキは、エルザを跳ねのけることはできなかったとはいえ、無防備にくすぐられ続けていたわけではない。マウンドポジションをエルザに取られてから、ユウキはエルザからくすぐり攻撃を守るためにうつ伏せになっていた。

 あまり効果があったとはいえなかったが、仰向けのままではうつ伏せよりユウキに心理的ダメージを与えただろう。


 ユウキはうつ伏せから寝返りをして仰向けになる。

 仰向けのまま首だけを動かせば、思うように勝てて上機嫌なエルザが目を輝かせながらおもちゃ箱の中を漁っていた。


「ああ!新しい本がありますよ!!ねえ!ユウキ!この本読んでください!!!」

「どれどれ」


 ユウキは立ち上がると、ユウキから手渡された本を見る。


――四十八手の基本


「…………………………はっ?」


 ユウキは見間違違いと思い、もう一度表紙を見ると、そこには……


――四十八手の基本


 変わらない文字が書かれていた。


(いやいや、待つんだ。僕の知っている四十八手と違うかもしれないだろう。ディーネたん相手に妄想したものではないはずだ。うんうん。たまたま同じ題名なだけかもしれないしな!うんうん!)


 四十八手とは男女の夜伽の技の表現であり、ユウキはまさか今見るとは思っていなかった。

 ユウキが絶句していると、隣から覗き込んできたエルザが無邪気にユウキの腕を引っ張る。


「四十八手の基本だって!武闘家が書いた冒険記かな!!!」

「そ、そうかもしれないねえ」


 ユウキが遠い目をしながら表紙を(めく)ると、文字と絵が描かれていた。

 横書きの本であり、所々に師匠と弟子と思われる稽古の挿絵が挟まっている。


「ぐふふっ」


 その挿絵は、ユウキが転生を果たしてから初めて見た絵本と似たような画風で描かれていた。

 絵描きが書いた絵であり、白黒で描かれている。絵から連想しやすいように単純な絵であり、絵を見ただけでは具体的に何のことなのかいまいち分かりにくい。


(これはあかんやつです、ディーネたん!僕はどうしたらいいんだ!このまま見ていいの?見ていいのかい!)


 人肌はごくわずかしか描かれていないが、知っている人が見れば何のための本なのか一目瞭然だった。

 ユウキが使わなくなったコスチュームを箱の中に入れていくように、村の子供たちは勉強のためにもらった本を教会の本棚に入れて共有している。四十八手の基本が書かれた本も、子供たちが将来困らないように共有されているものである。

 普段なら子供の手に届かない高さにあり、ユウキやエルザの目にも止まらない本が、なぜかおもちゃ箱の中に入っていた。


 ユウキは、読みたかった。

 この世界に来て、初めての官能小説らしきものを。

 絵本で教わった神話とはまた違ったものが書かれているのは間違いない。


「ぐふふっ」

「それで一体何が書かれているんです?」


 ぐふふと笑いニマニマ笑うユウキをみたエルザは、その本に何が書かれているのか気になった。

 一体何が書かれているんだろう。

 初めて見た本で魔力的なものが感じられないことから、禁書の類でもないだろう。

 エルザは、ユウキの手に抱き着き、体の体重を預けた。

 

「さあ!私に教えなさい!」

「ぐふふっ、この本は二人で読みましょうだって!だから僕たちにはまだ早」

「えええええ!ちょうど二人ですよ!タクトが穴掘りを止める前に見て見ましょう!さあ早く!」


 読みたいけど、教育に悪いものだとしたら、四十八手の基本が書かれた本をエルザとみるわけにはいかない。

 ユウキのなけなしの理性によって、本を閉じようとしたユウキだったが、エルザの好奇心に心が揺らいだ。


「ぐぬぬっ……見るべきか、見ないべきか……」

「ぜひ見ましょう!それで、何て書かれているんですか!」


 ユウキの女性像は、ディーネたんハアハアが基本である。

 ユウキは、この世界の娯楽が、どの程度のレベルなのか気になっていた。ユウキのあってないような理性では、知らないことに対する探求心を押さえることはできないでいた。


(深く読めば、この一つ目の型も、武術には見えなくない……聖剣突き。一撃で相手を倒すことができる技、ごくりっ)


 四十八手と書かれていたことから、前世の頃の四十八手と同じものを連想したユウキだったが、そもそもこの世界では四十八手の意味は違うかもしれない。

 四十八手という武術の奥義かもしれない。

 今まで見たことなかったものも、誰かが読んでいてなかっただけかもしれない。


 ユウキは言い訳を考えて、ふとエルザが言った一言に疑問を覚えた。


「むむ?……ねえ、エルザ?」

「何でしょう?」

「エルザって文字読めたよね?」

「共通語は読めますとも!この文字が古代文明時期の文字であることも知っています!ですが、私は基本の文字しか読めません!」


 エルザは胸を張って答えた。


「むむむ」

「どうしたのですか?何が書かれているのですか!」


 ユウキは、魔王がいるようなファンタジー世界での知識に飢えていた。

 そのため基本と書かれている本を見つけてしまえば、過去の人がどんな技を開発してどんなことが書いてあるのか気になってしまっていた。

 それがたとえエロから始まることであっても、人は基本的欲求を満たさなければ自己現実を叶える技を磨かない。


(ぐふふっ…二人で読みましょうと書かれているなら、僕とエルザしかいない今が、丁度いい……ぐふふっ)


