表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/288

86、【怠惰】とカレーパン争奪戦1

「居たぞ!あそこに居るのがベルって冒険者に違いない!」

「くそっ、道を塞ぐな!?奴のパンは俺たちのパーティの物だ!!」

「たったパン一個で中鉄貨なんて美味しい仕事だぜ!今日は飲み会だぁ!」



まだ遠くにいる冒険者の声であるが、トリルとソフランの二人の耳にはよく聞こえていた。

彼らの声だけでは状況が把握できないのだが何となく面倒ごとに巻き込まれた事だけは感じたようで、トリルは顔を伏せソフランはあらあら~とにこやかに笑っていた



「ベルちゃんって大人気ね~。」

「言ってる場合か。本人に状況を説明……してたらあっという間に囲まれそうだな。」

「そうね~、あそこに見えている以外にも誰かを探している足音がそこら中から聞こえてくるわ~。どうするの?」

「そうだな……おーい、フェゴール!」

「ん?そんなに慌ててどうかしたの?」

「良く分からんが面倒ごとだ。ベルを連れて逃げろ。」

「…分かったわ。」



普段と違う雰囲気のトリルの言葉から、事情すら話せない程に切羽詰まった状況であるとフェゴールは感じ取ったようだ。

もしもベルに話していたらこれほどスムーズにはいかないだろう。


フェゴールは何も言わずにベルの手を取り、ベルが何かを言おうとしたその前に風魔法で大きくジャンプして近くの家の平らな屋根、というよりは屋上に近い空間に飛び移った。



♢♦♢



咄嗟の行動により屋根の上に飛び移った二人。

フェゴールは比較的落ち着いているようだが、何も聞かされないまま屋根の上に連れていかれたベルは慌てた様子でフェゴールに言葉をぶつける。



「ど、どうしたのお姉ちゃん!」

「私も良く分からないけど、とにかく逃げろってトリルが言っていたわ。ほら、下を見て。」

「下?」



フェゴールの言葉の通りに屋根から下をのぞき込むと、そこにはベルが先ほどあげたパンをめぐって冒険者とトリル・ソフランの二人が言い争っていた。

いや、大部分の冒険者に酒が回っている影響もあって言葉だけではなく手も出している冒険者も居るようだ。


状況は多勢に無勢と言えるが、それらをまともに相手にせず飄々(ひょうひょう)かわすあたり流石はギルドマスターから直接依頼を受けたパーティといったところであろうか。



「…えーと、もしかして私のパンが目当て?あんなに大勢で?武器を使ってまでする事なの?」

「良く分からないけど確実に面倒ごとでしょうね。」

「だよねー。だから巻き込まれないように急いで安全な場所まで飛んだってことだもんね。でも助かったかな、だって流石に屋根の上まで追いかけてくるわけ──」

「来たわよ。」

「──来るよねそりゃ、だって私のパンが目的っぽいもんね。家の人には悪いけど屋根を伝って逃げるよお姉ちゃん。」

「もちろんよベル。」


「あっちに逃げるぞ!」

「追え!追えー!」



ベルが今いる家の天井に繋がる階段やハシゴは見当たらず上に登れないようになっているが、家によっては天井に洗濯物を干している所も見えるため上に登れる個所もあるようだ。

それを利用して別の家の屋根から上がってくる冒険者もいれば、近くの家を強引によじ登ってくる冒険者もいる。


どうしてベルの持っているパンが急に狙われだしたのかは二人には分からないが、何故かやる気満々で向かってくる冒険者に聞くのは少し気が引けたので、ここは逃げの一手と言わんばかりに二人は隣の屋根に飛び移った。



「お邪魔しました、お邪魔しまーす!!……お邪魔しました、お邪魔しまーす!!」

「言ってる場合じゃないでしょ!」



屋根から屋根に飛び移る際に律義に挨拶をしているベルにツッコミを入れつつも迫る冒険者から逃げる二人。

屋根に上がってくる冒険者は徐々に増えてきており、二人の移動方向を予想して進路を塞ぐように屋根に登ってくる冒険者も現れ始めた。



「ええぃちょこまかと!大人しく捕まってカレーパンを差し出すのだ!」


「待てって言われて待つのはギャグマンガだけだよ。」

「ベル、次は右に行くわよ!」

「分かった!」



その後も追っ手を振り切る為に何度か曲がりながらも先に進んでいく。

ベルの額に汗がにじんできたころにふとある事に気が付く。



「ところでどこに向かってるの?」

「どこにって、私たちが知っている安全そうな場所って魔術師ギルドくらいしか無いでしょ。」



この町には初めて訪れたのだから当然ながら土地勘は無い。

頼みの綱は遠目でも分かるほどに大きな魔術師ギルドである、が──



「入り口が防がれているわね……」

「そんなっ!?」



ベルが魔術師ギルドで寝泊まりした事は冒険者たちには伝わっていないが、パンを持ち込んだ人物がオニキスであった為に魔術師ギルドとベルは何か関係があるのではないか、と考えた何人かが入り口で見張っていたのだ。



「ベルの足が止まったぞ!」

「囲め囲め囲め!徹底的に囲め!!」


「とにかく逃げるわよ!」

「どこに!?」

「知らないわよ!!」



ヤケクソ気味に吐き捨てたフェゴールは再びベルの手を取って魔術師ギルドを超えるように風魔法での大ジャンプを行った。


二人の知らない間に勃発していたカレーパン争奪戦はまだ始まったばかりである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