77、【怠惰】と屋台
ラッキーナンバー回
扉の奥から歩いてくる小さな足音に集中してから数分後、ついにその扉が開けられた。
しかしそこから現れた人物に『届かぬ楽譜』の二人は驚愕した。
ギルドの中から出てくる三人、その内の一人は『届かぬ楽譜』の二人もよく知る魔術師ギルドのギルドマスターであるオニキスである。
つまり彼女の隣を歩いている可憐な二人の少女が今回の護衛対象となるのだが、トリルの目にはどう見てもCランクの冒険者を付けるほどの脅威に見えないようであった。
一方のソフランはトリルが気が付かなかった何かに気が付いたようで、ナイフに近づけた手についつい力がこもってしまっていた。
(おいおいおい、なんだありゃ!ただのガキじゃねーかよ。)
(あらら、私もビックリしちゃうわ~。まさかトリルが左右の眼の色が違う女の子をただのガキって思っちゃうなんてね~。)
(何ッ!?……本当だ…確かに左右で違う色だ。)
(それに二人とも頭を隠しているからツノがある可能性はあるし、全身もゆったりとした服だから短い尻尾くらいなら隠せるかしらね?ああ、もしかしたら牙もあるかも!?なんちゃって、これはギルドマスターから直接指名された特別依頼なんだから油断しちゃダメよ~。)
(…ああ、悪かった。)
相手の見た目がどうであろうとモンスターだと聞いている以上は気を緩めてはいけないと語るソフラン。
それを聞いたトリルはハッと我に返り今一度気合を入れなおした。
もちろんベル相手にこれだけの警戒を向ける必要は無い事を彼らはまだ知らない。
一方のベルたちも少なくはない人通りの中から彼らを見つけていた。
「オニキスさん、もしかしてあの人たち?」
「紹介するにぇ。彼らが今回の護衛依頼を受けさせられた……いやいや、受けてくれたCランクパーティの『届かぬ楽譜』のお二人にぇ。」
「事実だけどギルドマスターがキレるからやめろぉ!」
((事実なんだ…))
まだ距離が縮まっていない段階からツッコミを入れるトリル。
文字通りに受けされられたと言うよりは権力のある人間からの無言の圧力に近いのだろうか。
自分たちが所属する集団の長との仲が悪くなれば最終的に集団を抜ける羽目になる可能性がある。
それは冒険者ギルドに限った話ではなくどこにでもありふれた話であり、要は『明日は我が身』ということである。
「おっと悪い、そこのチビの言う通り『届かぬ楽譜』のトリルだ。」
「チビじゃないにぇ、成長期にぇ!」
「ソフランよ~。彼との関係は色々あるんだけど~、とりあえずはパーティメンバーよ~。」
「色々ってなーに?」
「うふふ、ヒ・ミ・ツ♡」
「うわぁ、大人の女性だー。」
毒舌・天然・ボケ・ツッコミ、あまりにカオスな自己紹介だが、先にかましたのはオニキスなので自業自得である。
逆に最初からギスギスしているよりは言いたいことを言い合う程度の関係になったのは僥倖なのであろうか。
とは言え朗らかな会話の裏で今だに武器を意識した立ち回りをしている二人は演技での付き合いではあるのだが。
一方で演技など出来ないベルは辺りの景色に目移りしていた。
焼いて固めたのか土魔法で作り出したのかは分からないがレンガで基礎を固めた建物が多く、その上に木造を基本とした平たい屋根の光景が視界の奥まで続いていく。
建物の高さはある程度は統一されているものの隣同士の建物でも最大約30㎝程度の誤差があり、その高さの差によって影もデコボコとした遊びのある形となっている。
「ん?あっちからなんだかいい匂いが…」
そんな風に整えられた街並みに目移りしていたが、今後は近くから流れてくる料理の香りに鼻移りしてしまったようだ。
どうやら魔術師ギルドのあるこの通りはちょっとした大通りのようで、その両脇には屋台のような店が何件か見えていたのだ。
「安いよ美味いよ~!今朝取れたばかりの新鮮なタックルオックスのお肉をシンプルに塩で味付けした串焼きだよ~!安いよ美味いよ~!たったの500Gだよ~!」
「うわぁ、美味しそうな焼肉だ!大きいし凄くいい香りー!」
「お!?そこの可愛いお嬢ちゃん、中々見る目があるねぇ。今買ってくれるならこっちの大きいお肉にしてもいいよ。ちょっとしたサービスさ。」
「ホントに!?買う買う買っちゃう!!」
可愛いお嬢ちゃんやサービスという言葉にまんまと釣られたベルはタックルオックスというモンスターの肉の串焼きを大銅貨5枚で購入した。
しかし大きな肉をサービスしてくれると言った店員の言葉に偽りはなく、ベルの非力な手では片手だけで持っていると疲れてしまうくらいの大ボリュームであった。
「──という訳で俺たちが今回の護衛を……って、お前何食ってるんだ?」
「ん?」
一方で何かの説明をしていたらしいトリルの元に戻ったベルだが、この後は当然ながら全員に怒られるのであった。