 ユウキもエルザも全ての文字を読めるわけではない。それでも読める範囲で読んでみることにした。


「『四十八手の基本について。武術の基本の体位の種類のことです。初代聖剣が作りまとめたもので、現代でも昼と夜のどちらの活動でも応用がききます。四十八というのは種類の数を表したわけではなく、瞬時に使えるような技を四十八個程度用意しておけば、1回の戦闘で困ることはありません』だって!!!」

「ふむふむ。もう一度!もう一度読んでください!」

「『四十八手の基本について。武術の基本の体位の種類のことです。初代聖剣が作りまとめたもので、現代でも昼と夜のどちらの活動でも応用がききます。四十八というのは種類の数を表したわけではなく、瞬時に使えるような技を四十八個程度用意しておけば、1回の戦闘で困ることはありません』」

「ふむふむ。なるほど!すぐに使える技は四十八個程度必要なんですね!続きはなんと書いてあるんですか!ユウキ早く読んでください!」

「ちょっと待ってね」

「うん!」


 ユウキとエルザは地面に座り、本を広げる。

 ユウキは続きを読み始めた。


「『まず、相手に寄り添うところから始めます。お互いの対人距離を把握する必要があり、相手との距離感を掴むのが大事です』」

「ふむふむ。つまりどういうことです?」


 瞬時に使える技は四十八程度必要だとして、なぜ距離感が必要なのか。

 エルザには、なぜ対人距離が必要なのかわからなかった。


 エルザは首を傾げている。

 頭の中でクエスチョンマークが出ていることだろう。

 まず初めのことを理解していていない様子のエルザをみたユウキは、どうやって説明したものかと頭を悩ませる。

 ユウキには、人との距離感が痛いほど分かっていた。ユウキは、距離感を間違えれば気を失ってしまう頃を思いだし、言葉を選ぶようにして口ずさむ。


「そうだねえ。例えば、僕がエルザに飛びかかろうとする。するとエルザは僕から距離を取ります」

「え?どうして距離を取らないといけないのですか?」

「……………」

「……………」


(純粋すぎておじさんには辛いよっ)


 ユウキは心の中で涙を流した。

 見たいという欲求で見たものの、エルザにどのように説明しながら見ていこうかと。

 内容的にマーベルやソフィアに見つかったら、まだ早いと見ることも出来なくなってしまうかもしれない。


「ねえ、ユウキ。どうしたのですか?」

「ううん、何でもないよ。」


 心配そうに見つめてくるエルザに向かって、ユウキは根気強く説明することにした。


「まず寄り添うことだけど、武術で言う寄り添う以前に、人と人にはお互いに距離がある。例えば今、エルザは僕の腕に抱き着いているけど、これがタクトさんだったらどうするの?」

「抱き着く!」

「おお、そうかい。だったら見ず知らずのおじさんだったらどうするの?」

「抱き着く!」


 エルザは当然と言わんばかりに即答した。

 ユウキが女性に抱き着く姿を見て育ったエルザは、相手に抱きつく不快感がない。

 それどころか、相手に抱き着けば抱き着いた分だけ相手が心を開いてくれるものだと学習していた。


(もしかしなくても、僕のせい!?僕のせいなのか!)


 ユウキはあんぐりと開ききっていた口を閉じると、フッと笑って立ち上がった。


「いいかいエルザ。僕と組手をするとする」

「うん」


 エルザはユウキにつられるように立ち上がり、剣の柄に手をそえていつでも抜刀できるように構える。


「いや、構えなくても……いや、そのままでいいや。さて、技の前に距離感が大切だと書いてあったたのは、技に必要な距離が関係していると思うんだ。例えばだけど、僕がパンチを繰り出しても、パンチが届く距離に居なかったら攻撃は当たらないだろう」

「うん!」

「それでいて僕のパンチが当たる距離でずっとパンチをよけ続けるのは精神的負担が多いと思う」

「え?そうなのですか?避けるのは楽しいと思いますけど?」


(うん、僕にはエルザに教えるのは無理みたいだ)


 エルザのきょとんとした顔をみたユウキは、エルザに説明するのを諦めた。


(この本は、今度一人になった時にこっそり拝見することにするよ。それより今は)


 エルザは、真剣に構えをとり続けている。

 ユウキは、エルザの注意を反らすために、途方に暮れた。


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