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9、【怠惰】とマナドール

今更ですか活動報告を書き始めました。

主に8話までの裏話になっていますので、興味があれば覗いてみてください。

8話までのネタバレ注意です。

♢♦♢



「困った、これは非常に困ったなぁ。」



ベルは一人嘆く。


Bランク冒険者『忘れられた黄金』の3人組と別れた日から一週間後。

【怠惰】あらため、ベルは理想のダラダラ生活を満喫していた。

器用に箸を使いポテトチップを食べながら本を読み、読み終わった本をスライムに消化させて新しい本を購入する。

殆ど動かないため一日二回で済んでいる食事もインスタント麺で済ませている。


トイレはシャワー室と似たような設計を考えたが、DPの節約のためスライムを利用することにした。

見た目は只の洋式トイレだが下の空間は空洞になっており、流れてきた排泄物と水を複数のスライムに消化させるというシステムだ。


そんなベルにとっては充実した毎日を過ごし一週間。


「これは由々しい問題だぁ。」


しかし、そんなベルを悩ませる物が目の前にあった。


いや、こんなものは初めから無かったことにしてスライムに消化させれば良かったのだろうが、一度見てしまったからにはどうしようもなかった。



「一人じゃ出来ないじゃん、()()()。」



そう、オセロである。


ベルは娯楽に関わるものに関しては1DPで出すことが出来る。

そのためマンガ・小説・雑誌などあらゆる本を読み漁っていたのだが、たまたま目に留まったオセロが気になり早速出してみた。


その結果が今の状態である。


「ねーねースライムくん、オセロ出来る?」


何故軟体生物がオセロを出来ると思ったのか、と言いたいところだがこのスライム達の知能レベルは最大で召喚されていたためベルからの指示を忠実にこなしていたのだ。


主に「アレ取ってきてー。」とかだが。


そんなスライムがベルの言葉に気が付き、自身の身体の中にオセロの石を取り込みそのまま盤上に移動、挟んだ石も器用にひっくり返したのちに盤上から離れた。


このスライムはオセロのルールを理解しているようだ。だが…


「んー、だいぶ遅いかなぁ…」


その一通りの動きが非常に遅いという欠点があったのだ。


オセロの魅力は何といってもお手軽さであり、一手にかかる早さというのは無視できない、というのはベルの意見だ。

実際のところはオセロにもプロが居て、一手に何分もかけて手を打つほどの奥深いゲームなのだが、ルール自体はシンプルなせいでベルはお手軽なゲームと思い込んでいるだけなのだ。

どちらにせよ、思考は早いのに行動が遅いスライムとオセロをするのは耐えられなかった。


「何かいい方法は無いかなー、それにしてもスライムがオセロのルールを理解できてるのはビックリしたなぁ、流石知能レベル最高にしたモンスター…ってそうだ!人型のモンスターを召喚すればいいんだ!」


モンスターにも様々な生態があり、それは必ずしも異形の者とは限らず、人型のモンスターというのも存在しているのだ。

もちろん人型と言ってもピンからキリまで存在しており、見た目を置いておけば醜い顔で肌が緑色のゴブリンでさえ人型のモンスターではあるのがだ、逆にいえば街に溶け込んで生活しているほど見た目が人間と変わらないモンスターも存在している。

その代表がサキュバスやヴァンパイアなどで、戦闘力の高さはさることながら、言葉を話し意思疎通が出来るのが最大の長所とされているこれらのモンスターは斥候(せっこう)として絶大な能力を発揮するのである。


