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85、【怠惰】とパンと食糧庫

♢♦♢



カーン…カーン…



「あらあら~、もうお昼なのね~。」

「屋台と飲食店だけしか回ってないのにこの時間かよ。それじゃあ昼飯にでも……って、すでにいっぱい食ってたな。」

「うん、もう満腹でこれ以上は入らないよぉ。」

「店で騒ぎを起こしていたあの男の一件でのストレスを発散するためにやけ食いもしたらそうなるわよ。」



公園……と言うよりは芝の生えた空き地と言った方が正しいであろう空間に腰を下ろして休憩している四人。

ただの空き地なのでベンチや公衆トイレなどは無いが、少し離れた場所で数人の子供が走り回っているのが見えるため、少しの休憩程度で土地の所有者に文句を付けられることは無さそうだ。

そもそもこの土地の所有者が居るかは分からないが。


あの店での一件でたっぷりと()()したベルだったが、それだけでは収まらなかったようで近場の屋台でやけ食いしていたようだ。



「でも私の護衛ばっかりで二人は何も食べてなかったよね?折角だからコレ食べる?」

「いや、俺たちは──」



ベルが何かを出そうとしたので断ろうとしたが、その言葉を咄嗟に飲み込んだトリル。

ストレージリングから取り出したパンが、正確にはパンを包んでいる透明な袋が目に入ったからである。


ベルとフェゴールを警戒していたトリルはベルの取り出した食事に毒が盛られている可能性を考えて断ろうとしたのだが、そもそもこの依頼はベルたちを見定める為にギルドマスター直々に頼んできたものである。

なれば未知の袋に包まれたパンもベルたちの事を知る些細なきっかけとして受け取っておくべきだとトリルは思い直したのである。



「──やっぱ貰っておく、ありがとな。」

「じゃあ私も貰うわね~。この袋は破って大丈夫なのかしら?」

「大丈夫だよ、ここのギザギザしたところから……こんな風に破ってね。」



これで何度目になるのかビニール包装の開け方を教えたベル。

今回はトリルに焼きそばパン、ソフランにはピザパンを手渡したようで、ベルの手振りを見様見真似で再現しながらなんとかビニール包装を破った。



「ふーん、見た目はアレだがパンの中にパスタを挟むのもアリなんだな。」

「パスタじゃないよ、焼きそばだよ。」

「こっちのも不思議な感じね~。肉とチーズと何かの野菜かしらね、それとこの赤いソースの酸味でパン自体の味を飽きさせないようにしてあるのかしらね~。とっても美味しいわ~。」

「すごいソフランさん、なんだか食通みたい。」

「ありがとうねベルちゃん~。」



お礼を言われたベルは「えへへー。」とマヌケな表情でフェゴールの元まで戻っていった。

ベルと距離が離れた事を確認した二人はお互いに顔を近づけて、このパンに感じた本当の感想を言い合う。



(俺たちは冒険者として色んな町、いや、色んな国を渡り歩いてきたつもりだ。だが──)

(──こんな工夫の凝らしたパンは食べたことが無い、でしょ?)

(あぁ。肉の美味しいモンスターしか出てこないダンジョンのある町には行ったことが無いが、そこだってこんな料理があるとは思えない。)

(バーグにある肉ダンジョン、通称『食糧庫』だったかしら?隣国のマステリア国にある町だけど、大樹海からは離れている場所にあるからご縁が無いのよね。どちらにしてもあの町は肉しかないからパンと組み合わせた料理は生まれにくいんじゃないかしらね?)



二人が感じていたのはこれだけ美味しくてどんな場所でも食べたことが無いパンを、大樹海から現れたベルが持っていたという違和感である。

パンの間に麺類を挟んだり色々なトッピングをしたり、発想自体はシンプルなので各家庭で独自に生まれたレシピの可能性も考えたのだがそれにしては完成度が高すぎる。



(まぁ、味に関しては俺らよりも受付のミツの方に聞いた方が早いか。)

(それもそうね。)



話し合った結果、ベルにお土産としていくつかパンを貰って固有スキルの【飲食鑑定(テイスティング)】を所有しているミツに食べてもらえば、これらの疑問はハッキリするだろうと二人は結論付けた。


一介(いっかい)の冒険者にしか過ぎない二人はオニキスと違って完全な情報は持っていないが、【飲食鑑定(テイスティング)】は料理に使用されている食材の産地すら見極めることが出来るスキルだと聞いたことがあった。

それによってこのパンが大樹海の食材で作られた物だと判明すれば、ベルを含むモンスターたちが大樹海の中でこれらの料理を作り出すことが出来るほどの文化を築き上げている可能性が生まれるのだ。


これらの予想は遠くからやってきた冒険者の集団によって間違いであると判明してしまうのだが。

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