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8、【怠惰】と初めてを沢山くれた冒険者

目の前に現れたのは黒い()()のような空間だった。

大きさは直径1m程度の球体で、若干地面から浮かんでいた。


「おいおい、こりゃ魔力の渦だよな?

もしかしてスライムなんかで魔力の渦でも作ったのか?」


人間の間でも魔力の渦という名前は変わらないようだ。


オルスいわく、魔力の渦とはその名の通り魔力が一か所に停滞した空間のことらしい。

理屈は分からないが、魔力の渦からは一日おきに特定のモンスターが出現するらしい。


オルスはダンジョンコアの力を見るのに慣れてきてしまったため、目の前に作り出された魔力の渦へのリアクションが薄いが、人間達にとって魔力の渦はとても厄介なものなのだ。

一度開かれた魔力の渦は人間には閉じることができない。

一日おきとはいえ、永遠に現れるモンスターの処理をしなければ天井無しに増え続けるのだ。


とはいえダンジョンコアの目線で見ると本来必要なDPを100倍した分のDPを払わなければ魔力の渦にはできない。

DPの消費が激しい分、魔力の渦から出てくるモンスターが比較的低ランクのモンスターに限定されてしまうのだ。

だが、魔力の渦が100日稼働すれば元が取れ101日目からは純粋な儲けとなる。

長い目で見るなら強力だが払うDPが多い割に即効性が無いという、扱いの難しいギミックだった。


「じゃあここから1日一回スライムが出てくるんですね?」

「そういうことになるな。まぁ、お前の固有スキルのことを考えると悪くないかもな。」

「低いHPと防御力0を考えるとスライムにつまずいただけで倒せそうだもんね。」

「えぇ、そんなに弱いんですか!?」


スライムは五大パラメーター以外のパラメーターであるHP(体力)も低いとされている。

戦闘経験のない農民でも倒せるモンスターという総評は伊達ではない。


それはともかく…


「でもこれだと一日待たなきゃスライムが出てこないぞ、ゴミを消化できるかどうかを見るんじゃなかったのか?」

「あ。」


この後新たに召喚されたスライムは見事ゴミを消化してくれて、誤って作られたスライムの魔力の渦が無駄になることは避けられた。






その後はオルスがたわいもない冒険譚を語り【怠惰】がそれを聞いていたのだが、エストリアがふと気が付いた。


「そういえば『【怠惰】のダンジョンコア』は名前じゃないんでしょ?」

「あ、はいー。【怠惰】の属性を持ったダンジョンコアって意味なので人間達が使っているような名前ではないみたいだよー。」

「だったらアタシが名前を付けていい?こんなに可愛い子を【怠惰】って呼ぶのはさっきから違和感があったっていうか…ほら、友達同士は名前で呼び合うものでしょ?」

「と、友達!?分かりました、是非お願いします!!」


即答である。


この短い間ではあるが、3人が名前で呼び合う姿に少し憧れのような感情が生まれていたのだ。


名前があれば彼らとより仲良く、それこそ本当に友達になれるのではないか?

逆に彼らと仲良くなれなければ町から遠く離れたこのダンジョンで出会いなど、ましてや友達などあり得るのか?


この3人と一緒にいるのはとても楽しい。


【怠惰】の属性を持っているにも関わらず、彼らとのやり取りには不思議と積極的になれた。


そんな自分に名前が出来る。


しかもこの世界に生まれて初めて出会った友達に名前を付けてもらえる。


もはや断る理由などどこにもなかった。


「よーし、じゃあ怠惰を司る悪魔ベルフェゴールから取って『ベル』。

どうかな、ベルちゃん?」

「ベル…うん、とっても可愛くて素敵だと思う!!ありがとう、エストリア!!」

「へへっ、そんなに気に入ってくれて良かったよ。よろしくね、ベル。」

「そうだな、俺からも改めてよろしくなベル。」

「…よかったな、ベル。」


3人からの祝福の言葉に笑顔のまま涙が零れそうになるベル。

その様子を3人もまた、温かく見守るのであった。







次の日の朝


「いや、すっかり長居してしまってすまないな。」

「いえいえ、オルスさんにはスライムのことを教えてもらったので感謝してますよぉ。エストリアさんも私に名前を付けていただいてありがとうございます。」

「うふふ、ダンジョンコアに初めて名前を付けた歴史的人物になっちゃうのかしら。」

「…可能性はあるが、そのためにはダンジョンコアの存在をギルドマスターに話さねばならないから暫くはダメだな。」

「そうですよぉ。あ、ハーデスさんも色々ありがとうございます。」


冒険者であるからにはいつまでも同じ場所にとどまるのは良しとしない。

名残惜しいが日がのぼりきらない間に町に向かって出発することにしたのだ。

町の位置は魔法のコンパスで分かるため、トラブルさえなければ問題なく帰ることができるだろう。


「それで約束の通りに…」

「ああ、このダンジョンの存在を今回はギルドに()()()()()から安心してくれ。」


そう、ベルと『忘れられた黄金』の間に交わされた約束。

それはダンジョンコアに関する情報とこのダンジョンの情報を今回は報告しないというものだった。


3人は『【怠惰】の烙印』のことを知っているため、このダンジョンの防衛力がどうしても低くなってしまうのを把握している。

だがある程度の時間を用意すれば、このダンジョンならではの方法で防衛できるかもしれない。

今回ベルのダンジョンが手抜きだったのは本人の性格もそうだが、純粋な時間不足もあったのだから。


「だから、な?今度俺たちがここにあらためて来た時には、もうちょっとダンジョンらしいダンジョンにしておけよ?」

「ううぅ、寝たい…ダラダラしたい…」

「いや、今更だろう。」

「でもオルスー、あのベッドで寝たら絶対気持ちいいよ?」

「お前はどっちの味方だよ!?」


少しノリが軽いけどモンスターの知識が凄いオルス。


オルスには厳しいけどベルには優しくて名前もくれたエストリア。


あまり喋らないけど一番落ち着きのあるハーデス。


「フフッ。」


私はこの人たちが好きだ。


そう思うと自然に笑みがこぼれるベルであった。












初めての冒険者、初めての友達、初めての名前。


人間を利用しダンジョンを広げるダンジョンコアとして生まれたベル。

しかし、その生き方に疑問を持ちダンジョンコアの常識にとらわれない自由な行動により本来は敵であるはずの冒険者と友達になったベル。


全ては自由気まま、成り行きのまま。

【怠惰】なゴスロリ少女ベルのダンジョン生活はまだまだ始まったばかりなのであった。


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