だが、優秀なモンスターであるがゆえに召喚に必要なDPも相当な数値となり、普通の新米ダンジョンコアにはまず手が届かないモンスターである。


「だけど私には『【怠惰】の烙印』があるもんねー。」


そう、『普通の新米ダンジョンコア』には、である。


ベルの固有スキルである『【怠惰】の烙印』はメリットもデメリットも普通ではない。


デメリットは五大パラメーターである攻撃力・防御力・魔法攻撃力・魔法防御力・敏捷が0になること。

彼女の召喚するモンスターはスライムもドラゴンも等しく相手を傷つけることすらできない。


メリットは召喚にかかるDP(ダンジョンポイント)がたった1DPになること。

彼女に召喚するモンスターはスライムもドラゴンも同じ価値になる。

さらに知能レベル上昇などのオプションを加えても変わりなく1DPである。


また、デメリットの範囲はあくまで五大パラメーターのみである。

HP(体力)MP(魔力)・スキル・習性などは元のモンスターのままになる。

スライムの『消化』がとどこおりなく使用できているのはこのためである。


つまりは先ほど例に挙げたような高度な知能を持つ人型モンスターさえも1DPで召喚できるうえに、戦闘を目的としなければデメリットもない。


考えうる限りで問題は全くないと断定したベル。

戦闘できないことなど問題にすらならなかったのであった。






「さーて、いいモンスターはいないかなぁ?」


ベルが求めるのは親しみやすさと指先の器用さ。


何とも言えない条件だが、当の本人は大真面目に考えているのである。


サキュバスは大人のお姉さんというイメージで自分にはまだ早そうな気がする。

ヴァンパイアはちょっと怖そうなイメージがあるので避けたい。


そんな子供みたいなことを呟きながら…いや、実際子供なのだが、ともかくモンスターの一覧を眺めていく。

その度にあーでもない、こーでもないと候補を絞っていく。


そして一匹、いや、一体のモンスターにたどり着いたのであった。


「マナドール…うん、コレにしよう!」


ベルの選んだマナドールは人間の姿を精密に再現したモンスターで、簡単に言えばゴーレムの一種である。

体内に搭載されたマナ(魔力)バッテリーに備蓄されたマナを糧に活動することが出来る。

地上に比べてマナの溢れているダンジョンの内部であれば自動的にマナバッテリーが充電されるらしいので、マナドールのための食糧は準備しなくてもいい。


また、ゴーレムと同じ人造のモンスターであるためか、オプションでのカスタマイズが外見・性格・頭脳と事細かに設定できるのもベルにとって魅力的だったのだ。


「オプションは…私の代わりに色々考えてくれて、だけど口うるさくはない性格。

身長は私よりも高くて頼れるお姉ちゃんって感じに。

知能レベルはもちろん最大、魔法攻撃力は0だけど全ての魔法が使えるかっこいいお姉ちゃん。

あ、お姉ちゃんなら私よりも濃い紫色の髪でロングヘアー、そして私より長いツノっと。」


いつの間にか目的がずれているような気はするが、ここまで詳細にいじってもたったの1DP。

自ら試行錯誤して作り上げた自分だけのマナドールに満足したベルは、さっそく召喚してみることにした。


ベルの目の前に光が集まり、それらが足元から集約して徐々に胴体・腕・顔を形作っていく。




ベルと同じくゴスロリ風の意匠だが、身長が高くなった分スカートが段々になり、その一段一段ごとにフリルがあしらわれている。

ベルはコルセットだが、このマナドールの服は大きなリボンとフリルで構成されたドレス。

顔はまさしくお姉ちゃんといった雰囲気だが、あまりベルと歳が離れている印象は無い。

その目はもちろんオッドアイで、左右の色はベルとは逆の右目が青、左目が赤。

髪の毛の色はベルのそれよりも深く引き込まれるような紫色。

長いツノは流石にヘッドドレスでは隠れ切らないため、リボンカチューシャで正面からだけ隠している。


やがて彼女に集まっていた光は拡散して、服装とロングヘアーのため全体的にふわりとした印象のマナドールがここに完成した。




そんな彼女が期待の眼差しでベルを見つめる、そのオッドアイで全てを見通すように。

そんなマナドールの姿にしばらく見とれていたベルだが、ふと我に返り言葉を紡ぐ。


「あなたはこれから私のお姉ちゃんの代わりになるの、名前は怠惰を司る悪魔の名前の下半分、『フェゴール』。

私は上半分の『ベル』、私たち二人合わせて『ベルフェゴール』だよ。」


それはエストリアに付けてもらった名前の下半分。


そのような意味深い名前を付けられたフェゴールが深々とお辞儀をする。


「マスターと、いいえ、ベルと同じ意味を持つ名前をいただいて嬉しいです。」


フェゴールはモンスターであるため召喚者であるベルに敬意を示すのは当然ではあるが、それ以上に『お姉ちゃん』として召喚された以上はそれに従うべきだと最大レベルの知能が判断したため、言葉遣いを少しだけ緩めた。

何せ本来なら『嬉しい』ではなく『光栄』と言いたかった場面をぐっと堪えたのだから。


「さぁベル?お姉ちゃんは何をすればいいですか?」


お姉ちゃんとモンスターの忠誠がごちゃ混ぜになっているが、名前で呼ばれていることに浮かれているベルは気にせずフェゴールを召喚した本来の目的を告げる。


「えへへー、じゃあお姉ちゃん?一緒にオセロしよーよ!」


それがフェゴールに与えられた最初の命令だった。

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暖かい過ぎて辛い! え、ここダンジョン?
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