62、【怠惰】と笑う最強美少女
仕事場に行ったら休日だった。
そんな日常に八つ当たるが如く久々の平日投稿です。
オニキスが地面と熱い抱擁を交わしてから数分後…
「いやぁ、やっぱり速度は申し分ないけど安全性の欠片もないにぇね。回復魔法をあらかじめ仕込んでおかなかったら即死だったにぇ。」
「即死しそうだったのに何で楽しそうなのよ。」
「瀕死状態の人間にトドメを刺さずに横にして寝かしつけてくれるようなモンスターが二匹…いや、二人もいるからにぇ。もちろん感謝はしているけど、それ以上にこの後の研究をどうしようか期待が膨らみまくっているんだにぇ。」
にーへっへっへー、と高らかに笑うオニキスの姿とは対照的にベルとフェゴールは無意味に疲れたような感覚になった。
高高度から地面に叩きつけられるという超人でも無事では済まない状態だったオニキスだが、彼女は四大元素の魔法を重ね合わせたオリジナル魔法『四大元素の燕』の裏でさらに時限式の回復魔法も重ね掛けしていた。
そこまでできるのであれば地面に安全に着地できる仕掛けを施す方がよっぽど簡単なように思えるのだが、自身の安全よりも速度を優先した結果ああなったそうだ。
余計な物を取り払った事によって速度は格段に上昇したらしいが、自身の安全を余計な物扱いにするあたりマッドサイエンティストの資質が伺える。
「さてさて、善と研究は急ぐものにぇ。口うるさいノーツちゃんに見つかる前に私の研究室に…っと、そういえばその手に持っている物は何にぇ?」
未知に対する好奇心を隠す気も無いオニキスは、ベルの小さな手の先にあった物をキラキラした目で見ていた。
「え、あんぱんだけど?」
「そっちの何とかパンの方じゃなくて、その透明な袋の方にぇ。」
そう、オニキスが気になっていたのはパンそのものではなくパンを包んでいたビニール包装である。
「袋状に加工されたその薄くて透明な素材だってもちろんレア物だろうにぇけど、カラフルかつ鮮明に書かれた未知の言語っぽい模様も気になるにぇ。専門じゃないから分からないけど、これだけ綺麗に滲まず描ける染料はまず無いと思うし……書いている言葉が読めないってことはどこか遠くの国家の技術だったりするにぇか?」
「ちょっとオニキスさん!?近い近い!?」
「『オニキスさん』じゃなくて『オニキスちゃん』って呼んでほしいにぇ。で、この技術はどこで開発されたにぇ?そしてどうやってコレを作っているんだにぇ?知っているならさっさと吐くにぇ!」
「し、しーらーなーいーよー!」
大きく揺さぶられながら問いただされるが知らないものは知らない。
ベルはDPを払い無から取り出して食べているだけであって、その元がどうなっているかなど知るはずもない。
大抵の冒険者が剣の作り方を知らないのと同じ理屈である。
「はぁ…私の妹に構うのはギルドでもできるでしょ?そろそろ移動した方がいいんじゃないかしら?」
物理的に振り回されているベルに助け舟をだしたのはフェゴールであった。
フェゴールの言葉にハッと我に返ったオニキスは渋々といった表情で後ずさるが、フェゴールの言葉にあったちょっとした違和感に気が付くといつもの笑顔を取り戻す。
「…仕方ないにぇ、その代わり後でたっぷり聞かせてもらうにぇ。この袋の件も、マナドールが妹と呼ぶその子についてもにぇ。」
「ッ!?」
出会って数分で正体を言い当てられたフェゴールが動揺するのを見てドヤ顔で目をギラつかせるオニキス。
マナドールは簡単に言うとゴーレムの亜種であり、人工的に創られたモンスターである。
自身を作った人物を『父』や『母』と呼ぶことはあるだろうし、同時期に創られたマナドールを姉妹機として認識することはあるだろうが、当然ながら血の繋がりという概念が存在している筈はない。
そしてフェゴールはマナドールのようだがベルはマナドールではない。
それを短時間で正確に見分けることが出来たからこそ、フェゴールがベルの事を妹と呼ぶことに疑問を覚えたのだ。
こんな性格ではあるが魔術師ギルドのトップに立つほどの実力と知識を持つのは間違いないようであった。
「ま、約束通り今は何も聞かないでおくにぇ。オニキスちゃんは大好物を最後に食べる派だから安心するにぇ。にーへっへっへー!」
言いたいことを言い終わるや否やクルリと反転し、町の方角に歩いて行くオニキス。
その足取りが早足になっているあたり、大好物を最後まで取っておくというのはウソだろうなと思うベルであった。




