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83、そういう事じゃないにぇ!




「…って訳なんで、この男をよろしくお願いするにぇ。」

「よろしくお願いされたです。」

「まかせるです。」



冒険者ギルドの双子の受付ことアンちゃんとミツちゃんに無事男を預けたにぇ。


それにしてもここの雰囲気はいつもと変わらないにぇ。普段は頼りがいのある冒険者も昼間から飲んだくれて楽しそうに笑い合っているにぇ。オニキスちゃん的には嫌いじゃない光景だけど、これじゃあただの酒飲みと変わらないにぇね。


大体の冒険者は朝の間に依頼を受けて活動しているんだけれど、もうじき昼の鐘が鳴る頃なのにも関わらずこの場所で飲んでいる連中は依頼を受けそびれたか、いい感じの依頼が無かったか、今日は休暇なのかのいずれかにぇ。


普段はモンスターを飲み干す勢いの冒険者がその勢いのまま酒を飲み干していると考えると少し面白いにぇ。



「それでオニキスちゃん様、例の物は持ってきてくれたです?」

「ワクワクです。」



名前を呼ぶときには()()()を付けるように言っているけれども、アンちゃんはギルドマスターが相手だと譲れない一線があるみたいで、オニキスちゃんではなくオニキス()()()()って呼ぶにぇ。これはこれで悪くないからお互いの妥協点として落ち着いているにぇ。


っと、そんなことより例の物だったにぇ。



「もちろん持ってきたにぇよ。ほい、これが『蒼天の探求者』たちがベルと行動している時に食べていたと思われる美味しいパンだにぇ!」



受付のテーブルにベルから購入したパンをドンドンっと五つ置いたにぇ。ってパン程度の重さじゃドンとは鳴らないにぇね。


彼女たちはすらっとした外見からは想像できない程の大食いで、しかも美食家なんだにぇ。だから『蒼天の探求者』のみんながうっかり口を滑らせたベルの美味しいパンの噂を聞きつけて、自分たちも食べてみたいと呟いていたんだにぇ。今はモンスターの研究という名目でオニキスちゃんの私室で泊めているからこっちに話を付けてもらって何とかパンを手に入れてほしいって頼まれていたんだにぇ。


二人とも凄い食べっぷりだから五個で足りるか分からないけど、この二人が気に入ったらベルに直接交渉しに行くはずだから問題無いにぇ。多分あの美味しさであれば食事に関する固有スキルを持っているミツちゃんの舌も満足してくれるはずだにぇ。


ミツちゃんの固有スキル、確か【飲食鑑定(テイスティング)】って名前だったと思うにぇ。口から食べたり飲んだりした物の毒素を無効化しつつ、その食べ物や飲み物の原材料も分かるスキルだにぇ。


一時期は貴族に引っ張りだこだったらしいけど、おしゃべりが苦手なミツちゃんは貴族社会にうまく溶け込めなかった事と、姉のアンちゃんと離れ離れになるのを嫌がった事から、あまり貴族に干渉されないギルドの仕事に就いているんだとノーツちゃんが話していたにぇ。ちょっと暗い過去だけど裏を返せばそれだけミツちゃんの能力に信憑性があるということだにぇ。



「これが例のパンですか……見た目だけでも違いが分かるのが不思議です。」

「トゲトゲです。」



確かに庶民の食べるようなパンも貴族が食べるような白いパンでも、あまり形にはこだわってないにぇ。だけどベルから買ったパンは雲のようなモクモクとした見た目だったり真四角だったり色々な形があるにぇ。ミツが手に持っているトゲトゲのパンは確かカレーパンって名前だったと思うにぇ。


というかミツちゃん、いきなりそんなゲテモノ臭のする見た目のパンに手を出すなんて勇気があるのか見る目が無いのかどっちなんだにぇ。


外側の透明な袋の開け方は教えたんだけどうまく開けれない様子だったので代わりに開けてあげたにぇ。



「それではいただくです。」

「いただきますです。」



アンの手にはオニキスちゃんも食べたジャムパン、ミツの手にはカレーパンがそれぞれ握られているにぇ。それを全く同じ動きで口元に運んで食べているにぇ。租借(そしゃく)の速度も同じで流石は双子だにぇね。



「パンは主食とばかり思っていたですが、お菓子よりもずっと甘いソースがここまで合うとは思わなかったです。」



うんうん、概ねオニキスちゃんが感じた事と同じ感想にぇね。さっきより食べる速度が上がったみたいだけど、アンちゃんが本気を出したらすぐに無くなっちゃうにぇよ。


それと【飲食鑑定(テイスティング)】を持つミツちゃんの反応は……ん?固まっているにぇ?口元が僅かに動いているみたいだけど明らかに様子がおかしいにぇ。



「……ない、……らない、…からない、分からない、分からない、……」



あまり喋らないミツちゃんがうわ言のように同じ言葉を繰り返しているにぇ!やっぱり何かがおかしいにぇ!



「どうしたにぇ!?毒でも入っていたにぇ!?」



慌ててミツちゃんの肩を揺さぶりながら問いかける……ってこれじゃあ拷問にぇね。こっちも慌ててたら話が進まないのでパッと手を放すにぇ。



「毒ですか?いや違うです。多分スパイス…とてもたくさんのです。」



スパイス?



「使われているスパイスの種類が多くて分からないって事にぇ?」



そういう事なら納得できるにぇ。独特の香りで料理の味を引き立たせるスパイスはピンからキリまで多くの種類が出回っているにぇ。だけどその多くは乾燥させて粉末にしたものだから、沢山の種類をちょこっとずつ混ぜ合わせたら流石のミツちゃんも分からないかもしれないにぇ。


そう思ったんだけど、ミツちゃんは首を静かに横に振ったにぇ。



「何種類使われているか分かるです。スキルは効いてるです。でもスキルに無いスパイスだらけで、小麦粉も分からないです。」



ん?小麦粉も分からない?どういう事にぇ。


困ったのでアンちゃんの方に視線を送るとさっきの言葉を分かりやすくしてくれたにぇ。



「原材料が小麦粉と数種類のスパイスである事は間違いないようです。だけど()()()()()()()であれば食べたことの無い食材の味でもかぎ分ける【飲食鑑定(テイスティング)】を使っているはずなのに食材の詳細が頭に浮かばないようです。」

「えーと、つまりどういう事にぇ?」

「カレーパンは美味しいという事です。」



そういう事じゃないにぇ!

同じ小麦粉と呼ばれているものでも地球産と異世界産では別物、というお話


仮に異世界産100%のカレーパンであればスパイスの種類と分量をピッタリ言い当てれるミツちゃんです

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