92、【怠惰】とカレーパン争奪戦7
布袋の中に包まれたベルとそれを運ぶモロハ、その二人を囲むように前方のミントとココア、そして後方のバニラという配置でレンガ舗装の道を走る五人。
いや、ベルだけは走っていないが。
「そういえば、ずっと気になってたことがあるんだけど…」
「ん?アタイに分かる事なら何だって聞いていいわよ?」
「じゃあ何で私とお姉ちゃんは追いかけられているの?」
「ちょ、アンタそんなことも知らないで……って、そっか、アレは冒険者ギルドで勝手に決まったことだからアンタが知る訳無いのよね。」
「アレ?」
「まあ、かくかくしかじかってね。」
かくしてミントの口から昼前に起こった冒険者ギルドでの一件が語られたが、順を追って説明しようと頭の中で情報整理を行ってみればみるほど今回の事件が必然のように思えてしまう。
冷静に考えればパン自体の価値と釣り合っているとは思いにくい程の過度な報酬を設定した受付の対応。
特別依頼にした事により依頼の付加価値を無暗に上昇させた受付の対応。
そしてこれだけの好条件を与えられた依頼にも関わらず特に人数制限を設けずに全員の受諾を許可した受付の対応。
……大体は受付のせい、正確にはミツのせいであった。
「いきさつはこんなものね。報酬が高くて参加人数も多いから殆どの人は抜け駆けして独り占めにしようと考えているんでしょ。それでも建前とか信用問題とかはしっかりしてないと悪い噂が流れて冒険者として信頼されなくなっちゃうから、上っ面だけでも協力しているフリをしてるって事でしょうね。」
「じゃあ…ミントちゃん…でいいのかな?ミントちゃんはどうなの?」
屋根から落ちている時は背中で着地するために空を見ていたベルは彼女たちの姿を見ていないため声だけで聴き分けている状態である。
彼女たちの名前が疑問形になってしまうのは仕方がない。
「どう…って?」
「話を聞いている限りだとミントちゃんたちも建前上は協力してたけど、抜け駆けするために私を捕まえた…とかじゃないのかなって思っちゃったんだけど。」
事実として現在のベルは体を丸めた状態で布に包まれているうえに体力も戻り切っていない。
このまま人気のない場所に連れ込めば報酬を独り占めしつつも、多くの冒険者に追われていて可哀そうだったベルをかばう為に隠れていたと言い訳することも可能であるはずだ。
ベルの不安そうな顔は誰も見ることは出来ないが震えた声は周りの四人にはしっかりと届いている。
それに対してポンと音が立ちそうな動作で手を叩いたのはミントであった。
「なるほど、そういう手もあるのね。」
「ちょっと!?」
あまりにも意外な反応だったために珍しくツッコミ役に回ってしまうベルだが、よくよく考えてみるとこの言葉は『その手は全く考えついていなかった』と取ることもできる。
つまり彼女たちは自分たちの報酬や名誉よりも一人の少女を助けることを選んだということだ。
…少なくとも空から降ってくるベルを受け止める瞬間は。
「…いやいやいや、そんなことする訳無いでしょ!?あんな人の気持ちも考えらんないような奴らと同列に並べないでちょうだい。」
「一瞬考えた…?」
「そういう時だけ鋭いうえにしっかり喋るのはやめてよモロハ。」
やめてと言いつつも小さな笑い声が漏れるミントとそれを見てさらに笑い合うバニラとココアの和気あいあいとした声。
ただのカンであるものの彼女たちは信じても大丈夫だと、そのようにベルは思った。
ひとしきり笑い切った後、ミントは気持ちを切り替えキリっとした声を張り上げた。
「このまま逃げ隠れるのは比較的簡単そうだけど私たちはこのままベルの姉さんを探す、そしてみんなで逃げ切るのよ!」
「そしてベルちゃんのパンを独り占めするんっスよね?」
「しないわよ!!」
「やっぱり守銭奴…?」
「違うわよ!!」
(あれ?こんな感じでパーティのリーダーがいまいち締まらないタイプの人って見覚えがあるような…)
そんなことをふと思い出しながらも彼女たちの足は止まることなく進み続けるのであった。
ジャン「ヘーックシュン!!」




