52、【怠惰】は一文無し
「…で、ベルは何をしているのかしら?」
先ほどまで会話に参加していなかったフェゴールが不審な動きをするベルに気が付き声をかける。
声をかけられた当人はストレージリングの扉の中にせっせと何かを詰め込んでいる最中であった。
「木の棒を集めてるの。そこら辺の木の棒を集めるだけで楽して大儲け出来るんでしょ?」
最近は見かけることが少なくなった気がするベルの【怠惰】らしい一言で思わず体勢を崩しそうになるベル以外の五人。
「それは昔の話って言ってたでしょ。多分だけど今は普通のただの棒だと思うわよ?」
「フェゴールさんの言う通りですよ、町が成長する過程で樹海産の材木は既に目新しさを失っているため、木の棒一本に価値が付くようなことはもうありません。」
「えぇ!?町で使うお金を稼ぐチャンスだと思ったのにぃ…」
「…ん?もしかしてお前ら、お金持ってないのか?」
「うん、そうだよ。」
ベルと出会って以降頭を抱えた回数が何度目か分からないが、今回も例外なく視線が下がる『蒼天の探求者』の四人。
あれほど町に行きたがっていたベルとそれに同行するフェゴールがまさか一文無しであったとは、と思ったもののよくよく考えればモンスターであるベルたちが人間の通貨を持っている方がおかしな話だとすぐに考えを改めた。
あまりにベルたちが人間らしい見た目と性格をしているため、人間としての常識を持っていると勘違いしてしまうのは仕方ない事である。
「でもベルちゃんの持ってきた食料なら簡単に稼げると思うんだな。単純に美味しいだけじゃなくて種類も多いから誰でも食べれそうなんだな。」
「そうですね。我々がよく知っている硬いパンほど日持ちはしませんが、その日のうちに食べる分としても十分売れるかと思いますよ。」
確かにテムジンが、というよりこの国の人全員がよく知るパンは所謂乾パンに近い物であり保存性は高く、ベルの持ってきたコンビニパンと比べ物にならない程には日持ちする。
そんなコンビニパンを腐らせずに運べているのは、収納した物の時間を止めることが出来るストレージリングのおかげである事は言うまでもないだろう。
ただしそれを販売する場合はストレージリングに入れっぱなしという訳にはいかず、また包装用のビニールに書かれた消費期限の表記がこの世界のものではないため読むことが出来ない。
なので早めに食べるに越したことはないのである。
そもそもこの世界には正確な暦が存在しないようなので読めたとしても無意味に近いのだが。
「そもそもエンシェントドラゴンの鱗だってあるんだから金銭には困らんだろう。アレはお前たちのおかげで手に入ったんだから、お前たちにも当然その報酬を受け取る権利はあるぞ。」
「ほんと!?それはすっごい助かるよ。」
「何言ってるんだよ、鱗の件だけじゃなくて毎日うまい食料もくれるし、鱗の報酬程度でしか恩を返せないんだから当然だろう?」
「いやぁ、それほどでもー。」
「まったく、ベルはすぐ調子に乗るんだから…」
パーティのバランスがよくエンシェントドラゴンに接近したこと以外は堅実な『蒼天の探求者』だが彼らはDランクパーティであり、ランクが低いとそれに比例するように普段の稼ぎも少ない。
なので冗談や比喩ではなく、本当にエンシェントドラゴンの報告と鱗の売却で得るであろう報酬金でしか感謝を伝えることが出来ないのである。
「これで町で美味しい物を食べられるね。」
「ベルの出すパン以上に美味しい物は多分無いと思うんだな。」
「だな。」
「ですね。」
うんうんと頷く男性陣。
特に普段からよく食べそうなトントンが言うのだから間違いはないのだろう。
その後も食べ物の話を中心に会話が弾む中、タージャが何かを感知した。
「待って、正面から……これは…冒険者が数人。」
「…まあ、町が近くなってきたし怪しいという訳ではないですね。町は近いですが情報収集と行きましょうか。一応警戒はしておいてください。」
「その前にベルたちの格好とかフェゴールのツノをどうにかしないとマズいんじゃないか?」
「「あ。」」
町に付いてからギルドマスターに直接町への入場を拒まれればベルも諦めが付くかもしれないが、もう少しで町というタイミングで冒険者に拒絶されて泣く泣く帰らなければならないとなると悔いが残るだろう。
と、ジャンがそこまで考えたかは不明だが、今のままではモンスターにしか見えない二人の外見をどうにかしなければならないと考えたようだ。
ベルは普段から何も考えていないっぽいのである意味予想通りの反応だが、フェゴールもまたベルと同じ反応であった。
本当に知能レベルを最大まで上げたのか怪しい物である。
「私の格好は何とか出来るけど、お姉ちゃんはどうするの?葉っぱ乗せとく?」
「乗せないわよ!その前に葉っぱじゃ隠せないわよ!」
「その前にベルは何とか出来たのかよ!」
ベルたちの格好はダンジョン内と同じくゴスロリファッション、つまりひらひらと舞うスカートにレースをあしらった格好である。
テムジンたちは『ベルとフェゴールはそういう姿のモンスター』だと思っていたので特にツッコミはしなかったが、四方八方が枝葉で囲まれた大樹海とゴスロリファッションの相性は最悪なのである。
実際に何度か引っかかっていたし、おまけに下方向に広がるスカートのせいで足元が見えにくく躓いたことも多かった。
「何とか出来るよ、それっ。」
気の抜ける掛け声とともに衣服としてまとわりつく魔力の形を変えてゆくベル。
その結果、普段着のコルセットはレザーアーマー風の防具に見えるデザインになり、下半身もゆるふわスカートからジーンズに変化していた。
頭のツノを隠していたヘッドドレスは小さな帽子になったが、少し小さすぎたのかかぶると言うよりちょこんと乗せているような状態になっていた。
「その服全部魔力で出来てたんだな!?」
「いやはやビックリしましたけど…まぁベルちゃんですし…」
「…そうだな、ベルだし…」
「ちょっとだけ、見慣れて、きた。」
それを見ていたジャンたち四人だが今まで驚かされた事が多すぎたのか、今回はあまり過剰には驚かなかった。
もちろん過剰ではなくても驚いてはいたのだが。
「こっちはベルよりツノが長いから簡単に隠せないし……ちょっと魔法で隠れているわよ。────ッ、【変容】」
呪文を唱えるとフェゴールが徐々に姿を歪ませ、最終的に小さな黒猫の姿に変身した。
【変容】はどうやら別の生物の見た目に変身することが出来る魔法のようだ。
「「「「うえぇぇぇぇ!?」」」」
これには流石の四人も過剰に驚くのであった。
ベル「久々にゴスロリに触れた気がする」
フェ「それにしても何でこのタイミングで…出発前に服を変えておくのが自然なのでは」
作者「忘れてた」
二人「……」




