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93、【怠惰】とカレーパン争奪戦8

♢♦♢



ベルが四人組の女性冒険者と行動を共にしている頃、フェゴールは今だに目標もなく冒険者の追跡を右に左に受け流す事しかできずにいた。

何故追われていくのかも、またこの追跡を振り切るための具体的な策も分からないまま、その体と頭を動かし続けることで精一杯なのである。


それに決して疲れない体と無限に近しいMP(魔力)で補っているが五大パラメーター自体は0なのである。

油断すればすぐに冒険者の息遣いが聞こえるほどの距離まで詰め寄られるために気を抜くことは許されない、そんな緊張感の中で常に最善のタイミングで魔法を撃ち続けているのだからそれ以外の事を気にする余裕は無いのだ。



「ッ!?」



なので冒険者の中でも一際異彩を放つスキンヘッドの筋肉ダルマであるギルドマスター、ノーツが接近していることに気が付くのが遅れたのも仕方がない事であろう。


驚きと共に咄嗟の判断でフェゴールは風爆(エアボム)を使い、自身の体を空に放たれる弓矢のように勢いよく弾き出した。


先ほどまで足を付けていた屋根の景色をはるか後方に送りながらも、その心情はマナドールの身体ではかくことの無いハズの冷や汗をかいているような気分であろう。



「まさか今のはギルドマスター!?本当にどうなっているのよ、何で私もベルも追いかけられないといけないのよ!?」

「それはワシにも分かりかねるな。」

「ッ!?」



独り言をつぶやいたつもりだったがその横に並走するかの如く空を飛んでいたノーツが返事を返した。

ノーツは筋肉の鎧で覆われたその体から想像できる通りにノーツは魔法を使うことは出来ない。

つまり魔法を使わずに自身の脚力だけの跳躍でフェゴールに追い付いてきたのだ。


予想外の人物の登場にやや表情が硬直してしまったものの、すぐに表情を戻してノーツの言葉を聞き返す。



「貴方にも分からないの?組織の長にしては視野が狭いのね。」

「…管理不足である事は認める。が、それはお前さんにやましい事情が無ければの話だな。」


トンッ、タッ!



次の屋根に着地して直ぐに跳躍する二人。

ノーツの身には風爆(エアボム)による猛烈な暴風が降りかかったハズなのだが、その影響が全くないかのように重心一つ動かない体幹は巨木の如き安定感である。



「心当たりの無い事を言われたって返しようがないわ。あっちの人たちに聞いた方が早いと思うわよ?」



そう言いつつ追ってくる冒険者たちにチラっと目線を向けるフェゴール。



「そうなのかもしれんがな、すまないがもうしばらく追いかけられてくれんか?」

「理由は?」

「最近はギルドのイスに座って書類とにらめっこが続いていてな。」

「それで?」

「お前さんを言い訳にしてなまった体をほぐしておきたいと思ってな。」

「はぁ、呆れた。」



深いため息とともに肩をすくめるフェゴール。

だが、ノーツの言葉が本当であれば追いかけてきている冒険者たちとノーツは無関係であり単純に面白そうだから流れに乗っただけの野次馬という事になる。

野次馬にしては少々アグレッシブすぎるが。


二人の間に微妙な空気が流れるが、よくよく考えればこれはチャンスになりうる状況ではないかとフェゴールは閃いた。



(まぁ、動機はどうれあれ冒険者ギルドのマスターが向こう側に付くよりは数段マシなのかしらね?それに冒険者ギルドで情報収集が出来る人物が居れば少なくとも現状の把握が出来るかもしれないし。)



フェゴールが直接冒険者ギルドに行って情報収集をするよりはノーツを説得して情報を集めてもらう方が難易度が低いだろうと考えた結果であろう。

もちろんノーツが冒険者ギルドで今の状況を完全に把握した後でノーツが追いかける側に回ることも考えられるのだが、何も知らずに捕まるよりは現在の状況を知ってから捕まった方が幾分マシである。


なお、何も言わずに追いかけてきた冒険者に聞くつもりは毛頭ない。



(そう考えるともうしばらくは()()にもう少し付き合う必要がある、と。)



再びため息を漏らしつつフェゴールはコレ(ノーツ)をジト目で睨めつけた。

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